2017年9月28日木曜日

4_142 残念 1:大台ケ原

 今年の秋の野外調査は、激しい雨でダメだったのは1日ほどでしたが、実は残念なことも、いろいろ起こりました。そんな野外調査にまつわる地学の話と共に、調査の残念だった裏話を紹介していきましょう。

 9月にいつものように、野外調査にでかけました。1週間ほど調査をしていると、天気の悪い日もあります。それは覚悟の上です。ただ、秋のはじまりは、台風の季節でもあるので、台風がくると、調査に大きな影響がでます。今回は、台風18号は巨大でしたが、スピードが遅く、ぎりぎり影響を受けることなく、調査を終えることができました。しかし海岸では高波であり、なかなか近づけないところもあり、断念した地点もありました。でも、ただで転ばない精神で、代替の場所を見に行きましたが。
 今回紹介するのは、大台ケ原です。秩父帯と四万十帯が複雑に接している地域です。このあたりだけ、秩父帯が南に張り出している不思議な地質となっています。秩父帯が四万十帯の上に断層(衝上断層)で、持ち上げられていると考えられているところです。非常に複雑な地質構造となっています。そんな地質を、稜線歩きをしながら見ていこうと思っていました。
 予定としては、大台ケ原に1日目の午後と一泊した後、2日目の午前も周辺を見て回ろうと思っていました。どちからで天気の良い日があるのではないかを思って予定を組んでいました。一日目は3時前に着いたのですが、霧がすごく、雨でもあり、時々激しい降りになっていました。大台ケ原に来る前午前中も、雨でなかなか思うように調査が進んでいませんでしたが、山はさらに天気が悪くなっていました。台風の影響で前線が刺激されていたようです。
 しかたなく、明日周る予定にして、ビジターセンターを見学して、情報を仕入れました。土産物屋にもいきました。でも、4時前には見て回るところもなくなり、宿に入りました。
 1軒しかない宿なので、山小屋よりは良い設備だと思っていました。同宿で風呂で会ったおじさんは、「アメニティが皆無ですね」といっていました。山登りされる方のようですが、いいところに泊まることが多いのでしょうか。私は、山なので食事や風呂、個室があるだけ儲けものと思っていて、いわれるまで、あまり気にしませんでした。確かに、街からは少々離れていますが、車で来れるし、バスの定期便も通っているところなので、もう少しサービスが良くてもいいのかもしれません。一軒しかない宿屋なので、文句をいっても始まりません。私は、淡々といつもの宿での作業しました。
 早目に寝ていましたが、夜半に激しい雨音がしていました。翌日は雨。早々に登山は諦めました。山を下りて、別のとこに行く予定に切り替えました。一人であるのと、地形や地質を見る時は、雨だとなにもできないからです。同宿のおじさんのグループ、大学生のグループは、道がしっかりしているので、出かけるようです。
 大台ケ原は高い(1600m)ので、なかなか気持ちのいいところです。いくら標高が高いとはいえ、9月中旬では、紅葉にはまだ早い時期です。でも、天気がよければ、静かな稜線を散策でき、地質や地形を見られたことでしょう。心残りです。車で来れますが、道中もなかなか距離がもあり、1泊する必要があります。なんとか再訪して、山頂からの景色や石を見たいという思いが残りました。

・調査にでれば・
調査に出れる日程が組めるのであれば、
天候の安定している春がいいはずです。
しかし、働くものにとっては、別の条件が重要になります。
大学教員は、研究をおこになっています。
私のような地質調査が研究の重要なものにとっては
授業や校務があると、調査日程を組むのがなかなか難しくなります。
長い休みの取れるのは、9月上旬から中旬の予定の入っていない
この時期で、予定を調整しながらいくことになります。
なかなか面倒ですが、調査にでれば、
いろいろなトラブルがあっても、心はリフレッシュしていきいます。

・宿では・
一日で調査をして宿に、夜は何をしているのかというと、
主にはデータを取り込み、整理しています。
野外調査では、GPS(2台、一台は時計と予備を兼ねている)を持ち
一台を常にGPSの記録をさせています。
GPSでルートや重要なポイントや撮影したところ、
試料採取した地点などの記録しています。
そのデータをパソコンに取り込んで確認したり、
名称変更をしていきます。
そして地点ごとにExcelに整理していきます。
また、多数の写真撮影をしてきます。
撮影したものも、パソコンに取り込みます。
画像確認をして名称変更をします。
パノラマ撮影した画像を合成します。
カメラでもGPSが記録しているので、
撮影場所を地図で見ることができるようにしています。
以前は非常に手間がかかっていた作業ですが、
今ではデジタル機器とパソコンで
その日の調査の処理が可能となりました。
時間の短縮ができています。
調査の進み工合にもよりますが、
時間がかかることもあります。

・紙の地図・
私は調査する時は、紙の地図も持参し、記録も残しています。
紙の地図は、毎回調査する範囲をすべてつなげたものを作成し、
見て回る予定の地点を書き入れておきます。
調査予定を考える時に主に使っています。
地図に予定地点をメモ書きとして入れます。
調査記録は、デジタルを基本としていますが、
アナログ地図は何かあったときの予備としています。

2017年9月21日木曜日

5_151 光子顕微鏡 4:今後の期待

 光子顕微鏡は、光子ひとつの有無を検出でき、なおかつ、その波長も測定ができます。今までにない新しい技術です。新しい技術が生まれると、今後の発展や展開に期待しています。

 今までにない新しい技術で成果を出す時、少人数で自力で開発をする時、一番乗りを目指しているので、当初は手作り感があるものになります。今回の装置の写真を見て、私には好感が持てました。研究者は、できるかどうか、どこまで分解能をあげられるかどうかなど、特別な目的だけを追求していくことになります。ですから、見かけなどは気にしていません。
 私も自力で分析手法を開発した時、独自にそのシステムを作り上げたことがありましたが、すべて手作りでした。そのシステムは、目的を達成することを最優先していました。継ぎ接ぎだらけの装置ですが、結果として、良いデータがでればいいのです。
 でも、技術には次のステップがあります。ある最新技術が、いろいろな研究や開発に利用できることがわかってくると、いくつもの研究施設で導入されるようになるようなるはずです。ときには、企業が製品化していくようになってくるはずです。そうなると、装置の性能はさらに上がり、使い勝手はソフトウエアのプロが手がけるので、格段によくなるはずです。もちろん商品ですから、装置の見かけもよくなります。多くで導入されくると、やがて安価にもなっていくでしょう。研究者発の技術開発、進歩とは、このような経過をたどるのでしょう。
 今回の装置は、超伝導現象を利用した超伝導光センサーというものを用いています。このセンサーは、世界でもっとも効率よく光子を検出する装置となっているそうです。今のところ、測定部分のサイズより、微弱な光を測定することに特化していますが、この装置の完成度が上がれば、小さいものに対しても、応用が進んでいくはずです。
 光の量子性光子の存在の有無だけでなく、その一つの光子で波長も測定するものです。微弱な光、光子たったひとつであっても検出でき、なおかつその波長が測定できるものです。一つの光子で、波長がわかれば、色として見ることができるのです。一個一個の光子に色がつくのです。
研究グループでは、今回の装置で、生体細胞の微弱な発光現象の観測や、微量成分の蛍光分析などが可能になるのではと考えています。このような技術は、今後の応用に期待できます。
 例えば、今思いつくだけでも、電子顕微鏡では測定しづらい水分を含んだ微小の物質の観察、遠くて暗い星の観測、深海の暗闇での生態観測など、いろいろな応用が考えられます。そのためには、いろいろ克服すべき困難な課題はあるでしょうが。今後の進展に期待したいものです。

・鉛の抽出・
私が開発していた分析システムは
微量の鉛の抽出でした。
扱う量が少ないので、
システム事態も小さく小さな実験台一つのでできました。
ただし、その実験台内を
いかにクリーンに保つかが問題でした。
ありとあらゆるものに
汚染がないかを気をつけていました。
おかげで、一級のクリーン度を示しました。
でも、実験台やその中の装置はみすぼらしいものでした。
見た目より、中身でした。

・ぎっくり腰・
ぎっくり腰になりました。
2年ぶりでしょうか。
定期的に起こしています。
今回は調査中ではなくて、
調査から帰って2日後でした。
疲れが溜まっているのでしょうか。
整形外科にいって鎮痛剤をもらったのですが、
どうもうまく効かないようです。
どうしたものでしょうか。

2017年9月14日木曜日

5_150 光子顕微鏡 3:光子の観測

 小さいものを見る各種の顕微鏡について、これまで概観してきました。今回は、最新の「光子顕微鏡」という装置の紹介します。その原理とは、どのようなものでしょうか。

 さて、いよいよ「光子」顕微鏡の紹介です。「光学」顕微鏡と、言葉は似ていますが、「光子」と「光学」の違いがあります。光子顕微鏡とは、名称通り、光子を見る顕微鏡です。
 光学顕微鏡では、光を物質にあてて、その反射や透過した光をみていました。ですから、可視光の光であれば、色を観察することできました。ただ、小さな部分になれば、届く光の量が限られており、光が微弱になり、検出できなくなります。光量が少なくなると、色どころか、光の有無すらもわからなくなることもあるでしょう。それは検出限界で、「見えない」ということになります。
 電子顕微鏡では、電子でみていたので、凹凸やもの(原子など)の存在の有無を、ただ示すことになります。電子は可視光の範囲の性質をもっていないため、色はありません。色でみるためには、可視光で光学顕微鏡で見なければなりません。
 光学顕微鏡には小さい部分が限界がありみれない、電子顕微鏡では色の性質はわからないということが、両者の弱点でもありました。
 ところで、光には、粒子としての性質と、波としての性質の両面があることがわかっています。光子は、素粒子のひとつです。光子の検出だけであれば、有無の判定だけで、1個、2個と数えたり、有無を見ることできます。でもそれで電子顕微鏡の時同じで、色は見えません。
 観測時に、もし光子のエネルギーも測定できれば、光の別の性質を知ることができます。
 エネルギーと振動数の関係は、アインシュタインの光量子説でわかっています。アインシュタインは、
  E=hν (E:エネルギー、h:プランク定数、v:振動数)
という関係を示しました。また、振動数と波長の関係は、
  c=λν (c:光速、λ:波長)
と、わかっています。以上の関係から、
  λ=c・h/E
という式が導き出せます。ですから、光子1個であっても、そのエネルギーが測定できれば、波長を求めることができることになります。光子の波長がわかれば、それから色として示すことができます。光子顕微鏡は、この原理を利用しています。
 光子顕微鏡は、2017年4月4日に、Scientific Reportsで報告されたもので、
Few-photon color imaging using energy-dispersive superconducting transition-edge sensor spectrometry
(エネルギー分散型超伝導光センサー分析装置を用いた2、3光子によるカラー画像)
とタイトルでした。産業技術総合研究所の丹羽一樹さんたちの共同研究の成果です。
 ニュースによると、光子をひとつずつ観測することができるとのことです。ひとつの光子のエネルギーも同時に測定して、波長を知ることができるというのです。まだ開発途上のようですが、将来性を感じる装置です。
 研究グループでは、超伝導光センサーの開発を進めてきて、光子を1個を検出し、その波長を識別する光センサーをつくっていました。それを小さいものをみると「光子顕微鏡」として応用したものでした。ひとつの技術を活用していくいい例ですね。

・応用・
新しい技術ができ、それをどう活かしていくかが応用です。
通常、新技術の開発と応用は
別々進められることも多いのですが、
今回は、開発と応用が並行して進められました。
日本人は、原理発見、新技術の開発より
応用が得意とされていたのですが、
今回は原理の開発と応用を並行して進んでいます。
このような技術は、益々、応用の範囲が
広がっていくようになるのではないでしょうか。
いろいろな場での利活用が期待されます。

・野外調査・
このメールマガジンが発行されている時、
私は、南紀に調査に出てている最中です。
予約発行を行いました。
いつも、この時期に私は野外調査をするので、
年々スケジュール調整が難しくなってきています。
でも私にとって野外調査はライクワークの一環ですので、
これなしには、研究も思索もすすみません。
また、野外調査をすれば、エッセイのネタにもなります。
あとどれくらいこのような調査が続けられるかは不明ですが、
地質学の先輩は同輩たちは、ままだまだ現役で歩いています。
私も無理せず、続けられればなあと思っています。

2017年9月7日木曜日

5_149 光子顕微鏡 2:微小を見る

 小さいものを見るには、光学顕微鏡では限界がありました。もっと小さなものを見るための方法は、どんなものがあるでしょうか。代表的装置の特徴と弱点を見ていきましょう。

 前回は、光学顕微鏡の理論的な限界を紹介しました。光学顕微鏡以外で、それより小さいものを見る方法はないのでしょうか。いくつかの方法が実用化されています。その代表的なものとして、電子顕微鏡があります。
 電子顕微鏡とは、光のかわりに電子をあてて見る方法です。電子を連続的に照射して(電子束とか電子銃と呼びます)、反射した電子(二次電子と呼ばれています)や通り抜けた電子(透過電子)を見る方法です。
 ただし、電子線を絞っているので、分解能を上げるためには、微小の部分に当て、そこからの反射となります。像として見る場合は、電子束を左右に移動させ、少しずらして左右に移動を繰り返して、面、つまり二次元的に合成して画像とします。テレビの走査線のように操作するわけです。
 その結果、凹凸や二次電子や透過電子の性質によって特徴を知ることもできます。成分分析に特化したものを電子線微小分析装置(EPMA)として利用されています。
 電子顕微鏡の弱点として、電子を飛ばすために、空気などの分子は邪魔になので、装置内は真空にしなければなりません。そのため装置は大掛かりになります。真空なので、生体なのど水分を含んだものは変形、変質してしまうので、分析にはあまり向きません。また、電子は電荷をもっているため、電子線があたり続けると、物質の表面が電気を帯びてしまいます(帯電といいます)。帯電すると、電子が反発してしまい、目的のところに当たらなくなってきます。それを避けるために、試料をあらかじめ伝導性のある物質(炭素など)で薄くコーティングし、帯電を除去するようにしておく必要があります。
 私も、電子顕微鏡やEPMAを用いたことがありますが、コーティングが疎かだと、電子が跳ねていい画像が得られません。コーティングは、できるだけ薄く、まんべんなくしなければなりません。そのためには、カーボンの削り方もコツがあったのですが、最近はそのあたりはどうなっているのかは知りません。
 透過型電子顕微鏡では、透過させるために、試料はできるだけ薄くしていかなければなりません。電子顕微鏡では、透過型の方が分解能が高く理論的には0.1nm程度の小さなものも見ることができます。原子サイズのものを観察できます。
 他にも、小さいものを見る装置があります。物質を同士を近づけた時に流れる電気(トンネル電流と呼ばれます)を用いるトンネル顕微鏡があり、分解能は20~30nmだとされています。また、物質を近づけたときに働く原子間力を用いる原子間力顕微鏡があります。その分解能は、数nmとされています。原子間力ではなく発生する磁気を用いる磁気力顕微鏡、発生する電気による電気力顕微鏡などもあり、目的や物質の特性によって使い分けられています。
 これはらの顕微鏡は、可視光ではないでの色はわかりません。まあ、そんな小さい世界に色はありませんので、人工的に着色すればいいのでしょう。しかし、そんなごく微小の世界に、色が見える装置が発明されました。物質の特徴に基づいた色が見えるとわかりやすいので、楽しみな装置となります。詳細は次回に。

・まだ見ぬ分析値・
電子顕微鏡などの分析は、
大きな装置ですが、一人で使います。
そこは、暗室になるようになっていました。
また、X線を発生する装置があると、
重い鉛の壁、ドアに囲まれた部屋になっていました。
そこは、とても静かな環境になります。
装置が貴重な大学などでは、24時間、順番に使用してきます。
私も、何度も、真夜中にひとりで、装置を使って分析してました。
そんな時、小さな岩石の微小部分の中に、
まだ見ぬ分析値に思いを馳せていました。

・ノスタルジー・
私が使っていた頃は、装置も未熟で、
ほぼ手作業で分析をしていました。
後半には、補正計算はコンピュータ処理が
できるようになってきましたが。
今では、装置の性能がよくなり、
多数の分析ポイントを覚えさせて、
あとは、装置任せで、結果を待つだけとなっているのでしょう。
分析値1つ当たりに対する手間が以前と比べて格段に楽になりました
でもその分、データの値打ちが低くなってきたような気がします。
これは、昔を懐かしむ、ノスタルジーでしょうかね。