2016年8月11日木曜日

5_144 最古の星 3:メトシェラ恒星

 今回から最古の星の話になります。まずは、一番古い星の話です。その星は昔から見つかっていた星でした。年齢を正確に測定しなおしたら、もっとも古いものになりました。でも、問題もありました。

 最古の星の報告は、2013年にありました。宇宙最古の星は、HD 140283という標識が付いています。しかし、この星は、今回、新たに見つかったものではありません。以前から知られていた星でした。
 HD 140283は、てんびん座に位置する恒星で、地球からは190光年という「近い」ところにあります。主成分はヘリウムと水素からできているので、宇宙の初期にできた天体(種族IIIの星と呼ばれます)であることは確かです。非常に古いと考えられる天体は、「メトシェラ恒星」とも呼ばれています。ちなみに、メトシェラとは、聖書に登場するもっとも長寿の人の名前です。
 HD 140283は、かなり以前から知られていた星だったのですが、最近までその年齢は正確にわかっていませんでした。2000年に、やっと年齢が推定されました。その年齢は、若く見積もっても140億年、古い方の年代では160億年前という値でした。どれほど年齢の幅を考えたとしても、宇宙の誕生の138億年前より古い年代は、明らかに間違いです。それに誤差も大きなものでした。
 ですから、この年齢の見積もりには問題があることは明らかでした。古い星であることは、確かです。正確な測定をすれば、かなり古い年代がでてくるはずです。そこで、正確な観測をするために、ハッブル宇宙望遠鏡を用いて、再度観測をし直しました。
 その方法は一種の三角測量でした。年周視差と呼ばれるもので、「近い」星だけに適用できる方法です。地球が公転しているときの直径を一辺として、それぞれの星の角度を正確に測ります。三角形の一辺とその両側の角度がわかれば、三角形が決定します。両者の角度に違いがあれば、年周視差が見いだせ、その差を利用して、星までの距離も求めることが可能になます。ただし、その角度の違い(年周視差という)は非常に小さいので、「遠く」の星では観測が難しくなります。
 ハッブル望遠鏡を用いた年周視差を測定して再計算した結果、144.6億年±8.0 億年という値になりました。若ければ136.6億年、古ければ152.6億年という幅があります。ハッブル望遠鏡を用いても、なお±8億年という誤差の大きな値でした。この誤差の精度を信じれば、宇宙の誕生が138億年前なので、もっとも古い星の一つであることは確かです。
 しかし、矛盾があります。HD 140283は、最古の星のひとつになりそうなのですが、星の成分を詳しく調べると、問題があります。成分として、水素とヘリウムが主なのですが、量は少ないのですが、金属元素を少し含んでいることがわかっています。金属は超新星爆発で合成される元素です。この星の材料には、超新星爆発した星の元素が混じっていることになります。この星は、本当の第一世代の星、種族IIIではないことになります。
 しかし、本当に種族IIIというものは仮説です。本当に存在するかどうは、わかりません。もしかすると、宇宙創生のシナリオ、あるいは最初の星の誕生のシナリオ、最初の星が水素とヘリウムからできるというモデルなど、今までの仮説を考え直さなければならないかもしれませんね。

・集中できる時間・
北海道は暑い日もあるのですが、
すでにピークは過ぎたようです。
湿度が高いとつらいですが、
湿度が低ければ心地よい夏の日になります。
私は、今週が一番忙しく、いろいろなものに追われています。
ですから、暑いのは一番つらい条件になります。
私の研究室はに向きに窓が全面にあり、
天気のいい日の午後は暑くてたまりません。
早々に逃げ出すしかありません。
ですから、昼過ぎまでが集中できる時間で
大切に使わなければなりません。

・科学の評価・
天文学は、観測技術や装置が日々進歩しており、
宇宙空間からも、地上からも、地下からも
日夜、宇宙の観測努力が続いています。
大きな装置であるので、
底から得られる成果は、
宇宙の神秘や天体の謎を解き明かすことに繋がります。
自分の日常や、社会への貢献とは
まったく関係ない成果が多いと思います。
しかし、だれもがその成果に興味を覚え、
その努力に敬意を払うことができるものではないでしょう。
これが科学の正当な社会的評価ではないでしょうか。