2014年9月25日木曜日

6_122 丸山電気石 2:トルマリン

 電気石の性質を紹介します。電気石は、名前の通りの特徴をもっています。丸山電気石は、通常の電気石からははずれた化学的な特徴をもっています。その異常さが、丸山電気石の起源と結びついているようです。

 今回発見された丸山電気石は、電気石(Tourmalin、トルマリンと呼ばれることもあります)の一種です。トルマリンは、宝石としても利用されていて、10月の誕生石になされています。電気石には、多様な色があるので、かつては色が違うものは別の鉱物だと考えられ、それぞれに名前がつけられていたこともありました。宝石名として今も残っているものもあります。
 そもそも電気石とは変わった名称ですが、実は、その名の通り電気を起こすことができる鉱物なのです。電気石は、温度変化があると、結晶の表面に電気が集まります(表面電荷の分極といいます)。このような性質を、焦電効果といいます。電気石は焦電効果を起こすことから命名されました。
 焦電効果をもっている物質の多くは、圧力をかけても電気が発生(圧電効果)することがあります。電気石もその性質をもっています。このような性質は電気石だけでなく、石英やトパーズ(黄玉)も持っています。ライターやガスコンロの電子着火などで利用されています。
 電気石は、ホウ酸とアルミニウムを含む珪酸塩で、陽イオンとしてアルミニウムの他に鉄とナトリウムを含んでいます。ちなみに典型的な鉱物の化学式(構造式といいます)を示すと、
 NaFe3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4
となります。うんざりするような式ですね。
 鉄がマグネシウムに、ナトリウムがカルシウムやリチウムに置き換わった種類の違う電気石もあることが知られていました。元素の交換は、価数が一致しなければならないので、いくつかの元素が一緒になって交換(置換といいます)することもあります。構造式の意味がわかってくれば、それなりの仕組みがあり、元素の置換なども理解できます。ここではややこしいからいいでしょう。
 電気石のグループは、他にもいろいろなところで見つかりますが、花崗岩のマグマが主な起源となります。花崗岩は、大陸の地殻を構成している主要な岩石なので、軽い元素(周期律表の上の方)や、金属やマントルの岩石に入りにくい元素(周期律表の左の方)を含む鉱物が多くなっています。花崗岩は軽い元素からできているため、密度も小さく、地球表層にあるのです。電気石もそのような鉱物の仲間です。つまり、花崗岩や電気石は、大陸地殻の形成の一貫として考える必要があるということです。
 今回見つかった丸山電気石は、通常の電気石とは違いカリウムを含むという特徴があります。アルカリ金属として、電気石にはナトリウムやリチウムが入っているのですが、カリウムが入るのは知られていませんでした。それが今回の発見となりました。ちなみに構造式は、
 KMgAl2Al5Mg(BO3)3Si6O18(OH)3O
となっています。
 カリウムは、リチュウムやナトリウムと同じ電荷数なので、化学的には似た挙動をします。しかし、カリウムは、リチュウムやナトリウムと比べてイオン半径が大きく、同じ場所に入りにくい元素となります。それでも強引に入り込むには、結晶構造が緩やかであるが、圧力がかかった場で強引に入ったになります。今回の丸山電気石は、後者の理由でした。詳細は次回にしましょう。

・正式表記・
このエッセイでは、新鉱物を丸山電気石と表記しています。
しかし、鉱物の和名について、日本鉱物学会では
1955年から、石と鉱以外は片仮名で書くことにしています。
石は非金属光沢を持つ鉱物に、
鉱は金属光沢を持つ鉱物に用いるとしました。
現実は、書かれることが多くなっています。
漢字には、それなりの由来が示されており、
パッと見て意味がつかみやすいからです。
私も古くからの漢字で示された鉱物名が
味があっていいと思います。

・心も持ちよう・
8月から9月にかけて、
毎週のように
どこかに出かけています。
私は野外調査なら、すきで行なっていることなので
体力的に辛らくでも
精神的には解放されるので苦にはなりません。
ところが、校務でいくとなると、
それなりにこなすべき業務もあるので、
なかなか精神的にも疲れます。
そこに体力的な疲労もクワクワるとなかなかきつくなります。
まあ、精神的なものは心の持ちようで
なんとかなるのでしょう。
ですから、気持ちを切り替えたて出かけたいのですが、
そうもいかないのが、問題でもあります。

2014年9月18日木曜日

6_121 丸山電気石 1:新鉱物

 「丸山電気石」という鉱物が、新鉱物として認定されました。この鉱物は、海外で発見されたのですが、日本人の名前がついたものとなりました。発見者も日本人です。この新鉱物をめぐる概要とその意義を紹介していきましょう。

 早稲田大学の清水連太郎さんと小笠原義秀教授により、「丸山電気石」という鉱物が発見されました。小笠原さんたちが申請して、2014年2月に新鉱物として承認されました。
 新鉱物とは、今まで見つかっていない鉱物のことです。新鉱物と認定されるには、それなりの手続きが必要となります。また、「丸山」とは、東京工業大学の丸山茂徳さんのことで、鉱物に人の名前がつくには、それなりの条件があります。その辺りの事情を紹介していきましょう。
 新鉱物は、研究者が今まで調べられていない環境や地域に調査をしたり、新しい分析装置が導入されたりすると、多くの新鉱物が見つかることがあります。
 新しい地域としては、極地の調査や月面探査など、人類が今まで行ったことのない地域の試料が入手できるようになった時などです。新しい装置とは、微小、微量の試料で、新鉱物認定の際に必要な分析データがとれるようなもの開発されることです。微小部の化学組成の分析ではEPMA(電子線微小分析機)、質量分析ではSIMS(二次イオン質量分析機)、X線回折ではμXMD(微小部X線回折装置)などが開発された時、新しい鉱物が多数見つかってきました。
 現在では、かなりの鉱物が知られており、肉眼で見えるような大きな新鉱物は少なくなっています。それでも、定常的に新鉱物が見つかっています。ただし、顕微鏡で見なければならないような小さいものが多くなっています。
 岩石を顕微鏡などで調べていくと、今までその種の岩石や、その地域から見つかっていなかった、見慣れない鉱物の存在に気づくことがあります。単に研究者自身が知らない場合もあります。そんな場合、その鉱物を調べていくと、今まで知られていることがわかります。時には、新鉱物の場合もあります。いずれにしても、注意深く岩石を観察し、諦めることなくその鉱物がどんなものかを詳しく調べていく忍耐と労力が必要になります。
 新鉱物の発見は、それなりの科学的データをそろえて、国際鉱物学連合(IMA)に申請して、承認されるという手続きを踏んでいかなければなりません。必要なデータとしては、鉱物の産状記載、化学組成、結晶構造、物理的特性などで、小笠原さんらはカナダ・マニトバ大学のHawthorne教授らと共同で申請を行いました。そして、承認の結果が、2014年6月、Mineralogical Magazine(鉱物学雑誌)に鉱物の内容が報告され、8月には国際鉱物学連合のホームページでも公開8月にプレス発表がありました。

・空騒ぎ・
以前に書いたことがあったのですが、
私も新鉱物を発見したことがあります。
EPMAで分析しているとき、
ある岩石には通常では考えられてない鉱物が見つかりました。
ケイ素(Si)が多く、酸化物ではない組成でした。
SiCという鉱物が候補として考えられました。
玄武岩ではそんな鉱物が存在するはずがありません。
でも、現実にその可能性がありました。
研究所で私が騒いだので、ある人が答えを出してくれました。
それは、研磨剤だというものでした。
岩石を磨く時に使うもので
「カーボランダム」として知られていました。
まあ、空騒ぎで終わりました。

・秋・
北海道は急に秋めいてきました。
晴れると温かいのですが、
曇っていて風でもあると、肌ざむく
上着やヤッケがないと過ごせないほどの気温となりました。
9月も下旬になろうとしてます。
そろそろ紅葉がはじまる季節となりました。

2014年9月11日木曜日

1_134 ファーストスターの痕跡 3:巨大ブラックホール

 モンスター星は、予想を遥かに超える質量をもっていた可能性があります。モンスター星は、巨大ブラックホールになって終わります。このシナリオは、今まで謎とされていた、銀河の中心にある巨大ブラックホール誕生の答えになるかもしれません。

 シミュレーションによるとファーストスターは、太陽質量の40倍程度のものができることが判明してきて、実際の観測とも一致しました。ところが、さらにシミュレーションを詳しくおこなっていくと、ファーストスターの中には、太陽の質量の100倍を超えるような、巨大天体もできることがわかってきました。もちろん、そのようなモンスター星が観測されたこともありませんし、その痕跡も見つかっていませんでした。
 そもそも、星の質量の違いをどう検証するかが問題となります。そこで星の化学組成が重要や役割を果たすことになります。
 太陽質量の40倍の天体では、カルシウムなどより重い元素はほとんと合成されません。ですから、見つかっている第二世代にあたる星は、炭素、マグネシウム、カルシウムを含みますが、鉄はほとんど含んでいませんでした。
 太陽の質量の100倍を超えるようなモンスター星では、星の中や超新星爆発で、カルシウムよりもっと重い元素が合成されて、飛び散ることがわかってきました。シミュレーションでは、そのような天体が存在しうることはわかったのですが、観測ではまだ見つかっていませんでした。
 モンスター星があったのではないかという予想のもと、150個ほどの星の探査がなされました。狙いは地小さいな質量の星、つまり古い星から、モンスター星の痕跡を見つけることです。探査で、調べられた多数の古い星の中から、1つだけ特異なものが見つかりました。それが、青木さんたちが発見した「SDSS J0018-0939」でした。
 鉄が太陽の1/300程度で、炭素やマグネシウムも1/1000以下でした。鉄が比較的多く、その他の元素が非常に少ないことが特徴でした。このような鉄は、太陽の100倍以上の巨大な質量のファーストスターでの元素合成に由来したと推定されます。つまり、シミュレーションで予測されたモンスター星です。
 ただし、問題もありました。それは、鉄のような重い元素を生み出せるようなモンスター星は、質量が300倍、時には1000倍の天体になります。ですからモンスター星の最後は、巨大なブラックホールになる可能性があります。巨大ブラックホールから、元素が大量に放出できるのか、という問題があります。一部の物質が放出される可能性もあるようですが、まだ十分解明されていません。
 今回の発見によって、もしモンスター星で合成された元素による「第二世代の星」だということが確定すると、有利なことがあります。ファーストスターの中でも巨大な質量をもった星は、最終的に巨大ブラックホールとなっていきます。巨大ブラックホールは、現在の銀河の中心に見つかるようなサイズだと予想されます。今まで銀河の巨大ブラックホールの起源はわかっていなかったのですが、その答えを示したことになるかもしれません。
 ただし、ファーストスターにどの程度の頻度でモンスター星ができるのか。その量は銀河の巨大ブラックホールの数(銀河の数)に匹敵するものなのか。さまざまな疑問は湧いてきます。でも、いろいろと想像を掻き立てる報告でした。

・予約発行・
昨日まで調査にでていました。
そのため、この一連のエッセイは、
事前に用意して書いてあったものを、
予約発行していたものです。
旅先でもネットに接続は可能なのですが、
安定した接続をできるかどうかは不明です。
ですから、調査に出る前にはいつも予約発行しています。
帰ってきてからでは、発行は間に合わないので
すべてを準備して、心置きなく調査に向かいました。

・そんな境遇に・
夏休みは私にとっては、全くありませんでした。
校務と研究に勤しんでいるということで
充実した夏ということでしょうか。
出かけることが多かったので、
気分転換にはなったのですが、
体力的にはつらいものがあります。
しかし、そんな境遇になる時期というものでしょう。
なんとかのり切らねばなりませんね

2014年9月4日木曜日

1_133 ファーストスターの痕跡 2:自己抑制

 ビックバン直後には、巨大が質量をもつ星ができると思われていたのですが、シミュレーションをしてみると、それほど大きなものにならなかったことがわかってきました。その時に働くのが、自己抑制と呼ばれているものです。

 ビックバンによってできた最初の元素は、水素とヘリウムだけなので、ファーストスターは、水素とヘリウムだけで形成されていたはずです。質量も大きかったはずで、太陽の質量の数百倍はあったモンスター星だと考えられていました。
 ところが、こんな大きな天体は、現在の宇宙にはみられないものです。ファーストスターがモンスター星だという根拠はありませんでした。さらに、そのような予想と観測とは一致していないという矛盾もありました。前に紹介したような第二世代にあたるような古い天体の化学組成がわかってきたのですが、そこから予想される第一世代の星とは、一致しませんでした。
 その不一致に対して、2011年に京都大学の細川隆史さんたちが、シミュレーションをしたところ、面白いことがいくつかわかってきました。
 細川さんたちのシミュレーションによると、ファーストスターは、ビックバンの3億年くらいあとから形成されてきます。最初は太陽質量の1/100くらいの星の種(原始星)からはじまるのですが、周りにある大量のガスが星に集まってきます。そのまま成長していくと、当初の予想のような太陽の数100倍のモンスター星になるはずなのですが、太陽の20倍くらいの大きさになると、星は激しく輝きだします。そして、太陽の10万倍くらの明るさになります。
 非常に明るい輝きが、周りのガスの集まることを妨げてます。輝きが星の成長にブレーキをかけるのです。細川さんたちは、星が成長するまでの10万年くらいをシミュレーションしてみると、星は多数できるのですが、最終的に太陽質量の40倍くらいの星が残ることがわかってきました。
 このようなメカニズムを、細川さんたちは、「成長の自己抑制機構」が働いたと考えています。この自己抑制の機構によって、モンスター星には至らないことがわかったのです。
 太陽の質量の40倍の天体では、星の内部の核融合やその後の超新星爆発では、炭素、マグネシウム、カルシウムなどの元素が合成されます。鉄のよう重い元素はほとんどできません。そのような条件に相当する天体が、前に「1_130 宇宙の年齢 3:最古の天体」(2014.08.14発行)で紹介した天体でした。そのような天体が、いくつか見つかっていました。
 細川さんたちのシミュレーションによって、観測と理論が一致しました。これで話が終わればよかったのですが、そうはならなかったのです。それが今回紹介している報告へとつながります。

・調査目的・
このエッセイが発行される頃には、
四国に調査にでています。
今回は、高知県の西部を調査しています。
以前でかけたところを、再調査してます。
主たる目的は、専門的になりますが、
 層状チャートの観察
 タービダイト層の構造の計測
 付加体中の序列外スラストの観察
です。
中でも層状チャートは主たる目的になりますので、
少々厳しいルートになりますが、
頑張っていこうと考えています。
可能であれば、日を改めて2度、
たどり着きたいと思っています。
期間が限られていますので、
どこまできるかは不明ですが。

・振り子列車・
北海道各地を巡っています。
列車で北海道をめぐっていると、
北海道の広さを痛感させられます。
身体自体は動かさないのですが、
腰が痛くなり、体がだるくなります。
特に列車だと振り子列車がだめです。
私は、列車にはほとんど寄ったことがないのですが、
振り子列車だけは、長時間乗っていると気持ちが悪くなります。
他にも同じことをいう人が何人もいますので
私だけの理由ではないようです。
どうも振り子の揺れが三半規管を狂わせるようです。