2015年3月19日木曜日

3_140 マントル対流 3:シミュレーション

 プレート運動の駆動力のこれまでの経緯と定説を紹介し、その定説を覆す新説を前のシリーズ「プレートはなぜ動くのか」で紹介してきました。さて次に、最近の報告で、新説を支持するものが出てきたので、その論文を紹介していきます。

 これまで定説として、海洋プレートの駆動力は、海底で冷えて重くなり、下のマントルとのバランスが崩れて、海溝で沈み込むことによっている、というものでした。しかし、最近、それに反する報告があり、さらにその反論を支持する論文がでてきました。
 吉田晶樹さんと浜野洋三さんの論文で、
Pangea breakup and northward drift of the Indian subcontinent reproduced by a numerical model of mantle convection.
(マントル対流の数値モデルによるパンゲアの分裂とインド亜大陸の北上の再現)
というものです。この論文は大陸移動をコンピュータ・シミュレーションで再現したものです。この研究が、なぜ海洋プレートの駆動力の話とつながるのかという疑問が生じますが、紹介していきましょう。
 まずこのシミュレーションをおこなった装置を紹介しましょう。日本のスーパーコンピューターといえば「地球シミュレータ」や「京」が有名です。しかし、最新式のスーパーコンピュータもいろいろと導入されています。今回の報告は、独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が所有するスーパーコンピューター(SGI ICE XとNEC SX-9Fを中心としたシステム)によるものです。JAMSTECは、「地球シミュレータ」を持っているところです。今回のシステムは、地球科学における計算やデータ解析に主として利用されているものです。その成果の一つが今回の報告でした。今後は、「地球シミュレータ」との連携も考えられているようです。
 さて今回の研究は、地球内のマントル全体を三次元的に、2億年間にわたって計算機シミュレーションしたものです。重要な点は、全球内のマントル対流の再現をしたもので、非常の計算能力が必要なものです。今までも似たシミュレーションはおこなわれていたのですが、この研究では、大陸地殻が力を受けたら自由に変形して移動していくというより複雑な設定にしてあります。この設定により、大陸の挙動を厳密に再現できることになりました。
 計算機シミュレーションの結果と地質学でかなり精密に復元されている大陸移動との照合が可能になりました。つまり、このシミュレーションは、2億年前に計算をスタートしていますが、現在の地球の様子と照らしあわせて、正しさを検証できます。
 2億年前からシミュレーションはスタートしています。2億年前は、超大陸パンゲアがあった時代でした。超大陸とは大陸の大部分が一箇所に集まっている状態になっているものです。パンゲア超大陸が分離して、北にローラシア大陸、南にゴンドワナ大陸ができました。ゴンドワナ大陸から、インド亜大陸が分離して北上していきます。5000万から4000万年前にかけてユーラシア大陸に衝突し、現在に至ります。その様子が、シミュレーションによって再現されています。
 シミュレーションによる結果は、地質学から得られている途中経過の様子とも一致していて、現在の大陸配置と一致しています。したがって、このシミュレーションが正しいとすればと、地球内部のマントルの動きも正しく復元されていると推定できるという論法です。
 少々複雑ですが、このような理屈でこのシミュレーションを読み解いていきます。次回は、結果からわかることを紹介してきます。

・今と昔の変わったもの・
かつて地球が大きく、経過時間が長いため、
シミュレーションは、いかにに計算単位を間引くか、
いかに小さい範囲で現実に近づけたものにできるかが
研究者の腕の見せどころでした。
ところが、現在は、コンピュータの能力が向上してきたので、
全地球や全マントル、全大気圏などを対象にして
シミュレーションできるようになりました。
こうなると、研究者の腕もさることながら、
どのような計算機を、どれくらい使えるかが
成果を大きく左右することなります。
かつてスーパーコンピュータは、
一部の恵まれた、選ばれた研究者の
独占物になることありました。
今では使用のチャンスは公開され、
研究目的さえよければ、
だれでも利用できる環境になっているはずです。
能力があり、やる気があれば、
すべての研究者にチャンスが与えれているわけです。

・今も昔も変わらない・
シミュレーションは、初期条件を設定して、
あとは、あらかじめ用意された計算手順や、方程式にそって
自動的に進められていきます。
ですから、原則的には、だれがやっても、
何度やっても同じ結果が得られるはずです。
ところが、初期条件の微妙な数値の違い、
手順の違い、方程式の選択、
プログラム上の違いなどによって、
結果が変化する場合があります。
変動が激しい時は、研究者の意図が反映した結果が
生じることも起こりえます。
そこで重要なのは、研究者の良心です。
これは、今も昔も変わらないものです。