2013年6月20日木曜日

1_117 三畳紀初期の温暖化 3:システム擾乱

 生物は、ひとつひとつで見ると弱い存在ですが、全体で見るとなかなかタフです。生物は、35億年前から絶えることなく継続してきたことが、その証です。大きな絶滅があったとすれば、タフな生物全体を揺るがす異変があったことになります。三畳紀初期の温暖化は、そんな異変だったのでしょうか。

 P-T境界(ペルム紀と三畳紀の時代境界)に大絶滅が起こりました。その時期に起こったいろいろな異常現象がみつかっているのですが、それぞれの因果や連鎖は、まだよくわかっていません。今回紹介しているのは、P-T境界直後、三畳紀の初期の温暖化です。
 P-T境界直後の三畳紀初期に海水温が、現在より10℃から15℃ほど高かったことが、化石の同位体組成からわかりました。平均気温が10℃も高いということは、非常に大きな異変となります。氷河期から間氷期に勝る温度変化です。P-T境界の絶滅が始まってから、最後に温暖化が起こり、回復するのに要した期間は、500万年間にも達しています。通常の大絶滅は数十万年で終わりますが、500万年絶滅期間は長いものです。
 三畳紀初期で温暖化の証拠がみつかっているのは、今のところ調査された熱帯地域だけです。しかし、ある海域だけで起こる現象ではなく、海洋全体、地球表層全体で、温暖化が起こっていたと考えられています。
 温暖化によって絶滅がどのようにして起こったでしょうか。ひとつのシナリオを紹介しましょう。
 P-T境界の異変によって、多くの生物が絶滅しました。その中には、陸上で大繁栄していた植物(大森林を形成していた)も大きなダメージを受けました。陸上の植物が大絶滅した結果、生態系のバランスだけでなく、地球の物質循環が途切れます。スーパープルームによるシベリア・トラップの火山活動が大絶滅の原因のひとつだとすると、火山活動に由来する二酸化炭素も大量に放出されていたはずです。それを吸収する植物が失われたとなると、二酸化炭素は大量に大気に蓄積されることになります。それも温室効果を促進する役割を担っていたのかもしれません。
 通常は地球のシステムは、極端な変化を緩衝するフィードバックシステムが働くのですが、陸上植物の欠落によって地球の物質循環のシステムが狂います。このシステムの混乱によって「暴走温暖化」が起こります
 スーパープルームは巨大な地球の熱対流に基づくものです。スーパープルームに由来する要因は、非常に長い期間継続しえます。P-T境界の大絶滅は、温暖化以前にある程度、大絶滅が起こっていました。その後に温暖化がおこり、P-T境界をなんとか生き延びた殻の硬い巻貝や二枚貝なども、絶滅しまいました。システムの混乱は500万年かかってやっと回復します。これら推定されているシナリオです。
 温暖化だけが原因とは考えられません。温暖化が長く続くと、もはや絶滅の原因ではなくなります。温暖化、いや地球表層の高温が当たり前の環境になってしまいます。すると、高温に適応した生物群ができあがるはずです。生物の絶滅で重要なことは、生物が対応できない変化が起こることです。大きな変化が広域に起こるか、つぎつぎと環境変化が起こることが、大絶滅の原因となるのです。
 P-T境界の大絶滅の直後に起こった温暖化は、弱っていた生物圏、減少していた生物種に、更なるダメージを与えました。三畳紀初期の温暖化は、ダメ押しとして役割を果たしたのでしょう。これがP-T境界の大絶滅をより大きな、生物史最大のものにしたのではないかと考えられます。

・高湿度・
今週はどんよりした天候が続きます。
湿度が高いので少々不快ですが、
気温がそんなに高くないので、
なんとか過ごせます。
北海道の人は、寒さには慣れているのですが、
暑さには慣れていません。
特に本州の梅雨の蒸し暑さのダメージは大きくなります。
北海道に数年すれば、
北海道人の体質になります。
私のその一人で、暑さには弱くなっています。
清々しい夏が来ることを願っています。

・補講・
毎週のように出張があります。
サラリーマンには、出張が当たり前の人も
一杯いることでしょう。
しかし、大学教員が出張を一杯するということは
休講が一杯あるということです。
近年、講義保障で15回の講義をすることが
義務付けられています。
ですから休講をすると補講をしなければなりません。
しかし、補講日も限られていて、
夜(7校時)などに講義をするように指示されています。
そうなると教員だけでなく、学生も大変です。
学びたい気持ちの学生ばかりだといいのですが、
そうでもない学生もかなりいます。
形式よりも実が大切なはずなのですが・・・