2017年7月27日木曜日

2_148 オルドビス紀末の大絶滅 2:絶滅と大絶滅

 絶滅と大絶滅との違いはどこにあるのでしょうか。基本的なことですが、大絶滅とは何かを見ていきましょう。大絶滅は何度ありますが、オルドビス紀末の大絶滅の位置づけを見ていきます。

 前回、生物種の出現の消失が、生存期間になるといいました。過去の生物は、化石の出現と消失を生存期間とみなしました。次の話題として、今回、話題にする、絶滅と大絶滅の違いです。
 実は、絶滅には、大絶滅との関係で、2つの意味を持つようになってきました。一つ種の消失という、前回説明したもともとの意味のものと、もうひとつ、大絶滅に比べて、種数は複数ですが規模が大きくない「小」絶滅を意味することがあります。大絶滅とは、それまでいた種が大量に絶滅することです。しかし、その際、何%以上の種が絶滅したら「大」というのかは、厳密な定義がありません。ただ多いという意味合いに使われています。ですから、「小」絶滅も、どの程度と定量的にいうことはできません。相対的、あるいは感覚的なものになります。
 地質時代を通じて、それまで生きていた種が、どの程度絶滅したかを数値化することはできます。その時代で消失した化石種の数を数え、全体の種数と比べれば、定量化できることになります。その数値をもとに、絶滅の規模をランキングすること可能で、上位の大絶滅を定義することができます。
 上位5位を、大絶滅の「ビック5」と呼んでいます。オルドビス紀末(O-S境界)、デボン紀後期(F-F境界)、ペルム紀末(P-T境界)、三畳紀末(T-J境界)、白亜紀末(K-Pg境界)の5つになります。
 生物の大絶滅で有名なのは、白亜紀と古第三紀の境界の事件ですが、この絶滅では、地上から恐竜がいなくなり、哺乳類が陸地のいい環境を支配して繁栄するという交代劇を起こした事件でした。K-Pg境界の絶滅は、規模が大きかったので「大絶滅」と呼ばれ、その全生物の絶滅率は、70%に達すると見積もられています。
 しかし、K-Pg境界の絶滅率は、実は「ビック5」の5番目となります。ペルム紀末のP-T境界が最大の大絶滅で、海棲生物では最大では96%が、全ての生物種で見ると90から95%の種が絶滅したと見積もられています。2番目がオルドビス紀末で全生物の85%で、デボン紀後期で82%、三畳紀末で76%、最後が白亜紀末となります。
 P-T境界の話は、このエッセイで何度か取り上げました。今回は、オルドビス紀末の大絶滅が話題です。
 オルドビス紀は、古生代のカンブリア紀の次の時代で、4億8540万年前から4億4340万年前の4200万年間の時代です。カンブリア紀からオルドビス紀にかけては、三葉虫のような節足動物、オウムガイに代表される腕足類が全盛期を迎えます。また、ウミリンゴ、筆石筆石のような半索動物、コノドントが繁栄しました。本格的なサンゴ礁が形成されるようになったことである。オルドビス紀後期には顎をある魚類が登場し、サンゴ類は床板サンゴ類や原始的な四射サンゴ類や層孔虫が繁栄して、礁性石灰岩が形成されるようになりました。オルドビス紀末には、それらの多くが絶滅しました。
 オルドビス紀には、大陸が南極域にあり、寒冷な時代で氷河に覆われたこともあります。氷床の形成と消滅による海水準の低下、上昇が2回起こったことがわかっています。しかし、これが大絶滅と同関係していたかはよくわかっていませんでした。そこに新しい説が出されました。その詳細は次回としましょう。

・主観と歴史・
科学とはいえ、人が行うものなので、
どうしても人間的な判断、主観が入ることがあります。
絶滅の規模も、大きいものであれば、
今回紹介したような手を使えば、順位付けから
客観性をもたせることができます。
ところが、中、小の規模の絶滅となると
どこに線を引くかは、主観的なものとなります。
絶滅率の数値で定義してもいいのですが、
それがどのような意味を持つかは不明です。
すべての時代境界で大絶滅あったわけでないことは、
デボン紀後期の大絶滅が
時代境界になっていないことからもわかります。
時代境界にも主観的な判断がはっています。
科学は人間が行い、そして進めてきました。
主観に他にも知的活動の歴史的経緯も刻まれています。
それが、現状でもあります。

・前期終了・
大学もいよいよ今週で講義が全て終わります。
その後は定期試験に入っていきます。
定期試験が終われば、待ちに待った夏休み
といいたいところですが、
教員は、いつものようにバタバタします。
定期テストのあと、採点と評価が必要になります。
今年は、私事で、お盆前に帰省することになりました。
横浜と京都です。
暑い時期に暑いところに行くのは少々気が重いですが、
まあ、やむおえないことなので行きます。
その前にすべての校務を終えなければなりません。

2017年7月20日木曜日

2_147 オルドビス紀末の大絶滅 1:種の出現と消失

 オルドビス紀とは、古生代の中頃、カンブリア紀の次の時代です。オルドビス紀末に大絶滅がありました。今回はその大絶滅に関する話題です。その前に、種の絶滅とは何かを考えていきます。

 生物の絶滅を考える場合、別種との区別のために「種(しゅ)」の認定が必要になります。種とはなにか、も重要な問題なのですが、今回はそれを抜きで話しを進めます。まず、生物種の区分があるところから出発しましょう。
 絶滅とは、ひとつの生物種のすべての個体が死に絶えてしまうことです。そのため、種が継続できなくなることを意味します。しかし、どこにも個体が存在しない、「不在」を証明するのは、非常に困難です。科学的、原理的には、不在の証明は不可能です。そこで、環境省では「過去50年前後の間に、野生において信頼できる生息の情報が得られていない種」を野生絶滅と定義しています。
 50年間、専門家が探し続けた結果、見つからないのであれば、それなりの信頼度があるでしょうが、通常、ある種を探す調査を長年継続されることはありません。研究者は成果がでることを研究テーマとします。ですから、このような調査は、研究としてはあまりおこなわれません。
時々、レッドデータ調査のように、一斉調査がおこなわれることもあります。調査をすれば、その時点でかなり正確に不在を示すことができます。これが種の確認として非常に重要なデータとなります。しかし、すべての地域、すべての種で、一斉調査をおこなうことは難しいもので、文献に頼ったものや、限定した地域での調査で済まされることもあります。
 このような調査には漏れや先入観などもあり、見落としや漏れもあります。少し前、「クニマス」の再発見のニュースを覚えている方もいるでしょう。クニマスは、田沢湖では1940年年代に絶滅したとされて以来、環境省のレッドリストの1991年、1999年、2007年で「絶滅」とされていました。しかし、2010年に、山梨県の西湖で現存個体群の生息が確認されました。これは人為的に田沢湖から放流されたものが生き残っていたので、野生での絶滅は、変わりありません。クニマスの場合は、人為的に放流された記録があったので判明しました。もし、記録がなければ、野生での固有種なのかどうかはわかりません。このようなこともあるので、50年という期間も本当にいいのかどうかは問題になる場合もあるはずです。
 さらに、植物は種(たね)であれば、長期間保存され、個体が一時的に絶滅しても、環境さえ整えば、復活することが可能になります。年限を切って絶滅をする定義が、適用できない場合もありそうです。
 現世種でも難しい絶滅の判定なのに、過去の生物種で、どう判定するのでしょうか。過去の生物は化石でその存在を知るしかありません。そして、化石での出現と消失を、種の出現と消失とみなします。化石として発見された最初の時代が、種の出現となります。そして、化石が見つからなく消失の直前の時代を、種の絶滅となります。出現と消失の間が、その生物種の生存期間とみなすことになります。
 ここまで読んで、化石による絶滅は、現世種より不確かだと思われたことでしょう。なぜなら、今まで見つらかなかった時代から、同じ化石が発見された、種の生存期間が簡単に変化するからです。でも、これが現状での限界でもあります。
 通常の絶滅と大絶滅との違いは、どうなるでしょうか。大絶滅と絶滅との間には、どのような区分があるのでしょうか、それともないのでしょうか。それは次回としましょう。

・不確かさと時間・
現世種の絶滅の判定や化石の絶滅の期間の認定などのように、
科学には精度を上げようとしても
そこに限界が存在するものもあります。
精度が上がらないから、
研究をストップさせるかというと、
そうはなりません。
不確かさを取り込んで、
その程度の精度であることを認めた上で、
研究を進めていくことになります。
不確かさ(誤差)以上に明瞭な出来事が見つかれば、
その出来事の存在は、事実とできます。
精度と事実認定の間に存在する過去の時間は
不確かさを十分飲み込む長さでもあります。
そこから地球や生命の歴史が読み取られます。

・猛暑・
北海道も7月上旬の暑さも一段落でしょうか。
先週末から少し、暑さがおさまりました。
7月上旬に北海道を旅行をされた方は
涼しい北海道に期待してきたでしょうが、
さぞかし暑い思いをされ、びっくりされたことでしょう。
北海道にも暑い時期があります。
大抵は7月下旬から8月上旬に
耐えられないほどの暑い日があるのですが、
今年は、1ヶ月早く、猛暑が来ました。
連日、暑い日が続くと、
実は北海道の住民の方がずっとバテてしまっています。
冷房のない家も多いため、
本州の暑さに慣れた旅行客よりは
北海道民の方が、ずっとこたえているのです。
ということで、私は、バテバテでした。

2017年7月13日木曜日

6_146 LIGO 4:展望

 LIGOの3回の重力波の観測で、大きな展望が開けてきます。重力波を起こすような現象がべき乗則に従うものであれば、感度を上げれば、多数の重力波が観測ができることになります。そうなれば、天文学の新しい分野が生まれるはずです。

 LIGOでの最初の重力波は、数百年に一度の現象を捉えたとされ、非常に幸運であったとされました。その後の観察で、最初の現象と比べると規模は小さいですが、重力波は稀な現象ではないことがわかってきました。
 第1期の4ヶ月ほどの観測で1個を発見しました。もしかすると、もうひとつの重力波の現象も起こっていたかもしれませんが不確実でした。その後、2016年11月30日に開始された第2期の観測から、8ヶ月ほどで2つの観測がありました。重力波の発生現象は、平均すると4ヶ月に1回くらい起こっていることになります。この値は、観測数が少ないので正確ではないのですが、稀な現象ではなく、頻繁に起こる現象だとはいえそうです。当初の数百年に一度の現象ではなく、年に数回は観測できそうです。
 一般的にさまざまな現象が、べき乗則と呼ばれる頻度で起こることは、よく知られています。べき乗則とは、規模の大きさとその出現頻度は、指数関数に似たべき乗関数的な関係があるというものです(厳密には指数関数とべき乗関数は違います)。例えば、地震の起こる頻度とマグニチュードの関係は、大きなものは稀で、小さいものは頻繁に起こる、べき乗則(グーテンベルグ・リヒター則と呼ばれています)になります。隕石の衝突のサイズと頻度の関係もべき乗則です。べき乗則は、経済学ではパレートの法則とよばれ、「売上の8割は全顧客の2割が生み出している」などの例があります。生物学では「働きアリのうち、8割が本当に働き、残りの2割のアリはサボっている」などの例があり、「80:20の法則」とも呼ばれています。
 もし重力波を発生するような現象が、べき乗則になるなら、規模の大きな合体はまれでも、小さなものはべき乗的に多くなるはずです。もちろん、ブラックホールの衝突合体自体は稀な現象ですから、しょっちゅう観測できるものではないでしょう。さらに、小さいものがどんなに頻繁に起こっていたとしても、遠くでは観測できなくなるでしょう。でも、装置の感度を上げれば、年に数個や、月に数個の観測数は期待できるとも考えられます。
 3回の重力波は、天文学において、全く新しい観測手段が生まれたことになります。
 可視光を光学望遠鏡で天体を観測していたときと比べ、他の周波数の赤外線やX線、電波などで観測ができたことで、天体現象の理解が格段に深まりました。また、ニュートリノを用いた観測では、超新星爆発や太陽の内部構造などを見る手段を得ることができました。そこに今回、重力波の観測ができる装置は、「重力波望遠鏡」とも呼べるものになるのでしょう。新たな天文学がスタートするはずです。できれば、日本で新たに開発している「重力波望遠鏡」も、観測に成功して欲しいものです。観測場所が増えれば、発生源の位置の情報の精度が上がります。今後に期待しましょう。

・グラフ・
指数関数とべき乗関数の違いは、
グラフを書くと理解しやすくなります。
片方の軸が指数にしたとき(片対数グラフ)、
直線になるのが指数関数です。
両方の軸を指数にしたとき(両対数グラフ)、
直線になるのが、冪数関数です。
線形のグラフにすると形がよく似ているのでが
べき乗関数の減少が緩くなります。
このゆるい部分が、ロングテールと呼ばれます。
昔、分析データをプロットして
規則性を見出そうとするとき、
片対数グラフや両対数グラフを
手書きで何枚も書いていました。
懐かしい思いです。
今では、Excelなどでデータを収集し、
グラフ作成ソフトで一瞬にして
いろいろ軸を変えて簡単に書けてしまいます。

・因果とべき乗則・
80:20の法則は、べき乗則の別の表現といえます。
多い頻度側の2割をとると、
全量の8割を占めることになります。
ですから、80:20となる現象があれば、
その背景にべき乗則があります。
これは現象の出現頻度を示すものであり、
その個々の現象の原因を
示しているわけではありません。
ただし、解明した原因が
べき乗則を満たしていなければなりませんが。

2017年7月6日木曜日

6_145 LIGO 3:3つの観測

 重力波と捉えるためのLIGOという装置は、最初の発見以来、その後も観測を継続しています。そして成果上げています。それは研究者の予測を裏切るものでした。悦ばしき誤算だったのです。

 LIGOは、感度の上げるための改造をなされた後、2015年9月12日に観測を開始したわずか2日後、2015年9月14日、重力波をキャッチしました。この重力波は、「GW150914」と命名されています。GWは、重力波の「Gravitational Wave」の頭文字で、150914は、2015年9月14日ことのです。以降、重力波は、GW+
日付でよばれることになります。
 この観測は非常に幸運でした。幸運は、観測再開直後に発見したことだけでなく、LIGOの感度でとらえられるような現象は、数百年に一度のものだったのです。ですから、これ以降の観測では、見つかりそうもなさそうだ、とされていました。
 2015年の発見以降にも、LIGOは観測を続けています。第1期の観測は、2015年9月から2016年1月でした。この時に、もうひとつ重力波シグナル「GW151226」を発見されていました。GW150914の3ヶ月後のことです。GW151226は、14億光年のところにある太陽質量の14.2倍と7.5倍のブラックホールが合体し、20.8倍のブラックホールになったと推定されています。GW150914と比べると3分の1くらい合体事件でした。
 実は、第1期の観測では、他にも重力波らしきものが捉えられています。ただし、このときのシグナルは弱くて、正式な重力波にはカウントできないものだと判定されました。信号自体は、はっきりしたものだったのですが、統計的には質がよくなく、誤差やノイズとの区別ができないとされて、重力波とはみなされませんでした。「LVT151012」と命名されています。LVT151012とは、LVT(LIGO-VIRGO transient)とは、「LIGOの乙女座でのちょっとした反応」のことで、151012とは2015年10月12日の観測のことです。もし、このLVT151012が重力波が本当だとしたら、太陽質量の23倍の星と13倍の星の連星の合体の事件だと見積もられます。科学的にはこれを用いて議論をしてはいけません。
 その後、第2期の観測が2016年11月30日に開始され、現在も継続されています。3例目の重力波シグナル「GW170104」が発見されました。この発表は2017年6月1日になされました。あまり話題になりませんでしが、今までの経緯からすれば、一部の研究者には、予想されたものだったかもしれません。
 GW170104は、22億光年のところにある太陽質量の31.2倍と19.4倍の連星のブラックホールが合体して、48.7倍のブラックホールになったときの重力波でした。
 この発表で3例目の重力波が発見されたことになります。LIGOが捉えられる重力波を発生する現象は、どう頻繁に起こっていることになりそうです。その意義は、次回としましょう。

・悦ばしき想定外・
科学では予想をもとに作業仮説として立てられます。
その予測をもとに実験などの準備が進められます。
しかし、予想は往々にしてはずれます。
これが科学の常です。
どこからの政府では、
こんな当たり前の科学の常を理解しないで
想定外といっています。
科学では想定外が当たり前です。
想定外があれば、そこから新しい科学を
切り拓ていけることもあります。
今回の発見も同じようなものでした。

・梅雨・
北海道も7月になり
少々蒸し暑くなってきました。
まあ、本州の梅雨と比べれは、ましなものでしょう。
でも、北海道に暮らす人間にとっては、
少々の蒸し暑さがこたえるのです。
本来なら本州の梅雨の時期が
北海道の一番いい時期でもあるのです。
それが蒸し暑さで過ごさなければならないのが
少々残念でもあります。