2015年5月14日木曜日

5_129 APT 5:意義

 今回の報告は、11名の著者による共同研究です。その対象は、小さな鉱物の部分を針のように尖らせ、ナノメートルのレベルの測定をおこなっています。小さい部分の測定ですが、そこから得られる意義は、大きいものだと考えられます。

 ヴァレリー(John W. Valley)らの研究は、別の研究グループが求めた地球最古の鉱物(ジルコン)の年代を、最新の装置を使って検証することが目的でした。これは、非常に重要な意義があることです。その意義を紹介しましょう。
 ジルコンは、変成作用にも強い鉱物で、多少の熱の受けても成分や構造を保持できます。ただし、ある程度以上の熱を受けると、原子レベルの移動は起こります。しかし、放射性核種であるウランを2種(235Uと238U)を用いて年代測定をする方法であれば、その変化の影響を回避できます。形成後の変成作用の影響は、U-Pbの年代測定(「1_126 最古の認定 3:コンコーディアとディスコーディア」を参照のこと)として利用されているものです。ある時代に起きた熱変性の事件として読み取ることができ、変成作用の年代も求めることができます。
 それでも、年代測定には、誤差がつきものです。鉱物の微小部分の年代測定(SIMSという装置)では、多数の原子を測定して平均化することで誤差を減らすことができます。SIMSでは1000μm^3の範囲の原子を分析します。しかし、APTでは0.02μm^3の体積しかなく、SIMSの10万分の1ほどしか原子の量がありません。APTは、年代測定より原子の分布状況を見ることが主たる目的の装置なのです。
 ただしこの報告の目的は、年代測定の精度を検証することでした。古い年代が得られた試料の同じ部分から6個の針状の試料を削りだして、結晶面を求めて測定に用いています。測定されたのは、直径100nmほどの針状の部分を1μm(1,023nm)の長さに渡って核種(Si、Zr、Y、Yb、Pb、Al)の測定しています。
 結晶の中には、目的の元素である鉛(Pb)が集まっているクラスターがあり、そこには50個ほどの原子ありました。
 注目されたのは、Uが放射性崩壊してできたPbです。質量数の比をみると、そのクラスターは異常に高い207Pb/206Pb比をもっていることわかりました。形成後、熱変成による変化を受けたこと(ディスコーディアを形成するような事件)を示しています。これは、すでに得られていたSIMSの年代と同じ値でした。
 以上のことから、原子レベルで古いジルコンの年代測定は、信頼性があるということを検証したことになります。この試料から得られた地球最古の鉱物年代が、44億0400万年前と確定したことになります。
 同じような検証が、履歴やタイプの違うジルコンでなされ正しいことが判明したら、今後ジルコンにおけるSIMSの年代測定は、すべて信頼できるものであることになります。今回の報告は、鉱物のナノメートルレベルの小さな部分の報告ですが、彼らが目指している目的には大きな意義がありました。

・極小と極大の連結・
小さな部分の最先端の測定ですが、
その検証が目指しているものは、
非常に大きく重要なゴールなのです。
同じようなことが、違う分野でも起こっています。
巨大な実験装置で未知の素粒子を探したり、
大きな天文観測装置でビックバンの名残を探したり、
地下深部の巨大なプールに水を入れたカミオカンデで
陽子の崩壊やニュートリノの素粒子の挙動を観測したり
しています。
そこで得られる成果は、大きな意義を持っています。
このような極小と極大の連結は
それぞ研究の醍醐味といえるものではないでしょうか。

・心残りままに・
ゴールデンウィークは、研究の時間をとるつもりでした。
3日と5日は自宅で家事をいろいろしていましたが、
それ以外は大学に弁当持ちできていたのですが、
研究はあまりできませんでした。
調査の準備と校務が入り込んできました。
このエッセイも予約送信しておくことにしていたので、
その原稿もいくつか書いていました。
Maさんへの返事も書いていません。
考えること、することがいろいろあり
なかなか思ったようにことが進みませんでした。
どうしてでしょうか。
まとまった時間取れるはずだったのに、
少々心残りのまま調査にでました。