2014年8月28日木曜日

1_132 ファーストスターの痕跡 1:モンスター星

 前回までの「宇宙の年齢」の話をしているとき、最古の星の話題も扱いました。そんな矢先、「ファーストスター」の痕跡の発見というニュースが入ってきました。「地球の歴史」が連続してしまいますが、「ファーストスター」の痕跡について紹介していきましょう。

 前回のエッセイで、「宇宙の年齢」のシリーズは終りました。ところが、終わった直後の8月22日に、このシリーズに関係するニュースが飛び込んできました。そのニュースとは、私たちの銀河の中に「第一世代の星」が見つかったというものです。「第一世代の星」は最初の星のことで、ここではファーストスターと呼ぶことにします。
 国立天文台の青木和光さんたちのグループが、8月21日付のサイエンス誌に報告したものです。この論文がプレス解禁になり、ニュースとなったのです。論文の内容を少し詳しく紹介したいと思います
 前に種族IIの星には、形成年代の古いものがあり、そのうちの一つが「最古の星」であったことを紹介ました(1_130 宇宙の年齢 3:最古の天体 2014.08.14発行)。ファーストスターの根拠は、星からの光を分析してえられる化学組成のデータでした。今回のファーストスターも、同じ方法による化学組成に基づくものでした。
 この報告で注意すべき点がいくつかあります。論文のタイトルは、
 "A chemical signature of first-generation very-massive stars"
 「第一世代の大質量の星の化学的痕跡」
というものですが、ファーストスターを発見したのではなく、「化学的痕跡」を発見したということです。また、大質量ということにどんな意味があるのでしょうか。そのような点に着目して、少々ややこしい話になりますが、できるだけわかりやすく説明していきましょう。
 この観測は、日本が誇るハワイにあるすばる望遠鏡を用いておこなわれました。今回の発見は、「SDSS J0018-0939」と呼ばれる星で、地球から1000光年ほどの距離にあります。ただし、太陽質量の半分程度という非常に小さな質量しかありませんでした。わざわざ小さい星が調べられたのには、それなりの訳がありました。
 星の寿命は、星の質量に反比例するからです。つまり、小さい質量の星ほど寿命がく、質量が大きい星ほど寿命が短いということがわかっています。ですから、小さい質量の星の中には、ファーストスターの痕跡をもった星があるかもしれません。
 そんな背景から、青木さんたちは、小さい質量の星を狙って観測を続けていました。ただし、ファーストスターを狙っていたわけではありません。狙っていたのはファーストスターの痕跡でした。これが、少々ややこしいところです。
 そもそもファーストスターとは、どのよう星だったのでしょうか。
 ビックバンの直後にできたファーストスターは、宇宙の大きさは今よりずっと小さかったときにできました。材料は近くに大量にあったので、星は大きな質量を持っていたはずです。それは、太陽の数百倍の質量を持っていた「モンスター星」ではないかと予想されていました。
 ところが、どうもそうでないことがわかってきました。それは別のグループの研究になるのですが、次回としましょう。

・帯広へ・
8月下旬から9月上旬にかけての
校務による出張が続きます。
体調を壊さないように注意が必要です。
このメールマガジンの発行日には
校務で帯広に出ています。
日帰りで往復します。
帯広は特急列車で2時間余りでいけるところなので
近い気がします。
まあ、往復となる疲れるのですが、
気分転換と思いましょう。

・北見へ・
先週末は、校務で旭川から北見に行きました。
少々雨に降られたのですが、
移動中に雨が降ったのですが、
肝心の用事のときは、雨には降られずに
なんとか校務がこなせました。
北見は何度か来たことがあるのですが、
今回は、久しぶりの訪問となりました。
有名なオホーツクビールの店にいったのですが、
団体の予約があり満席で、
残念ながら味わうことができませんでした。
北見はかつて薄荷(ハッカ)で有名でした。
しかし、今ではほとんどつくられていません。
その辺の事情は、北見ハッカ記念館で知ることができました。
他にも、薄荷蒸溜所とハーブ園をみることできました。
薄荷の花が咲き始めていました。

2014年8月21日木曜日

1_131 宇宙の年齢 4:宇宙背景放射

 宇宙の年齢が、昨年から137億年から138億年になりました。その理由は、用いたデータが、WMAPからPlanckに変わったためです。年齢が変わったというより、精度が上がったためでした。

 前回は、古い天体の年代から宇宙の年齢の下限を決める方法のうち、最新の情報を紹介しました。次に、宇宙の年齢を直接推定するために、観測と理論を結びつける方法を紹介します。
 前に紹介したように、宇宙を構成する物質やエネルギーなどの組成を割り出して、そこから宇宙の膨張率を求めれば、宇宙の年齢をかなり正確に見積もることができます。宇宙の組成を正確に求める方法として、宇宙(マイクロ波)背景放射を観測する方法があります。
 マイクロ波とは、電子レンジで使用されているもので、水分に吸収されやすい性質があります。大気中には水蒸気があるのため、宇宙から届くマイクロ波は地上から観測しづらくなっています。そのため、衛星を打ち上げて、地球の大気の影響を受けないところで観測する方法がとられています。今まで、3度におよぶ衛星観測がなされていきました。
 最初は、COBE(Cosmic Background Explorer)という衛星による1989年から1996年にかけての観測でした。宇宙背景放射と均質性と不均質性(むら)を正確に測定することが目的でした。背景放射の温度である2.73度(絶対温度)の波長(マイクロ波)で測定されました。宇宙は大局的には非常に均質でありながらも、10万分の1のむらがあることがわかりました。この結果によって、ビックバン理論の根拠(均質さ)を示すとともに、ビックバンの様子(むら)を知ることにもつながりました。
 2001年6月打ち上げられたWMAP(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe)衛星は、2010年8月まで観測をおこないました。WMAPは、COBEより位置の分解能と感度を上げました。位置の分解能とはより狭い範囲を精度よくはかることで、感度とはより測定精度(有効桁数)を上げて測定することでした。WMAPによって、それまでの宇宙の基本的なデータが、いろいろと書き換えられました。
 宇宙の組成が、バリオン(見えている物質)が4%、ダークマターが23%、ダークエネルギーが73%となり、ハッブル定数(71±4km/s/Mpc)も正確きめられ、宇宙の年齢が137±2億年となりました。この137億年という値が、宇宙の年齢として、広がりました。ただし、±2億年という誤差がつくことなく、137億年がひとり歩きしていきました。
 3機目にあたるPlanck衛星が、2009年5月に打ち上げられ、2013年10月に運用が終了しました。Planck衛星は、宇宙背景放射をより高感度、高分解能で観測するためでした。その結果が、2013年3月21日に公開されました。
 宇宙の組成は、バリオンが4.9%、ダークマターが26.8%、ダークエネルギーが68.3%となりました。そして、ハッブル定数は67.15±1.2km/s/Mpcとなり、宇宙年齢は137.98±0.37億年となりました。これが宇宙の年齢の138億年の根拠となります。
 WMAPと比べるPlanckのデータは、数値としてはほんの少しの変化しか与えませんでした。しかし、その精度は、2桁よくなりました。そしてCOBEやWMAPのデータをより強固なものにし、より高精度になりました。
 今後も観測は続くでしょうが、これらの値は、より下の桁での変動はあるでしょうが、確定されたといえるでしょう。宇宙の年齢も、2013年にだされた138億年で確定となりました。これからは138億年という年齢を研究者が使い、メディアでこの数値が使われるようになります。しばらくすると、この138億年が宇宙の年齢として定着していくでしょう。

・盛夏が終わる・
北海道は涼しくなりだしました。
朝夕は半袖では少々肌寒くなりました。
夜はもちろん窓を閉めきって寝ています。
これからしばらく、雪の降るまでが、
過ごしやすい快適な時期となります。
ただし、私は、後期のはじまる9月下旬まで
毎週末や不定期に雑多な校務があります。
9月になれば1週間だけ調査にでれます。
それだけを楽しみに過ごします。

・人間ドック・
このメールマガジンが発行される日に
私は、人間ドックにいきます。
毎年恒例で、家内とともに1日の人間ドックを受けます。
午後に問診や栄養指導があるのですが、
検診自体は午前中に終わります。
検査後は、所用を済ませて帰るだけとなります。
その所用がいろいろあって少々面倒なのですが。
しかし、人間ドックも私にとっては
休養の一日となります。

2014年8月7日木曜日

1_129 宇宙の年齢 2:膨張を探る

 宇宙の年齢を探るためには、ビックバン理論に基づき、観測から膨張の様子を正確に知ることが重要になります。しかし、そこには、まだ見つかっていない物質やエネルギーがあることがわかってきました。

 宇宙の年齢を観測から探る方法として、古い天体を観測して年齢の下限を求める方法がありました。この方法も観測技術が進んで、かなりいいところまではいっていますが、原則的には宇宙の年齢は求めることはできません。限定することと決定することは違います。
 一方、理論では、ビックバンのモデルに基づいて推定するものがありました。理論なので、概数しか求めることができません。正確に求めるには、観測との融合が必要です。理論と観測が融合したハッブルが行なった観測手法をより高精度におこなわれています。
 その原理は、ビックバン理論にもとづき、膨張の様子を観測でとらえ、計算により年齢を求めるというものです。宇宙は、ビックバンの時の勢いのまま、現在も膨張しているはずだと考えられていました。宇宙の膨張の様子を正確に観測すれば、その勢いから大きさゼロの状態に遡れば、宇宙の年齢が計算できるというものです。現在の膨張の観測から、理論に基づき、始まりの時を求めることになります。このとき、宇宙の年齢の決め手になるのが、ハップル定数です。
 宇宙が一様に膨張しているとすれると、ハッブル定数から、宇宙の年齢が簡単にもとめられると考えられていました。ところが、宇宙の膨張がビックバンの時に比べて減速しているのか、加速しているのかによって、宇宙の年齢の見積もりにおおきなズレが生じます。
 その決め手になるのが、宇宙の物質密度と膨張に関するエネルギーです。宇宙の物質密度とは、宇宙に存在する物質の量によって決まり、宇宙が縮もうとする力、膨張を減速させる力になります。宇宙に物質が多ければ、万有引力によって、宇宙は縮もうとする力が働きます。ですから、宇宙にどの程度の物質があるかによって、現在の膨張からいつ収縮に転換するかが変わってきます。もし、物質量が少なければ、膨張を止めることができないかもしれません。物質量を知ることが重要になります。
 これが、なかなかやっかいで、まだ不明な部分があります。
 私たちが知っている、あるいは見ている物質は、バリオンとよばれる素粒子で構成されています。バリオンが占めている比率は、宇宙全体の物質とエネルギーの全量のうち、約5%程度に過ぎないことがわかってきました。
 見える物質以外にも、見えない物質(ダークマター、暗黒物質などと呼ばれています)が、27%ほどあることがわかってきました。なんと宇宙は、見えている物質より、見えない物質の方が、5倍以上もあることになります。この両者が宇宙の膨張を減速させる働きがあります。このダークマターの量を決定することが宇宙の年齢を決める決め手だと考えられていました。ダークマターの実体はまだよくわかっていません。
 すでに気づかれていると思いますが、バリオンとダークマターを合わせて32%にしかなりません。他の70%ほどは何かというと、見えないエネルギー(ダークエネルギーと呼ばれています)だとされています。かつては、このような存在は知られていませんでした。ですから、宇宙の年齢を決めるには、バリオン以外のダークマター探しが重要だと考えらていました。ところが、このダークエネルギーは、宇宙の膨張を加速する働きがあります。ダークエネルギーを考慮しなければ、宇宙の年齢が求められないことになりました。
 宇宙の膨張を減速させるバリオンとダークマター、そして加速させるダークエネルギーから、宇宙は構成されていることになります。非常にやっかいな存在です。宇宙の膨張の様子だけでなく、宇宙の物質とエネルギーの比率、そしてそれらが膨張に与える効果がわからなければ、宇宙の年齢が正確に決めることができません。また、比率が分かったとして、それぞれの膨張に与える効果が、どれほどかを知らなければ、宇宙の年齢を決定するパラメーターが得られないということになります。
 それを決定するために、いくつかの重要な観測がなされました。それは次回としましょう。

・高湿度・
北海道は8月になり、
遅い台風のせいで蒸し暑い天気が続いています。
台風の影響で北海道では前線がずっとかかり、
湿度の高い、梅雨のような天気となっています。
本州などの梅雨と比べると
気温はそれほど高くはないのでしょうが、
北海道人にはこの蒸し暑さが堪えます。
エアコンのない生活なので、
暑さにはじっと耐えるしかありません。
まあ、夜は比較的気温も下がるので
なんとか寝れるので、暑いのですが
体力的は持っているのですが、
校務が次々とあるのでなかなか大変です。

・コツコツと・
大学は定期試験も終わり、
学生たちは夏休みに入ります。
教員は、採点、集計、入力があります。
また4年生の卒業研究へと対応など
なかなか気の休まる時が来ません。
お盆があければ、少しだけ休めそうですが、
その後は、また校務が目白押しです。
忙しいことに愚痴をいっても楽にはなりません。
自分に与えられた空き時間の中で、
すべきことをコツコツとこなすしかありませんね。