2014年12月25日木曜日

6_125 2014年を振り返る:STAP細胞はなんだったのか

 年末のエッセイで、毎年ではありませんが、その年を振り返ることがあります。今回も科学で一番の話題となったであろうSTAP細胞について振り返ります。そこに何があったのでしょうか。教訓として学ぶべきことはなかったのでしょうか。

 1年の振り返りのエッセイは、毎年ではないのですが、思いついた時にまとめています。前回は2011年の年末にまとめました。2011年はなんといっても、3.11の東日本大震災のあった年で、多くの人の記憶に焼き付きました。2011年は、私にとっても思い出深い年でした。2010年4月から2011年3月末まで、研究休暇をとり、四国に滞在していた時期で、その最後に3.11が起こっのでした。思い出深いだけでなく、3.11にどう対処するかを、1年間、いろいろ考え続けてた時期もでありました。
 さて今年はというと、科学において重大な出来事としては、STAP細胞の事件が一番ではないでしょうか。私自身には直接関係がありませんし、分野も全く違ったものですが、いろいろ考えさせられました。
 以前にも科学の世界では、捏造や剽窃などの事件は多数あり、ニュースに大きく取り上げられたこともありました。STAP細胞の成果は発表の当初は、今まで以上に大きなニュースになりました。iPS細胞が華々しく取り上げられる中、もっと有効なSTAP細胞の科学的意義がだれにでも理解できたことが大きかったのでしょう。さらに、業績を上げた研究者が、若い女性研究者であったことで、日本中のメディアが、ワイドショー的、週刊誌的にこぞって取材攻勢をかけました。
その直後に、捏造疑惑だったことがさらに話題性を増しました。メディアの評価の上下動が非常に激しいものでした。告発後も、記者会見や理研を挙げての追試、関係者に自死など、話題が続きました。そして、12月の19日には、本人自身による追試でも再現できないことが、公式に報告されました。
 STAP細胞の事件で考えさせられたのは、科学者の倫理もさることながら、本当に一度もなかった現象なのかという疑問が、今でも残っています。
 最初から悪意をもって科学に取り組む人はいないと思います。科学は、長い修業期間が必要なのと、もともと見返りの少ない職業で、割の合わないことだからです。それでもあえて研究に向かうのは、本人の強い好奇心や満足感が、大きな動機となるはずです。最初から悪意をもって科学に携わる気持ちがあったとは思えないのです。
 善意からスタートしたとすると、小保方さんも、なんらかの漠たる証拠をとらえたのではないでしょうか。誤操作か偶然かはわかりませんが、何か痕跡を得たのだと思います。その後、なかなか再現できず、ついつい捏造に走ったのではないでしょうか。もし、最初の痕跡が本当で、それを捉える試みが、今回の事件でタブーになったら、人類は大きな金脈を見過ごす可能性があります。
 もちろん、その可能性も含めて理研は追試をしたはずです。なぜなら、科学は善意を前提に進められているからです。科学は最終的には、証拠や再現性によって裏付けされます。再現されなかったものは、その存在は否定されたことになります。
 それでも、すべてが虚構だとするには、あまりに大きすぎるネタでもありますが。

・まだまだ終われない・
いよいよ今年最後のエッセイとなりました。
本当に年末までバタバタしています。
大学は22日で定常の講義はおわりますが、
24日は補講日で、午前に一つ補講があり、
午後からは卒業研究の発表の予行演習があります。
そのあとは、4年生と忘年会をします。
その後、25日の夕方に会議があります。
それで校務が終わります。
多分、その後も私はいつものように大学に出る予定です。
やっと自分の研究できる時間がとれるからです。

・スケートリンク・
週末に昼間温かく、夜に冷え込んだので
道路が大変なことになってしまいました。
スケートリンクのようにつるつるでした。
歩くのがおっかないほどで、
坂では、車がスリップスしているのを
あちこち見かけました。
みんなのろのろ運転です。
雪が降れば、少しはましになるのですが。

・別の機会に・
本年度最後のエッセイを、
暗い話題で終わるのはどうかと悩みました。
しかし、あえて私が何度も取り上げる話題でもないし、
今回は、STAP細胞を最後の話題にすることにしました。
今年の嬉しい話題として、
彗星にいったロゼッタも取り上げたかったのですが
単独の話題にしても、長くなりそうなので
今回は見送りました。
ですから今年最後ですが、
一つの話題だけにしました。

2014年12月18日木曜日

1_139 地球の水の起源 5:水のブレンド

 最新のガス捕獲説ですが、これを受け入れたとしても、脱ガス説もレイトベニア説の選択は残るります。なぜなら、ガス捕獲説は、太陽系の誕生する前の分子雲時代の話だからです。

 ガス捕獲説は、アメリカのウッズホール海洋研究所のサラフィン(A. R. Sarafian)たちが、9月26日のScience誌に発表したもので、コンピュータでH2Oに関するシミュレーションをおこなった結果でした。シミュレーションの前提として、原始太陽系円盤内のみでH2Oが作られるものとしてなされました。すると、太陽系にみられる水に特有の性質(重水素の比率D/Hと表記される)が、シミュレーションでは再現できないことがわかってきました。つまり、前提条件が違うということになります。
 シミュレーションによれば、低温で形成されたH2O(D/Hが大きい)を、かなりの量を取り込んでいなければ、太陽系の値にはならないという結果だったのです。現在の太陽系にみられるH2Oのうち、30%から50%が太陽系が形成される前、分子雲の時(低温)に形成されていなければならない、と推定されました。
 これは、H2Oの起源に関する重要な仮説になります。ただし、今までの他の2つの説に先行した時期なので、このシミュレーショを受け入れたとしても、なおかつ脱ガス説かレイトベニア説かという問題は残ります。なかなか複雑な状況になってきました。
 太陽系、あるいは惑星の形成時に、H2Oがすでにできていたとすると、地球の水には、原始太陽系円盤で合成された分子雲のH2Oと、太陽系ができたときの太陽系オリジナルのH2Oがあることになります。2つのH2Oが混合しているというのです。太陽系のH2Oは、ブレンドされているのです。地球軌道ブレンドのH2Oがあったかもしれません。そうなるとH2Oの成分にも、場所によって、いろいろなブレンドがあったかもしないのです。
 脱ガス説であれば、原始地球として成長した後、材料物質の平均的にブレンドの海ができていたでしょう。レイトベニア説ならは、カイパーベルト由来の彗星が、たった一度の衝突によってできた個性的なブレンドのH2Oがもたらされたかもしれません。それぞれのブレンドには、分子雲起源のH2Oを3から5割ほど含まれていたことになります。
 脱ガス説であれば、地球の水の起源や成分には必然性が生じます。ところが、ガス捕獲説やレイトベニア説を採用すると、地球の水は、その組成も起源も、たまたま、偶然の要素がかなりの比率を占めることになります。さてさて、「神はサイコロ遊び」をするのでしょうか。

・偶然・
「神はサイコロを振らない」という言葉は
アインシュタインが、量子力学を批判したとき用いた言葉です。
素粒子などの振る舞いを、確率でしか記述できない
量子力学を皮肉ったものです。
私もその言を引いてエッセイの結びとしました。
自然現象には、確率や偶然による部分があるのは確かです。
しかし、心情的には、アインシュタインのように
地球の水にも何故あるのかという理由に
必然性があったほうが
スッキリするのですが・・・

・新情報・
実は、このエッセイを書いていたら、
別の報告の情報が入ってきました。
レイトベニア説ですが、水の起源が
これまで述べてきた彗星ではなく、
小惑星起源を示唆するという論文でした。
彗星探査機ロゼッタの観測チームが
12月10日に発表したものでした。
最新ですが、この説の説明をしはじめると
さらに話が複雑になりそうなので、
このシリーズは今回で終わりとします。
新たな展開があれば、紹介することにします。

2014年12月11日木曜日

1_138 地球の水の起源 4:ガス捕獲説

 これまで、地球の水の起源に関する2つの説をみてきました。3つ目の説として、ガス捕獲説を紹介します。この説にも根拠はあるのですが、少々立ち位置が違ったものです。

 地球の水の起源として、3つの説があります。かつては脱ガス説が主流でしたが、近年はレイトベニア説が有力視されています。ここまで、紹介してきました。今回からは、最後となった3つ目のガス捕獲説についてみてきましょう。
 ガス捕獲説とは、どのようなものでしょうか。この説には、最近、新たな証拠による論文が報告されました。まだ、受け入れられるかどうかはよくわかりません。ただし、従来の説に対立するものではなさそうです。
 脱ガス説もレイトベニア説も、いずれも、太陽系が形成されたときにあったガスが水の素材となります。2つの説の違いは、水をどのようにして地球にもたらすかと点でした。そもそも水は、太陽系の材料物質中に存在してたところからスタートしています。
 太陽系のガスの成分は、水素、ヘリウムを主として、続いて酸素、炭素という順になっています。水素と酸素が反応すれば、簡単にH2Oが、それも大量にできることになります。ですから、太陽系内では、H2Oは、存在しているものとして考えられていました。
 しかしそこには、実は別の問題が隠されていました。すべての水が本当に太陽系で合成され、材料物質にもたらされたのかという問題です。上で示した太陽系の元素の存在度は、太陽系固有の特別なものではなく、宇宙空間では同様の元素類がごく普通であることがわかっています。つまり、水素も酸素も、宇宙空間にはたくさんあり、H2Oがたくさんできる可能性は、どこにでもあるのです。
 太陽系ができる前、ガスが宇宙空間に集まっているところ(分子雲)で、すでにH2Oができていてもいいわけです。実際の分子雲の観測でも、H2O分子は見つかっています。これまでどのようにH2Oが地球にもたらされたのかが問題とされていたのですが、いつどこでH2Oができたかが見過ごされてきました。
 もし分子雲内ですでにH2Oができていて、それが原始太陽系円盤に取り込まれたとすると、太陽系の材料の中に、すでにH2Oが存在する環境であったことになります。一方、原始太陽系円盤内の形成であれば、H2Oは他の材料物質と同時期にできたのですが、場所ごと(軌道ごと)に、形成されるH2Oの量は違ってくるという問題も生じます。
 いつH2Oができたのかという問題に対して、アメリカのウッズホール海洋研究所のサラフィン(A. R. Sarafian)たちは、分子雲の時にH2Oができていた可能性を示しました。その説明は、次回としましょう。

・研究は人がするもの・
一つの論文が提出されたとします。
その論文には証拠も論理性があったとしても
受け入れられるかどうかはわかりません。
同業者や近縁領域の研究者が
受け入れるか、時間経過、議論経過とともに
判断されていきます。
その判断は、近縁領域の研究者にとっては、
今までの自分の考えや説に反しなければ
わざわざ否定をするような労力を
はらわないかもしれません。
しかし同業者(同領域の研究者)にとっては
大きな問題となり、議論を呼ぶことになります。
今回のように、多くの説の前段階の論文であれば、
その説を受け入れても
自分の考えには影響がないという場合もあるでしょう。
そうなるとあまり議論が起こらないかもしれません。
ということは、その論文に関する審議や検討が
なおざりになることがあるかもしれません。
本当は議論して欲しいのですが、
研究をするのは、人ですからね。

・除雪・
北海道は先週末あたりから
積雪が毎日のようにありました。
冷え込みも厳しいものでした。
昨朝は自宅の前の道路にも除雪が入りました。
今シーズン初めてのことでした。
例年よりは、かなり早い除雪のような気がします。
このまま、根雪になることがないことを願っています。
なりそうな雰囲気なので少々心配ですが。

2014年12月4日木曜日

1_137 地球の水の起源 3:レイトベニア説

 レイトベニア説は、一度唱えられたたのです。否定する観測値があったため、否定されました。しかし、別の観測結果から復活してきました。この復活によって、新たな謎を生むことになりました。

 地球の水の起源として、脱ガス説、レイトベニア説、ガス捕獲説の3つがありました。少し前までは、材料物質のコンドライトに含まれていた揮発成分の脱ガスでできたと考えられていました。
 前回も少し紹介したのですが、水蒸気が隕石に取り込まれにくい難点がありました。太陽系創成期から40億年前まで、水があった場所は太陽系ずっと外側の低温域だけで、地球を形成するような位置には水は存在できなかったという指摘がありました。他にも、惑星の形成時期は表面が非常に熱く、表面に液体の水は存在できず、激しい衝突でガスは宇宙空間に飛び散ってしまう可能性があることも難点でした。
 脱ガス説を支持するために、回避する説明も可能でしたが、その説を強く示す証拠はあまりありませんでした。
 その後、レイトベニア説が有力になりました。考え方は隕石の脱ガス説に似ていますが、衝突の時期が問題で、脱ガス説が地球形成期にあるのに対し、レイトベニア説は原始地球の誕生後の出来事です。
 レイトベニア説は、一度の衝突で海水の量程度は供給できるという利点がありました。現在、地球に存在している海水の量は、重さでみると0.027%にすぎません。この程度の量の水は、微惑星に含まれているH2Oをほんの少し(1/40程度)脱ガスすれば供給できるほどでした。
 レイトベニア説は2011年に、水に含まれる重水素(水素の同位体で質量数が1のHより重い2のもの、D)の比率(D/H比と呼ばれます)の値が調べられて、注目を集めました。ESA(欧州宇宙機関)のハーシェル(Herschel)宇宙望遠鏡で、地球を近くを通過した彗星(ハートレー第2彗星、Hartley 2)の氷を観測し、重水素の比率を測定しました。すると、その値は、地球の水と同じことがわかりました。
 1980年代に、レイトベニア説は、脱ガス説の同時期に提唱されていました。当時も、いくつかの彗星のD/H比が測定されましたが、その値は地球上の水とは大きく違っていることがわかりました。そのため、この説は、支持を失いました。
 天体に存在する水は、ある定まったD/H比を持っていて、その比率は変わらないことが知られています。地球の水のD/H比が、彗星と同じ値であったということは、水の起源がある種の彗星であったという重要な根拠が提示されたことになります。
 ハートレー第2彗星は、カイパーベルト(冥王星から遠く離れた黄道面に小天体が多数存在するゾーン)に起源を持つものでした。一方、異なるD/H比をもつ彗星は、オールトの雲(カイパーベルトより外で太陽系を球状に覆うように存在する小天体のゾーン)に起源を持つものでした。
 太陽系誕生当時は今よりも多数の彗星が巡ってきたはずです。衝突の可能性は今よりずっと大きかったはずです。地球に水をもたらした衝突は、地球誕生後、約800万年に起こったという推定もあります。
 新たな観測データを根拠にして、レイトベニア説が復活しました。この説の有利な点は、一度の衝突で水の起源が説明が可能であるこということです。でも、根拠をもった仮説であって、決定的な説ではありません。
 もし、カイパーベルトとオールトの雲に属する彗星で、化学的性質が違っているのか、それともカイパーベルトの彗星自体に化学的多様性があるのか、これは重要な問題提起になります。いずれにしても、太陽系形成にかんする重要な束縛条件を提示したことになります。今後、さらなるデータや研究が必要になりました。

・師走・
いよいよ12月、師走になりました。
私は、10月からバタバタしています。
学生の論文の添削にかかりきりです。
ですから、10月から師走状態です。
これも教育で一貫で、
学生たちが成長するために必要だと思っているので
やり続けています。
学生たちは大変な思いをしているのでしょう。
このような大変な経験は
将来、きっと役に立つからと、励ましています。

・彗星の巣・
彗星の巣のようなものがあるのが、
彗星の軌道の決定からわかってきました。
ひとつは、惑星と同じ軌道面を巡っている
カイパーベルトと呼ばれるものです。
実際のそこを巡る天体がいくつも見つかっています。
もうひとつは、もっと外側にあり
太陽系全体を覆うようして広がっている
オールトの雲と呼ばれるものです。
二つの彗星の巣で、
彗星の性質に違いがあったということになると
なぜという疑問が湧いてきます。
それは太陽系形成の謎とも直結していくはずです。