2015年4月30日木曜日

5_127 APT 3:回答

 APTの紹介をするつもりで始めたシリーズでしたが、少々話は脇にそれていますが、話題自体はなかなか興味深いものです。前回は、読者からの質問だけを紹介して、回答をあと回しにしたので、少々欲求不満になったかもしれませんが、やっと回答編です。お待たせしました。

 前回は、冥王代のまとめと、そこからでてきた質問まで紹介しました。復習しておきましょう。冥王代のあとに起こった後期隕石重爆撃(LHB)がありました。すると、LHBのエネルギーで地球の表層が何kmにわたって溶けたのではないかという指摘です。そのような状態があったとすれば、それ以前にできていたジルコンもすべて溶けてしまったのではないか、という質問でした。
 今回はその質問への回答です。以下は、基本的には回答メールの内容ですが、エッセイで示しますので、少々修正しています。(Moさんご了承下さい)

(以下回答)
 後期隕石重爆撃(LHB)はご指摘のように、40億年前(41億年前とも)から38億5000万年前の間の事件です。ですから、冥王代が終わってからすぐの事件です。以前の年代区分(38億年前まで)では、冥王代ですが、今ではLHBは太古代の出来事になっています。
質問は、
・LHBによって表層が数kmにわたって溶けたのではないか
・もし溶けたとしたら、それ以前の鉱物がなぜ残っているのか
の2点でした。
 質問に答える前に、私は冥王代には興味を持っているのですが、今では専門に研究していませんので、最新の情報ではない可能性があることを、お断りしておきます。
 一つ目の点ですが、LHBによって地球の表層での全面の大規模な溶融は、起きていなかったと考えています。全面溶融がないとすれば、それ以前の鉱物が残っている可能性が出てきます。
 このことは、月のLHBでも全面溶融していないことからも推定できます。月の海(黒っぽい部分)は、大きなクレータですが、そこは衝突によってマグマが埋めましたが、岩石が溶融したかあるいは深部に残っていたマグマオーシャンに由来しています。溶けたとしても、地殻のクレータ部だけです。月の裏の高地(より古い岩石から構成)は、残っています。やはりLHBでは、あったとしても部分的な溶融だけだと考えられます。
 月の形成(冥王代の初期)は、地球への大きな微惑星の衝突によるものだと考えられています。月をつくった物質が地球の大気圏から飛び出すような大きな衝突でした。そんな衝突後でも数百万年もあれば地球はもとの状態に戻れ、地球形成でも1億年ほどで冷却して固化したというシミュレーション結果もあります。
 ですから、地球のマグマオーシャンの形成は、LHB以上のかなり激しい連続衝突でないとできないと考えられます。惑星形成において、そのような過程は「暴走成長」と呼ばれているもので、惑星形成の初期に起こった事件でした。
 また、今回紹介する44億年前の固体物質が残っていること自体が全面溶融がなかった可能性を支持しています。ただし、地球はサイズ(質量)も大きく、大気の存在もあったことから、月とは条件が違うので、単純に比較はできませんので、それなりの注意は必要ですが。
(以上)

 Woさんからの返事と再度の質問がありました。それは少々長くなるのと、本シリーズとの関係がますます薄くなるので別の機会にします。次回から、本題にもどって、いよいよ分析方法についてです。

・感謝・
今回の回答のメールに対して
Woさんから2度目の質問がありました。
その回答は、今回の質問以上に長いものになりました。
2度目の質問を書いている時、
頭には、今書いている論文の
構想の記憶が蘇ってきました。
今書いている論文はシリーズとなっているもので、
研究動機では、前回の論文からの経緯から今回の論文への継続性、
課題を提示していました。
前の論文で積み残したテーマが2つあり
一方を本論で論じる内容で、
他方は「別稿にて議論する予定である」としたテーマがありました。
質問に答えているうちに、
このシリーズの別稿の論文として
書こうと考えていた内容につながってきました。
さらに、10数年前に関連分野の概要をまとめ、
自分なりの考えを示した論文があるのですが、
回答の文章はそれに関連していることに気づきました。
再度文献を集める必要がありますが、
やはり興味は継続しているのだと思えました。
購読者、そしてWoさんに感謝です。

・サクラサク・
北海道もやっと桜が咲きはじめるころとなりました。
これから一気に春が深まるはずです。
朝夕はまだ寒さを感じますが、
昼間は暖かくなってきました。
桜の薄いピンク色は、北国の青空に映えます。
忙しくなってきて余裕はないですが、
越し春を楽しみましょう。

2015年4月23日木曜日

5_126 APT 2:最古の年代と疑問

 この論文は以前紹介しています。今回の目的は、その技術と装置の説明をするつもりでした。「最古」の話題は、このエッセイでは、何度も取り上げてきました。本題と少しずれるかもしれませんが、「最古」に関してこれまで書いてきたエッセイのまとめと、それに関連する質問を紹介します。

 前回は、APTを用いた論文のタイトルにある術語の説明をしました。この論文は以前にも紹介しているので、地質学的な内容に関する詳細はそちらを参照していただきたいと思います。「最古」については、「地球のささやき」で何度か取り上げてきました。私が興味をもっているテーマでもあるからです。まずは、これまでの「最古」の情報を、まとめておきましょう。
 地球最古の「岩石」は、かつてはカナダの北西準州のアカスタ地域のトーナル岩の約40億年前のもので、私も調査にいきました。しかし現在では、もっと古い岩石が見つかっています。「1_82 最古の岩石 1:ちょっと前の最古」(2009.10.29)のシリーズで紹介したカナダのケベック州北部ウンガバの「偽角閃岩」です。「偽角閃岩」という不思議な名称ですが、斑レイ岩の一種だと思っていください。詳細はエッセイを参照してください。この岩石は、Sm-Nd法によって、42.86億年前という年代がでました。
 最古の「鉱物」に関しては、「1_6 最古の鉱物のもつ意味」(2001年2月8日)や「1_12 最初の固体」(2001年10月4日)などで紹介しています。この鉱物は、西オーストラリアのジャックヒルの約30億年前の堆積岩の中にある鉱物の粒でした。鉱物はジルコンで、44億0400万年前という年代をえています。また、今回紹介する論文も、その鉱物の年代を検証したもので、「1_124 最古の認定 1:最古の信頼性」(2014.05.01)のシリーズで紹介しています。
 最古ではないですが、古い鉱物や岩石の年代としてジルコンを用いて報告されることがあります。これは、ジルコンが頑丈な鉱物であること、年代測定に利用できるウラン(U)が多く含まれていることです。ジルコンは頑丈で少々の変成作用でもジルコンは残ります。また、半減期の長い238U(44.68億年)と短い235U(7.038億年)を組み合わせて年代測定をする方法が利用できます。内部で少々の元素移動は起こっても補正可能です。しかし、マグマができるほどの高温になれば、ジルコンも溶けてしまいますので、存在自体がなくなります。
 古いジルコンの存在に疑問を感じたMoさんから質問を受けました。冥王代のあとに起こった後期隕石重爆撃(LHB)があったとされています。その詳細は「1_105 LHB 1:ないことの意義」(2012.08.09)のシリーズで紹介しています。Moさんの疑問は、LHBのエネルギー(運動エネルギー)よって、地殻が数kmの深さにわたって溶解してしまうのではないか。もしそうなら冥王代のジルコンが残っていることが疑問だという指摘です。
 重要な指摘です。次回、回答を紹介していきます。

・情報・
私は、古い岩石に興味があり、
その情報については、注意を払っていました。
ただ、身近に同業の地質学者がいないので、
なかなか最新情報を入ってこない環境であります。
それがつらいところでもあるのですが、
まあ、いろいろ思うところがあって
この環境にいるので仕方がありません。
自分で選んだ道でもありますから。

・急がずに・
このシリーズの元の論文は、
以前に紹介したものでした。
ですから、今回は、その技術や装置を
紹介しようと考えてスタートしたのですが
どうも脇道にいっているようです。
APTは製品としてもあるのですが、
その分析能力がすごいので、興味がありました。
APTを調べてみたいと思ってテーマにしました。
しかし、なかなか本題にいけないのですが、
まあそんなこともあるでしょう。
急がず、ゆっくりと進みましょう。

2015年4月16日木曜日

5_125 APT 1:術語の意味

 地球初期のできごとを知ることは、なかなか難しいものです。試料も少なく、情報も「かすか」なので、微小な試料から得られたデータの信頼性や再現性などが、なかなか検証できないためです。以前求められた地球最古の年代を、新たに検証する報告が出ました。

 1年以上前の2014年2月に、次のようなタイトルの論文が「Nature Geoscience誌」に掲載されました。
  Hadean age for a post-magma-ocean zircon
  confirmed by atom-probe tomography
 (アトムプローブ・トモグラフィによって確認された
  ポスト・マグマ・オーシャンのジルコンの冥王代の年代)
という論文でした。
 ウィスコンシン大学のヴァレリー(John W. Valley)らの11名による共同研究にです。聞きなれない用語がいくつも出てくる論文ですが、内容もさることながら、私はアトムプローブ・トモグラフィという言葉に興味が惹かれました。アトムプローブ・トモグラフィは、少々長ったらい名称なので、多くの専門書ではAPTと略されているので、ここでもそれを用いることにしましょう。
 本題に入る前に、まずは論文のタイトルを解読していきましょう。
 APTのアトムとは原子のことで、プローブとは束(たば)で、トモグラフィとは断層撮影のことです。APTは、微小部分の原子一粒一粒の分布状況を3次元的に分析をし表示できる装置で、詳細は後で説明します。
 ポスト・マグマ・オーシャンのポストは、接頭語で「それ以後」とか「その次」という意味になります。また、マグマ・オーシャンとは、地球初期にあったと考えられているマグマの海(マグマ・オーシャン)のことです。ですから、ポスト・マグマ・オーシャンとは、マグマの海が終わった時代という意味です。
 太陽が形成されているときは、周辺は高温状態であったと考えられています。太陽が安定して輝き出す頃には、ガスが吹き飛ばされて、冷めてきます。すると惑星空間あたるところでは、温度に応じて、気体から小さい固体ができていきます。
 回転する物質には物理的な効果によって、土星の輪のよう位置(黄道面)に物質が集まりました。太陽系の黄道面に固体物質が集まってくると、そこでは物質密度が大きくなり、衝突、合体が起こり、固体物質は成長し微小天体(微惑星と呼ばれます)にまでなっていきます。同じ軌道上の微惑星も、衝突、合体を繰り返し、やがてひとつの軌道上にはひとつの天体(惑星)ができます。つまり、地球軌道では、地球が選択的に成長していきます。
 地球が成長する間、表面では激しい衝突が起こります。地球には素材に含まれていた気体があったため、大気がありました。大気によって温室効果が働き、衝突で開放されたエネルギーは表層にとどまり、非常に高温状態になったと考えられます。その温度は、岩石も溶けるほどでした。マグマの海が地球を覆っていた状態を、マグマ・オーシャンと呼びます。
 ポスト・マグマ・オーシャンとは、マグマ・オーシャンが終わった時代のことです。地球誕生から、マグマ・オーシャンができ、やがて地球表層が固まって地質現象が起こるまでの時代を、冥王代(45.6億から40億年前まで)と呼んでいます。冥王代の終わりの40億年前という値は、必ずしも定まっていませんが、その時代にできたジルコンという鉱物の年代が、確定されたという報告です。
 タイトルの解説は終わったのですが、まだスッキリしないと思います。ですから次回は、この論文における地質学的な意味を紹介しましょう。

・移行時期・
大学の新学期の講義もスタートして2週目になり、
一年生も少しは慣れてきたようです。
しかし、疲れもたまっているようですので、
ゴールデンウィーク空けまで、目を離せません。
教職員も情報関係が新しいシステムになったのですが、
少しずつ使えるようになってきたましたが、
混乱やバクが、あちこちにあるようです。
本格運用には、まだまだ時間が必要なようです。
年々よくなるのですが、
移行時には、それなりの苦労が伴います。

・春を告げる・
今年は雪解けが早かったため
北海道で春をいち早く告げる
フキノトウ、ヒバリの囀り
などはもう始まりました。
しかし、一番驚いたのは、
ツツジがもう花を咲かせています。
私がいつも見ているツツジは
花の時期が長く、夏が過ぎても咲いています。
しかし、ピンクの目立つ花なので
今年の春は一段と早く感じることができました。