2016年2月25日木曜日

6_133 重力波の観測 2:干渉計

 重力波をとらえれば、ノーベル賞確実といわれているような研究でした。ですから、多くの国で先を争うように、観測を進めていました。その中でアメリカの研究グループが、最初に重力波をとらえることに、成功しました。

 今回、重力波を発見したのは、アメリカのカリフォルニア工科大学(Caltech)とマサチューセッツ工科大学(MIT)を中心とする研究グループです。Caltechのキップ・ソーンとMITのロナルド・ドリーバーらが中心となって観測しました。The Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory(LIGO)という施設で検出されました。LIGOは、レーザー干渉型重力波天文台の略です。
 まずは、この観測装置の原理を説明しましょう。重力波は時空間をゆがめるので、そのゆがみを距離の変化として観測すればいいことになります。
 ゆがみをとらえるにはいくつかの方法があるのですが、今回検出した装置は、レーザー光の干渉を利用しています。レーザー光を発生させ、ひとつのレーザー光を、半透明のガラス(ビームスプリッターと呼ばれている)で、半分を透し、半分を反射させ90度に曲げます。つまり、直交する2方向に分けます。そして、長い距離(空間)を飛ばします。それを鏡で反射させてもどってこさせて、ビームスプリッターで再びひとつのレーザー光にします。その時空間にゆがみがなければ、レーザー光は合成され、もとの状態にもどり、変化なしとなります。もし、時空間にゆがみが生じたとすると、合成されたレーザー光には、ゆがみを反映した周期にずれが生じ、レーザー光に干渉が起き、検出でます。
 干渉計の原理は、もともとアルバート・マイケルソンとエドワード・モーリーが光速度を調べる実験に用いたものです。現在では、マイケルソン干渉計と呼ばれています。今回も、その原理による装置を用いられました。マイケルソン干渉計は光を伝える媒体(エーテルと呼ばれていました)が存在するかどうかを調べるための実験で、物理学においては非常に重要な成果となりました。この実験結果によって、光速度は一定であることが示されました。光速度一定という結果は、アインシュタインは相対性原理の基本としていました。そこから、重力波の予言が生まれてきました。今回、重力波の存在を示したのが、同じ原理を利用した干渉計でした。少々因縁めいたものを感じます。
 装置の原理は簡単です。しかも、時空間の変動による重力波は、いつでもどこでも発生しています。質量のあるものが、運動していれば、重力波を発生しているのです。それが重力です。しかし、その変動は非常に小さいもので、波として検出は不可能です。ですから、できるだけ大きな質量で、変動しているものからでる、大きなゆがみを検出することになります。そのような大きな時空の変化を起こす天文学的イベントして、超新星爆発、重い連星(中性子星同士やブラックホール同士)の衝突などがあります。
 そのような天文現象は、非常の稀なできごとです。そしてなおかつ、そのゆがみは非常に小さなものです。そのような大規模な現象の重力波であっても、時空間のゆがみの幅は、10^-21というスケールになります。ちょっと想像できないものですが、地球と太陽の距離(1億5000万km)においてこのゆがみが発生したとにすると、0.1nm程度(水素原子核ほどのサイズ)の変化が起こることになります。このスケールのゆがみをとらえる技術が必要になります。
 重力波は、これらは非常のまれな現象の、非常に小さな変化なので、とらえるには、大きな装置と、長い時間、観測する必要があります。しかし、そのような膨大な国家的予算と研究者の労力、そしてたゆまぬ知恵と工夫が必要になります。その結果、今回の発見となりました。

・先陣争い・
大きな装置には、多くの費用がかかります。
そのために多くの研究者グループがかかわることになります。
観測のために原理はある程度わかっているので
いくつもの国の研究グループが
それぞれに装置をつくって検出をしようとしています。
そして先陣争いをしていると思います。
どれくらいの精度で観測するのか、
いつからスタートするのかによって、
成否に大きな影響があるはずです。
遅れを取ったグループは、
非常に残念な思いをしているはずでしょうね。

・変化の時・
いよいよ短い2月も終わります。
私立大学の第一陣の合格発表がでています。
そして、現在、国公立の入試が行われています。
そして、大学に入試は第二陣に入っていきます。
大学の在学生たちは、
卒業へ向けて秒読み段階になります。
大学は出入りの人が起こる
変化が起こる時期でもあります。

2016年2月18日木曜日

6_132 重力波の観測 1:時空間のゆがみ

 重力波の観測がなされた、というニュースが流れました。このニュースは、他のいろいろな科学ニュースと同列に考えられる方も多いと思いますが、実は今後の天文学の進展に、革命的な影響を与える可能性をもっているものでした。

 先日(2016年2月11日カリフォルニア時間)、世界中に大きなニュースが流れました。重力波を観測したというニュースでした。あちこちでニュースが流れたのですが、その重要性をメディアは、必ずしも十分紹介していなかったように思えます。ここでは、そのあたりを紹介していきましょう。
 そもそも重力とは、質量をもった物質同士が起こす相互作用でした。高校の物理でも、力学で中心的な役割を果たすのは、質量や重力でした。その規則性はニュートンが解明しています。重力は距離の自乗に反比例します。あらゆる物質を通りぬけることができます。通り抜けても、影響をうけることも、減衰することもありません。そんな不思議な性質をもった重力は、どのようにして伝わのでしょうか。
 重力を伝えるものは、波だと考えられていました。それは、今からちょうど100年前に、アインシュタインが予測していたものでした。アインシュタインは、1915年11月に一般相対性理論を発表しました。その後、1916年に、その一般相対性理論から重力波の存在することを予測しました。それからちょうど100年目の記念すべき年に、重力波の存在が証明されたことになりました。
 さて、そもそも重力波とは、なんでしょうか。重力とは物質から発生する力です。アインシュタインは、質量をもった物質があれば、その周辺に質量に応じた時空間にゆがみが生じることを示しました。そのゆがみに変動が起これば、時空間を伝わることになります。時空間のゆがみが、波として伝わります。それが重力波です。重力が伝わる速度は光速です。時空間のゆがみなので、どんな物質の影響を受けることなく伝わることになります。
 その重力波をなんとか捉えたいと、科学者たちが努力してきました。
 重力波は、間接的に捉える方法で、すでに見つけられています。お互いの周りを回る連星は、時空間をゆがませ続けています。そこからは変動する重力波が連続的に発生しているはずです。重力波を発生している分、エネルギーを失っていることになります。そのエネルギーのロスは、連星の回転周期に反映されているはずです。その周期の減速分を計算しました。その計算を証明するために、実際の観測をして、予想通りに結果を得て、証明しました。これにより、重力波の存在が、間接的ですが、証明したことになりました。
 さて、今回の発見は、直接観測でした。その詳細は、次回以降としましょう。

・好奇心・
連星の観測は、アメリカの天体物理学者の
テイラー(Joseph H. Taylor)とハルス(Russell A. Hulse)によって、
1974年におこなわれました。
彼らは、重力波の間接的存在を証明した功績で
1993年にノーベル賞を受賞しました。
今回の観測も、ノーベル賞の呼び声が高いですが、
どうなることでしょうか。
賞や名声を求めて研究している人は、
少ないのではないでしょうか。
一番の動機は、好奇心だと思います。
ただし、研究の規模が大きくなり、
巨額の予算を使うようになります。
そうなると、成果を出さなければならないという
責任感、義務感も強くなってきます。
それに追われる以上に、好奇心が優っていることを願っています。

・合否判定・
大学は一般入試が終わり、
現在、合否判定が進んでおり、
その発表がおこなわる時期になりました。
受験生は、その結果に悲喜こもごもでしょう。
最近は、AO入試や推薦入試で
すでに大学を決定している学生も
多くなっているようです。
最近は、高等学校の卒業生の多数が
大学にいくようになってきています。
しかし、18歳人口が年々減っているため、
大学はなかなか厳しい時代になっているのですが。

2016年2月11日木曜日

2_137 最古のヒト属化石 2:アフリカにて

 古いヒトの化石の出る場所はアフリカが多くなっています。そもそもヒトはアフリカで生まれ、そこから世界各地に広がっていきました。ヒトは、未知の地に向かい、探検する性癖をもっていたのでしょうか。

 今回、報告されたヒトの化石は、属という分類の階層で最古となるものでした。属とは、種の上位のグループになります。ヒトを、人類の進化として扱うときは、ヒト属という分類でもちいることが多く、ここでもヒト属で考えていきます。なお、生物の分類は、種からはじまり、大きな階層に向かって、属、科、目、綱、門、界、ドメインとなっています。
 現在の私たち人類は、ヒト属(ホモ属とも呼ばれています)のホモ・サピエンスという種に区分され、現生人類と呼ばれることがあります。現生人類を分類名でいうと、真核生物ドメイン、動物界、脊索動物門、哺乳綱、サル目、ヒト科、ヒト属、サピエンス種となります。
 ヒト属は、230万年~240万前ころのアフリカで、アウストラロピテクス属と分かれて現在にいたります。同じ属の中には、有名なネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス、2万数千年前に絶滅)のように、さまざまな種を経て、現在のサピエンスという種に至ります。それが、今から40万から25万年前ことです。現在ヒト属に分類されている種は、私たちホモ・サピエンスの一種だけ、他のすべての種がすでに絶滅しています。つまり私たちの祖先につながる種は化石でしか探すことができないのです。
 ヒト属の中で、いろいろな化石が発掘され、それを元にヒトの進化が考えられています。ヒトの化石は、産出はまれです。それは、陸上の大型動物全般にいえるものです。化石の多くは、体の一部、それも破片の場合が多く、一部分から進化を考えるのは、なかなか難しいことです。今回見つかった化石(標本番号LD 350-1)は、エチオピアのアファール州(Ledi-Geraru調査区域)で見つかりました。下顎の左下の骨で、5本の歯がついていました。どのような種であったかはまだ確定していませんが、280万年前のものでヒト属ので最も古いものとされています。
 この年代は、現在見つかっている最古のものより40万年ほど古い時代のものでした。ヒト属のもっとも初期にいた種となります。この時代の化石の発見はあまり多くなり、進化の道筋がよくわかっていない部分でした。ヒト属がどのようにして進化してきたかを考える上で、この化石は、重要な情報を提供することになりそうです。

・氷点下・
先日、帯広に出張にいきました。
冬の帯広は、はじめての経験でした。
雪の痕跡はあるのですが、
道路も乾いていて、車も走りやすそうでした。
幸い天気には恵まれたのですが、
帯広は内陸にあるので、
真冬日で氷点下になっていました。
強い寒波の来た時期にあたっていました。
タクシーの運転手は、
「今日の気温は、16度や20度だ」
などといっています。
帯広の冬は、氷点下が当たり前なので
マイナスをつけることなく温度を表現するとのことです。
ところが変われば、温度の表現方法も変わるのですね。

・文化の記録・
ネアンデルタールの時代以降の人類は
埋葬の習慣がでてきます。
これにより、ヒトの化石は多くなり、
生物としての特徴が明確になります。
また、石器や土器などの製作もするようになり、
多数産出するようになります。
それを手がかりに、文化や時代の細分化が可能になります。
詳細な変遷の記録がつくられることになります。
しかし、そちらは考古学の世界になるのですね。

・2月の大学は・
2月になり、大学の入試が真っ盛りになりました。
北海道の私立大学は早い日程で進みます。
また、大学は後期の成績評価の時期も重なっています。
さらに来年度の講義のシラバスの準備もする必要があります。
講義は終わったのですが、
なにかと慌ただしい時期もであります。

2016年2月4日木曜日

2_136 最古のヒト化石 1:ヒトの源流

 ヒトの化石が稀ではありますが、時々発見されます。新しい化石が見つかり、時に今までない情報が加えられると、ヒトの進化のシナリオに変化が加わることがあります。今回の発見はどのような影響を与えるでしょうか。

 報告は少し前なのですが、人類の最古の化石が発見されたという話題を紹介します。なおこのエッセイでは、生物学的な種として人類を扱うので、「ヒト」という用語を用いることにします。
 過去の生物を調べるとき、化石が非常に重要な素材になります。化石の年代が決まれば、その時代にその生物種が存在していた確かな証拠になります。ただし、生物がいつ出現し、いつ絶滅したかを正確に決めるには、生存を期間を通じで化石が残っている必要があります。
 大量に出る種(例えば、海棲のプランクトンの仲間、貝、葉など)の化石を含む地層もあるので、その生物種がどれくらいの期間継続していたのは、かなり正確に示すことができます。しかし、化石があまりでない種(陸棲の大型動物など)だと、存続期間を決めるのは、なかなか難しい問題となります。
 ヒトの化石は、一部の例外の除いて、産出が非常に少ないので、種の存続期間を決めることは困難です。古いものになるほど、数少ない化石、それも不完全な化石から、その実態や進化の道筋を解き明かすことになります。時間の流れの中で、一つの化石を点として考えると、数少ない不確かで、まばらな点の情報から、ヒトの進化という連続性を考えていかなくてはなりません。
 化石が発見することは、昔ながらの発掘調査になります。現地にいってときには過酷な環境で、長時間の労力をかけて見つけなければなりません。貴重な化石からいろいろな情報を読み取られます。年代を測定する技術、化石の内部を破壊することなく透視したり、3次元的に詳細に計測したりできます。非常に小さな化石の破片からでも、定量的なデータを読みっていくことができます。
 報告されたのは2015年3月ですが、化石は2013年に発見されていました。ですから、報告まで、2年近く時間をかけて調べられてきました。また、発見にどれくらいの労力が払われたのかはわかりませんが、苦労して発掘されたとそうぞうできます。
 産出の少ないヒトの化石では、新しい種の化石がみつかると、ヒトの進化の流れを知る重要な情報になります。その化石が、流れの源流に近いものであれば、その重要性が増していきます。
 今回紹介するヒトの化石は、生物の分類でいうと「属」という体系で見た時、もっとも古いところに位置するというものでした。ヒトの「属」で最古の化石となります。ただし、私たち現世人類の源流に近いのですが、直系の祖先ではないようですが。

・大発見・
外から見た時、ひつとひとつの変化の度合いが小さくて
ほとんと変わっていないようにみえるものが、
積み重なっていくうちに、ある時気づいたら、
かなり変わっていたということあります。
まあ、これはどの研究分野でも同じことがいえるのでしょう。
一方、ひとつの大きな発見によって、
誰もが大きな変化が起こるだろうと思えることもあります。
いわゆる大発見です。
ただし、研究者は、自分の業績を重要だというために
大発見として伝えがちです。
外の人は、そのあたりを冷静に見る必要があります。
ヒトの進化については、化石が少ない割に、
非常に複雑で、いろいろな考えもあります。
ですから、新しい発見があると
進化も大きく道筋も変わることもあります。
今回の発見は、どうでしょうかね。

・気分転換・
このエッセイの発行時には、
大学の入試で出張しています。
少々寒いところへいくことになるので、
天候なので交通機関が遅れることが心配です。
ところで、校務いくのですが、
別の場所に出かけると、それは大いに気分転換になります。
帰ってからまた元気に、仕事に戻れることを願っています。