2016年5月5日木曜日

3_151 マントルの内部構造 4:D"層

 マントルの底の不思議な層の存在は、地震波のデータから証拠付けられています。その解釈として、前回紹介した説が新しく報告されました。他にも、いろいろな考え、またかつて考えられていた説も否定されたわけではありません。それらの説を概観していきましょう。

 前回は、マントルと核の境界にある不思議な部分に関する、最近の研究成果を紹介しました。それは、マントルの底には、マグマオーシャンの残存物が残っているのではないかという説でした。この説は、昔からある考えに対して、新しい考えとして出されたものでした。このマグマオーシャンの残存物に対しても、別の考えもあります。昔の説、現在の他の説などを、まとめて紹介しましょう。
 核は液体の状態にある金属の鉄で、マントルは固体の岩石のカンラン岩です。その境界は、地球におていは非常の特異なものとなっています。核とマントルの境界は、状態(相)でいうと固体ー液体、物質の化合物でいうと岩石(珪酸化合物物)ー金属、酸化状態でみると酸化物ー還元状態の金属、密度でみると低密度ー高密度、という大きな違いのあり、決して連続しないものです。いろいろな特徴で比べてみても、非常に特異な境界といえます。これらの物質が、接しているのは、非常に奇異な状態です。
 地震波で非常に明瞭な境界となっており、1926年には見つかっています。発見者にちなんで、地震学ではグーテンベルク不連続面(Gutenberg discontinuity)と呼ばれ、地球科学では単に核ーマントル境界の略でCMB(core-mantle boundary)と呼ばれています。
 さて、CMBの境界部でマントルの底にあたるところは、地震波でみると特異な物質、あるいは部分が存在することは、前回も紹介しました。その特徴は、地震波速度が急激に遅くなるということでした。この層は、D"(ディー・ダブルプライム)と呼ばれています。D"は、CMBに全域に存在するものではなく、200km以下の薄い層が、局所的に、特にスーパーホットプルームの周辺に見つかります。このD"をどうとらえるかが問題となります。
 マントル全体はカンラン岩という岩石ですが、マントル下部では主たる鉱物が、ペロブスカイトというものになっています。ところがD"では、もっと高密度の鉱物(ポストペロブスカイト相)ができると考えられています。ポストペロブスカイト相の鉱物は、熱の伝導を効率よくおこなう性質をもっていることが、高温高圧条件での合成実験で確かめられています。ただし、核が高温だった昔は、この鉱物は存在できず、熱放出によって地球がある程度冷めてくると、形成される条件となります。
 さて、地球の温度が下がり、D"にある時期からポストペロブスカイトができると、それまでより核の熱をマントルに伝えやすくなります。その結果、マントル対流がさかんになると考えられます。D"がポストペロブスカイトからできているとなると、このような説も成立するでしょう。
 さらに、そのポストペロブスカイトの材料となったのは、沈み込んだ海洋プレートだと考える研究者もいます。前回紹介したように、マントル下部の一部が溶融していると考える説もありました。液体は地震波の速度を遅くするのでD"の特徴が説明できるというわけです。その説によれば、マグマオーシャンの残存物ではないかという考えでした。さらに別の考えとして、地球初期の大陸物質(変成を受けたアノーソサイトと呼ばれる岩石)が沈んでいるのではないか、と考えている研究者もいます。
 D"の特徴を説明する説については、まさに百花繚乱の状態です。

・休みには・
ゴールデンウィークも、今日で終わります。
皆さんは、金曜日も休みにして、
ゴールデンウィークの後半も
連続した休みとしてお楽しみでしょうか。
私は、野外調査の予定が、熊本地震で中止になったので、
いつものように、自宅と大学の往復をしていました。
ただし、2日だけは、家内と小樽に散策に出かけました。
小樽は、天気は良かったのですが、風が冷たく寒い日でした。
それに平日にもかかわらず。
かなりの人出で賑わっていました。
それ以外は、のんびりと研究三昧をして過ごしました。
連休は、研究室にこもっていたことになります。
いつもと同じ状態に見えますが、
私自身の気持ちとしては、自分の好きな研究に、
何事にも煩わされることなく、没頭できるので
満足感は大きなものとなります。

・異質な境界・
CMBは、非常に異質な境界でした。
しかし、大きな異質な境界が
身近にあるのに気づいているでしょうか。
それは、大気と大地の境界、大気の海洋の境界です。
物質的には非常に大きな違いがあります。
前者は気体ー固体境界、
後者は気体ー液体境界になります。
私たちは、今、前者で生きていますが、
かつては液体の中から誕生し、進化してきました。
これらの境界は、あまりに当たり前の存在なので、
私たちは気にならないようになっていますが。