2018年3月29日木曜日

5_155 深海から陸の環境を 4:周期性

 層状チャートには、堆積の周期性も記録されていました。周期性は天体の運動に由来することが多いはずです。ところが、どうもそれだけではない周期性もあるようです。もう少し複雑な要因が考えられました。

 前回は、池田さんたちの報告の重要な点のひとつ目を紹介しました。チャートになっているシリカの堆積量が、全海洋の9割を占めること、そのシリカは大陸に由来すること、を紹介しました。報告には、もうひとつ重要な点がありました。それは、
・シリカの堆積速度に周期性があること
でした。
 シリカの堆積速度の周期性として、10万年から3000万年のものがみつかっており、そこには、約2割から5割ほどの変動があるそうです。
 地球の地層などに見つかる周期の多くは、ミランコビッチ・サイクルと呼ばれる天体運動に由来するものだと考えられています。ミランコビッチ・サイクルは、地球の天体運動ですから、地球の過去の地層などから周期性が読み取れれば、どうのような天体周期に影響を受けたかを推定することができます。
 天体の周期には、公転の離心率の変化(約10万年、40.5万年、数100万〜数1000万年周期)、自転軸の傾きの変化(約4万年周期)、自転軸の歳差運動(約2万年周期)という3つの要因があり、それらが組み合わさって変動が周期性をもちます。特に公転の離心率の変化は、地球と太陽の距離に変化が生じ、日射量にも周期性がでてきます。例えば、離心率変動と自転軸の歳差運動が組み合わさると、夏の日射量が数%〜10数%変動するとされています。
 今回見つかった10万年から3000万年の周期性による変動は、予想される日射量の変化より、もっと大きなものになっていることがわかってきました。これは、層状チャートの周期性が、ミランコビッチ・サイクル以外にも別の要因が加わっていることになります。
 その要因として、池田さんたちは、「超大陸パンゲアのメガ・モンスーンに伴う大規模な降水量変動が、大陸風化速度を非線形的に増幅した」という仮説を提唱されました。
 層状チャートが海で堆積している時代は、陸はひとつの巨大な大陸(超大陸パンゲア)がありました。大陸(岩石)と海(水)では夏と冬の変わり目に、比熱の違い、あるいは温まり方の違いにより、全地球的な季節風、モンスーンが吹きます。夏に海を渡るモンスーンは、陸域に激しい降雨をもたらし、その巨大なものをメガ・モンスーンと呼んでいます。ひとつの巨大な大陸とひとつの海洋という配置では、陸地の熱容量が大きくなり、メガ・モンスーンになる可能性があるようです。激しい降雨は、大陸の風化や侵食の速度を速めます。このメガ・モンスーンが層状チャートの周期を増幅したのではないかというのが、池田さんたちの仮説です。
 これらを総合すると、次のような仮説がでてきます。中生代には超大陸と超海洋という配置があり、温暖な時期でもありました。層状チャートは、ミランコビッチ・サイクルにともなって起こったメガ・モンスーンが陸を激しく風化・侵食したことを記録している、という仮説です。この仮説には、何段階かの仮定があるので、今後、他のデータやより高精度のデータ、より精密なシミュレーションなどが望まれます。

・つかの間の休みを・
大学の学位授与式も終わり、
学科の教職課程の学生のための集中講義も終わり、
一段落の時期を迎えました。
ただし、これは教員としての立場です。
職員の方は、新入生のための準備が、佳境を迎えています。
役割分担でいたしかたがないことですが、
教員はこの間、少しだけ息抜きができます。
少し、休みだけをとろうと思っています。

・家族の形・
子ども成長、親の老化などにより
家族の形は、時間とともに変わってきます。
我が家は、子どもと母の両方で起こりつつあります。
子どもは1、2年の誤差があっても、計画がたち、
親も心構えができています。
しかし、親の老化は、いつくるかはわからず、
その時に対応するしかありません。
離れていると、関係各所に電話をして
対応するかしかありません。
電話は大きなツールです。
顔をみれない、現実の手助けができないなどの不便さがあります。
でも、時間的にも、かなり迅速に対応可能で、
家族用の携帯を母に渡しているので、経済的にも、助かっています。
母の状況は、よくなることはあまりないですが、
少しでも快適に過ごせるように
遠くからですが、手を差し伸べるしかありません。

2018年3月22日木曜日

5_154 深海から陸の環境を 3:シリカの循環

 層状チャートは、シリカが主成分となっています。そのシリカの地球での循環を考えると、海洋での層状チャートの堆積が果たす役割が理解できます。その役割を定量化するアイディアがあります。

 昨年、静岡大学の池田昌之さんと共同研究者たちが、イギリスの科学誌「Nature Communicationsに、
Astronomical pacing of the global silica cycle recorded in Mesozoic bedded cherts
(中生代層状チャートに記録された全地球的シリカ循環の天文学的周期)
という論文を報告されました。
 この論文では、層状チャートが大陸の風化速度の指標になるという可能性を指摘されています。本シリーズで示しててきた、層状チャートのでき方がその原理になっています。層の形成機構はまだはっきりしていないのですが、陸から遠く離れた遠洋で生物のシリカの殻が、深海底に堆積物してできたものがチャートです。
 池田さんたちは、岐阜から愛知にかけて分布している約2億5千万年前~1億8千万年前の層状チャートの堆積速度を調べました。その結果、2つのことが明らかになりました。
・チャートになっているシリカの堆積量が、全海洋の9割を占めること
・シリカの堆積速度に周期性があること
が、重要な発見となっています。
 ひとつ目の発見を見ていきましょう。海洋にあるシリカのうち、深海底でチャートになるのはどの程度なのか、そしてそのシリカがどこから由来しているかに関する発見が、ひとつ目の内容です。
 シリカの海底への堆積は、いろいろな堆積のメカニズムがあるはずです。砂粒が沈むようにシリカも海底に沈降、沈殿していくことがあります。もちろんプランクトンの殻として沈むこともあります。成分ごとに海水中の滞留時間や沈降速度など細かく検討していく必要があります。それを考える時、海洋だけでなく、大陸や大気、岩石の風化や侵食なども考慮して、全地球的に物質の循環を考えていく必要があります。このように成分ごとに、全地球的にどのような物質循環をしているかは、地球化学的数理モデル(改良版GEOCARBモデル)として計算していく手法があります。
 GEOCARBは、過去の大気二酸化炭素濃度を計算するためのモデルなのですが、炭素や硫黄、ストロンチウムの同位体組成などを利用しいて、池田さんたちは推定されました。過去2億5000万年間のシリカの挙動を計算して、層状チャートの堆積した時代の大陸風化速度を推定しました。すると、チャートになっているシリカは、9割が大陸由来であることがわかってきました。つまり、海洋のシリカは大陸の岩石が溶けて河川から海に流れ込んだものを供給源としており、大半が層状チャートになっていくようだということがわかってきたのです。ですから、チャートの堆積速度は、大陸の風化速度をみる指標となり得るのです。深海底のチャートの大陸が風化が結びついていたのです。
 2つ目の発見は、次回としましょう。

・学位記授与式・
先週末、大学では学位記授与式がありました。
大学全体で進めるセレモニーがあり、
その後は、学科ごとに学位を全員に授与します。
集合写真を撮影して、保護者を交えて歓談をしていきます。
小さな学科なので、学生の他にも
保護とも親交ができているので、
味わい深い学位授与式となります。
その後は場所をホテルに移して、卒業祝賀会、
さらに学科の卒業を祝う会と続きます。
4年生との別れを、一日かけて惜しむ
いい一時となりました。

・別れの儀式・
私は、学位授与式が終わると、
撮影した写真を整理しながら、
ゼミや関係の深かった学生に、
餞(はなむけ)の文章を作成します。
学位授与式やゼミの集合写真、
祝う会など写真も交えて作成していきます。
これが教員として、私から最後のメッセージとなります。
学生の顔を思い浮かべながら、書きます。
学位授与式から餞の文章の送信までの一連の作業が
私の4年生との別れの儀式になっているようです。

2018年3月15日木曜日

5_153 深海から陸の環境を 2:層の成因

 深海底でできたチャートは、陸地でもみられます。ただし、陸地では層状チャートになっています。そのでき方には、いろいろな説があるのですが、まだ決着をみていません。なかなか難しい問題です。

 前回、深海底で形成されたチャートが日本列島に見られる、という話をしました。陸地でみられるチャートは、層構造を持っています。そのため層状チャートと呼ばれています。層は珪質のチャートの間に薄い粘土をはさむことで形成されています。この構造が繰り返されることで、層状チャートができます。前回お話したように、チャートは深海底に堆積したプランクトンの珪質の殻が起源です。粘土は大陸から風や海流に運ばれてきた非常に小さい粒が集まったと考えられています。なぜ層ができるのか、なかなか難しい問題です。
 主流とされる説は、生物大絶滅説です。生物の大絶滅があると、プランクトンもいなくなり、その間チャートの堆積がストップします。絶滅の期間は、粘土だけが堆積します。やがて生物が復活していくると、またチャートが堆積します。大絶滅が繰り返し起こることで層構造ができるという説です。
 他の説としては、生物がある時期だけ一気に大繁殖していくという説、他のところに溜まったチャートか粘土か、深海底を移動してたり、混合物が移動して堆積時に分かれて堆積するなどの説が有力です。他の説もありますが、今のところ、根拠が弱かったり、可能性が低かったりします。
 有力な説は、それぞれで根拠を示され、それに対応する露頭がわかっているところもあります。ですからそれぞれが対等の可能性なので、また成因が決着がついていない状態です。いずれにしても、層の形成には、なにか大きな事件が起こっていることだけは確かなようです。
 さて、チャートのもととなるシリカとは二酸化ケイ素からできています。二酸化ケイ素は、岩石の主要な構成成分です。大陸の花崗岩類には7割以上、海洋の玄武岩でも5割ほど含まれています。チャートの素材の二酸化ケイ素は、チャートの下の地殻にも一杯あります。しかし、地殻は岩石からできているので、二酸化ケイ素として海水に溶け込む必要があります。そして、プランクトンは海水に溶けて海の表面付近にある二酸化ケイ素を、殻の材料として取り込みます。たくさん使ったとしても、なくなることはありません。ですから、海に常に、二酸化ケイ素が常に供給されている必要があります。
 シリカの地表の循環を調べると、その多くは大陸の風化により河川から海に運ばれたものだという研究が報告されました。つまり、深海底に堆積したチャートが、巡り巡って、大陸の風化に関係があるということです。その詳細は次回としましょう。

・露頭に惚れる・
現在、私は層状チャートを調べています。
露頭で層構造がきれいに見えるところが最適です。
それぞれの露頭が、どのような成因でできたのかを
認定していくのは不可能です。
でも、野外で見事な層状チャートを見ると
圧倒され、大いに感動します。
そして気に入った露頭には何度も通いたくなります。
ただし、一般の人にはその露頭が
どうみえるかわかりませんが。

・学位授与式・
明日、学位授与式です。
大学では大きなホールでセレモニーがおこなわれ、
その後学科ごとに行事が行われます。
私の所属している学科では、
卒業生に全員に学位記を手渡しします。
今回で私からは最後になります。
保護者のかたも多数出席されますので、
厳かな雰囲気の中、
全員への思いを噛みしめることができます。
その後は大学の祝賀会、そして学科の祝う会という
お楽しみになります。

2018年3月8日木曜日

5_152 深海から陸の環境を 1:チャート

 日本列島でよく見られるチャートは、特徴がある岩石なので、量は多くはないのですが、目立つ石になっています。チャートは、どこで、どうしてできたのかなど、不思議に思えます。そんなチャートから覗く陸の様子はどう見えるのでしょうか。

 深海底は、生物も稀で、冷たく変化も少ないところです。地球上でもっとも安定した環境といえるかもしれません。それでも、地球の時間の流れでみると、少しですが、変化は起こっています。
 海の表層に暮らしていたプランクトンが死んだり、排泄したものが、沈んでいきます。それがマリンスノーと呼ばれるものです。死骸や糞などの有機物は、分解して海水中に溶けていきます。ところが、殻や外骨格、骨格などの硬い部分は残っていきます。
 プランクトンの殻は、大きく分けると炭酸塩(炭酸カルシウム)かシリカ(二酸化ケイ素)からできています。溜まった環境にもよりますが、深海の環境では、炭酸塩からできた殻は、長い時間がたつと溶けてしまいます。ですから、深海底には生物の殻としてシリカだけが残ります。陸から離れた大きな海洋では、陸からもたらされる堆積物は非常に少ないので、シリカだけが堆積します。やがて、固化したものがチャートと呼ばれる岩石になっていきます。
 チャートの堆積量は非常に少なく、地層で1mmの厚さの量がたまるのに数千年かかるほどのスピードと推定されています。しかし、地球には長い時間が流れていますので、それなりの厚さのチャートが形成されます。
 チャートの堆積している場を考えると、大きな海洋の環境を知る上で重要な証拠となるはずです。深海でできたチャートですが、その一部は陸地に持ち上げられています。海洋プレートが海溝で沈み込む時に、海洋地殻の一部が剥ぎ取られて、陸側に付加するというメカニズムが働いています。それが、深海底のチャートが陸地でみられる理由です。このような付加作用は、プレートテクトニクスの一貫として起こっています。
 日本列島は、付加作用が古くから起こっているところで、さまざまな時代のチャートが分布しています。ですから、チャートを調べることで、過去の地球の海洋域の様子を探る材料が、簡単に入手することができるという、地の利があります。
 深海底で形成されたチャートですが、日本列島でみられるチャートは、層状になっています。そのため層状チャートと呼ばれています。その形成メカニズムについては諸説あるのですが、それは次回としましょう。

・春は近い・
北海道は、激しい天候の急変が続きます。
先日は非常に暖かい嵐で、雪が一気に溶けました。
一転、寒い日がきて吹雪となり、冬に逆戻りです。
でも、春は着実に近づいています。
少々荒っぽい変動ですが、
春への移り変わりなのでしょうね。

・恒例行事・
3月は、国公立の入試と後期試験、
私立大学は最後の入試が行われています。
そして卒業式があります。
毎年の恒例行事ですが、
大学の構成員の4分の1が入れ替わります。
まあ、教職員も少しは入れ替わりますが。

2018年3月1日木曜日

3_165 ダイヤモンドの年齢 4:2つの年代

 ダイヤモンドの包有物の年代測定は、小さい上に微量でなされます。その上試料が高価でもあります。でもその年代値には、お金では買えない科学の価値があります。それを理解してくれる人たちも必要になりますが。

 オランダのアムステルダム自由大学のKoornneefと共同研究者は、南アフリカのヴェネティア(Venetia)ダイヤモンド鉱山から産出した26個のダイヤモンドで年代測定をしました。その年代は、太古代の29億5000万年前で、予想通りの古い年代でした。ところが、もうひとつの年代を示すダイヤモンドのグループがありました。その年代が原生代中期の11億5000万年前のものでした。
 一つの産地から2つの年代のダイヤモンドが見つかったことになりました。それも一方は予想されていた古くもので、他方は非常に新しい年代でした。これは、これまでの結果とは違った年代でもありました。年代の解釈が問題となります。
 先行研究で示さたようにダイヤモンドには、いくつかの化学組成の違いがありました。それらのグループのうち化学組成の多様性が大きいもので、新しい年代がえられたのです。ですから、著者らは、以前の研究でえられた23.0億年前という年代が、これら2つの年代値が混合した「見かけの年代」だと考えられるとしました。この論文で示した2つの年代が、ダイヤモンドの本当の年代を表しているということを主張しました。
 では、2つの年代に、どのような意味があるのでしょうか。
 この大陸の下のマントル(キンバーライトが由来したもの)では、太古代(29億5000万年前)に、ジンバブエ・クラトン(Zimbabwe Craton)の南の端の大地溝帯(大陸の分裂するところ)で流体の混染(汚染)作用を受けてダイヤモンドができました。これが古い年代のダイヤモンドの由来となります。
 その後、原生代中期(11億5000万年前)に、大規模なウムコンド大規模火成活動(Umkondo Large Igneous Province)によって、流体による混染作用が起こりました。その結果、以前に形成されていたダイヤモンドの化学組成が、大きく変更し、それに伴って年代値にも変化が起こりました。ただし、データを見る限り、この地域では、このようなダイヤモンドの年代を変更するような出来事は、一度だけだったと考えられます。
 先行研究の数で勝負の研究では、多様性を把握し分類するために必要なものでした。しかし、今回のように、詳細で精度の高い分析による研究は、より深い理解につながります。先行研究の成果に2つ目の研究の成果があります。

・科学への貢献・
この論文で用いられたダイヤモンドは
デビアス社から寄贈されたものだそうです。
宝石として利用できないものですが、
価格としてはそれほど高価ではないものだと思いますが、
いずれしてもデビアス社は太っ腹です。
科学への投資は、無駄にはならないことを
よく理解しているのでしょうか。
ダイヤモンドの起源や成因が明らかになることは、
長い目で見れば、今後ダイヤモンド業界にも
きっとメリットがあるはずです。

・カメのよう・
もう3月です。
大学は、卒業と新入生を迎える準備に入ります。
そして在学生には新年度のために
実習の事前準備もあります。
月日の流れは速い。
それに比べて私の歩みは、遅い。
成したいこと、成すべきことは
多々あるのに、遅々として進まず。
でも、月日の進みを嘆くよりは
ただカメのように歩み続けるしかないのです。