2015年8月27日木曜日

4_118 竜串 1:付加体

 四国へは何度も行っています。ゴールデンウィークにも行きました。たとえ同じところであっても、興味が違ったり、興味が継続しているのであれば、何度いっても楽しめます。そんな楽しみの場所を紹介しましょう。今回は竜串からの話題です。

 私は、遠くて不便でも、気に入った場所(露頭)には、毎年のように通っているところがあります。気に入ったところへは、観光でも何度も行く人も多いでしょうから、そんなに珍しくはないでしょう。愛媛や高知には何度もいっていますが、今回紹介する竜串へは、2度訪れています。ただし、前回は調査だったので、数日滞在して同じルートの露頭を何度も見ていました。新しい地層の記録方法を試すために、この地の地層を選びました。2回目は、典型的な堆積構造の観察記録ために訪れました。
 竜串は、高知県西部の土佐清水市にあります。足摺宇和海国立公園の一部にもなっているところで、珍しい景観があります。このあたりの海岸一帯には、砂岩から泥岩の繰り返しの地層が見られます。同じ岩石の繰り返しを互層(ごそう)といいます。竜串は、互層の露頭が海岸でよく見えるところです。一説によると、龍が寝ているような小山と大きな串に似ている奇岩などがあることから、名付けられたとされています。砂岩泥岩の互層が珍しい景観を生み出しています。
 砂岩泥岩の互層は、実は日本列島、特に太平洋側にはよく見られる堆積岩の様子(産状)です。さらに互層のうちの多くは、付加体という仕組みによって形成されたものです。
 このエッセイでは、付加体はよく登場しますが、まずは概説からはじめましょう。付加体とは、海洋地殻やその上に溜まっていた堆積物が、海洋プレートの沈み込みによって、陸地側に剥ぎ取られていったものです。海洋プレートの沈み込みが継続すれば、つぎつぎと剥ぎ取られた堆積物が集まっていきます。日本列島は、古くは大陸の縁で沈み込み帯となり、約2600万年前頃から日本列島として大陸に離れて行きました。
 付加体に加わる堆積物が互層になっているのには、理由があります。沈み込み帯では、海洋プレートが、大陸プレートや別の海洋プレートの下にもぐりこんでいくことです。日本列島は大陸プレートの一部なので、海側に沈み込み帯よる海溝が常にできていました。陸には川があり、川の運搬作用によって陸から堆積物が河口に運ばれていきます。河口付近に溜まっていた堆積物が、地震や大洪水などをきっかけにして、大陸斜面を流れ下り、斜面のゆるいところや海溝に土砂運ばれることがあります。このような流れは、混濁流(タービダイト)と呼ばれています。
 深海に流れ込んだタービダイトが海底の平らなところにたどり着くと、重く大きな砂は早く沈み、軽く小さく泥はゆっくりとたまっていきます。ひとつのタービダイトが起こるたびに、砂から泥へ連続的に変わる堆積物が、一層できます。タービダイトが繰り返し起こると、砂泥互層が繰り返し形成されていきます。このようなタービダイトの繰り返しによる互層を、タービダイト層と呼びます。
 タービダイトとそれによるタービダイト層が、付加体を構成している砂泥互層の起源と考えられています。話が長くなりましたが、竜串にはタービダイト層が、海岸沿いにきれいに見えることろなのです。その景観が、国立公園の重要な要素でもあります。

・台風一過・
台風が温帯低気圧に変わり
北海道は一気に秋めいてきました。
薄い上着では肌寒いような気がします。
低気圧が過ぎても
涼しいままかどうかはわかりませんが。
少し前から北海道は暑い夏は和らいでいました。
これからは秋に突入でしょうか。

・有朋自遠方来不亦楽・
先日大学の卒業生の同窓会がありました。
数十年ぶりの再会の仲間がほとんどでした。
旧友が会場に姿を表した時
一瞬にして「オー」と懐かしく思い出せる友、
一瞬、記憶をまさぐりながら、思い出す友
いろいろです。
忘れていたのではなく、
その友人の変貌が激しかったからです。
遠くから札幌まで多くの旧友が
駆けつけてくれました。
一夜だけ、数十年前にタイムワープできました。

2015年8月20日木曜日

6_130 新たな地平 5:衛星たち

 ニューホライズンズは、7月14日夜に冥王星を通り過ぎました。今後も、観測やデータの解析が進められていくことになるはずです。ニューホライズンズの成果に加えて、明らかになりつつある冥王星の姿をまとめておきましょう。

 ニューホライズンズは、日本時間の7月14日夜、冥王星に最接近しました。本来であれば、冥王星が目的地なので、その軌道に入りべきでしょうが、そのためには燃料が必要です。そんな燃料を積みこむ余裕がありませんでした。そのため、冥王星でフライバイをして飛び去るコースをとりました。フライバイの最接近の時を中心に観測がおこなわれました。シリーズの最後に、これまで、わかったことをまとめておきましょう。
 冥王星は、小さい惑星ですが、薄いながらも大気があります。ただし、冥王星が太陽に近づいたときにだけ、大気が形成されるようです。冥王星が太陽から離れていくと、大気の成分は凝固して、薄くなっていきます。窒素、メタン、一酸化炭素などがその成分です。地表にある窒素や一酸化炭素の固体が、太陽に温められて気化したものが大気になると考えられています。
 冥王星には、特徴的な衛星があります。それは、一番大きな衛星のカロン(Charon、シャロンとも)です。1978年に発見されました。カロン(直径1208km)は、冥王星(2370km)の半分以上のサイズがあり、衛星と呼ぶには大きすぎます。また、両天体の共通の重心点を回転する動きをしているようなので、二重天体(連星)とも考えられれています。
 ニューホライズンズは、カロンの画像も鮮明に撮影しました。その画像には、南半球には、横に1000kmにも伸びた谷がありました。谷は、7kmから9kmほの非常に深いものだと考えられています。カロンも冥王星と同様にクレーターが少ないことがわかってきました。カロンには大気がなく、H2Oやアンモニアの氷の地表があるようです。画像には、北極付近に暗いところがみえますが、実態解明はこれからです。冥王星は岩石の核があると考えられていますが、カロンにはH2Oの氷と岩石が混じったものになっているようです。冥王星とは違った素材でのテクトニクスが起こってるのかもしれません。
 冥王星には、カロン以外にも衛星が、いくつか発見されています。2005年にはニクス(Nix)とヒドラ(Hydra)が、2011年にはケルベロス(Kerberos)が、2012年にはステュクス(Styx)が発見されました。
 ニューホライズンズが冥王星に最接近する少し前に、これらの4つの衛星が不思議な動きをするという報告が出されました。この報告は、ハッブル宇宙望遠鏡のデータを調べたものです。比較的に大きなニクスとヒドラは、細長い形をしているのですが、それの動きを観察していると、不規則な運動をしていることがわかってきました。カオス的な運動だと予想されています。
 衛星ヒドラは、43×33kmのいびつな形で、表面の明るさが一様ではないこともわかってきました。しかし、ニクス(10km?)、ケルベロス(13~34kmか14~40km)、ステュクス(10~25km)のサイズも実態も、まだまだ不明です。
 ニューホライズンズが得たデータは、今後、解析が進められていくことでしょう。また、2015年8月までは冥王星とその衛星を観測することが予定されいます。今後の成果に期待したものです。
 今回の探査の成功で、太陽系最外部にある準惑星「冥王星」の姿が、鮮明になってきました。これで私たちの知識が、太陽系のより外側まで広がりました。

・遅い通信速度・
ニューホライズンズが冥王星への最接近をした後
8月後半まで、観測を継続します。
観測データは8Gのメモリに記録されいます。
データの通信速度が800bps弱なので
数ヶ月かけて地球へ送ることになります。
すべてのデータの送信を完了するのは、
2016年4月後半になるそうです。
気の長い話ですが、
省エネルギーでの飛行や装置の作動をしているので
気長に待ちましょう。

・暑い夏・
お盆が過ぎると北海道も少しは涼しくなってきました。
今年の夏は長く、暑かったです。
私は、8月上旬の一番暑い時に京都へ里帰りしたので
少々へばってしまいました。
北海道以外の人には、まだ暑い日々が
続いていることだと思います。
小・中・高校の夏休みも、今週までです。
大学も今週から集中講義がはじまりました。
市民向けの連続講座もはじまります。
私は、今年は夏休みは、ほとんどとれませんでした。
しかし、講義がないときは気持ちが楽なので
こんな時にこそ研究が進められればいいとおもっています。
まあ、校務がいろいろ入ってきますので
なかなか進みませんね。

2015年8月13日木曜日

6_129 新たな地平 4:氷プレートテクトニクス

 「ニューホライズンズ」の送ってきた冥王星とその衛星のカロンの画像は、非常に鮮明でした。一見、どこにもである天体の画像にもみえます。しかし、太陽系のもっとも外に位置する天体で、このような地形があったことが不思議なのです。

 「ニューホライズンズ」の送ってきた冥王星の画像で、最初に目についたのは、下半分に大きなハート模様があることと3500m級の山があることでした。ハート模様の一部分を拡大すると、不思議なハスの葉(あるいは亀甲)のような模様がありました。もっと拡大すると、そこには普通はあるものが、ないことがわかってきました。それは、クレーターです。
 太陽系で硬い地表をもっている天体には、たいていクレーターがあります。クレーターがあるのは、現在でも一定の割合で隕石が衝突するという現象が起こっているためです。惑星の表面にも、衛星にも、彗星にも、小天体にも、すべてにクレーターがあります。したがって、クレーターが少ないということには、重要な意味があるのです。
 クレーターの少ない代表的な天体として、地球が挙げられます。地球の表面は、「最近」形成されたものだからです。もちろん「最近」とはいっても、昨日今日のことではありません。45億年という太陽系の歴史の中でみた時間なので、数百万年や数千万年以降、せいぜい1億年前より新しいものが、「最近」となります。地球の表面は、常に更新(侵食、削剥、堆積、断層、火山噴火などの各種の擾乱)されているため、クレーターが消されていきます。古い岩石も、後の時代に何度も擾乱を受けているため、地形は消えていきます。地球で「最近」形成された山とは、プレートテクトニクスによる造山運動による山脈か火山活動による火山になります。
 冥王星は小さい天体なので、岩石を溶かしてマグマを形成するほどの熱を内部に持っていないはずです。それに、H2Oの氷を主成分としていると考えられるので、地球のように岩石のプレートや岩石の溶けたマグマによる火山はないと考えられます。ですから、地球の岩石のかわりに、H2Oが固体(氷)や液体(水)になって大地の運動(テクトニクス)を起こしていると考えられます、H2Oの水による火山活動が起こり、H2Oの氷がプレートとして振舞っているのかもしれません。冥王星では、氷プレートテクトニクスと呼べるものが起こっているのかもしれません。水ー氷の運動が、ハスの葉状の模様の原因かもしれません。
 氷の表面(地殻)をもつ天体での、表層の更新が起こっていることは、他の天体(いくつかの衛星)でも発見されています。しかし、冥王星のように太陽からも遠く、大きな母星による潮汐力も働かない天体で、どのような熱源によって水マグマができるのでしょうか。この地形の謎の解明は、なかなか面白い研究テーマとなることでしょう。

・未来を考える・
冥王星は現在、地球から48億kmも離れています、
電波でも、4時間半かかる距離です。
ですから、重要な作業は、
定められた時間に定められた手順で
動くプログラムにおこなわれます。
さらに、遠くでの探査では、
自身で判断して進めていく必要があります。
未知の領域での探査は
突発的なことにどう対処するかも重要な課題です。
起こるリスクを数年前に予想して
回避するようにして、送り出さなければなりません。
大変ですが、未来を考える作業は面白いものだと思います。

・猛暑日・
先週後半から10日まで、京都にいました。
連日、猛暑日と熱帯夜を過ごしていました。
北海道の住人にっとては、この暑さには参りました。
住んでいる母もぐったりしていました。
もちろん冷房や扇風機は使っているのですが、
一晩中つけて寝ていると、体調をくずすので途中で切ります。
すると暑くて寝れない。
しかたがないので、扇風機にタイマーをつけて寝る。
タイマーが切れると暑いので
再度タイマーをつける
などということをしていると
日々、寝不足になります。
朝起きた時から、クタクタになっていました。
北海道の夜は湿度は高くても
温度が低いので熟睡できました。
北海道の人になりました。

2015年8月6日木曜日

6_128 新たな地平 3:紆余曲折

 惑星探査機「ニューホライズンズ」の計画がスタートするまで、スタートしてからも、いろいろ困難が場面がありました。それを克服するには苦労があったと想像できます。その末の今回の成果です。関係者の喜びはいかほどのものだったでしょうか。

 惑星探査機「ニューホライズンズ」が冥王星に最接近したのは、2015年7月14日でした。打ち上げられたのは、2006年のことです。もちろん打ち上げるためには、もっと前から計画はスタートしています。探査機打ち上げには莫大な費用や人材も必要になります。ですから、かなり前から計画され、準備が必要になります。
 1990年代末には、NASAは「プルート・カイパー・エクスプレス」という計画で、冥王星の探査を考えていたようです。その計画では、2004年に探査機を打ち上げつもりでしたが、費用が膨大になることがわかり、2000年に諦められました。
 しかし、その後再浮上し、2001年に「ニューホライズンズ」の探査計画があることが公表されました。2001年11月には内定され、2003年4月に正式のゴーサインがでました。そして、多くの人材と時間、約7億ドル(約800億円)の費用をかけ、2006年1月19日の打ち上げに至りました。
 「ニューホライズンズ」の計画には紆余曲折がありました。計画段階でもほかにも、波乱がありました。2003年2月3日にスペースシャトル・コロンビアの事故がありました。1986年のチャレンジャー以来の爆発事故で、この計画にも暗雲が立ち込めました。事故原因解明に多くの予算もさかれました。その後、国際宇宙ステーション(ISS)の費用削減によって「ニューホライズンズ」の計画は回復しました。
 いろいろ難関がありましたが、一番の試練は、打ち上げ直後にありました。
 「ニューホライズンズ」の打ち上げの8ヶ月後、2006年8月24日のことでした。その前からくすぶっていた問題に対する決着が、その日に付けられることになりました。チェコのプラハで開かれていた国際天文学連合(IAU)の総会で、惑星の定義が再検討されました。その結果、冥王星は、惑星ではなく準惑星(dwarf planet)になり。惑星から準惑星への降格でした。太陽系で最後の「新たな地平」であった未知の惑星「冥王星」の探査の予定が、惑星から準惑星にされたのでした。出鼻がくじかれたようなものです。しかし、「ニューホライズンズ」は冥王星に向かって、順調に飛行を続けています。
 降格の経緯は、太陽系の冥王星より外にある天体(太陽系外縁天体と呼ばれる)の観測が進み、大きな天体がいくつも見つかるようになってきました。そして、2005年7月29日、冥王星より大きと推定される天体2003 UB313が発見されました。2003 UB313は2006年9月にエリスと命名されました。
 エリスの発見者は「第10惑星」と呼んで、メディアも「惑星」と報道しました。冥王星より大きな天体ですから、「惑星」と名乗っても問題はないはずです。エリス発見を契機に、惑星の定義にかんする議論が沸き起こりました。今後、もっと多くの大きな惑星が見つかる可能性もあります。
 すでに存在してた冥王星の衛星カロンや小惑星ケレスも、惑星の候補とすべきだという議論もありました。それになんといっても、冥王星の惑星として、離心率や軌道傾斜角が大きいことは、惑星らしくありませんでした。
 それらの議論を考慮された上での準惑星への降格でした。
 地球の騒ぎをよそに、「ニューホライズンズ」は順調に飛行を続けました。観測の結果は、やはり興味深いものとなりました。さて、冥王星はどのような天体だったのでしょうか。次回としましょう。

・定義・
最終的にIAUにおいて、今までの惑星とされていた天体は
惑星、準惑星、太陽系小天体(small Solar system bodies)
に区分されました。
惑星の定義は、
太陽を公転、自己の重力で球形るなるほどの質量、
軌道上の唯一の天体、となりました。
準惑星の定義は、
太陽を公転、自己の重力で球形るなるほどの質量、
は同じですが、
軌道上の他の天体があってもいい、
衛星ではないこと、
となりました。
わかったような、わからないような定義です。
これて一応、一件落着となりました。

・人為分類・
天文学は、自然科学ですから、
事実に基いて、論理的になされるはずのものです。
しかし、ものごとの分類は、
たいていが人為分類になります。
人為分類とは、人が定義していくものです。
そこには、人、研究者の意図や思想が反映されます。
そして、感情も加味されます。
そこが一番難しいところかもしれません。