2015年2月26日木曜日

3_137 プレートはなぜ動くのか 5:特異か普遍か

 プレートがなぜ動くのか。対流しているマントルが、海洋地殻を引っ張ることによって動く、ということになりました。ただし、これは太平洋プレート北東部という限られた地域で見出された結論です。このモデルはプレートテクトニクス全体に及ぶのでしょうか。

 小平さんたちは、今回の観測結果から、マントルが海洋地殻を引っ張るという現象を示している、という結論を導きました。また、マントルの動きは、地磁気から得られた海洋地殻から移動速度より速いこともわかったそうです。これもマントルが海洋地殻を引っ張っているということを示しています。
 小平さんたちの報告は、太平洋プレート北東部という一つの限定された地域においてなされた観測に基づくものです。さらにその地域は、海嶺の沈み込みという特異な現象を起こしているところでありました。ですから、今回の結果が地域の特異性に由来するのか、それとも普遍的な特徴なのかは、今後の検討を待たなければなりません。
 今回観測されたようなリーデル剪断は、太平洋プレートの他のところでもみつかっているようです。プレート全般でも、今回のようなマントルの海洋地殻の引っ張りが起こっているか、また地震波の方向異方性も見つかるかもチェックする必要もあるでしょう。
 マントルが海洋地殻を引っ張っているというモデルは、今までの主流の考えとは相反するものです。ですから、今回の結果が、プレートテクトニクス全般に拡大できる普遍性をもっているものなか、あるいは海嶺が沈み込むとという特異な現象が起こっている地域での限定的な現象なのか、を見極める必要があります。
 今後、小平さんたち、あるいはJAMSTECは、太平洋プレートの中央にあたるハワイ北方でも、地球深部探査船「ちきゅう」も用いた調査をする予定だそうです。マントル最上部までの掘削することを目指しているようです。そのような掘削を伴う調査には時間がかかりますが、実物試料が手に入るというのは非常に重要なことです。今後も注目していきたいものです。
 今回のこの論文に関する紹介は終わりですが、実は先日、この内容に大きな関わりのある報告がでました。その報告は、やはり従来のプレートテクトニクスの「常識」を覆すもので、今回の結論を支持するものです。続きますが、新しいシリーズとして、紹介していく予定です。

・連続します・
今回のように連続したエッセイ(5回)を書いていると、
連載の期間は、1ヶ月ほどに渡ります。
その間、エッセイの内容に関する報告が
出ることもあります。
もともとこのエッセイは、6つの項目に分かれていて
全体のエッセイの数のバランスを考えながら書いています。
万遍なく項目を書くように心がけています。
しかし、今回は、あまりに近い内容の論文なので
連続して書くことにしました。
次なる「マントル対流」のシリーズとして続けるつもりです。
よろしければ、お読みください。

・人間ですから・
エッセイを連載を書いている時は
その間、内容について興味を維持していることになります。
そんな時に、書いている内容と関連する論文が出てくると
通常より、目につきやすくなっているはずです。
多分、今回の論文もそのような関係によって
目についたものだと思います。
まあ、人間ですから仕方がありません。
興味のあるものへと進みましょう。

2015年2月19日木曜日

3_136 プレートはなぜ動くのか 4:マントル対流

 マントル対流が、表層をに現れると、地表を水平に移動します。移動の原動力はどこに由来するのか。当たり前のことのようですが、なかなか一筋縄でいかないようです。冷めた下降流によるものなのか、上昇流が水平移動に転換されたのか。それが問題なのです。

 前回までのエッセイで、小平さんたちの調査の結果、この地域には大きく2つの特徴があることがわかってきました。その特徴は、特異な割れ目があること、地震波の伝わる速さ(伝搬速度)の方向にによって異なっている(方位異方性)というものでした。
 地震波をもちいた探査では、地下の構造に乱れがあると地震波の反射や岩石の密度に変化があると地震波速度の変化として捉えることができます。特に明瞭は不連続な面は、検知しやすくなります。
 今回見つかった構造は、等間隔で形成されている特異な割れ目でした。通常の場合であれば、そこに岩石があれば、地殻もマントルも関係なく、断層が形成されていきます。断層とは、岩石に力がかかり、耐えられなくなり割れるときに、形成されるものです。ですから、割る力と割られるべき岩石があれば、岩石の種類に関係なく、断層は形成されることになります。今回みつかった断層は、地殻から延びているのに、マントルに達することなく境界(モホ面といいます)で止まっています。これは、一般的な形成メカニズムでできた断層ではないことを示しています。
 滑りをおこすような力(剪断応力といいます)を岩石にかけると、力のかかった方向に対して斜めに、一定の間隔で割れ目ができることがあります。このような割れ目のことを、リーデル剪断(Riedel shear)といいます。今回見つかった特異な割れ目は、リーデル剪断に見えるというのです。
 もし太平洋プレートの構造がリーデル剪断であれば、沈み込んでしまった海嶺から離れる方向に引っ張る力が働いていることになります。このような力は、マントルが中央海嶺から離れる方向に流動しており、上に乗っている地殻を動かしていると考えると説明できます。
 もうひとつの特徴である地震波伝搬速度の方位異方性とは、地震波の速度が、マントルの伝わる方向によって違いが生じるということです。マントルを構成している主成分のカンラン石は、1100℃くらいになると流動性を持つようになります。その時流れる方向に結晶が配列するという現象が起こります。結晶は、流動している方向に地震波速度が速くなり、直交する方向では遅くなるという配列ができます。今回の異方性は、海嶺付近のマントルは、プレートの動く方向に流動していることを示しているように見えるのです。
 今回見つかった2つの特徴は、海嶺付近ではマントルが流動することによって、地殻の海嶺から遠ざかる方向に引っ張っていると説明できるというのです。プレートの運動は、マントルの流動(対流)が原動力であるということを示しているというのが、小平さんたちの主張になります。この結論は、今まで海洋プレートが冷えて沈み込み、それが海洋プレートを引っ張っている、というモデルに相反する証拠を突きつけたことになります。
 地質学において、この説はどのような意義があるのでしょうか。それは、次回としましょう。

・異論・
今まで多くの人たちが正しいと思っていたことに
異を唱えることは、なかなか勇気のいることです。
自分のやった調査や観測、実験が
信頼できるものであり、
さらにそれらの事実から導き出される結果を
自分が信じることができれば
常識や主流派に反する考えも
自信を持って提示できるはずです。
ただ、その常識や主流派が大きければ大きいほど
必要な勇気も大きくなります。
今回の異論は、どの程度度でしょうかね。

・平年・
北海道の厳しかった冬もやっと緩んできました。
まだ三寒四温というには早い気がしますが、
暖かい雪解けがおこるような日も挟みながら、
寒さが繰り返されす日が続くように思えます。
ただ、その寒さも2月になると
だいぶ緩んでいるようです。
今年は冬の始まりが早く、
雪も多かったのですが、
1月下旬からは、
厳冬とよべる時期が来る前に
寒さが緩みました。
昨年は2月は寒波が来て冷え込みました。
よく考えると、その年の気象状況を振り返る時
自分の記憶の中の「平年」をもとにしています。
ところが、自分の「平年」が本当かどうかは、怪しいものです。
今では統計で確かめることができるのですが、
そこまでなかなか手間をかけずに
つい思っていしまうのが問題なのかもしれませんが。

2015年2月5日木曜日

3_134 プレートはなぜ動くのか 2:対流

 プレートがなぜ動くのかは、まだ解明されていませんが、プレートが動いていることは、実測されています。大きな原因は地球内部の熱が外に逃げるというものですが。その考え方として、2つのモデルがあります。一方が優勢だったのですが・・・・

 プレートテクトニクスは、地球内部の熱が外にでることであると、前回紹介しました。そのメカニズムを示すまえに、まず熱の伝わり方を見て行きましょう。
 熱の伝わり方には、対流、伝導、放射の3つあります。いずれも程度の差はありますが、固体、液体、気体のさまざまな状態(相)の物資内で起こる現象です。ただし、物質の相の違いによって、その伝わる程度は大きく違っています。
 対流は温かい、あるいは冷たい物質が移動することで伝わります。物質の流れやすさ(粘性)に熱の伝わる程度は依存します。伝導は、物質内の原子の振動として伝わります。物質ごとの伝導率によって伝わり方が違います。放射は電磁波として伝わるもので、物質がない真空中でも伝わります。物質ごとに熱の伝わる程度が大きく違うので、一番伝わりやすい手段で熱が伝わることになります。
 地球内部は岩石と鉄でできています。岩石の熱の伝導率は低く、放射は全く届きません。地球内部にたまった熱は、なかなか外には出てきません。言い換えると、地球は冷めにくいということになります。そのため、45億年もたっても地球内部に熱がまだ蓄えられているのです。
 マントルは岩石からできている固体です。地球内部の熱は、マントル物質の対流によって伝わっていきます。固体の岩石ですが、温度が上がると、流動性をもつようになります。マントルの岩石は、非常にゆっくりとですが、対流を起こします。そのマントルの対流が、表層のプレートを動かしていると考えられています。
 マントル内の温度の違いは、地震波トモグラフィという手法でとらえられてきました。しかしいまだに、対流自体をみることはできていません。それは、マントルの対流が非常にゆっくりとしたものだがからです。
 地球表層のプレートの動きは、いくつもの方法で観測されてきました。海嶺から離れるにしたがって海洋底の岩石の年代が古くなっていることや、海底の地磁気の模様、天体(クェサーという星)を用いたプレート移動の測定(VLBI)、GPSによる測定など、さまざまな方法でプレートの移動が実証、実測されてきました。プレートの動きは、年間数cmから10cm程度であることがわかってきました。
 地球は球で、プレートは球面上を移動しているので、球面幾何学によって記述がされています。プレート運動は、地球の表面には不動点(原点とできるところ)はないで、プレート運動は2つのプレートの相対運動によって示されます。隣り合うプレートに対して、どの方向に、どれくらの速度で移動しているのかという記述です。
 表層の海洋プレートの運動ですが、プレート下のマントルが対流で移動することによって、表層の海洋プレートが引きずれて動くという考えがありました。マントルの運動により、海洋プレートが引っ張れて受動的に動くというモデルですが、あまり支持されていませんでした。
 一方、海洋プレートが長く海底にあると、冷却されて重くなり、やがてマントル内に沈み込みます。この沈み込みによる引っ張りが、プレート運動の原動力と考えるモデルもあります。表層の海洋プレートが能動的に移動し、下にあるマントルを受動的に引っ張られることになります。さまざまな証拠やシミュレーションなどから、海洋プレートの沈み込みモデルが有力だと考えられてきました。
 いずれも今あるプレートの移動を説明するモデルですが、海洋プレートとその下の関係が、どちらが原動力で、どちらが受動的んに動かされているのかということになります。まあいずれにしても、海洋プレート(マントル対流の表層)が冷えてマントルに戻るのですから、対流運動の一環と捉えることができるのですが。
 従来の考え方に対抗して、有力でない方のモデルを支持するデータが示されてきました。それを次回から紹介します。

・それも対流・
沈み込む海洋プレートがない海域では
なぜ海洋フレートが移動するのか。
それは相対運動として記述することで理解できます。
他地域のプレートが沈み込む混むことによって
その海域に引張の力が働くことになり
海嶺には張力が働き
マントルの上昇流の出口にできます。
いずれにしても、表層で地殻物質が冷え
密度が大きくなることで下向きの対流ができることが
原動力になると考えることができます。
一方、上昇流は地球内部の核の熱によって
暖められ、軽くなり上昇していきます。
お風呂を沸かしたり、煮物をするときの
下部で加熱、表層で冷却という
典型的な対流の形成となります。
ただし、そのスピードは非常にゆっくりとですが。

・校務出張・
このメールが届くころには、校務出張をしています。
函館にしばらく出かけます。
校務ですので、天候が気になるところです。
何事もなければ、時間には余裕があるのですが
何かことがあると、いろいろ大変なことが予想されます。
私は、まだそんな事態にあったことはないですが。
今回もそうであることを祈ります。