2018年2月22日木曜日

3_164 ダイヤモンドの年齢 3:ガーネット

 ダイヤモンドに不純物が入っていると、宝石には不向きなになります。しかし、地質学者にとっては、その不純物がありがたい情報源となります。ただし、情報は数も必要ですが、質も必要になります。

 ダイヤモンドは、地球深部の特別な環境でのマグマ形成、そして特別な噴火でできました。そのような特別な条件は、地球の初期のマントルでないと達成できないと考えられてきました。そのためには、ダイヤモンドのできた年代を調べればいいのですが、炭素からできたダイヤモンドの年代をどうして測定するのでしょうか。
 炭素の放射性同位体を用いた年代測定があります。この年代測定は、大気中の炭素で放射性同位体が、植物に取り込まれて改変していく性質を利用した方法です。地下深部では、この放射性同位体はできません。それにこの炭素で放射性同位体は、半減期が5730年なので、高い精度で測定しても約6万年前までのものにしか使えません。
 では、どうすればダイヤモンドの年代測定ができるのでしょうか。タイヤモンドの結晶には、不純物として他の鉱物が含まれていることがあります。そのような不純物を利用しようとする方法です。このような不純物は、地質学では包有物(inclusion)と呼ばれます。包有物は、ダイヤモンドに取り込まれているのですが、すでにあったものか、ダイヤモンドと同時にできたことになります。ダイヤモンドの上限の年代を示しているはずです。
 包有物の中にガーネットと呼ばれる結晶があります。高温高圧条件で形成され、地表でも安定に存在できます。この結晶には希土類元素の仲間が比較的多く含まれます。希土類元素の内、ランタノイドとよばれる仲間(周期律表の下に付いている別表の一列目にある元素列)に、サマリウム147(147Sm)という放射性同位体があります。これを用いた年代測定法があります。147Smは半減期が1060億年もあり、古い時代の鉱物・岩石の年代測定に利用できます。
 壊れてできる同位体のネオジウム143(143Nd)も希土類元素です。SmもNdも同じ希土類元素なので、長い時間がたっても挙動を共にしやすく、ガーネット自体も頑丈で安定した鉱物です。147Smから143Ndへの改変を年代測定に用いる方法は以前から、Nd-Sm法として確立されています。小さい結晶の微量な成分での年代測定は、非常に難しいのですが。
 実は、ダイヤモンドに不純物や割れ目などの入ったものは、宝石には適していません。ですからこのダイヤモンドを研究用に利用することは、なかなか有効だと思えます。
 以前にも同じダイヤモンドで研究がされました。多数のガーネット(400個)を用いて調べられたものでした。ガーネットは、4つの化学組成のグループに分けられました。そのうち3つのグループで求められた平均的な年代値は、23.0億±0.4億年前というものでした。原生代の初期の年代であり、これまで予想されていたものとは違っていました。ただし、化学的に違たグループのダイヤモンドで、年代を決めているので、その年代の意味も定かでありません。もう少し厳密な年代値での議論が必要だと考えられていました。
 詳細な年代値が、今回紹介している論文で示されました。いよいよ最後のエッセイでその正体と意味を。

・システム改善・
年代測定では、分析精度が非常に重要になります。
なぜなら求めた年代より誤差が大きければ、
その年代は意味をなさないからです。
昔はそんな分析もよくありました。
小さい試料、微量の試料になるほど、
分析精度を上げることが難しくなります。
同じ分析方法で測定していこうとすると、
どうしても一定以上に精度をあげることは難しいものです。
少しずつでの改善では、大きな精度改善にはなりません。
測定システム全体の変更をするほどの、
思い切った改革が必要になります。
私は、年代測定でそんな経験をしたことがありました。
大変でしたが、新しい手法なのでワクワクしました。

・帰省・
明日から1週間ほど、実家に帰省します。
母のことで、母や親族といろいろと相談しなければ
ならないことがでてきました。
この時期にまとめて休みをとるのは大変でしたが、
他の人に仕事をお願いしての帰省となりました。
親も高齢の上で独居でもあるので、
このようなことは仕方がないことでもあります。

2018年2月15日木曜日

3_163 ダイヤモンドの年齢 2:キンバーライト

 ダイヤモンドは、非常の特殊な条件を満たす場所が必要になります。でも自然界には、そのような条件を満たすキンバーライトがあります。そしてダイヤモンドは今でも採掘されています。

 前回、地球深部でダイヤモンドができる条件として、材料の炭素が多いこと、固い結晶をつくるためには高温高圧でなければならないこと、できたダイヤモンドが石墨に変わらないうちに高速で上昇してくること、などがあることを紹介しました。これらすべてを満たした時、宝石になるようなサイズのダイヤモンドが形成されることになります。そんな難しい条件を満たすものとして、キンバーライトと呼ばれる火山岩がありました。ここまでが、前回の話でした。
 キンバーライトは、大陸地域でも古い時代に形成された地域で活動しています。マグマの特徴としては、玄武岩よりもっと鉄やマグネシウムの多い成分で、カンラン岩質マグマと呼ばれるものです。このようなマグマは、マントル深部でできたものです。
 ダイヤモンドを含むキンバーライトは、地下150kmほどの深さのマントルで形成されたマグマが、高速で上昇してきたことになります。ガスの成分が多いマグマであれば、上昇とともに圧力が大きくなり、そのような挙動を示すことになります。他にも証拠として、形成された周辺のマントルの岩石(カンラン岩、エクロジャイトなど)を取り込んでいること、高速で上昇中に下部地殻の岩石を取り込んでいること、マグマの通り道が細い筒状(パイプと呼ばれる)になっていること、などが挙げられます。
 キンバーライトには、ダイヤモンド以外にも雲母や炭酸塩鉱物、蛇紋岩などを含んでいます。これらの鉱物の存在は、炭素以外にも二酸化炭素、H2O(水の状態とは限らない)などが多い場であったことを示しています。これらの成分は、軽くて揮発性の高い成分となります。二酸化炭素やH2Oは、キンバーライト・マグマをつくるのに必要だったと考えられます。
 ところが、揮発性成分は地球の初期に地球表層に抜けてしまい、現在のマントルには、少ないと考えられます。キンバーライトの存在は、現在のマントルとは矛盾した性質をもっていることになります。これらを説明するためには、古い時代の大陸地域にのみ、キンバーライトが活動しているという特徴が重要な意味を持つことになります。地球を形成史た素材には揮発性成分がもともと含まれていました。ですから、マントルには、地球初期にはもともと多く含まれていたと考えられ、時間とともに地表に出ていったとすれば、古い時代の大陸からだけダイヤモンドが見つかるという特徴も説明できます。
 ですから、もしダイヤモンドの年代測定をしたら、古い時代のものになるはずです。ダイヤモンドの年代は、30億年前くらい(太古代)に形成されたものだと考えられていました。ところが・・・、次回としましょう。

・端境期・
大学は、今がちょうと端境期(はざかいき)です。
後期の講義も試験、成績評価も終わりました。
学生には来週に公開されます。
大学入試の第一弾も終わり、
採点もすみ合否判定をして、合格発表となります。
4年生は、もう気持ちは社会に向いています。
でも、私のいる学科では2年生や3年生が
教育実習の準備でピリピリしています。
そんな端境期です。

・季節外れの帰省・
来週は忙しくなります。
週末から1週間ほど実家にもどります。
母といろいろ相談することがでてきたからです。
いろいろな相談がうまくできればいいのですが、
母も高齢なので順調に進むかどうが心配です。

2018年2月8日木曜日

3_162 ダイヤモンドの年齢 1:炭素

 昨年秋、ダイヤモンドに関するおもしろい報告がありました。ダイヤモンドができた年代は2つの時期があることがわかりました。それが新しい年代なので話題となっています。

 ダイヤモンドは、炭素からできている鉱物です。炭素が集まった結晶は、地表付近では石墨(グラファイト)という鉱物になります。石墨は炭素同士が六角形(六方晶系)に連なっているのですが、層状の構造をしており、層間は原子間に働く弱い力(ファンデルワールス力)で結びているため剥がれやすく、柔らかい結晶となります。爪で削れるほどの柔らかい結晶で、かつては鉛筆の材料として使われていました。
 ダイヤモンドは炭素が非常に強く結びついているので、硬い結晶となっています。炭素原子同士の結合なのですが、ひとつの元素を中心に正四面体の頂点にも元素が共有結合してます。このような結晶を等軸晶系晶と呼んでいます。天然のものでは、もっとも硬い物質です。その硬さのため、宝石としてだけでなく、工業用の研磨剤としても重要な役割があります。
 ダイヤモンドが地球で形成されるには、まず炭素が集まっていること、固く結びついた結晶になるために高い圧力や温度の形成場が必要になります。
 炭素は、地球の表層に多くあります。生物はそれを利用しています。ところが、地表の炭素の多いところは、温度圧力は低く、石墨や有機物しかできません。温度圧力を上げるような自然条件としては、隕石が衝突したような場でなければなりません。実際に隕石衝突のクレータでダイヤモンドが見つかっています。しかし、その量もサイズも小さいもので、宝石や工業用として利用できるものではありません。
 宝石として昔から利用されているダイヤモンドは、地下深部で形成されたものになります。炭素は地球深部にはあまり多くない元素ので、特殊は環境でないと形成されません。そのような場が少ないのですが、深部には存在しているようです。さらに、厳しい条件として、深いところでダイヤモンドができたとしても、石墨に変わることなく地表にまで上がってこなければなりません。通常の火成活動や造山運動などは、ゆっくりと上昇してくるので、ダイヤモンドの結晶は石墨に変わってしまいます。
 このようなダイヤモンドのできかたから、非常に難しい条件が整わなければならないです。実際にダイヤモンドが産出しているのは、限られた場所と、限られた岩石種からだけです。それは、古くに形成された大陸地域で、そこのみで活動したキンバーライト(kimberlite)と呼ばれる火山岩から見つかります。火山岩ですから、マグマが地表に上昇してきたものです。このマグマがダイヤモンドができる環境、条件を満たしているところをとなります。
 その説明は、次回としましょう。

・計画的に・
2月は、入試は採点などがあり、
なかなかお持ち使い時です。
でも講義がない時期なので、
研究に集中できる時期もあります。
2月は短いので、しっかりと計画や目標を定めて
仕事を進めなければなりません。
現在、次の著書の執筆を進めています。
並行はできないのですが、
次の論文も書き進めていく予定です。
ですから2月中の大物を概略を
終わらせておきたいのですが、
どうなることでしょうか。

・祝う会・
4年生と卒業を祝う会の準備を進めています。
毎年学科ではおこなっているのですが、
人数が毎年変わるので、
会場探しがなかなか大変です。
でも、今年は詳しい学生もいて、
皆積極的に動いてくれるので、
私は、見ているだけですみます。
4年生も、学生生活で最後のイベントなので
はりきっているようです。
うまくいくように願っています。

2018年2月1日木曜日

6_152 重さの単位 4:プランク定数

 質量の基準を、人工的な物質に頼るのではなく、物理定数に置き換えるために、人工的物質を精度良く測定ることが、おこなわれています。その測定から、定数を正確に決めていくことになります。

 質量を正確に測定するために、同位体組成がはっきりとしている元素(ケイ素)の単結晶の真球を基準にすることにしました。この真球の質量は約1kg、直径は約94mmですが、その質量とサイズを正確にはかっていきます。
 まず質量は、日本のキログラム原器と比較して、超高精度の真空天秤を用いて測定されました。ただし、このケイ素の球の表面には、非常に薄いのですが(数nm程度)の酸化膜などが形成されてしまいます。その膜の厚さと組成を決めて置く必要があります。そのために、X線光電子分光法と分光エリプソメトリーを用いたシステムを開発して、非常に高精度で厚さ(0.1nmの精度)と組成を測定していきます。純粋なケイ素でない部分のデータで測定して、補正をおこなっていきます。
 サイズの測定は、レーザー干渉計という装置を用いています。この装置は、レーザー光線で光の1波長より短いサイズとなる1nm以下を測定することが可能な装置でです。2000箇所(さまざまな方向から)で直径をはかっていきます。その精度は0.6nmになり、これは結晶の原子間の距離にあたるほどのものです。これにより球の正確な体積がわかります。
 もちろん温度が変化すると体積が変動するので、球の温度も精密に測定されています。その精度は、6/10000°Cとなっています。
 皮膜の補正をされた正確な質量、正確な体積から、密度が計算できます。ケイ素の結晶構造とモル質量は、すでに正確に測定されているので、その値を持ちれば、正確な質量が得られます。このようにして求められた精度は、2×10^-8になるといいます。この精度は、1kg当たり24µgになります。これは、国際キログラム原器の現状の精度が50µg程度(5×10^-8)だと考えられているのですが、それより半分以下の精度となります。
 質量を求めるのが目的ではないのです。その精度が重要になります。なぜなら、今回紹介した研究がケイ素の真球をキログラム原器の代わりにしようとするのではないからです。
 長さの単位が、メートル原器から、光が真空中を伝わる⻑さを基準になりました。光速という定数が、長さの基準になっていることになります。質量も同じように、物理定数に基準を移行しようと考えられています。
 その方法には、アボガドロ数に基づくもの、プランク定数に基づくものなど、いろいろなものがあります。アボガドロ数、またはプランク定数が、現在の質量の精度より正確に求められれば、それが質量の基準になるのです。
 今回の研究では、精密な測定からプランク定数を正確に求めることが目的だったのです。2.4×10^-8という精度は、現状では世界最高水準の精度で決定したことになります。キログラム原器以来、約130年ぶりとなる質量の定義が改定できることになります。その決定は、国際的に機関(国際度量衡総会)がおこなわれます。
 2011年10月の国際度量衡総会の時のデータは、当時もっとも精度のよかった値と、2つの測定値が7桁目で異なり一致しませんでした。そのため決定は見送られました。そしてこの会議のとき、「キログラムの大きさは、プランク定数の値を正確に6.62607XX × 10^-34Jsと定めることによって設定される。」ことが決められました。XXのところを正確に決めるということです。プランク定数を正確に決め、そこから質量を定義することにされました。
 今回のデータも含めて、いくつかの測定値をもとにして、今年2018年11月の会議で、プランク定数の値が決定されることになります。

・2月になると・
早いもので、もう2月です。
1月はセンター試験、大学の後期講義の終了、
学科の4年生の卒業研究の報告会、
そして定期試験も終わりました。
次は大学入試の時期となります。
バタバタしていますが、講義がないときなので
隙間時間に仕事ができるのが、ありがたいです。

・ライフワーク・
最近、研究上のライフワークとして
なにを今後していくのかについて再考しました。
そして、いくつかの修正を加えました。
いつもこの時期に自身の研究について
考えることにしています。
そのきっかけは、学内の競争的資金の申請が
この時期にあるからです。
それを獲得するために、
来年度の研究をどうするのかについて考えています。
長期計画と来年度の計画をいつもこの時期におこないます。
なかなか楽しい時期もであります。