2016年1月28日木曜日

5_134 113番目の元素 4:命名権

 113番目の元素発見の最後の話題は、元素の命名権についてです。実は命名権争い、あるいは第一発見者の争いがおこなわれていたのです。ライバルは米ソの合同チームでした。理研のチームは、熾烈な競争を勝ち抜きました。

 新しい元素の発見は、日本の研究者だけが取り組んでいる研究だけではありませんでした。他の研究機関でも行われています。最大のライバルは、アメリカ・ロシアの共同研究をしているグループでした。アメリカとロシアの研究グループは、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所、オークリッジ国立研究所、そしてロシアのフレロフ核反応研究所でした。
 彼らの方法は、カルシウム(Ca、原子番号20、質量数48)のビームを用いて、アメリシウム(Am、原子番号95、質量数243)、バークリウム(Bk、原子番号97、質量数249)、カリホルニウム(Cf、原子番号98、質量数249)に照射するというものでした。その結果、115番、117番、118番目の元素を合成ができました。それらの元素が崩壊していく過程で、113番目の元素も見つけたと主張しています。
 米ロ研究グループの合成件数は多いのですが、崩壊過程が、これまで知られている元素になっていません。そのため113番目の元素が、本物かどうかの確証が得られないという問題点がありました。
 一方、日本の理研は、元素の合成件数は少ないのですが、6回のアルファ崩壊と4回のアルファ崩壊と自然崩壊までのすべての手順を確認していることから、確実性はありました。それをもって、理研の研究者たちは、2004年からこれまでに3度合成した「113番元素」を新発見の元素であると主張しました。その結果昨年末に、113番目の元素に対しての命名権が理研に与えられました。
 今まで、元素の発見に関する研究は、すべて欧米のものでしたが、今回はじめて日本が命名権を獲得しました。アジアで初めてのことだそうです。
 命名権を与えられると、元素名とともに、元素記号も提案することになります。今のところ、どちらもまだ決まっていなようですが、野次馬はジャポニウム、リケニウム、ワコニウム、ヤマトニウム、ニシナニウムなどが候補だと囁やいていますが、どうなるでしょうか。
 忍耐を伴った、多大な努力された発見者が、研究の最後のまとめとして、命名をされるので、素晴らしい名称が付けられることと信じます。承認までに、1年ほどかかるそうですが、承認されれば、それが正式に教科書や周期律表に掲載されることになります。その日を期待したいと思います。

・年中行事・
あっという間に1月も終わりそうです。
今年度の後期の講義も終わり、
定期試験のシーズンとなりました。
2月には一般入試に突入します。
日常の仕事に忙殺されているのですが、
年中行事として、このような区切りになるものが
次々とあると、時間区切りが改めて確認できます。
そして、焦りを感じるのですが。

・積雪量・
今年は暖冬がいわれていますが、
先週の大雪で一気に平年を越えた地域もでてきました。
しかし、わが町は、今回の大荒れのゾーンからははずれたようで、
積雪量は例年より、かなり少なくなっています。
先週に少々雪がふったのですが、
それでも、例年よりはかなり少ない積雪となっています。
まあ、ここままの積雪で今年の冬が終わるとは思えませんが、
少ないのは北国の人にとっては助かることです。

2016年1月21日木曜日

5_133 113番目の元素 3:合成3個

 前回、113番目の元素の発見には、最強の装置や独創的な検出装置が必要だということを紹介しました。今回は、発見において、なによりも目標を達成するまでの、たゆまなき努力が必要だっということを紹介します。

 113番目の元素の合成は、2003年9月に、実験が開始されました。加速した亜鉛の粒子(ビーム)をビスマスにあてる(照射といいます)という実験です。1秒間に2.4兆個の亜鉛ビームを、79日間、ビスマスに照射されました。その結果、約50兆回の衝突が起こりました。
 そして、2004年7月23日に、やっと最初の一個ができ、それが113番目の元素であることが確認されました。ただし、その元素の寿命は約1000分の2秒と非常に短いものです。その元素一粒の性質を、調べなければならないのです。非常の困難な作業です。113番目の元素は、崩壊して他の元素に変わっていきます。その時に4回の連続したアルファ崩壊(へリュウムの原子核の放出)が起こります。それを観測していきます
 4回のアルファ崩壊が起こると残った原子核は、原子番号が8小さくなり、質量数が16小さくなります。それは、ドブニウム(Db、原子番号105、質量数262)という元素になります。この原子核も放射性元素なので、時間がたては崩壊します。その崩壊のしかたは、自発核分裂(原子核が分裂すること)か、アルファ崩壊することも知られています。その確率は、自発核分裂が1/3で、アルファ崩壊が2/3程度となっています。自発核分裂をせずに、連続した6回のアルファ崩壊を観測できれば、133番目の元素であるという決定的な証拠となります。
 1回目の発見では、自発核分裂が観測されました。これで、113番目の元素であることがわかりました。しかし、6回のアルファ崩壊ではなかったので、1つの観測では確実性がないので、さらに実験がなされる必要があります。1回目の合成が10ヶ月ほどでできたので、2回目以降の1年以内にみつかるでしょう。そして予想どおり、100日間の照射により、2005年4月2日に2個目がみつまりました。これも、4個のアルファ崩壊の後、ドブニウムの自発核分裂が観測されました。
 研究チームは、この2回の合成で新元素発見の報告をしたのですが、2回では回数が少ないなどの理由で、新元素とするには不十分であるとされました。そのため、3回目の実験が必要になりました。できれば、自発核分裂をせずに、連続した6回のアルファ崩壊を観測したいところです。
 三度目の合成への挑戦が、はじまりました。ところが、3回目の合成まで350日間の照射が必要となりました。最終的に2012年8月12日になって、やっと3個目の合成が起こりました。2回目の合成から6年間、合成ができませんでした。3個目の113番目の元素は、6回のアルファ崩壊が起こりました。これで確実な証拠がでたことになります。
 たった3個の証拠ですが、工夫をこらした大きな装置を用いながらも、大変な苦労の後にできた発見なのです。

・本来の反応・
先日、全国的に大荒れで、
北海道も大雪の予報でしたが
わが町の積雪はそれほどではなく、ホッとしました。
予報がはずれると、少々不満をもってします気持ち持ちます。
私もそうでした。
しかし、予報通りにならなくて安心することが
本来の反応となるべきでしょう。
なぜなら、警告をもらったが
それほどひどくなく過ごせたという結果になったのです。
結果としては、喜ぶべきことでしょう。
このような本来すべき反応とは、逆にものは、
人の本性にかかわっているのでしょう。
しかたがないことかもしれませんが、
本来の反応をするようにはどうすればいいのでしょうか。
教育でしょうかね。

・試験・
センター試験が終わりました。
大学では後期の講義がもうすぐ終わり、
来週から定期試験がはじまります。
続いて2月になったら一般入試がスタートします。
他の私立大学も同じ時期に入試がはじまります。
大学は在学生と新入生のための試験が
並行して行われます。

2016年1月14日木曜日

5_132 113番目の元素 2:最強と独創

 人が達成していないことを新たに成し遂げるには、それなりの装置、時には強力なものが必要になります。ただし、そこには工夫や独創性が不可欠になります。そんな装置を用いて、元素の合成はなされました。

 113番目の元素の合成は、理化学研究所(理研と略されます)でなされました。理研にはいろいろな目的の施設が日本各地あるのですが、今回の発見は、埼玉県和光市にある仁科加加速器研究センターでおこなわれました。
 加速器とは、電荷をもった粒子(イオンの状態の原子核や素粒子など)を放出し、電場や磁場などを利用して、移動させ、加速して、目的の物質にぶつける装置です。粒子の加速には、丸形に加速するサイクロトロンや直線的に加速させる(線形加速器)タイプなどがあります。加速した粒子を、対象とする物質に当てて、反応を人工的に起こすことができます。
 仁科加加速器研究センターの重イオン加速器施設には、RIビームファクトリー(RIBF)と呼ばれるものがあります。RIBFには、何種類かの加速器があります。リング状に加速する装置(RC、IRC、SRC)と直線的に加速する装置(理研重イオン線形加速器RILAC)などがあります。リング状加速装置は、多段階に加速していく装置となっています。最終的な加速をするためのSRCは、世界で最初の装置で、総重量8300トンにもなる世界で最大、最強の装置となっているそうです。これらの装置を用いると、ウランまでのすべての元素で、最大の強度のビーム(加速された粒子)を発生させることができるます。大きな原子同士の粒子の衝突が起こせることになります。
 今回の実験は、113番目の元素をつくるために、原子番号30の亜鉛(Zn)と83番のビスマス(Bi)をぶつけてくっつけば、30+83=113となり、113番目の元素ができることになります。これは2種類の原子核が合体するので、核融合を起こす実験になります。亜鉛のビームをつくって、ビスマスに当てて核融合を起こして113番目の元素をつくるという方法がとられました。
 ところがその核融合の確率は、100兆分の1という小さいものです。ですから、長い時間、ビームを当て続けて核融合を起こし、核融合したものを逃すことなく捉え、元素の種類を調べるという一連の実験をしなければなりません。検出にも、いろいろな工夫が必要になります。
 ビスマスに当たる確率が低いため、大量の亜鉛がビスマスを通り抜けて飛び出してきます。そしてその中に113番目の元素も混じっています。113番目の元素だけを選び取れる装置が必要になります。それが気体充填型反跳分離器(GARIS)と呼ばれているものです。
 ビスマスを通り抜けてきた原子を、磁場で粒子を曲げて分けるのですが、質量と電荷によって曲がり方が決まります。ところが113番目の元素の質量は決まっているのですが、電荷が決まっていません。ですからこの装置だけでは、うまく分けることができません。
 電荷をもった粒子がヘリウムガスの中を進むと、原子の電荷がならされて平均的な値をとることが知られています。1113番目の元素は+11.9になります。GARIを用いて、質量(278)と+11.9の電化をもった粒子だけを取り出せば、目的の元素を分けることができます。
 このような最強の装置を用いて113番目の元素が作り出され、独創的な工夫された検出システムで測定されました。その様子は次回としましょう。

・センター試験・
いよいよ大学は入試の季節になりました。
今週末にセンター試験が行われます。
我が大学は、会場になっています。
教職員は総員体制で望むことになります。
大雪や荒天で試験の開始期が
遅れることがないように毎年、願っています。
しかし、こればかりは、人智を超えています。
ただ、何があっても準備を怠なきようにすること、
もし起こったら対処することです。
これしかありません。

・真冬日・
北海道は1月になってから、
何度も真冬日が訪れています。
真冬日とは、昼間も氷点下のままのことです。
エルニーニョのせいで暖冬だといわれています。
確かに現在のところ、積雪量は例年より少ないです。
大きな道は除雪が行き届い、交通量も多いので、
雪は溶けて走りやすくなっています。
もちろん、暖かい日もあります。
暖かい日のあとに、冷え込みがあると
脇道には雪が残っているので
雪が降らないとアイスバーンになります。
しかし、きっと雪はまだまだ降るのでしょう。
時には大雪も降るのでしょう。
それも受け入れるしかありません。

2016年1月7日木曜日

5_131 113番目の元素 1:人工元素

 明けましておめでとうございます。2105年12月31日に、日本の研究者が発見した元素が、新元素として認定されたという、めでたいニュースが流れました。今年は、この話題からスタートしましょう。新しい元素とは、どのようなもので、どのように発見され、そしてどのように新元素と認定されるのでしょうか。

 すべての元素は、周期律表に示されています。この世を構成している物質すべてが、この周期律表にのっているのです。100個弱の構成物が、この世を作り上げているというのは、単純といえば単純です。
 さて、「水兵リーベ、僕の舟・・・」などという語呂合わせで周期律表を覚えていった記憶を、多くの人はお持ちでしょう。でも、周期律表の下の方になるとあやふやになっていくのではないでしょうか。
 私も、岩石に含まれている元素で、1列から3列あたりから、4列目の亜鉛(Zn)あたりまで分析することあるので覚えています。しかし、それより重い方の元素では、Rb、Sr、Sm、Nd、Pb、U、Thなど、年代測定で分析していた元素の周辺は覚えていますが、それ以外の元素は、はっきりと覚えていません。
 現役の化学の関係者はさておき、かつて元素分析していたものですら、この程度ですから、一般の方は、きっとほとんど記憶から消えていることでしょう。そんな重い元素での日本の科学者が大きな成果をあげました。
 それは113番目の元素の発見です。新しい元素の発見とはいっても、天然には存在しないものです。人工的に合成して新元素であることを確認したということになります。
 天然に存在するもっとも重い元素は、U(ウラン)で原子番号は92番です。61番目のプロメチウム(Pm)とウランより大きな元素は、天然には存在しないことがわかっています。112番目までの元素はすでに合成実験により発見されていました。さらに、原子番号114番目のフレロビウム(Fl)と116番目のリバモリウム(Lv)も発見されていました。ですから、113番目と115番目を飛ばした114個の元素が、これまで確認されていました。
 そして今回、113番目の元素が確認され、そして認定されました。この認定が重要になります。

・不特定一人のあなたへ・
昨年はエッセイをお読みいただき、ありがとうございました。
本年も引き続きよろしくお願いします。
ただし、このエッセイは、購読を強要するものではなく、
読む人の好奇心に任せています。
宇宙のこと、自然のこと、地球のこと、地質のことなどに
興味を持っていただけたらと思ってお送りしています。
興味がなくなれば、購読を中止して頂いて結構です。
興味を覚えたら登録しただけばいいと思っています。
一人でも、どれかのエッセイに興味を持ってもられる方がおられたら
このエッセイを書き、お送りすることに意義があると思っています。
多数の読者を期待して書くのではなく
「不特定一人」の「あなた」へのエッセイとして
書き続ける気持ちは、今も変わっていません。
よろしければ、本年もお読みいただければと思います。

・こころを認めたい・
今回の重い元素を見つけるために
多大な労力をかけ、エネルギーも資金も投じられています。
大きな成果があると、
すぐに「その研究にどんな意味があるの」などという
質問がよくされのを耳にします。
「意味」のところが、「価値」や「人の役に立つ」などに
変わることもありますが、
たとえノーベル賞受賞者にも同じ質問がなされます。
質問者が求めているのは、
すべて社会や自分たちへの見返りを聞きたいのでしょう。
成果が、直接の自分への見返りがなくても、
見返りがあるという答えを聞くことで安心したいのでしょうか。
確かに多くの研究は、国費を使用しています。
研究は、本当に役にたたねばならないのでしょうか。
私は、役に立たなくても、変な理由をこじつけなくても
単に心の赴くまま、好奇心にしたがって科学してもいいと思います。
芸術も人文科学も社会科学も、営利や打算がない
止むに止まれぬ気持ちでなされているものが
いっぱいあると思います。
そのようなものに、社会への貢献を無理やりひねり出させるのは
純粋な心を汚しているようで、どうも好きなれません。
いつから日本人は、そんな打算的な成果を
「こころ」が生み出される成果に
求めるようになったのでしょうか。
少々残念です。