2013年4月25日木曜日

6_109 新鉱物 2:中国リスク

 レアアースは、鉱物としてであれば科学の問題なのです。しかし、鉱山、鉱業となれば工学、経済学に関連してきます。資源となれば経済だけでなく、政治、外交などがより複雑になります。その影響は、巡り巡って、科学へも及びます。レアアースの問題から、そんな人間社会の複雑さが見えてきます。

 レアアースは、現代の先端技術を支える素材にとって、不可欠な物質となっていることを、前回紹介ました。このように重要なレアアースですが、その重要性が、多くの市民に知らされたのは、中国の日本への輸出制限でした。「中国リスク」という言葉を、この事件をじっけかに、私は知るように成りました。
 中国の政府は、公的には制限をしなかったのですが、意図的に通関業務を遅らせることで、実質的に制限した効果を出しました。この「中国リスク」に関する事件は、ご存知のように、2010年9月に発生した尖閣諸島で起こった、中国漁船と海上保安庁の衝突事件に端を発しています。
 日本が産業界がこのような苦境に追い込まれたのは、レアアース資源を中国一国依存していたからです。中国は、世界のレアアースの生産量の9割以上を占めていました。2009年度で、日本は世界のレアアースの需要の半分を占めていました。日本は、中国への依存度と使用量が多く、そのダメージがより大きなものとなりました。日本は、世界的にレアアースの最大の消費国で、その資源をすべて中国に依存しているという構図ありました。中国の狙いもそこで、日本の弱点を利用したわけです。
 レアアースは、資源として、もともと少ないものなので、希少性はありました。かつては、世界各地からほぞぼそと採掘していました。資源の中心は、モナザイトとよばれる鉱物が農集している鉱床でした。
 モナザイトは、リン酸塩の鉱物で、陽イオンとしてセシウムが結合したものです。似た鉱物として、セシウムの代わりに、他のレアアースが陽イオンの位置に入っているものもあります。これらの鉱物がレアアースの主な供給源でした。
 戦後は、需要があまりなかったので、ほそぼそとした採掘でも足りていました。1960年代中ころにメリカ合衆国カリフォルニア州のマウント・パスのレアアース鉱山が開発され、量産がはじまりました。マウント・パスが、1980年代初頭まで、世界の多くのレアアースをまかなっていました。
 1980年代中ころからは、中国の内モンゴルの鉱床が世界の主要産地となりました。それが最近までのレアアースをめぐる構図です。
 2010年の事件をきっかけに、日本は中国一国への重要資源の依存を反省して、多くの国からの輸入を模索しました。カザフスタン、インド、ベトナム、オーストラリア、カナダなど各地に輸入先を分散させるように動き出しました。
 もうひとつの展開もあります。それは研究分野で、新たなレアアース資源の発掘へと目が向くようになりました。このエッセイで以前紹介したのですが、日本の領海内での海洋底の堆積物のレアアースの農集部の発見も、その一環とみなせます。そして、今回、新鉱物の発見でも、レアアースを含んでいることが注目の的となりました。その詳細は次回に。

・複雑な問題・
中国リスクは、今回の述べたレアアースだけでなく
いろいろな問題に対して使われています。
領土、資源、日中戦争に関わる問題だけでなく、
さらに、今話題になっているPM2.5などの大気汚染
河川汚染や海洋汚染、
生産拠点としての賃金や労働力の変化、
環境問題や人権などへの意識の低さ、
などいろいろな問題があります。
発展途上であるがゆえにおこる問題や
国民性、政治形態などに由来する問題など
その原因も多様です。
中国は大国であるために、
その経済力、保有資源、軍事力や政治力など
問題は複雑化します。
グローバル化の時代です。
他国、特に近隣国を無視して
日本の存続はありません。
自国の国民や生活に関わる問題となるのではあれば、
無視することはできません。
何らかの対処が必要となります。

・春の芽吹き・
北海道は、暖か日と肌寒い日が繰り返しきます。
今年の雪解けも遅いようで、
まだ少し雪が残っています。
雪のせいか、春の植物も少々遅れ気味のようです。
先日、森にはいったのですが、
まだ、フキノトウだけで、
ザゼンソウ、オオバユリ、フクジュソウは
芽吹いていますが、
まだ咲くのには少し時間が必要でしょう。
今週末あたりには一気に開くかもしれません。
待ち遠しいものです。
天気さえ良ければ、森を抜けて帰るつもりです。

2013年4月18日木曜日

6_108 新鉱物 1:レアアース

 新鉱物は、日本も含めて世界各地から毎年、何十個と見つかります。新たに鉱物ができているわけでなく、発見して分析をしてデータをそろえて新鉱物と認定されます。新鉱物は、研究者やマニアだけの話題に終わることが多いのですが、時々ニュースになることがあります。今回は、そんな新鉱物の話題です。

 先日(4月2日)、日本で新しい鉱物が発見されたというニュースが流れました。この鉱物は、国際鉱物学連合の委員会に申請され、3月1日に承認され、「新鉱物」になりました。それが今回のニュースとなりました。
 世界では年間何十個という新鉱物が見つかっていますし、日本からも毎年いくつも見つかっています。新鉱物の発見が、取り立てて話題になることは、ほとんどありません。今回なぜ注目されたかというと、レアアースを含んでいる鉱物だったからです。
 本エッセイでも、レアアースは何度も取り上げていますが、再度紹介しましょう。レアアースは、英語で”rare earth elements”といい、「地球では稀な元素」という意味です。日本語では、希土類元素とよばれていますが、今ではレアアースという言葉の方がよく耳にします。
 レアアース(希土類元素)はひとつの元素でなく、性質の似た一連の元素を指しています。周期律表を思い浮かべてください。4行目、カリウム(K)、カルシウム(Ca)の右にあるスカンジウム(Sc)や、5行目のストロンチウム(Sr)の右のイットリウム(Y)があります。スカンジウムやイットリウムと同じ3列目(第3族といいます)に属するものを、希土類元素といいます。
 周期律表でイットリウムの下に、バリウム(Ba)とハフニウム(Hf)の間にはランタノイドとよばれものがあり、周期律表に下に別表としてランタン(La)からはじまる15の元素からなかり、それがランタノイドと呼ばれるものです。これらすべてが希土類元素です。ランタノイドの15の元素のうち、プロメチウム(Pm)は寿命の短い放射性元素ですが、それ以外の元素は地球に存在しています。
 ランタノイドの下は、アクチノイドとよばれていますが、希土類元素に属しません。アクチノイドは、アクチニウム、トリウム(Th)、プロトアクチニウム(Pa)、ウラン(U)までは地球に存在しますが、それより重い元素は、存在しません。アクチノイドはいずれも放射性元素で、安定には存在しません。ただし、アクチニウムからウランまでは半減期が長かったり、放射壊変の中間生成物として存在し天然に存在します。
 レアアースは、周期律表で同じ列にあり、3価の陽イオンになるため、それぞれの化学的性質が似ています。希土類元素が鉱物などに含まれると、ランタニドが一団として含まれることが多くなります。ただし、それぞれが別の元素であり、電子の数も違っているので、性質が少し違っています。
 さて、なぜレアアースが注目されるのでしょうか。それは、現在の先端技術や新素材などは、微量の成分を加えることによって、特異な性質を発揮するようなものが多くなっています。そのような微量成分として希土類元素が利用されています。レーザーを発生させる固体や、発光ダイオード、強力な磁石や超電導素材、あるいは高屈折率のガラス(高機能のレンズ用)など、多様な利用がされています。
 なぜ今回、レアアースを含む鉱物が注目されたのでしょうか。それは次回としましょう。

・承認・
新鉱物には、いくつかの条件があります。
天然のもので安定でなければなりません。
結晶を取り出し、分析して、
性質を明らかにしたデータが必要になります。
データと鉱物名候補をそろえて、
国際鉱物学連合の
「新鉱物および鉱物名に関する委員会」
に申請します。
そこの委員の2/3以上の賛成があれば
新鉱物と承認されます。
最後の評価が人の判断であるところが不思議ですが。

・関心・
レアアースを含む鉱物が
日本から近年ぞくぞくと見つかっています。
2012年の高縄石、2011年には肥前石、
イットリウムラブドフェンなどがあります。
その度にニュースにはなっています。
一つには、次回紹介するレアアースへの
関心の強さがあると思います。

2013年4月11日木曜日

3_119 ホットスポット 3:たなびく

 ホットスポットは、マントル深部から上昇してくる温かいマントルの流れです。それの流れが、マントル対流の風に「たなびいて」いることがわかってきました。そのたなびき方が、ホットスポットごとに違っているようです。自然は、本当に不思議です。

 前回は、ホットスポットの古地磁気を調べることで、移動の様子を探ることができることを紹介しました。ハワイから続く天皇海山列の調査から、ホットスポットが移動していることを示しました。8000万年前から5000万年前の間に、1700kmほど南(緯度で約15度、6cm/yほどのスピード)に移動していることがわかりました。
 もう一箇所、南太平洋のニュージーランド沖のルイビル海山列で調査がされました。前回はここまで紹介していましたが、その結果は、移動が確認されなかったというものでした。約7000万年前から現在まで、ほぼ現在の緯度にホットスポットはあったことがわかりました。海洋プレートは移動しているのに、ホットスポットは移動していないことになります。
 測定された2つのホットスポットは、北太平洋と南太平洋と位置は離れていますが、同じ太平洋プレート内にあります。太平洋プレートは、全体が北西方向へ移動していることが実測されています。
 ただし、古地磁気から俯角を復元しているので、緯度(南北方向)の移動は読み取れますが、経度(東西方向)の移動を読み取ることはできません。
 2つの調査結果から、プレートの運動に対して、ホットスポットごとに運動が違っていることが明らかになりました。ホットスポットは、それぞれが独自の運動をしていることになり、その中には運動をしていないものもあるようです。
 その原因として、マントル・ウインド(mantle wind)モデルというものが提案されています。ホットスポットはマントル深部からの上昇流ですので、マントル対流とは別の動きをしています。しかし、マントル対流の中を上昇してくるのですから、対流の影響をうけるはずです。マントル対流が風とすると、ホットスポットも風に「たなびく」というモデルです。
 マントル・ウインド・モデルのシミュレーションでは、ルイビル海山列のホットスポットは、南北には動かないと、事前に予測されていました。それに合致した測定結果となったわけです。ですから、このモデルが検証されたと考えられています。
 本当の検証のためには、大西洋プレートやインド洋プレートなど、他のホットスポットの運動を調べて検証しなけばなりません。今後、IODP(統合国際深海掘削計画)でも掘削が検討されているようです。ただし、三番煎じの研究となりかねないので、どの程度の熱意をもっておこなうかは、なかなか難しい問題かもしれません。でも、マントル対流の実体解明には、いろいろなホットスポットの移動を明らかにすることが不可欠です。
 マントル・ウインドにホットスポットが「たなびく」ということは、わかりいいモデルですが、さてさて本当にそんな風が吹いているのでしょうか。今後の研究にもそんな追い風が吹いていくれるといいのですが。

・新学期・
いよいよ大学の新学期がはじまりました。
新入生は期待や不安を胸に
大学生活をスタートしたことでしょう。
在学生も、新しい学年になり
いろいろ思いを新たにすることもあるでしょう。
私も何故か、今年の新学期には
心があらたまったた気がします。
教員も新入生の期待を裏切ることなく、
励まなくてはいけません。
疲れたり、不安を感じている学生には
それなりのサポートが必要になります。
これも、個に応じた対応が必要なので、
なかなか大変ですが、
今では教員の重要な仕事ともなっているようです。

・春?・
北海道も、ようやく春めいてきました。
多くの道で、雪は消えました。
まだ、あちこちに雪がたくさん残っているので、
雪原を渡る風は冷たいのです。
朝夕も氷点下になることが減ってきました。
でも、まだコートは手放せませんが。

2013年4月4日木曜日

3_118 ホットスポット 2:古地磁気

 ホットスポットは地球の不動点として、長く常識が支配していました。しかし、マントルは対流して動いていますし、地表付近のプレートも動いています。ですから、止まっているとは、どういう意味があるのか、何故なのかなどを考えることがありませんでした。常識を考え直す必要がありそうです。

 ホットスポットはマントルの深部に由来しているので、プレートが移動しても、ホットスポットの火山は移動しません。結果として、プレートの上を次々とできた定点の火山が移動しているように見えます。火山の移動経路から、プレートの移動の歴史を読み取っていました。
 ところが最近、ホットスポットも移動していることがわかってきました。その動きはもちろん、プレートの動きとは別の運動となります。10年ほど前に、アメリカの研究チームが、天皇海山列の調査から、ホットスポットが移動していることを示しました。8000万年前から5000万年前の間に、1700kmほど南(緯度で約15度、6cm/yほどのスピード)に移動している可能性を示しました。太平洋プレートは北へ移動していますので、明らかに違った方向への移動となります。
 現在、ホットスポットが10個ほど知れていますが、そのうち1つが動いていることがわかりました。あとのホットスポットも同じように移動しているのでしょうか。
 それを解決するには、もうひとつのホットスポットで調査が必要になります。研究成果としては、2番煎じになりますが、上で述べたような疑問を解決するには、少なくともあとひとつのホットスポットでの検証が必要になります。
 もし、2つ目が移動していないとなると、移動するもとのしないものがあり、それは何故か、その違いは何かという新たな疑問が生まれます。もし移動しているとなると、多分多くのホットスポットは移動している可能性が高くなります。では、ホットスポットはなぜ移動するのかという原因究明が必要になります。新たな疑問や課題が生まれてくることになります。
 ホットスポットの調査は、海底の掘削調査をすることになるので、大規模な国際プロジェクトになります。統合国際深海掘削計画(Integrated Ocean Drilling Program、IODPの略されています)の第330次航海(2010年12月から2011年2月)によるもので、南太平洋のニュージーランド沖のルイビル(Louisville)海山列に属する5つの海山で掘削調査がされました。2012年11月25日にその成果が報告され、多数の著者が名前を連ねた論文となっています。
 アメリカのオレゴン州立大学のアンソニー・コパーズさん(Anthony A.P Koppers)と東大大気海洋研究所の山崎俊嗣さんが共同主席研究者として、愛知教育大学の星博幸さんも参加されていました。星さんは古地磁気学の専門家で、今回の研究では、古地磁気学が重要な決め手のデータとなります。
 マグマが固まるとき、磁気をもった結晶(磁性鉱物)ができます。できた磁性鉱物は、その時の地球の地磁気の方向に並んでできて固まるので、岩石全体が当時の地磁気を記録していることになります。このように岩石に記録されている過去の地磁気を古地磁気学と呼んでいます。
 また、地球の磁力線は、緯度によって下をむく角度(俯角といいます)が決まっています。つまり、岩石の古地磁気から、その岩石が形成された緯度を読み取ることができます。
 ホットスポットでできた時代ごとに古地磁気を調べていけば、ホットスポットの移動が有無がわかるという理屈です。もし、ホットスポットが移動していなければ俯角は変化ぜす、移動していれば変化していくくはずです。さてその結果は・・・、次回としましょう。

・入学式・
大学は、新学期を迎え、入学式があります。
(このメールマガジンの発行時には終わっています)
例年になく、雪深い入学式になりました。
新入生向けのガイダンスや健康診断などがあり、
講義は来週からになります。
キャンパスが賑やかになります。
入学式は新しい年度のはじまりを
強く感じさせてくれます。

・風邪・
先週中頃に長男が風邪をひきました。
週末には私が風邪をひきました。
現在は家内が風邪をひいて寝込んでいます。
次男はまだ風邪をひいていません。
長男も次男も入学式が近いので体調が心配です。
我が家は風邪のウイルスが蔓延しています。