2013年3月28日木曜日

3_117 ホットスポット 1:定点

 ホットスポットは、ある特徴をもった火山に対する呼び名です。火山をつくるマグマを供給する場所が、マントル深部に固定されているものです。今回は、ホットスポットに関する新しい情報を紹介しましょう。

 「ホットスポット」というものがあります。放射物質が集まっているところとして、ニュースでよく聞くことがありました。「熱い地点」という直訳になるのでしょうか。地質学では、違った意味を持っています。
 「ホットスポット」は、火山の一種で、噴火地点が固定されて、移動しないものをいいます。ところが、少々奇異な感じがしますが、ホットスポットは見かけ上、移動します。プレートテクトニクスによって、大地が移動しているので、「ホットスポット」は同じところで活動していても、古くなった火山が移動することになります。ホットスポットによる火山活動が長い間にわたっておこると、プレートの移動に伴って、火山が点々と移動しているように見えます。
 ホットスポットは、マントル深部に対して固定しているのであって、プレートの運動とは切り離されていることになります。マントル深部に由来した定点ともいえる火山を「ホットスポット」と呼んでいます。
 ホットスポットの有名な例として、ハワイ諸島があります。ハワイ諸島は太平洋の真ん中にあり、現在もハワイ島では火山が噴火をしています。ハワイ島が現在のホットスポットの位置です。ホノルルがあるのはオアフ島ですが、ハワイ島との間にも、マウイ島、カホオラウェ島、ラナイ島、モロカイ島などの島々が点在しています。それらは昔の火山のなごりです。オアフ島よりさらに北西にも火山が点在し、ミッドウェー諸島へと続きます。その先は、島はありませんが、天皇海山列として火山が続いています。ただし、途中で北に向きを変えて、火山列の先は、カムチャツカ半島の沖の海溝に沈み込んでいます。ハワイのホットスポットは、非常に長期にわたって活動している火山だといえます。
 ホットスポットが固定されていれば、このような火山の列は、プレートの運動の歴史を示していることになります。また、火山列の曲がりは、その時期にプレートの運動方向が変化したことを意味しています。ホットスポットの軌跡は、プレート運動の復元にとって重要な情報となります。さらに、プレートテクトニクスという大地の運動のモデルにおいて、重要な根拠ともなりました。
 かつては、ホットスポットは、プレート運動の速度や方向(ベクトルといいます)を割り出すのに利用されていました。今では、超長基線電波干渉計、VLBI(Very Long Baseline Interferometer)という特殊な天体と電波望遠鏡を利用して、プレートの運動を実測できるようになりました。
 最近、ホットスポットがどうも固定されているわけではなく、移動しているということがわかってきました。それは、次回としましょう。

・新学期・
卒業式も終わりました。
大学の入試も終わりました。
職場の歓送迎会もおこなわれました。
新入生に対するガイダンスもはじまりました。
いよいよ大学も新学期を、迎えます。
でも、3月末は、いつも心がそわそわして
落ち着かなくなります。
そんな3月も、もう終わりです。

・研究・
今年の2月、3月は、研究において、
いろいろな学際的分野の基礎固めができました。
ただし、書くつもりの論文があったのですが、
いまだに途中なので、当初の予定をこなしていません。
まだ時間はあるので、継続して研究を進めるつもりです。
結果としては満足できるものではありませんが、
2ヶ月間は、充実した研究ができました。
あとは、身につけた基礎を活用して
研究を進めることですが、
これがなかなか大変なのです。

2013年3月21日木曜日

3_116 極限環境微生物 4:氷の天体

 氷の下の極限環境微生物を調べることによって、どんな科学的な展開が期待されるのでしょうか。そのような展望は、科学者の希望でもあります。ただそんな希望も、たったひとつの反例の発見で吹っ飛んでしまうのですが。

 南極の氷床の下に、氷底湖があることが、氷上の調査からわかっていました。古い時代にできた湖がそのまま保存されている可能性もあるし、非常に極限的な環境なので、今まで知られていない微生物がいる可能性もあります。そんな未知の氷底湖は、研究者の好奇心をくすぐるテーマとなります。
 昨年から、ロシア、アメリカ、イギリスの研究チームが、南極でそれぞれ別々の氷底湖への調査を競争をしていました。機先を制したのはアメリカのチームでした。真っ先にウィランズ湖に達し、生物を発見しています。その詳細が気になるところです。
 他の湖の調査も気になります。長らく違った環境に置かれると、生物は進化していくでしょう。それぞれの環境に応じた微生物の組み合わせ(群集といいます)になってくる可能性もあります。さらに、ロシアの狙っているボストーク湖は、非常に古い時代にできたようなので、生物種や生態が変わっているかもしれないので、興味深いものです。
 最後に、氷底湖でおこなう極限環境微生物の研究では、どのような展望が開けるか考えましょう。
 氷の下の冷たい水の中で暮らすということには、生物にとっては、大きなハンディになります。代謝が非常にゆっくりとしかおこなえない、栄養が極端に少ない、どうのように発生し、進化してきたのかなどの問題があります。
 代謝は化学反応ですから、低温では一般に反応は遅くなり、代謝も低下します。でも、深海や氷上、氷中の微生物が実際に見つかっているので、冷たいだけでは、特殊ではありますが、代謝が不可能ではなりことはわかっています。極限環境微生物は、栄養が少ないところでも、代謝がゆっくりと進むなら、なんとか耐えることができます。
 もっと重要な問題が指摘されています。氷底湖では、炭素の供給が非常に少ないという点です。生物は炭素を素材、栄養としています。氷底湖では物質循環がほとんど期待できないため、地下の岩石や底質などを利用していると考えられます。いずれにしても、非常に過酷な、極限環境になります。
 地球では、38億年前くらいには確実に存在していたという化石の証拠があります。生物発生については、まだ仮説ではありますが、化石という重要な事実があります。
 地球では、その後安定した環境(海と大気は存在し続けた)があったので、誕生した生物は、たっぷりと時間をかけて、多様な進化をとげました。そして、氷底湖の微生物へと特殊な進化も遂げました。
 地球では極限環境微生物が存在するという事実が、厳然としてあります。たとえいろいろな課題があったとしても、それは人智の及ばぬだけで、科学を進展させて解決していくしかありません。
 地球においては、氷底湖の微生物は、まさに極限環境微生物です。そんな極限環境は、南極や極地のほんの少ししかなく、地球生物の代表格にはなりません。ところが、地球外の天体では、普通の環境となるところもあります。例えば、木星や土星の衛星には、表面が氷で覆われた天体がいくつも見つかっています。氷の下に水がありそうな天体として、木星の衛星エウロパやカリスト、土星の衛星のエンケラドゥスやタイタンなどには、地下に水があるのではないかと考えられています。
 このような環境に、もし生物がいたとしたら、由来はともかく、氷底湖の生物の似た生活を強いられて、似た仕組みを持たなければ生きていけません。そんな生物の仕組みや生態を、氷底湖の生物の研究から推定できるかもしれないのです。
 他の衛星では、誕生の頃、天体自身がもっていた熱(重力エネルギーとよばれます)がありました。初期であれば、生物誕生や進化に必要なエネルギーの供給はなされたと思います。その後ある程度の時間、エネルギーが持続すれば、生物は多様に進化でき、氷の惑星になっても生きていける「タフさ」を持つに至ったでしょう。しかし、天体誕生後、短い時間で氷の惑星になってしまうと、生物が誕生できたとしても、進化が間に合わないかもしれません。「タフ」になるためには、時間をかけて進化し、多様性を持たなければなりません。「ひ弱い」状態の生物群であれば、極限環境を生き延びるのは困難かもしれません。
 まあ、これも常識的な考え、もしかしたら科学者の希望にすぎないのかもしれません。ひとつの事実が発見されれば、そんな考えはすずに覆されることになりす。

・春まだ浅く・
北海道は気温はだんだん暖かくなってきています。
確実に春に向かっています。
ぐしょぐしょの雪解け道を歩かなければなりません。
これがなかなかつらいものがあります。
しかし、まだ寒い日があったり、
雪が降る日もあります。
今週末にも、また雪が結構降りました。
今年の春は、まだまだ浅いようです。

・卒業式・
我が大学は、入試は終わりました。
そして今週は卒業シーズンです。
19日には大学の卒業式がありました。
なんと、長男と次男の卒業式も重なっています。
年度末と新年度にかけて今週以降、
慌ただしい日々が始まりそうです。

2013年3月14日木曜日

3_115 極限環境微生物 3:ウィランズ湖

 アメリカの研究チームが、氷底湖へのボーリングに成功しました。ロシアの調べていたボストーク湖とは別の氷底湖でした。速報ですが、微生物、多分、極限環境微生物になりそうな生物を発見しました。その様子を紹介します。

 前回は、昨年報告されたボストーク湖の調査の進行状態を紹介しました。極限環境微生物の有無については、まだ報告はなされていないようです。もうひとつ、今年になって重要な報告がなされました。南極の氷床下800mにあるウィランズ湖(Lake Whillans)での調査結果です。
 今年2月に、アメリカの研究チームが、ウィランズ湖でボーリングをして、湖の水や底の堆積物から、微生物を発見しというニュースが流れました。生物に関する詳細は、今後の研究を待たなければなりませんが。
 ボーリングはロシアの熱ドリルとは違って、熱水ドリルというものを用いて掘削されました。熱水ドリルとは、高温の水を出して氷に穴を開けていく装置で、一時間で50mから100mほど掘削できます。岩石の掘削と比べると、100倍近くのスピードで掘り進むことができます。実際にアメリカの研究チームは、800mを一日で掘ったそうです。熱水ボーリングの装置は、比較的小型、軽量で、氷であれば、どこでも簡単に掘削できるという利点もあります。でもなんといっても、水だけで掘り進むので、汚染が少ない点が重要です。
 800mを一日で堀り、試料回収に2日かかったそうです。穴が凍って塞がってしまう前に、非常に迅速に調査され、試料が回収されました。小規模の研究にみえますが、研究チームは50名からなるそうです。
 ボストーク湖の約4000mという氷の厚さに比べて、ウィランズ湖では800mの氷ですから、だいぶ浅くなります。ところが、800mもの氷が上にあると、光は全く届かない暗黒の世界になります。そして、0.5℃という冷たい水の中です。
 でも、そんな極限環境にも、生物がいたようです。研究チームは、多数の培養用の装置を持ち込んで、バクテリアや古細菌などを回収したようです。微生物の有無は、DNAに反応する染料でチェックしたところ、DNAの存在を示す緑色になったそうです。地表の生物の汚染が、かなり信憑性がありそうです。
 2月の初旬に南極のマクマード基地に帰ったばかりの研究者のインタビューで、そのニュースが世界に流れました。もしこの生物が本物であれば、南極の氷底湖としては、はじめての発見となります。
 今後は、研究室での調査となます。まずは、地表からの汚染、ボーリング時の汚染がなかったかをチェックされるはずです。汚染がないなら、どんな生物であるのかが調べられます。
 いろいろな疑問があります。こんな過酷なところにどうして生きていけるのか。栄養はどうしているのか。低温で代謝の反応が起こるのか。生態系として成立するのか・・・。疑問はあったとしても、そこに生態系があるという事実は動かしようがありません。われわれの科学が、まだ世界を充分把握していないということになります。極限環境微生物は、それを教えてくれる存在でもあります。

・競争・
氷底湖での生物探しは、実は激しい競争がありました。
ロシアは前回紹介したように、
ボストーク湖に昨年あけた穴から、
湖水のコアの回収作業が進めています。
イギリスの研究チームは、
ウィランズ湖より深いエルスワース湖で調査していましたが、
機材が不調で昨年12月に中止しています。
このような競争で最初に極限環境微生物を手にしたのは、
アメリカのチームでした。
本来研究は、好奇心で進めていくのですが、
巨大な設備や機材が必要になると、
国の膨大な研究費が必要になります。
研究費の獲得ために、世界で最初や一番などの
アピールポイントがないと、なかなか通りにくいのでしょう。
そのため、最初や一番がある研究テーマは競争になりがちです。
まあ、そのおかげで成果も早くでることにもなるのでしょうが。

・大荒れ・
北海道は先週末は大荒れでした。
その前の週末も車で遭難が起こるような
猛吹雪の大荒れでした。
3月とはいえ、まだまだ冬の空模様です。
今年の冬は一段と厳しいようです。
気候とかかわりなく、時は流れていて、
いろいろな行事は進行します。
大学では、入試も終盤になっています。
来週には卒業式があります。
荒れなければいいのですが。

2013年3月7日木曜日

3_114 極限環境微生物 2:ボストーク湖

 南極の深い氷の下にあるボストーク湖まで掘削がおこなわれました。ボストーク湖までに至る氷は、15年前に掘られたもので、地球の約40万年間の気候変動を記録していました。そして昨年、湖まで環境の汚染や検疫に配慮された掘削がされました。

 前回は、極限環境微生物の概要を紹介しました。最近、南極で極限環境微生物に関わるいくつかのニュースがありました。そのニュースを2つ紹介します。
 まず、2012年2月に、ロシアの研究チームが、ボストーク湖に到達したというニュースが流れました。しかし、この氷河の底の湖(氷底湖とよばれます)に達するまで、長い時間があり、配慮もなされました。なぜでしょうか。
 ボストーク湖は、南極のロシアのボストーク基地に近いところにあります。湖は、幅40km、長さ250kmもあり、琵琶湖の22倍ほどにもなる巨大なものです。氷床下、約4000mという深さにあります。そんな深いところに湖があるのが、どうしてわかったのでしょうか。それは、上空からの氷を透過できるレーダーによる探査でわかりました。その後人工地震による探査でも、湖の存在は、確認されています。
 この氷床では、1998年にロシア、フランス、アメリカの共同チームで、3628mまで氷が掘られました。氷には、42万年分の大気を閉じ込められていることがわかりました。その氷は、地球の過去の気候を復元するのに、大きな役割を果たしました。
 湖は42万年前の氷より120mも下にあるので、50万から100万年前に閉じ込められた可能性あり、また非常に古い時代の環境を保存している可能性もあります。コアの掘削による汚染を防ぐために、掘削は一旦ストップされました。
 氷底湖、それも非常に古く深い湖は、地表の環境とは明らかに違っています。温度も低く、水圧も高く、もちろん光が全くない世界です。まさに、極限環境です。そこに突然、地表に通じる穴があいたら、湖の環境は、大きな影響を受けます。もしかすると、湖が汚染されるかもしれません。その汚染によって、弱い微生物なら絶滅するかもしれません。逆にその微生物が、地表に出てくることがあったら、猛威を振るってしまう病原菌になるかもしれません。ですから、汚染と検疫の両方の意味から、実体がわかるまで、両環境の接触は可能な限り控えるべきです。
 通常はケロシンという不凍液をつかって掘削がされていくのですが、この度、汚染に配慮した掘削がされました。湖面の数mに近づいたときから、熱ドリルというものが使われました。ドリルの先端を電気で熱を発生して、掘り進むものです。湖に達したとたん、水がボーリングの穴を上昇してきたということです。この結果、少なくとも湖の中に、人工的なものは入らなかったと考えられています。
 上がってきた水は、穴の中ですぐに凍ってしまいます。氷の上には、地表からの物質が満たされています。これで汚染を防止し、隔離も同時にできました。次に、凍った氷を再度掘って回収すれば、凍っていますが「湖の水」が手に入ります。それを注意深く扱って調べれば、微生物の有無(生死は不明ですが)や、その種類や生態もわかるかもしれません。もし見つかれば、それは極限環境微生物となるはずです。その湖に生物が発見されたかどうかのニュースは、寡聞にてまだ知りません。
 ボストーク湖はとっても深く大きいものですが、南極の氷底湖は、145個以上も発見されています。その多数の氷底湖のひとつから、新たな報告がありました。そこには明らかに微生物が見つかっています。それは次回としましょう。

・破壊・
地球上の微生物は、弱く見えてもタフな面もあります。
タフだとかといって、乱暴に扱っていい
というわけではありませんが・・・
人は、かつては、新しい環境を新天地として、
自分たちの益にすることばかりを考えてきました。
つまり、新天地とは、搾取の対象でした。
しかし、近年では、環境やそこに住んでいるかもしれない
微生物への配慮ができるようになりました。
それは、人自身への検疫ともなります。
たとえ微生物がいかなったとしても、
それは無駄ではないはずです。
今まで人は、取り返しのつかない破壊を
一杯してきましたから。

・猛吹雪・
北海道は、先日の猛吹雪で、数名の犠牲者がでました。
特に車で雪に埋もれた人たちのニュースには驚きました。
我が家も激しい吹雪の中を夕食にでたのですが、
無事だったのは運が良かったのかもしれません。
異常事態に感じ、避ける感覚も大切なのでしょうね。
数年前にも、近くの道で何台もの車が
雪に埋もれるということがありました。
その道は時々通る道なので、
まさかあそこでという思いもありました。
今回の犠牲もそんな場所でしょう。
自然の猛威を思い起こさせられました。