2013年12月26日木曜日

3_122 本源マグマ 3:不混和

 2つのマグマが混じり合わずに混在するという現象は、考えにくいかもしれません。水と油を想像するとわかりやすいと思いますが、液体でも交じり合わないことがありえます。そのような現象が、本源マグマに発見されました。

 いくつかのマグマ系列があることを、前回、紹介しました。そのスタートとなるマグマは、本源マグマや初生マグマと呼ばれています。本源マグマは、起源物質からできて変化してないものです。起源物質の代表的なものは、マントルのカンラン岩になります。ですから、カンラン岩が溶けてできるマグマが、本源マグマとなることが多くなるはずです。
 ところが、本源マグマが、地表に噴出することは少ないようです。マグマがマントルできて、上昇してきて、そのまま噴火することはありません。
 できたてのマグマは、周りのマントルと比べて密度が小さいので、浮いき(上昇し)ます。マントルから地殻の中を上昇していくと、周りの圧力や温度も下がり、マグマの状態も変化して、周りの岩石とマグマの密度が釣り合うところに達します。そこにマグマだまりができます。つぎつぎと連続的にマグマが上昇してきて蓄積しています。圧力が増してきて、やがで地表に向かって噴火します。
 地表に噴火したマグマは、本源マグマとは変わっていす。まず、マグマ溜まりへの上昇中に、温度・圧力が下がると、本源マグマの中に結晶ができます。そのとき結晶分化作用が起こります。また、マグマ溜まりでも結晶ができ分化します。つまり、本源マグマ、地下深部から地表に来るまでに、いろいろなところで結晶分化をして変化していると考えられるのです。
 本源マグマは、マントル付近のできる場所には存在するのかもしれませんが、実際に地表では、その存在を確認できない想定上のものでもあります。研究者も、本源マグマを手にできず、苦労していました。苦肉の策として、マントルの岩石を高温・高圧にして溶かして、本源マグマを実験的につくるという方法で調べていました。現実のマグマは手にできないからです。
 ところが、今年の11月に本源マグマを発見したという報告がでました。「Journal of Petrology」(岩石学雑誌)の電子版に掲載されたものです。独立行政法人海洋研究開発機構の田村芳彦さんたちが報告しました。報告の題名は、

Mission Immiscible: Distinct subduction components generate two primary magmas of Pagan Volcano, Mariana arc
ミッション・イミッシブル:顕著な沈み込み成分がマリアナ弧、パガン火山の2つの初生マグマを形成する

というものです。
 田村さんは、自分の説を「ミッション・イミッシブル仮説」と呼んでいます。もちろん、映画の「ミッション・インポッシブル」をもじっています。イミッシブル(immiscible)とは、「不混和」と呼ばれる現象です。
 「不混和」とは、一つのマグマ溜まりに、交じり合わないで2種類のマグマが共存しているものをいいます。珍しい現象ではなく、時々起こっていることが知られています。軽石などに、白っぽいものと黒っぽいものとが縞状になっているものがみつかることがあります。噴火とき、2種類(色が違う)の混じらないマグマが、そのままの吹き飛ばされて固まったものです。これは、種類の違ったマグマが、混じることなく、マグマ溜まりに存在していたことを示しています。マグマの不混和現象の証拠だと考えられています。
 このようなマグマの不混和は、稀なことではなく、マグマ溜まりでは時々起こっていることが知られています。マグマの不混和現象と本源マグマが、どのような関係にあるのでしょうか。それは、次回としましょう。

・イミッシブル仮説・
Journal of Petrologyは
岩石学で権威ある雑誌になります。
そのような雑誌に、
映画のタイトルをもじったものをつけるのは
なかなか勇気のいることではなかったかと考えます。
タイトルだけはなく本文中でも
Mission Inevitable 避けられないミッション
Invisible phase 見えない相
などという用語も使って説明しています。
ミッション・イミッシブル仮説は
可能なことでしょうか。
不可能(インポッシブル)でないことを願っています。

・今年最後のエッセイ・
いよいよ今年最後のエッセイとなりました。
次回のエッセイは、新年1月2日の発行になります。
このエッセイが、まだ続くので、
淡々と続けて書くことも考えられます。
あるいは、新年用のエッセイを書くこともありでしょう。
どうするかは、まだ決めていません。
来年のことは、来年、考えましょう。
それでは、皆さんよいお年を。

2013年12月19日木曜日

3_121 本源マグマ 2:結晶分化作用

 火成岩の多様性をつくる要因を探りました。それらの要因から生まれる多様性は、現実の岩石で多様性を越えています。一番大きく働いている要因は、結晶分化作用のようです。

 マグマの多様性を生み出す話しをしています。多様性を生み出す要因として、前回、起源物質、溶融作用、結晶分別作用というものがあることを紹介ました。要因にすると単純になりますが、それぞれの要因が、条件をいろいろ変動すれば、非常に大きな多様性を生み出せます。
 例えば、起源物質では、その候補として、マントルの岩石(カンラン岩)だけであれば比較的単純な鉱物の組み合わせのものになります。しかし、地殻深部が起源物質になると、複雑になります。地殻は、多様な既存の岩石からできていることがわかっています。非常に複雑な起源物質が候補になりえます。それを限定できないと、どのような多様性を生むかは推定できません。実際には、地表でみられる要因が働いた結果の岩石から、起源物質の情報は断片的にしか読み取れません。なぜなら、溶融作用や結晶分化作用を経てマグマは変化し、そのマグマから岩石ができいるからです。
 上で述べたように起源物質という多様性を生む要因はあるのですが、実際の火成岩をみると、どうもその効果はあまり大きくないようです。似た環境、似た条件では、似たマグマができることがわります。岩石は、それらのマグマから、結晶分化作用によって生まれる多様性の範疇におさまってしまいそうです。となると、ある地質条件の場所では、どこでも一様なマグマが形成され、そのマグマから結晶分化作用によって、多様性が生まれるというメカニズムがありそうです。
 結晶分化のスタートとなるマグマの種類が、それほど多くないことになります。つまり、起源物質や溶融作用の効果は、火成岩の多様性に、それほど大きな効果はなく、似た地質環境では、似たようなマグマができることになります。 以上のことから、火成岩の多様性においてマグマの結晶分化作用が、現実に大きな役割を果たしていそうだと推定できます。結晶分化作用とは、結晶が晶出することによって、マグマが化学組成の変化をしていき、多様な火成岩を生むというメカニズムです。これらの一連のマグマの変化は、マグマ系列と呼ばれています。
 マグマ系列は、海洋底の火成岩である中央海嶺玄武岩(Mid-Oceanic Ridge Basalt:MORBと略されます)のソレアイト系列や大陸や海洋島の火山でみられるアルカリ岩系列、日本列島に特徴的にみられるカルクアルカリ系列などが代表的なものです。他にもマグマ系列はありますが、多様な火成岩が、いくつかのマグマ系列で代表されるという、単純な図式があるということになります。いく種類かのマグマから、多様な火成岩が形成されることになります。ある限られた種類のマグマ(本源マグマあるいは初生マグマといいます)があると推定されます。
 では、そのいく種類からの本源マグマは、どのようにしてできたのでしょうか。それは地表に噴出して、手にできるものなでしょうか。それがなかなか厄介な問題となります。詳細は次回にしましょう。

・起源物質・
起源物質は、実際には手にできない
地下深部に存在するものです。
それは、科学的に推定するしかありません。
私は、かつてマグマの起源物質を調べていました。
いくつかの方法があるのですが、
私は、同位体組成を用いて調べていました。
素材としていたのは、マントル由来の火成岩でしたが、
同位体組成を調べると、
どのような履歴のマントルであったのかを
推定することができます。
今思えば、遠い昔のような気分ですが。

・忘年会・
いよいよ12月も押し詰まってきました。
子供達は今週で学校が冬休みです。
大学は、25日までです。
私は、4年生の卒業研究の発表会の
予行演習につきあいます。
発表会は1月ですが、
プレゼンテーションの準備ができていれば、
彼らも安心して暮と正月を迎えられるでしょう。
毎年私のゼミではこの予行演習を行なっています。
その後は、忘年会をします。
3年生とは、同日の昼間にやることになりました。
大学内でノンアルコールの昼食会です。

2013年12月12日木曜日

3_120 本源マグマ 1:火成岩の多様性

 大きな多様性が、少ない要素で説明できれば、その要素は多様性の本質に迫っていることになります。しかし、その要素が現実の多様性より広いものを説明しているとしたら、要素をもっと厳選すべきかもしれません。

 マグマは、地下深部で岩石が溶けたものをいいます。マグマが固まったものが火成岩となります。岩石の成因として、火成岩のほかに、変成岩と堆積岩があります。
 陸地に分布する岩石の種類を区分すると、65%が火成岩になり、27%が変成岩、8%が堆積岩となっています。これを地殻全体に敷衍していいかどうかは慎重にすべきでしょう。例えば、海洋地殻は、表層には生物の死骸が降り積もってできた堆積岩に覆われていますが、表層より下の海洋地殻の大部分は火成岩でできていることが知られています。大陸は上から降り積もる堆積岩はないため、地下まで上記の比率が利用できると考えられています。大陸だけでなく海洋も考えると、地球全体の地殻は、圧倒的に火成岩が多いといえそうです。
 火成岩は、マグマが固まったもので、火成岩の起源をさぐれることは、マグマの起源をさぐることになり、地球の種たる岩石の起源を探ることになります。起源の探求は、火成岩の研究において重要なテーマとなっています。
 火成岩の種類は非常に多様です。その多様な種類に対応するマグマがあったはず。それを網羅的に知るには、火成岩の研究のネタは尽きることはなさそうです。
 もし、あるいく種類かのマグマが、性質を変化をしながら、多様な火成岩をつくりだすのであれば、そのメカニズムを解明すれば、火成岩の起源は解決してしまいます。となれば、研究テーマが尽きるかもしれません。
 多様性形成のメカニズムの解明は、火成岩岩石学の研究テーマですが、その概略は、実はわかっています。
 マグマを生み出す素材(起源物質と呼びます)となる岩石の種類、マグマが溶けるときに起こる溶融作用、そしてマグマが固まるときに起こる結晶分別作用が重要な役割を果たします。
 起源物質の種類が違えば、それが溶けてできるマグマも違ったものなるはずです。起源物質の多様性を見極めれば溶融作用とは、マグマの溶け方で、起源物質がどのように、どの程度が溶けるのか、によってできるマグマも違ってきます。
 マグマが固まる時、いくつかの結晶ができて、沈降や浮遊していきます。するとその結晶は、マグマが分かれて(分別あるいは分化といいます)いきます。分別した結晶の分だけ、マグマの化学組成は変化していきます。分別作用が継続すると、マグマの成分の変化により結晶の種類が変わり、結晶の種類が変わるとマグマの組成変化の方向を変わります。結晶分別作用では、マグマが固まるまで起こり続ける作用です。
 これらの要因が組み合わされることによって、火成岩の多様性ができています。これらの要因から生まれる多様性の範囲は、非常に広いものです。実際の岩石にはないほどの広がりがあります。十分すぎるほどの広がりがありますが、現実の火成岩には、そこまでの多様性はないようです。そうなると、現実のマグマあるいは火成岩において、どの要因が主として多様性を生み出しているか、を見極めていく必要があります。
 それは、次回としましょう。

・研究のスパイラル・
多様性を多様なままとらえることも必要です。
それが個別の記載となります。
個別の記載がある程度集まってくると
多様性を生み出す仕組みを考えていくことになります。
より普遍的な要因を求めることになります。
多くの研究者がそれを目指しテーマでもあります。
要因がわかると、それを個別の自然に適用していきます。
そのようなチェックが進むと、
要因があっているか、間違っているか、
あるいは今回紹介したように、
どの要因が一番効くのかが興味となります。
こんなスパイラル、あるいはループが研究を深めていきます。

・いったりきたりの季節・
冬だと思っていたのに、
先日雨が降りました。
冷たい雨で、道路の氷があまり溶けることなく
滑りやすくなっていました。
歩くのが怖くなるような道路状況でした。
今年は、季節がいったりきたりします。
でも、冬の寒さは来ていますが。

2013年12月5日木曜日

6_118 かぐや 2:プロセラルム盆地

 月の表側(地球に面している方)の黒っぽい部分(海と呼ばれる)ところは、大きな衝突でできたもののようです。月の表側にだけ黒っぽい部分が多いという謎は、一度の巨大な隕石の衝突によるものなら、なんとなく納得できそうです。

 「かぐや」は日本が打ち上げた月探査用の人工衛星で、2007年から2009年にかけて、2年間弱にわたって調査をしました。「かぐや」は、大量の観測データを取得しました。その解析は現在もなされていて、成果も出されています。そんな成果として、前回紹介している月の表のクレータの謎を解き明かしました。
 月の表(地球から見える側)は、黒っぽいところ(海と呼ばれています)と白っぽいところ(高地)が織りなす模様があります。黒っぽい海は、白っぽい高地より新しい時代に形成された、衝突によるクレーターの跡であることがわかっています。海は、衝突によって引き起こされた火山活動で、玄武岩のマグマが噴出して、月面を覆ったものです。さらに、海は高地と比べて、地殻も薄く、化学成分だけでなく放射性元素も違っていることもわかっています。
 海をつくった衝突が、なぜ、地球側に集中しているかが、謎でした。本来なら地球の陰にあたり、衝突の影響が減るはずです。なのに多いのは不思議なことです。
 産業技術総合研究所の中村良介さんたちのグループは、クレーターの起源を解明しました。「かぐや」が得た約7000万地点、200億点以上の可視赤外線反射率スペクトルちうデータを解析した結果でした。
 可視赤外線反射率スペクトルの解析とは、月の表面から反射する光(可視光から赤外線の範囲)の反射の光(電磁波)を用いて、波長ごとの特性から、その地点が、どのような鉱物からできているかを調べました。月を構成している岩石の主要鉱物であるカンラン石、斜長石、高カルシウム輝石、低カルシウム輝石を見分けることができ、その量も推定できます。
 衝突の衝撃によってマントルまで溶けた岩石では、低カルシウム輝石ができることがわかっています。その分布を、「かぐや」の膨大なデータから調べました。低カルシウム輝石の多いところ(20%以上含む)は、いくつかの場所に集まっていました。
 一つは、月の裏側の南極周辺にある「南極エイトケン盆地(直径約2500km)」と呼ばれる部分に広く散らばって分布しています。もう一つは、雨の海の周縁に低カルシウム輝石が多く分布しています。さらに、雨の海を含むプロセラルム盆地とよばれるところに広く分布することがわかりました。
 プロセラルム盆地は、雨の海を含み、その周辺に分布する、表側の黒っぽい部分です。直径3000kmの広さをもっています。プロセラルム盆地は、月の表の黒っぽい部分のほとんどを含んでしまうほどの大きさです。うさぎの模様でいうと、耳以外のうさぎの体と臼もふくめた部分にあたります。非常の拾い範囲となります。
 かつて、月の表側に海が多い理由として、月の表のクレーターは巨大な衝突で形成されたという仮説がありました。しかし、証拠がなく、仮説のままでした。
 今回、中村さんたちが、鉱物の分布から、雨の海を中心とするプロセラルム盆地が、衝突の範囲であり、衝突の結果、飛び散ったものの形も示しました。
 直径3000kmもの衝突クレーターをつくるには、径が300kmもある隕石が衝突した考えられます。非常に大きな衝突です。重要なことは、一度の衝突によってできたのであれば、海の分布の不均質さが説明できます。衝突が一回であれば、月のどこにあたっても不思議ではありません。
 同じ理屈で、南極エイトケン盆地も衝突の可能性があります。黒っぽいクレーターは、あまりみられません。ここでは、玄武岩を噴出するようなマグマの活動は引き起こされなかったことになります。当たる角度は衝突の様子の違いによるものかはわかりませんが、こちらは南極付近ですが裏側での衝突です。
 月の裏と表の違いの謎は、どうやら大きな一度の衝突のせいだということになりそうです。月の形成にまつわる衝突は地球を巻き込んだものですが、プロセラルム盆地は月だけの衝突です。でも、本当に地球には影響がなかったのでしょうか。気になるとこです。

・嵐の盆地・
プロセラルムとは、ラテン語で「嵐」という意味です。
「嵐の海」という地形があります。
月では一番大きな海の地形です。
嵐の海を含む盆地のことを、プロセラルム盆地と呼んでいます。
プロセラルム盆地は、日本語にすると嵐の盆地となります。
うさぎの模様でいうと
足から胴にかけての部分にあたります。

・冬本番・
12月になり、北海道は雪になりました。
わが町にも、除雪が今シーズンはめて入りました。
湿った重たい雪で、除雪が大変です。
平日の除雪は、家内の役割です。
私は雪の中を歩いてきました。
もう、クツも冬仕様となりました。
いよいよ冬も本番となりました。

・二度とできない経験・
今、4年生は卒業研究の追い込みの真っ最中です。
皆、苦労しながら、取り組んでいます。
大変さに負けてしまいそうな学生もいますが、
その大変さを乗り越えれば、
きっと大きな達成感、満足感など
言葉に表せないような経験ができるはずです。
2年かけて取り組んできた研究の集大成です。
二度とできない経験をしてもらいたいものです。

2013年11月28日木曜日

6_117 かぐや 1:裏と表

(2013.11.28)
 月の裏と表の違いは、黒っぽい部分の有無です。黒っぽい部分は、表にのみあります。その黒っぽい部分が、どうしてできたのでしょうか。日本の月探査衛星「かぐや」のデータから、その成因がわかってきました。

 地球の衛星の月には、裏と表があります。地球から見えるほうが表で、見えない方が裏となります。地球が自転し、月は地球の周りを公転しながら、月自身も自転しています。ですから、地球から見れば、本来なら月の裏も表も見えるべきものです。ところが、月は常に表側を地球に向けています。その理由は、月の自転と公転は同期しているためです。同期とは、月の自転と公転が一致しているということです。月が1回公転するとき、自転も1回します。その結果、地球に常に同じ側を向けていることになります。その原因が一種の共鳴現象ではないかと考えられています。
 地球から月の表しか見えないので、裏側がどうなっているかは謎でした。明らかになったのは、1959年でした。旧ソ連の月探査機(ルナ3号)は、月を半周して地球に戻るというコースで飛びました。その時、月の裏側の撮影をしました。地球に向かう途中に、ルナ3号は、不鮮明ながら17枚分の撮影データを送ってきました。これが、人類がはじめて見た月の裏の様子でした。その後、多くの無人探査機やアポロ計画なので、月は詳しく調べられるようになりました。
 その結果、月の裏は表とは全く違った様相であることがわかりました。表側は、黒っぽところと白っぽいところが入り乱れたつくりになっています。黒っぽのところが、日本人には、餅をつくうさぎに見えます。月の模様として、各地でいろいろな物語がつくられました。
 黒っぽいところは、新しい岩石からできていて「海」とよばれています。岩石は玄武岩で、マグマが地表(月面)に噴出した火山岩でした。新しいというのは、クレーターの数による年代推定からもわかっていましたが、アポロによる玄武岩の年代測定で決定できました。
 一方、裏側は、白っぽいところだけしかありません。地形もやや高いことから、「高地」と呼ばれています。月の裏側は、高地だけからできています。高地には、多数のクレータが形成されています。ですから、玄武岩より、古い時代に形成された岩石からできていることになります。斜長岩(アノーソサイト)とよばれる、特殊な岩石からできています。斜長岩は、特殊な条件でできるマグマからできた深成岩です。黒っぽいところとは、かなり違った性質や時代を持っています。海と高地の成因は大きく違っているはずです。
 では、月の裏(玄武岩)と表(斜長岩)の起源は、どのようなものでしょうか。表には玄武岩の海がいくつもあることは、大きな何度も大きな隕石の衝突があったことになります。表は、地球を向いているのですから、地球を盾にしている状態ですので。裏に大きな衝突跡があるべきなのに、表にあるのはなぜでしょうか。少々、辻褄があわない気がします。
 その矛盾を説明する考えとして、一度の衝突でできたという考えがあります。日本の月探査機「かぐや」のデータが活用されています。その内容は、次回としましょう。

・かぐや・
かぐやは、2007年9月14日に打ち上げられた
日本の月探査機です。
月周回軌道に達した後、2機の衛星を分離して
高度100kmの月の周回軌道で観測しました。
約1年半にわたり、さまざまな観測をしました。
2009年6月にかぐやは、
月面に落下させられ、役目を終えました。
かぐやの得たデータは、今も活用されています。
その成果が今回、紹介するエッセイでもあります。

・かぐや姫・
高畑勲監督の「かぐや姫の物語」が封切りされました。
私はまだ見ていませんが、大作のようです。
日本人は、子供の頃から
かぐや姫の話しを聞いて育ってきました。
月は身近な存在となっているはずですが、
月を見る機会はあるでしょうか。
私は、早朝歩いて大学に通っていますので、
朝の月はよく見ます。
また、北海道の冬は日が短いので、
夕方にも月を見ることがあります。
私は、夜の付きではなく、朝と夕方の月を見ています。

2013年11月21日木曜日

2_121 最古の有性生殖 2:アワフキムシ

 アワフキムシの交尾中の化石が見つかりました。最古の交尾化石としてニュースになりました。その化石を見つけるために、大量の化石が処理されました。その処理の中で、研究は深まっていきます。

 前回、生物の生殖戦略として、無性生殖と有性生殖があるということを紹介しました。動物や植物などは有性生殖をし、単細胞生物の多くは無性生殖をします。いずれの生殖方法も、生物の生存戦略として成功しています。
 今回、紹介しているのは、昆虫で有性生殖している状態の化石が、みつかったというものでした。昆虫の種類は、アワフキムシというもので、現在もその子孫がいます。現在生きているアワフキムシの子孫の交尾姿勢は、化石の交尾状態と同じでした。非常によく保存された化石で、交尾器の状態まで詳しく観察することができました。
 これまで昆虫の交尾の確認されている化石が、33例あるそうです。その多くはコハクの中に閉じ込められたものです。昆虫の種類は、ホタルや蚊、ウンカ、ヨコバイ、アメンボ、ミツバチ、アリなどです。今回のアワフキムシの化石は、コハクではなく、火山灰の中から見つかっています。これが新しい特徴でもあります。
 北京の大学のドン・レン(Dong Ren)博士たちは、化石コレクションを用いて研究をしました。内モンゴルから発見された化石のコレクションで、20万個ほどの昆虫化石の標本のうち1200個以上のアワフキムシ標本がありました。それらを網羅的に研究しました。そして、今回の交尾中の化石が見つかったのです。
 交尾中の化石は、中国東北部の内モンゴル自治区に分布する1億6500万年前(中期ジュラ紀)に形成されたジューロンシャン層(Jiulongshan)から見つかりました。交尾中の化石としては、最古のものでした。
 ドン・レンらは、アワフキムシのオスとメス、200標本の交尾器を観察しています。大量の標本を調査したメリットとして、オスとメスの交尾器がよくわかった状態で、交尾の様子も検証できます。
 化石から、アワフキムシは、植物に停まりながらオスとメスが向かい合って、柔軟性のある腹部を合わせて交尾していたようです。そこに火山灰が激しく降ってきて、そのまま生き埋めになったようです。
 昆虫にとっては、やっとペアが見つかり交尾にいたった至福の瞬間に訪れた突然の死でした。子孫が残せるはずが、実現できずに、昆虫のペアにとっては、不幸であった違いありません。しかし、多数の標本を調べて、やっと交尾状態の標本を見つけた研究者にとっては、幸運であったはずです。「他人の不幸は蜜の味」なのでしょうか。

・秘事・
交尾の生物の営みとして重要な生態となります。
博物館の知り合いに、
ある種の昆虫の生態を調べているTa学芸員がいました。
彼は、昆虫の交尾中の瞬間が重要だといって
よく写真撮影をしていました。
形態の違ったオスとメスが交尾しているときは
同種だと判定できる重要な瞬間でもあります。
昆虫の雌雄や種区分の判定には、
解剖して、交尾器を出して顕微鏡で観察して研究していました。
生態や生物学的研究では、
交尾器が重要な役割をしています。
交尾は昆虫であろうと
秘事を覗くような淫靡な気配が漂います。
でも、研究は淡々と進めるべきでしょうね。

・冬の到来・
先週の大雪も一気に溶けました。
そして、雨となりました。
初雪としては、10月に札幌の山並みで見ており
例年どおりでしょうか。
急に寒くなったかと思うと、
すぐに暖かくなったりしました。
寒暖の変化の激しさが、
今年の天候の特徴でしょうか。
行きつ戻りつしながら、冬が訪れます。

2013年11月14日木曜日

2_120 最古の有性生殖 1:生殖戦略

 最近、昆虫の交尾中の化石が見つかり、ニュースになりました。初めての例ではないですが、このような化石の写真を見るのは、私は初めてでしたので、驚きました。今回は、交尾の化石の意味するところを紹介していきましょう。

 先日、交尾したまま化石がみつかり話題になりました。私も、この論文の写真をみて驚きました。このような化石は、可能性としてはあるでしょうが、非常に稀なはずです。その上この化石は、非常に鮮明に交接の状況が保存されています。
 この論文の写真は非常に衝撃があったようで、いくつかの科学ニュース誌で取り上げられました。「最古のセックス」というタイトルをつけて、少々センセーショナルに報じたものもありました。
 生物学的に「セックス」とは、生殖行為のことで、雌雄が交接することをいいます。雌雄が生殖をするのは、子孫を残すために不可欠な行為です。雌雄で子孫を残す方法は、有性生殖と呼ばれます。
 生物に雌雄の性別があるのは、いろいろなメリット、デメリットがあります。
 まずデメリットは、少なくとも雌雄の2匹がいないと子孫が残せないということです。どちらか一方では子孫は残せません。雌雄が常に一緒にいれば、出会いに関する問題が解消されますが、通常はばらばらに暮らしていています。生殖時に、雌雄がお互いを見つけて交尾します。相手を探すための仕組みが必要となります。
 相手を見つけるために、鳥はさえずり、セミは鳴き、蛍は光り、蛾はフェロモンをだし、カゲロウは大量発生します。種によっては、生殖にのみを目的としているかのような、不思議な生き方をしているものもいます。
 また、相手を探す時や交尾中は無防備なることも多く、危険の多い行動となります。つまり、有性生殖には、生殖に多大な労力を費やし、危険を背負わなければなりません。
 一方、メリットとしては、雌雄で半分ずつの遺伝子が子に伝わるので、遺伝上の多様性をつくりやすくなります。これが最大のメリットといえるでしょう。子は、親の雌雄から半分ずつ遺伝子を受け継ぎますので、片方の親と遺伝子の半分は同じですが、半分は違っています。遺伝子の交換により、子孫に進化を促すという機能が組み込まれています。複雑な体制や機能を持つ雌雄のある生物は、長生きをするものが多く、進化のスピードは遅くなります。進化の速度を上げる方法として、有性生殖は有効な戦略となったのでしょう。
 自然界には優勢生殖をとる種が多数い、後述の無誠意生殖よりあとにでてきました。そこには、生存戦略上、有利な点があったからです。それは、有害な突然変異を減らす仕組みが働くためだと考えられています。
 有性生殖するために、染色体を半分にする減数分裂がおこり、精子や卵子などの配偶子ができます。配偶子の形成、あるいは生殖時に、有害な変異をもつものは、淘汰されることが多くなり、安全率の高くする生殖になるというものです。
 有性生殖はメリット、デメリットがあり、どのような戦略を取るかによってその割合は違ってきます。今後の繁栄や衰退は不明ですが、少なくとも現在生きている種は、生存戦略上は成功者であるはずです。
 有性生殖に対して、一匹で子孫を残す方法もあり、無性生殖といいます。一つの個体が二つに分裂して増える方法です。同じ遺伝子のコピーをするだけなので、条件さえ整えば、簡単に増えることができます。生殖活動にかかわる労力は、有性生殖に比べて少なくてすみます。非常に単純で有効な子孫を残すシステムでもあります。
 もし増殖中に、ミスコピー(突然変異)が生じたら、以降の個体はすべてそのミスコピーのまま複製されていきます。突然変異がその種にとって不利なものであれば、種の縮小や絶滅を引き起こします。突然変異が有利なものであれば、その個体の進化を促進します。突然変異は諸刃の刃として、進化の手段として組み込まれています。ただし、偶然に頼った進化戦略といえます。でも、生き残っている種が多数いることから、成功している戦略といえます。
 次回は、化石の話しをしていきましょう。

・化石の画像・
インターネットが見れる環境であれば、
次の論文の写真をみてください。
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0078188
なかなか感動的な化石であることがわかるはずです。
よく保存されていたなあと、感心してしまいます。
横向きに交尾状態のまま埋もれたようです。
なぜこのような化石が残ったかは次回紹介しますが、
インパクトのある化石です。

・冬到来・
北海道は週末からの寒波で
一気に真冬の様相になりました。
一面、雪景色です。
場所によっては除雪車が、早くも出動となりました。
根雪ではなく、すぐに溶けるでしょうが、
多くの車はスタットレスに履き替えたことでしょう。
我が家も、急遽、冬のタイヤに変えました。
久しぶりの冬道なので、
みんなゆっくりと走っています。
北国は、冬、到来です。

2013年11月7日木曜日

1_121 日本の隕石衝突 3:さらなる研究を

 日本の隕石衝突の発見は、もしかすると白亜期末のK-Pg境界と同等の異変を起こしていた可能性があります。その異変は、衝突が火山かというK-Pg境界で起きたのと同じような論争が、起こるかもしれません。

 日本の隕石衝突の証拠は、世界規模で起こったらしいことがわかってきました。地層の厚さと元素の濃集程度から、隕石の大きさや重さが推定できます。佐藤さんらの見積もりによると、直径は8km~3.3km(2箇所のデータを使ったもの)、重さは約5000億トンとされています。恐竜の絶滅を起こしたK-Pg境界の隕石が直径14~6.6kmだったので、それに次ぐサイズとなります。このようなサイズの衝突があれば、地球規模の異変が起こるはずです。
 衝突は、三畳紀後期(2億年前~2億3700万年前)の2億1500万年前に起こりました。衝突の時期に対応しそうなクレータとして、カナダのマニコーガンクレータ(Manicouagan Crater)があります。マニコーガンクレータは、現在地球で見つかっているものでは二番目の大きいものです。クレータの直径が100kmで、衝突の時代が2億1500万年前で、衝突の証拠と一致しています。
 2億1500万年前ころの絶滅にかかわる異変として、ノール期からレート期の生物入れ替え事件(Norian-to-Rhaetian biotic turnover events)と呼ばれているものがあります。この事件では、哺乳類型爬虫類が絶滅しました。その後、哺乳類が新しくでてきます。哺乳類型爬虫類にかわって地表を支配したのは、哺乳類はなく、恐竜の仲間でした。恐竜たちが、多様化をしていきます。以降、中生代は、恐竜の大繁栄の時代となります。
 今まで、この絶滅をおこした原因として考えられていたのは、中央大西洋で起こった火山活動(Central Atlantic Magmatic Province)で、大量の玄武岩の噴出による火山説が有力でした。
 今後、火山か衝突のどちらが絶滅を起こしたのか、議論がはじまるでしょう。K-Pg境界でも同じような論争がありました。その再現になるでしょうか。それともあっさりと結論がでるでしょうか。
 K-Pg境界の教訓から、打開策として、年代決定を正確にすること(同位体年代学が答えを出すべき課題)、絶滅の時期を厳密に決めること(古生物学)、関連する証拠をもっと探すこと(地質学全般)などで、決着をみました。つまりは、いろいろな分野で、さらなる研究の進展が必要だということになります。
 今回の報告者の佐藤さんは、まだ若い研究者です。今回の論文の発表に至るまでの、非常に臨場感のあるエッセイが公開されています。もし興味ある方は、
コラム:「日本からみつかった巨大隕石衝突の証拠」発表までの道のり
http://www.geosociety.jp/faq/content0477.html
をご覧になららればと思います。

・若き研究者・
佐藤さんのエッセイを読んで、
自分の若い頃を思い出しました。
もちろん佐藤さんような
インパクトのある報告はできませんでしたが。
遮二無二研究に励んだ時期があり、
そのころの大変さと充実感が思い出されます。
佐藤さんは、まだ博士課程の2年生です。
若いのに、このような話題なる報告をされました。
大変な苦労の末、達成された今回の報告です。
まだまだスタートしたばかりの研究者です。
今後の活躍に期待したいものです。

・冬近し・
北海道は一気に紅葉が進み、
木々は葉をどんどん落としています。
先日の肌寒い日には、
ミゾレが降ってきて驚きました。
山には何度か積雪がありました。
里でも初雪も近そうです。
雪の話題を聞くと、
車のタイヤをいつ冬タイヤに変えるかと、
悩む時期となります。

2013年10月31日木曜日

1_120 日本の隕石衝突 3:地球規模

 日本の衝突の証拠は、岐阜と大分の2ヶ所から見つかりました。層状チャートの間にある泥岩には、重要な地質学的意義があることがわかります。この衝突現象が地球規模で起こった出来事であったということでした。

 前回のエッセイで、佐藤さんたちは、日本にある同時期に形成された2ヶ所の地層から、オスミウムなどの成分を証拠として、衝突があったことを示したことを紹介ました。ここでいう「同時期」と「2ヶ所の地層」には、実は地質学的に重要な意味があります。
 離れた二つの地層からの発見であっても、時代が違うと別々の事件となります。ですから同じ事件によるものだとするためには、同時性を保証しなければなりません。報告では、化石群の対比によって同じ時代であったとしています。厳密には数百年も違えば(化石年代ではこの精度はありません)、事件の関連は不明になります。同時を証明することはなかなか困難ですが、ほぼ同時期と判断していいほどの精度はあります。また層状チャートの中にある厚めの泥岩という特徴も一致しています。このようなめったに起こらない異変が、似た時期に二度も起こるとは考えにくいものです。ですから、同じ異変と考えていいでしょう。
 また、2ヶ所から見つかったといいましたが、岐阜県と大分県です。同じ日本ですが、700kmほども離れています。しかし、700kmは地球の円周4万kmと比べると狭い範囲で、せいぜい日本の一地域の局所的なものとみなしてもいい出来事かもしれません。
 ところが、このチャート層は、現在の場の形成されたのではなく、付加作用によって日本列島に付加したもので、もともとは海洋底でたまったものなのです。
 当時の海洋は、パンサラッサ海と呼ばれる1つの大きな海洋があり、大陸もパンゲア超大陸が1つだけの状態でした。パンゲア超大陸は、地球の北半球から南半球まで南北に長く延びていました。大陸は地球表層の3分の1ですから、あとの3分の2は、広くパンサラッサ海が広がっていたことになります。
 日本で見られるチャートは、大きなパンサラッサ海の赤道付近、つまり海洋の真ん中で堆積したと考えられます。その広い赤道付近の海洋の2地点で衝突の証拠があったことになります。隕石の衝突がどこで起こったかはっきりとはしませんが、陸地だとすると、海洋まで達した全地球的出来事であったといえます。
 さらに、チャートの間にたまった厚い泥岩には、もう一つ重要な意味があります。チャートは海洋表面で暮らしているプランクトンが死んで海底に沈んだ遺骸が、石化したものです。プランクトンが何らかの原因で一時的に絶滅すると、その間はチャートの素材はなくなります。陸から風や海流によってもらせる細粒の泥が溜まります。その堆積速度は非常に遅いものです。層状チャートの間に層の境界には泥の層が多数みられます。ですから、小規模の絶滅は頻繁に起こっていたことがわかります。しかし、厚い泥岩はまれで、大規模な絶滅事件があったことを意味します。
 また、泥岩の中には、球顆(スフェルール)もあったことから、破片が海洋の真ん中まで飛んでくるような、大規模な隕石衝突であったことを意味します。
 今回の2ヶ所で見つかった衝突の証拠は、実は重要な地質学的意味があったことがわかります。

・層状チャート・
層状チャートは日本ではよくみかける岩石であります。
かつての深海に堆積でした生物の遺骸からできています。
そして、上のエッセイでも述べたように、
チャートに層ができるということは、
チャートを区切るものが必要になります。
区切りとなるものが泥岩です。
非常薄かったりすことがありますが、
その区切りにはさまざまなレベルの絶滅が
おこっていることがわかります。
薄い泥の層の中に、
じつは重要な出来事が紛れ込んでいるのです。
私もこれからは、そんな目で層状チャートを
みていきたいものです。

・雌伏期間・
教員採用試験の結果が
全国的にではじめていることだと思います。
そこには一喜一憂があります。
私の学科でもありました。
喜びの人は、来年から晴れて公務員として先生になります。
憂えたの人は、臨時採用や非常勤採用の教員として
あと一年、修行を積むことになります。
長い雌伏期間となります。
でも、それもいい経験として
割り切ることも必要なのでしょう。
もちろん、渦中の人には
それをいうことはできませんが。
めげずに頑張ってもらいたいものです。

2013年10月24日木曜日

1_119 日本の隕石衝突 2:オスミウム

 科学成果が普及するには、多くの研究者がその論を信じ、その方法を適用し、その結果を次なる成果に利用することが必要です。日本発のこの報告は、どの程度普及するのでしょうか。今後に期待できそうです。

 誤解のないようにいっておきますが、今回紹介している論文は、日本で隕石の衝突の証拠が見つかったのであって、クレータが見つかったわけではありません。衝突があったという証拠ですので、ご注意を。
 衝突の証拠を見つける原理としては、隕石固有の成分を地層の中から検出する、というものです。これは、K-Pg境界でイリジウム(Ir)の濃集から隕石の衝突を証明したものと、同じ原理です。
 見つけるための原理は単純なのですが、いくつかの困難があります。
 まず、分析の難しい成分を検出しなければないという技術的困難さがあります。また、そのような地層を見つけることも大切です。無作為に分析をすることはできないので、事前に吟味をしてピンポイントで目星をつけておかなければなりません。さらに、眼に見えない成分ですから、見つけるまで、大量の処理をしなければなりません。そして、見つけたら、再度精査して分析する必要もあるでしょう。できれば、その地層境界が、地質学的に意義のあるもののほうが、分析したデータの価値が高まります。例えば、K-Pg境界の恐竜などの大絶滅と結びつくようなものだと、得た結果が重要な意義を持ってきます。たとえ二番煎じでも、この点は重要です。そんな幾多の困難さを乗り越えなければ、発見につながりません。
 今回の発見の決め手となったのは、オスミウム(Os)という元素でした。オスミウムは、周期律表ではイリジウムの左隣にあり、白金族と呼ばれるグループ(オスミウム、イリジウム、白金など)で、似た性質を持つ元素です。オスミウムは、イリジウムと同様に地表の岩石には少なく、隕石に多い成分となっています。さらに隕石のオスミウムの同位体比(187Os/188Os)は、地球の岩石と比べて低いことが知られています。これで、隕石の関与を確認することができます。
 そのようなオスミウムの特徴を、佐藤さんたちは、三畳紀後期の層状チャートの間にある薄い粘土層(数cmの厚さ)から見つけました。また、粘土層の中から、球顆(きゅうか)、あるいはスフェルールと呼ばれる、隕石の衝突によってできた粒子を、多数含んでいる部分があることもわかりました。さらに、イリジウムの濃集も認められています。
 佐藤さんらの研究では、2012年に岐阜県坂祝町、今回の報告では大分県津久見市江之浦の地層で証拠を見つけました。今回の報告の重要な事は、日本の同時代の2ヶ所の地層から見つかったことです。これは、衝突が局所的なものではなく、広域な現象であることがわかりました。
 問題は、この衝突が起こした異変、あるいは影響が気になります。それは、次回としましょう。

・化石・
層状チャートは数cm程度の地層が繰り返しています。
色もさまざまで、白っぽいもの、赤っぽいもの、
緑っぽいものなどあり、多彩です。
チャートは、プランクトンの死骸が
積み重なってできたもので、
化石がたくさん見つかることもあります。
今回の論文にも化石のデータがついています。
時代を示す化石があると、
詳細な年代決定ができます。
そのような時代データは
事件の重要性を考えるときに必要になります。

・新米・
先日、母から新米が送ってきました。
我が家は食いざかりの男の子が二人いるので
コメが送ってこられるのは助かります。
実家には、今も田畑があるのですが、
母も、高齢なので、畑だけをつかって、
田は知り合いに頼んで作ってもらっています。
その田でできたコメを
母は、家族で必要な分を購入しています。
そこには我が家の分のはいっています。
今年の夏は暑く、古米には虫がわきました。
母は保管するためにコメ用の冷蔵庫を
購入しているのですが、
新米にもわき出しました。
そこで、我が家の分を
すべて送ってもらうことにしました。
30kg一袋の米袋が9袋です。
大量ですが、我が家には涼しい倉庫があるので
そこに入れました。
これがなかなか大変でした。
我が家には大きな男の子が二人いるのですが、
まだ帰ってなかったので
家内と私で入れました。

2013年10月17日木曜日

1_118 日本の隕石衝突 1:冪乗則

 少し前に、日本で巨大隕石の衝突の証拠が見つかったというニュースが流れたのを覚えておられる方がいるかもしれません。その成果をだしたのは、若い研究者とその指導教官や共同研究者たちでした。そのニュースの意味を紹介したいと思います。

 地球には、大小さまざまなサイズの隕石が、今も落下しています。隕石とはいっても、小は目に見えない塵サイズから、大は天体ともいえるキロメートルサイズまであります。
 太陽系初期を除き、現在、惑星空間にある隕石のサイズは、小さいものが多く、大きいものは小さくなっています。このような様子は、直感的にも理解できます。大小さまざまなものがあるとき、一般に大きいものが少なく、小さいものが多くなっていることが多いように思えます。大きいもの一個あれば、小さいもの数桁倍ほどになるということも、理解できます。そのような経験的になんとなくわかっている規則性を定量化したものを、冪乗則(べきじょうそく)と呼ばれるものです。冪乗とは、指数のことで、何乗という形式で示されるものです。
 自然界の規則や現象は、冪乗の形になっているものが非常にたくさんあります。円の半径と面積、級の半径と体積の関係のような身近なものから、力学の法則、電磁気の法則など、いろいろなところがにあります。地震の頻度とマグニチュードの関係、クレーターのサイズとその頻度の関係も冪乗則に従うことがわかっています。クレーターのサイズと頻度の関係は、月などの天体観測から求めれています。その関係は、地球に衝突する隕石が、小さいものが多く、大きいものが少なくなるということを意味し、こちらも冪乗則になっていることを示しています。
 塵サイズの小さな隕石は、地球に入ってきても大気圏で燃え尽きで流星となり、落ちてきても被害を与えるものはありません。地上に落ち、クレーターができるような隕石の落下は稀です。この稀というのは、人間の感覚によるもので、地球の時間で考えると、隕石の落下は通常のことで、地形に残り、大絶滅を引き起こす落下は稀となります。時間スケールの違いです。
 巨大な隕石の落下の稀さを定量化するのは重要なことで、数値を見積もる方法を、このエッセイでも何度か紹介しました。いずれも、大体のことしかわかりませんでした。
 大きな隕石の衝突は、地球の環境に大きな影響を与えるはずです。実際に隕石衝突による影響が明らかにされているのは、中生代(白亜期末)と新生代の境界にあたる、K-Pg境界(K-T境界とも呼ばれています)にあった生物の大絶滅事件だけです。どれくらいの頻度で、生物の大絶滅につながる隕石の衝突があるかは、よくわかっていません。時代境界で隕石の衝突の証拠は何度も報告されましたが、それが大絶滅の原因と認定されたのは、K-Pg境界の事件以外はありません。
 地球の歴史をみても、大きな隕石による絶滅を解明することは、外的要因(地球外の原因)による絶滅か、内的要因(地球内部の原因)によるものかは、重要な問題です。隕石による外的要因と確認されれば、原因は確定ですが、内的要因となると、その原因、シナリオを解明するという作業が必要になります。
 さて前置きがなくなりましたが、2013年9月16日付けのNature Communicationsという雑誌に、H. Sato, T. Onoue1, T. Nozaki and K. Suzukiによる
「Osmium isotope evidence for a large Late Triassic impact event」
(巨大な後期三畳紀の衝突事件のオスニウム同位体の証拠)
という論文が、報告されました。
 尾上さんや佐藤さんなどの共同研究で、2012年にも、岐阜県坂祝(さかほぎ)町で同様の証拠を見つけています。今回は、坂祝に加えて、大分県津久見市江之浦(えのうら)でも同様に証拠を見つけました。その証拠によって、新たな展開が起こりました。その紹介は、次回にしましょう。

・研究の感動・
このニュースはテレビでも流されていたのですが、
私は、学会のニュースで、著者の佐藤さんが書かれた
関連報告を読んで、詳しく知りました。
若手研究者のがむしゃらな努力と
それが報われた時の喜びを感じさせる文章でした。
好感の持てる内容でした。
苦労の末、研究が報われる瞬間です。
自分の若いころを思い起こさせる気がしました。
このシリーズでその様子も紹介する予定です。

・自愛の心・
連休に大学祭があり、その代休として火曜日が休講となり
私は4連休となりました。
久々に長い休みとなったのですが、
風邪気味だったので、
自宅でじっとしていることにしました。
もちろん、用足しにでたり、家族で食事にいったり
自宅での仕事も少しはしていました。
このエッセイもその間に書きました。
天気がよかったのは13日の月曜だけで、
あとは、雨が降ったりやんだりの肌寒い天気でした。
無理をして出かけていたら、
風邪をひどくしていたかもしれません。
まあ自愛の心でしょう。

2013年10月10日木曜日

4_109 祝「四国西予」日本ジオパーク認定

 富士山の世界遺産認定で世間は、少し前から沸き立っていますが、世界ジオパーク、日本ジオパークというものもあります。私が関わっていた四国愛媛県の西予市も日本ジオパークに、隠岐が世界ジオパークにとして認定されました。ジオパークの近況を紹介します。

 先日の夕方、遠方の友人から電話がありました。2010年4月から2011年3月まで、愛媛県西予市に滞在していた時に、受け入れ先として世話になったTakさんからでした。2013年9月24日に、Takさんが中心になり市を上げて準備をしていた「四国西予」が、日本ジオパークに認定されました。
 私の滞在がきっかけになったのでしょうか、西予市はジオパークへの申請に向けてスタートしました。私も微力ながら協力していたので、それから2年を経っての日本ジオパークに認定されたのは、うれしいことでした。2013年9月24日からは日本ジオパーク「四国西予」としての活動が期待されます。
 今年6月22日の富士山の世界遺産認定で、メディアは賑わっているのですが、その影でジオパークの運動も各地で継続されています。以前にもジオパークや、西予市のジオパーク構想について紹介したことがありますが、再度ジオパークとはどのようなものか、そして近況を紹介しましょう。
 ユネスコの支援によって2004年に世界ジオパークネットワークが設立され、世界各国で取り組まれている活動です。「地球の活動の遺産を見所とする自然の公園」がジオパークとなり、それを日本や、世界ジオパークネットワークが認定していくものです。
 世界遺産もユネスコによるものですが、保護を重視されています。一方、ジオパークは保護だけでなく活用も重視されています。活用とは、地質遺産を教育や科学普及に利用することで地域振興のための「開発」も認めています。利用し開発できることが、世界遺産との大きな違いといえます。
 ジオパークには、地質学的に重要な地点がいくつもある地域であることはもちろんなのですが、地域の行政、民間、研究機関が連携して活動することが重要だとされています。そのような地域の地質遺産を人や組織が連携して活用しているかどうかが、ジオパーク認定にむけての審査のポイントになります。
 最近、ジオパークに向けての動きが活発化しています。2013年9月9日、韓国のチェジュ島でおこなわれていたアジア太平洋ジオパーク大会で、隠岐ジオパークが世界ジオパークに認定されました。9月24日には、阿蘇ジオパークも世界ジオパークに加盟申請に推薦することが決まりました。日本ジオパークとして、四国西予のほかに、三笠、三陸、佐渡、おおいた姫島、おおいた豊後大野、桜島・錦江湾の6地域も認定されました。2013年10月現在、日本には32地域のジオパークがあり、そのうち6地域が世界ジオパークになっています。
 ジオパークとして地質遺産が陽の目をみて、地域の人たちがその重要性を理解し、ほかの地域の人たちにもその重要性を伝えるという好循環が起これば、ジオパークの趣旨にそった活動となることでしょう。ジオパークは、あくまでも地域が連携して利用していった結果として、そこに与えられるものではないでしょうか。そんなことも地域の多くの人の知恵を出し合って運動、活動を高めていくことが重要な趣旨でしょう。そんな地域おこしの活動が盛んになって欲しいものです。
 観光客誘致のみの目論見で活動して思わぬ不和が起きてはと、不安に思うのは、杞憂でしょうか。

・リピーター・
地質の名所をみるとき、
ジオパークであることは非常に便利な地域となります。
資料や案内板も豊富で、
地質の重要性もわかりやすくなっています。
ネットでの情報も公開されているので、
事前準備もしやすくなります。
見学地点へのルートも整備されているので、
見たいところへのアプローチもしやすくなっています。
ジオパークでないところは、
そうはいきません。
位置がおぼろげにわかっているだけで、
あとは、その付近をうろうろして見つけたり、
近所の人に聞いて行ったりします。
ですから、見たいところへ辿りつけなかったり、
途中で断念したりすることがあります。
でもそんなところは、
心残りで、再度尋ねることもよくあります。
その時にその地への愛着が深まります。
このよう訪問は、私自身の特殊性なのでしょう。
でも、リピーターを多数生み出すことも
ジオパークの大切な使命ではないでしょうか。
ジオパークでリピーターをうみだす工夫も
地域ごとに違ったものになるはずです。

・紅葉・
10月になって、比較的暖かい日が続いています。
少し体を動かすと汗が出て、
じっとしていると涼しいような肌寒いような気候です。
これが秋というものなのでしょう。
紅葉もだいぶ進んで、
木によってはかなり葉を落としています。
落ち葉を使った実習をおこなっています。

2013年10月3日木曜日

2_119 火星生命 4:パンスペルミア

 生命はどこから来たのか。これは、人類のルーツにもつながる重要な問いで、古くから考えられている問いでもあります。答えがありそうで、なかなか見つからない問いであります。そんな難しい問いに対して、古くからあり、そして新しくもある答えが提示されてきました。

 生命にとって重要な成分で、地球の初期になく、火星に存在したものとして、ホウ素とモリブデンがありました。これからの成分が地球に少なかったという証拠は、非常に難しい問題を提示してきます。生命誕生の場として、地球はふさわしくないというのです。ところが、現在、火星には生命がいなくて、地球では生命が満ちあふれている、というパラドクスはでてきます。このパラドクスを、どう説明すればいいのでしょうか。
 新しい説では、火星初期に生命が発生しやすい環境であれば、すなおに火星で生命が誕生したと考えます。その後、生命の一部が隕石にくっついて、地球に飛来したとします。火星由来の生命が、地球の環境に適応し、地球で進化を続けます。一方、故郷の火星は、惑星のサイズが小さく、大気を長く保持できませんでした。やがて、二酸化炭素を主成分とする大気は薄くなり、温室効果も働かず、海も喪失しました。今では、生命にはいない(ほとんどいない)星となってしまいました。このようなシナリオでパラドクスを回避しようと考えられています。
 火星を故郷とした生命が、地球に飛来したという考え方です。実は、このような考え方は、パンスペルミア説として古くからあったものです。時代によって、パンスペルミア説の装いは、変わってきましたが。新たな証拠に基づき、火星を起源とする説として、復活となるかもしれません。
 パンスペルミア説は、胚種広布説などとも呼ばれています。宇宙にはいたるところに生命があり、生命の種(胚種)のようなものが、宇宙を飛び交っていて、地球にも達したとする考え方です。一連のエッセイで紹介した2つの報告は、パンスペルミア説の有力な証拠となるかもしれません。ただし、今回の説では、宇宙のどかからではなく、火星からの飛来したことになり、より具体性をもった説として再登場します。
 ただし、このパンスペルミア説にも、いろいろな困難があります。誕生してまもなくで、海から独立できない生命が、真空、低温、水も栄養のない過酷な環境である宇宙空間を飛んで、地球に生きて達することができるのか。宇宙空間に耐えれるほど進化した生物であれば、火星の環境変化にも対応できたであろうに、なぜ今はいないのか。地球に飛んできても、隕石の落下時の高温高圧の条件に、通常の生物は耐えられません。また地球の海にうまく軟着陸したとしても、その環境に適応できるたのか。などなど、いろいろな困難さはあります。
 このような困難さを回避するためには、いろいろな時期に、多様な種類の火星生命の飛来が、何度もあればいいのですが、そんなことが本当に起こったでしょうか。少々疑問もあります。火星起源の隕石は見つかっていますが、まれなもので、しょっちゅう飛来してとも考えにくくもあります。
 そして、繰り返しの疑問ですが、そんなにタフな生命であれば、なぜ今の火星で生き延びて、発見されないのか。
 問題はいろいろありそうですが、地球だけが生命誕生の場でないという発想は重要です。そして、生命はもっとタフであったという視点も必要かもしれません。一見、ひ弱な生物も、実はタフであるという証拠もあります。環境さえ整えば、多様で多数の生物が進化してきます。その中には、タフな奴もいたかもしれません。そんな空想が、科学にも必要なのかもしれませんね。

・紅葉の秋・
北海道の秋は、一進一退です。
しかし、木々の紅葉は、日に日に進んでいます。
気温は変動して、秋を忘れさせることはあっても、
紅葉のような不可逆な変化は、
着実に時や季節を刻んでいきます。
先日は霜をみました。
秋が進んでいます。

・ストーブ・
先日、業者の方に、ストーブのメインテナンスを頼みました。
2台あるうちの1台が、型が古いため、
メインテナンスできませんといわれました。
とりあえず、使っていく予定ですが、
近々、新しいストーブに買い替えが必要かもしれません。
高い買物なので、少々考えてしまいます。
しかし、北海道ではストーブなしでは、生活できません。

2013年9月26日木曜日

2_118 火星生命 3:微量元素

 このシリーズは、前回エッセイで終わるつもりでしたが、火星生命について別の報告があったことを知りました。いいチャンスなので、続きで紹介していきます。そして、これらから導かれる仮説は、少々受け入れがたいものになりそうです。まあ、順を追って紹介していきましょう。

 火星が生命誕生において、地球より有利であった理由は、リンが地球より豊富に供給されていた可能性があった点でした。もうひとつ重要な報告がありました。それは、生命誕生に必要な微量成分が、地球より火星に豊富であった点です。
 これは、アメリカのベナー(Steven Benner)が、地球化学の国際会議(ゴルトシュミット・カンファレンス)にて、8月29日の基調講演で述べた意見でした。
 微量成分とはホウ素(元素記号 B)やモリブデン(Mo)のことです。
 ホウ素は、身近によく使われている元素です。ただし。化合物として使われることが多く、ホウ酸として目薬や鼻スプレー、うがい薬なので利用されています。
 このホウ素は、RNA(リボ核酸)の維持に不可欠な役割を果たしているようなのです。生命の誕生の過程において、RNAは、DNAやタンパク質とともに重要な成分となっています。生命誕生の場は、海の中だと考えられています。ところが、RNAを水の中で合成をしようすると、できてもすぐに分解されてしまいます。つまり、地球ではRNAが安定に存在できないのです。
 ベナーは、長年の研究によって、ホウ素があるとRNAの分解が抑えられることを示しました。ところが、初期地球の表層にはホウ素がほとんどないと考えられています。となると、RNAはどうして形成されたのかという問題が生じます。
 モリブデンは、生体の必須元素となっていて、尿酸形成、造血作用、銅の排泄などに重要な役割を果たしています。生命にとって大切なことは、窒素を固定するのに必要な酵素(ニトロゲナーゼなど)には、モリブデンを含ものが多数あります。これらの酵素は、大気中にふんだんにある窒素をアンモニアに変える反応の触媒となっています。
 生命活動に必要な無機的な窒素を、生命が使えるようにするための酵素があり、その酵素にはモリブデンが不可欠な微量成分となっています。さらに、RNAのリボースの結合にも、酸化されたモリブデンが必要であることを、ベナーは確認しています。ところが、モリブデンもホウ素同様、地球初期にはほとんどなかったされています。
 ホウ素もモリブデンも、天体では微量元素ですが、生命誕生そして生命維持には、不可欠な元素であったはずなのに、初期の地球にはほとんどなかったのです。なのに、地球は生命にあふれています。パラドクスです。
 パラドクスを解く鍵は、火星にありました。火星から飛来した隕石に、ホウ素が含まれていることがわかっています。また、火星探査車キュリオシティが、もともと湖底であったところをドリルで掘ったら、そこにはホウ素やモリブデンが存在していたこと確認されているそうです。
 以上のことから、火星の方が生命が誕生しやすかったことになります。この意味するところは、なんでしょうか。パラドクスはどう解けるのでしょうか。それは、次回としましょう。

・調査短縮・
先週、なんとか時間ととって調査に行ってきました。
しかし、出発に日に台風17号の直撃を受けて、
出発が2日間遅れました。
帰ってくる日付が決まっていたので、
調査の日程を短縮することになりました。
4泊5日の調査でしたが、
移動で飛行機の乗り継ぎをしなけばならなかったのと
荷物を事前に送っていたので、
その宿に行かなければならなかったので
正味2日間が調査の日程となりました。
ですから限られた場所に限定して、
必ず目的を果たすという決意で向かいました。
その結果は別の機会に。

・後期のスタート・
我が大学では、今週から
後期の授業が始まりました。
はじめの講義は、何年たっても
緊張感があり、気が重いものです。
そして、馴れる頃にも、
講義の準備に追われることになります。
また、愚痴がでてきそうです。
せっかく野外調査でリフレッシュしたのですから、
気持ちよく日々を送りたいものです。

2013年9月19日木曜日

2_117 火星生命 2:パラドクス

 初期の火星は、地球より誕生しやすい条件がありました。地球には生命が現在も多種多様に存在しますが、火星ではまだ発見できいません。これはパラドクスといえます。このパラドクスは、どのようにして解決されるのでしょうか。

 火星に関する重要なニュースは、2013年9月2日付のNature Geoscience(電子版)に掲載されたアドコックたち(C. T. Adcock, E. M. Hausrath & P. M. Forster)の論文で、
Readily available phosphate from minerals in early aqueous environments on Mars
(火星で初期に水のある環境では鉱物からのリンが容易に利用可能)
というものです。
 地球型生命にとって、リンはリン酸として遺伝情報の中心となるDNAやエネルギー源となる成分(ATP)、リン脂質として細胞膜などとして、必要不可欠な元素です。ところが、現在の地球表層には、それほど多くない成分でもあり、生命はその確保には苦労しています。リンは地表にはあまり存在せずに、まれな鉱物として岩石に少しだけ含まれているものです。リンを含む鉱物は、地球では頑丈で、なかなか水には溶けず、限られた少ない資源でもありました。
 ところが火星では、リンが比較的簡単に手に入る環境であったと報告したのが上記の論文だったのです。火星の初期には地球と同じように海や河川があったことが、今まで探査から明らかになっています。また火星からの隕石や、今まで火星探査の成果から、火星表層にあるリンを含む鉱物の推定できます。
 リンを含む鉱物の水への溶解度を、火星の環境を想定した実験で調べた結果が報告されています。その実験によると、火星では、リンの放出速度は地球と比べて45倍も速く、リン酸の濃度も地球より2倍あったと推定されています。
 もしこの実験通りの環境であれば、火星は地球より、生命誕生の場としては、適していたことになります。地球の方が生命誕生の場としては不利であったことになります。なのに、地球には生命があふれ、火星ではまだ確認されていないという事実があります。これは、パラドクスです。
 このパラドクスの答えとして、火星には初期の頃に生命が誕生したが今はいない、あるいは今も生命が水のある付近に潜んでいるというものです。
 フェニックスやオポチュニティがそんな候補地を探しているのですが、今のところ見つかっていません。もっと前の探査から現在までの探査で、火星の表面に生命が簡単に見つかるほどはいないことは確認されています。火星に生命がいるとしても、地下の水のある付近や極地の氷のある付近など、探しにくく、見つけにくいところだと考えられます。今後も探査は続くでしょう。存在の証明はたった1つの証拠でできますが、不在の証明は非常に難しいものです。努力は継続する必要があります。
 もう一つのパラドクスの答えして、火星では当然のように生命は生まれ、その生命が隕石とともに、地球にやってきたと考えることも可能でしょう。火星が過酷な環境になったので、生命は絶滅したか、見つかりにくいところに特別な環境に逃げ込んで細々と生きているのかもしれません。もしこのシナリオなら、私たち地球生命は火星生命の末裔となります。私たちのふるさとは火星になります。人類が火星に興味を持つのは、そんな血のなせることなのかもしれませんね。

・リンのリンク・
以前、私は火成岩の分析していました。
リンは、私の利用していた分析装置では
比較的精度よく測定できる元素でした。
しかし火成岩には量が少ないので、
どうしても測定値の精度があまりよくはありません。
もし精度を上げたとしても、
そのデータをどう利用すればいいのかも
わかっていませんでした。
地球においてリンが、
どのような化学的意味を持つかが
なかなかつかめなかったのです。
地球においてリンがどんな履歴を持ち
どのような挙動をするのかという
地球学的意義が充分解明されていないためでした。
一方、生命では、リンは非常に重要な
元素であることはわかっていました。
生命の誕生には欠かせない元素でありながら、
惑星や岩石のような無機物と生命の間には
リンクが不明でした。
今回のような研究がその溝を埋めていくのでしょう。

・調査・
このエッセイが発行される頃には
私は和歌山の調査に出ています。
エッセイは、予約して発信しています。
16日に北海道を発って、21日まで調査をして帰ります。
23日には大学の講義がはじまりますので
ぎりぎりの日程調整をして調査をしています。
天気が心配ですが、それは詮なきことです。
どんな天気であろうが、
体力の続く限り調査をしてくるつもりです。

2013年9月12日木曜日

2_116 火星生命 1:身近な惑星

 火星には、生命の可能性が秘められています。今のところは、残念ながら生命の痕跡で確実なものは見つかっていません。しかし、可能性を感じさせるものが、次々と発見されています。そんな可能性を感じささせる最新の発見を紹介します。

 火星が地球の隣の惑星で、身近に感じるからでしょうか。金星が厚い雲に覆われた過酷な灼熱の惑星あるのに対して、火星には海や水の痕跡があり、現在も地下や極地には水や氷があることがわかっています。人類にとって火星は、生命の誕生の場、地球外生物の可能性、あるいは地球の生命の故郷として、非常に興味を惹かれる天体です。
 「火星隕石から化石の発見」というニュースが、1996年の夏に流れました。その化石に関して、いろいろ検討された結果、どうも化石ではなさそうだという結論になているようです。ただし、発見者たちは化石であるとして、その後も証拠を提示していますが、他の研究者にはあまり受け入れられていなようです。
 化石は、隕石を用いた研究ですが、火星の生命探しは長らくなされています。現在でも、アメリが合衆国が中心になって、火星の探査は継続されています。主な火星の生命探査の話を紹介していきましょう。火星探査の歴史が近年の探査の概要ともなります。
 「化石発見」の直後、1996年11月7日に打ち上げられたマーズ・グローバル・サーベイヤーは、1997年に火星に到着し、火星を周回して、詳細な地形データをとりました。この地形データが、火星を探査するための基礎情報となり、厳密な調査計画をたてることができるようになりました。
 1997年にはマーズ・パスファインダーが、火星にバルーンを用いた軟着陸をし、ソジャーナと呼ばれる探査ロボットが、2ヶ月間動きまわって調査をしました。手軽に着陸する試みで、今回はかろうじてうまくいきましたが、少々乱暴だったので、その後は利用されていません。
 2004年1月には、火星探査車スピリットとオポチュニティが着陸に成功しました。火星での水の痕跡を探索することが目的で、達成しました。スピリットは2011年4月で活動を停止しました。一方、オポチュニティは予想以上の耐久性を示して、2013年6月末には走行距離が37kmを越え、現在も観測を継続中です。火星でも長期の観測が、太陽パネルによる発電で可能なことを証明しました。
 2008年5月にフェニックスが火星の北極地域に着陸しましたが、寒さのためバッテリーが故障して活動を停止しました。
 2012年8月6日には大型のキュリオシティが着陸しました。キュリオシティには、多くの種類の観測装置を積んでいて、小型ですが最新実験室ともいえる重装備です。いろいろな調査や分析ができ、現在も調査中です。
 現在、困難は伴うでしょうが、火星への友人探査も真剣に検討されるようになってきました。
 先日(2013年9月2日)の科学雑誌(Nature Geoscience)に、重要な論文が掲載されました。それは、火星は生命誕生には、非常に都合がいい環境であったという報告でした。詳細は次回にしましょう。

・耐久性・
オポチュニティは現在も観測をしており、
毎週その成果が報告されています。
http://marsrovers.jpl.nasa.gov/mission/status.html#opportunity
2013年8月28日から9月03日の報告では、
レーターの縁にある崖(岩石露頭)を調べています。
「石炭島」と名付けられたところで、
ロボットアームやマルチスペクトル・パノラマ・カメラなどを使って
調査を始めているそうです。
もともと想定されていた92日間の運用を遥かに越えて
今日(9月12日)で3518日になります。
40倍以上も上回って稼働しています。
調査を続けています。
太陽パネルの性能が上がってきているのでしょう。

・秋を味わう・
北海道は9月になり、一気に秋めていきました。
天気のいい日は、
心地よい抜けるような青空になります。
日差しはまだ強いですが、湿度も下がり、
北海道らしい天気になりました。
しかし、秋は冬の前触れでもあります。
暑かった夏がそのうち懐かしく思えるのでしょうが、
秋の快適さを、今は味わっていきましょう。

2013年9月5日木曜日

6_116 ボイジャー 2:磁気ハイウェイ

 ボイジャー1号は、現在磁気ハイウェイを通過中です。しかし、この磁気ハイウェイはどれくらいの広さあるのかは、わかっていません。なぜなら、今回、ボイジャー1号が、はじめて発見したものだからです。

 前回、ボイジャーの経歴を概観し、そのタフさを紹介しました。そのタフさが功を奏して、重要なデータを送ってきました。それがニュースとして、12月に報道され、6月にサイエンス誌のその研究成果が、3つの論文として報告されました。
 ボイジャー1号が、186億kmの彼方から送ってきたデータは、太陽圏の端に関するデータでした。太陽圏とは、太陽の影響を受ける範囲のことで、影響の対象を何にするかによって、範囲がかわってきます。現在、太陽の影響として、3つのものが考えられています。太陽から放出される荷電粒子と磁場、さらに宇宙から(起源は不明)の宇宙線です。
 今回の報告は、太陽からの荷電粒子の減少と、宇宙線の量が増えたという観測データが得られました。太陽から放出された荷電粒子が届く範囲を越えて、宇宙線の届く星間空間に出たことになります。荷電粒子を太陽からの物質としてとらえると、太陽の勢力が及ぶ範囲を抜け出たことを意味します。人類が作ったもので、はじめて太陽系を離れといえます。
 ただし、磁場の変化は、まだ見られません。太陽は強い磁場をもっています。その磁場の及ぶ範囲は、磁界が揃っています。もし、太陽からの磁場の範囲を抜けると、磁界の向きに変化が起こると考えられています。その変化はまだ観測されていません。磁場は、太陽の影響や環境を意味します。ですから、現在ボイジャー1号がいるところは、磁場は太陽から影響下にあることになります。
 太陽から磁場の影響下にあるのですが、太陽からの荷電粒子がなくなり、強力な宇宙線が飛び交うところにいます。このようなところを、「磁気ハイウェイ」と呼ばれています。太陽の磁場の影響はあるのですが、急激にスピードの早い粒子がばらばらの方向に飛び交うところという意味です。
 「磁気ハイウェイ」を抜けると、そこは太陽の影響の及ばない、星間空間となります。「磁気ハイウェイ」はどれくらいの範囲に及ぶのかは、まだ不明です。つまり、ボイジャー1号がいつ太陽圏を脱するのかも、まだわからないということです。
 「磁気ハイウェイ」は、今回新しくわかったもので、今までこのようなところが存在するということは、予想されていませんでした。今考えると、太陽からの荷電粒子と磁気が、同じところで消えることはないはずです。ずれているとすれば、どちらか一方の影響のない状態が出現することは、容易に想像できます。後付けの考えですが。
 太陽圏を抜けだしたときには、太陽以外の恒星から荷電粒子や星間物質、あるいは磁場が観測される可能性があります。そうなれば、光や電波などの電磁波以外で、はじめての他の天体の存在を「見る」ことになります。それは、どんな天体でしょう。
 科学はすべてを明らかにしているわけではありません。ですから、ボイジャーのように先入観のない、地道な観測によって、新しい発見があるということは、なかなか教訓的でいいのではないでしょうか。

・秋・
北海道は9月になって、
一気に秋めいてきました。
まだ、動くと汗をかきますが、
じっとしている分には
涼しくなってきました。
紅葉にはまだ少し早いですが、
今年の夏の暑さを考えると
一息ついた感じがします。
でも、北海道の秋は短いので、
すぐに冬が来ると思うと、
秋の寂しさもひとしおです。

・腰痛・
このところ週末の出張が続きます。
校務自体はそれほど長い時間を
要するものではないのですが、
何分北海道は広いので、
移動に時間がかかります。
そのため、前泊して校務に備えることになります。
また帰るのも行きと同じ時間が必要です。
先日の釧路への移動は
行きのJRで、腰が痛くなります。
帯広での校務をして1泊で
移動は貸し切りバスなので
1時間ほどの休憩をとってくれるので
腰の痛みは悪化しなかったので助かりました。
運動不足とともに、年齢による衰えものあるでしょう。
移動が苦になってきました。
今週末は青森です。

2013年8月29日木曜日

6_115 ボイジャー 1:淡い青のドット

 エッセイでは、惑星探査機ボイジャーが上げた成果を、何度か紹介してきました。今回は、ボイジャー1号から届いた太陽系の縁についての新情報を紹介します。

 惑星探査機のボイジャーの話題は、エッセイで何度か紹介したことがあります。ボイジャーの機体は、今も生きています。太陽系から遠ざかりながらも、現在も観測を継続中です。そして、6月には重要なデータを送ってきました。その成果の概要を紹介します。
 まず、ボイジャーの概要からみていきましょう。
 ボイジャーには、1号と2号があります。1号は1977年9月5日に、2号は1977年8月20日に打ち上げられました。飛行コースが少し違いますが、いずれも外惑星を調べることが目的でした。惑星の配置が絶妙で、うまく飛行コースをとれば、木星、土星、天王星、海王星を、連続的に、しかも接近しながら探査することができるという機会がありました。そのような機会は、次は175年後にしか来ません。そんな絶好の機会を利用して、2つのボイジャーが打ち上げられました。いくつもの惑星を見て回ることができる調査を、NASAは、「グランドツアー」と呼んでいました。
 ボイジャー1号は、木星と土星を観測しました。ボイジャー2号は、木星と土星の他に、天王星と海王星も探査しました。ボイジャーの探査によって多くの発見がなされました。私には、惑星の画像が非常に衝撃的でした。名前しか知らない、おぼろげな姿でしかなかった惑星を、鮮明なカラー画像で、私たちに紹介してくれました。
 ボイジャーのグランドツアーという目的は、無事、終了しました。
 惑星の探査を終えたボイジャー両機は、太陽系から離れていきました。主な惑星を探査した後も、いくつものミッションはおこなわれましたが、印象的なのは、「太陽系の肖像」(Solar System Portrait)と「淡い青のドット」(Pale Blue Dot)でした。
 「太陽系の肖像」とは、60枚のモザイクによる太陽系の惑星の全体の撮影です。エネルギーの消耗を承知で、「太陽系の肖像」をとるために、姿勢を変え撮影されました。そのモザイクの一枚に、「淡い青のドット」として地球が写っていました。その大きさは、画素(ピクセルといいます)1つにもなりませんでした。地球はたった0.12ピクセルしかありませんでした。その儚さ、小ささが、ボイジャーから見た私たちの地球でした。
 現在もミッションは継続中です。ミッションで重要なものとして、太陽系の縁を調べることです。現在(2013.05.31)ボイジャー1号は186億km、2号は152億kmのところを飛んでいます。通信も片道17時間以上かかります。それでも定期的な通信をおこなっています。その成果は毎週報告されています。
 ボイジャーの上げた驚異的な成果はいくつかありますが、私はその耐用年数の長さと、装置の安定性に驚きます。
 ボイジャーは打ち上げられてから、もう35年もたっています。太陽から遠くはなれているために、太陽電池を利用することはできません。ボイジャーのエネルギー源は、原子力電池をもちいています。放射性核種の崩壊によるエネルギーを利用するもので、非常に長期間にわたって発電できます。現在は特別な目的がない限り、原子力電池の利用はされていません。打ち上げ失敗による放射性物質による危険性を考えてのことです。原子力電池は、1号では2020年、2号では2030年ころにはエネルギーを供給できなくなると見積もられています。
 複雑な装置で、なおかつ過酷な環境の中を飛行する探査機で、原子力電池がなくなるまで運用できることは、通常はなかなかありません。
 そしてなんといっても、ボイジャーをコントロールしているのは、1977年のコンピュータです。今使われているどんなコンピュータより多分性能は低いものでしょう。それでもしっかりと仕事はしています。道具には、速さの大きさなどの高性能を求めることも多いのですが、安定性やタフさの方が重要なこともあります。
 そんな驚異を、私は、儚い青のドットから考えています。

・安定感・
ボイジャーの他にもパイオニア10号と11号も
原子力電池を搭載していましたが、
両機とも電池の寿命はあったはずのですが、
通信が途絶してしまいました。
多数の探査機は、どこかに不備が発生し
使えなくなります。
なにせ人が行けないところを
探査機がかわりに調査するのです。
壊れたとしても、多額の経費は無駄になりますが、
人命は失われません。
いくつもの探査機が太陽系の遠くを飛んでいますが、
現在遠く離れたところで、生きて活動している探査機は
ボイジャー1号、2号だけす。
さらなる活躍を期待しましょう。

・太陽系の肖像・
本文で述べた印象的な画像は
NASAのサイトでみることができます。
太陽系の肖像
http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA00451
淡い青のドット
http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA00452
のアドレスに公開されています。
興味のある方は、覗いてみてはいかがでしょうか。
また、毎週の報告は
http://voyager.jpl.nasa.gov/mission/weekly-reports/
に掲載されています。

2013年8月22日木曜日

6_114 宇宙への夢

 ある少年の夢について、先月(2013年7月)のネットで話題になり、世界のニュースでも取り上げられました。彼の夢は、今は叶えることができませんが、きっとその夢を糧に彼は成長するでしょう。それを後押しをする粋なはからいが、ニュースとなりました。

 ある少年が、自分の夢を叶えるためにどうすればいいのか、という質問の手紙を書きました。その答えが帰ってきて、少年は大喜びしました。
 その少年は、イギリスに住む、7歳のデクスター君です。彼は、2018年に火星への有人飛行の計画がNASAが進めているというニュースを聞きました。自分も宇宙飛行士として火星に行きたいという夢でした。
 その夢を叶えたいと思ったデクスター君は、次のような手紙を書いて出しました。

Dear nasa
my name is Dexter  I heard that you are Sending 2 peopLe to mars and I Would Lik to come but I m 7.5 O  I can't. I WouLd Like to coMe in the Future, what do I need to do to become an astronaut?
Thank
you
Dexter

親愛なるNASAへ
ボクの名前はデクスターです。NASAが火星にふたりの人を送るとききました。ボクはいきたいのですが、7歳半なのでいけません。将来、ボクはいきたいのですが、宇宙飛行士になるにはどうすればいいですか。
ありがとう
デクスター
(手紙下部にはロケットに自分ともう一人が乗っている絵が書かれている)

という手紙でした。この手紙は、小学生1年生らしい、たどたどしい文字(少し誤字もあります)で書かれています。
 この手紙にたして、NASAは公用レターヘッドで返事を出しました。ワシントン DCになるNASA本部からの手紙でした。担当者の個人名はありませんが、渉外担当(Public Communications Program Public Outreach Division Office of Communications)の方から出されています。

Office of Communications  June 26, 2013
(Dexter's address)
Dear Dexter:
 On behalf of NASA, thank you for writing us a letter.  NASA wants you to know that your thoughts and ideas to further space exploration are important, and we hope that you will continue to learn all you can about NASA's space programs, missions, and accomplishments.  Just think ― in a few years, you could be one of the pioneers that may help lead the world's activities for better understanding of our earth and for exploring space.
(中略)
Again, thank you for your letter. Your interest on NASA is appreciated. NASA wishes you every success in earning good school grades and encourages you to keep reaching for the stars!

渉外部 2013年6月26日
(デクスター君の住所)
親愛なるデクスターへ、
 NASAを代表して、手紙を書いてくださったことにお礼を申し上げます。NASAは君にわかってほしいことがあります。それは、将来の宇宙探査についての君の考えやアイディアは非常に大切だということです。さらに、私たちはNASAの宇宙計画、ミッション、成果について、君ができるかぎりを学び続けてくれることを望みます。ちょっと考えてください-ほんの数年のうちに、君は、私たちの地球をよりよく理解し、宇宙を探査するための世界の活動を指導するようなパイオニアの一人になれでしょう。
(中略:3つのNASAのWEBサイトを紹介)
もういちど、お手紙ありがとう。君のNASAへの興味に感謝します。NASAは君が学校でいい成績をあげることを期待して、星に手を伸ばし続けること応援します!
(部署名)

という、返事がデクスター君に送られました。手紙には、火星の写真と、火星探査車キュリオシティ・ローバー(Curiosity Rover)の写真、NASAのステッカー、そしてローバーのしおりが同封されていました。手紙を受け取ったデクスター君は大喜びでした。
 それを見た母親も喜んで、その様子を写真におさめ、あるサイトに公開しました。すると、口コミでそのニュースが広がり、そのサイトの写真は、一ヶ月間で25万人ほどが見に来ました。NASAのこんな粋なはからいが、次の宇宙飛行士を生みだすのでしょうね。

・粋なはからい・
写真が掲載されたサイトは、
imgurというところで、
http://imgur.com/gallery/6MqlY
現在、まだ残っています。
ささやかかもしれませんが、
こんな手を抜かない「粋なはからい」が
やがては立派な宇宙飛行士を産んでいくのでしょう。

・集中講義・
北海道はお盆から今週にかけて
天候が不順で蒸し暑い日が続いています。
蒸し暑さになれていない北海道の住民は
少々ぐったりしています。
たしか昨年も同じような時期に
蒸し暑さがありました。
集中講義だったので覚えています。
今年も同じように集中講義ですが、
今年は一人のためのゼミなので楽です。

2013年8月15日木曜日

5_116 炭素14年代 5:限界へ

 年代測定の限界に挑戦するには、手間も費用もかかります。しかし、そのようなチャレンジをする人がいて、その技術が普及することで、手軽に多くの人が利用できるようになります。この繰り返しが科学の進歩といえます。

 前回、炭素14放射性核種による年代値の較正について紹介しました。5万数千年前以上の年代の較正のデータが現在入手可能になりつつあるという話をしました。エッセイの終わりで、それ以上、古いものは必要ないという話をしました。その理由を説明していきましょう。
 放射性核種は、原子核が崩壊して別の核種に変わります。炭素14はβ崩壊をして、約5730年の半減期をもっています。
 半減期とは、もともとあった放射性核種が半分になっていく時間を示しています。もとの核種の量が1000分の1になった場合、理論的な限界とされています。炭素14の場合、約6万年が理論的な限界となっています。ただし、実際の運用においては、理論値までは達していない場合もあります。それは分析装置の測定限界によって適用限界が決まってくるからです。
 現在、炭素14の年代測定は、主にβ線測定法と加速器質量分析(Accelerator Mass Spectrometry:AMS法と略されています)の2つがあります。
 β線測定法とは、炭素14が崩壊するときにでるβ線を直接測るものです。新しい試料でも、炭素1gで4、5秒に1個しか壊れないので、精度を上げるには、多くの試料と長い計測時間が必要になります。古くなる場なるほど放射性核種は減っていきますので、測定年代の限界は、3~4万年ほどとされています。
 一方、AMS法は、加速器と質量分析器を合体して、炭素14を直接数える方法です。加速器とは、炭素の原子核(イオンになったもの)を電磁場によって加速していき、同じ質量数をもつ化合物を分解して除いていくものです。炭素の原子核だけになったものを、その先の質量分析装置に入れます。質量分析では、炭素の質量の違いによって曲がり方が違うのを利用して、炭素12、13、14だけを測定していきます。
 AMS法は、少量の試料(1mg程度)と比較的短い時間(30分から1時間)で測定できます。ただし、不純物を取り除くための前処理をしたのち、二酸化炭素にした後、再度個体の炭素(グラファイト)にして測定しなければなりません。大変な手間がかかり、なおかつ加速器は大型の装置となります。なかなか大掛かりな測定となります。AMS法は、以前は、β線測定法より少し精度のよい、4~5万年程度が測定限界でした。現在では非常に精度が上がってきて、理論的限界の6万年前近くまでの試料の分析も可能になってきていて、装置の小型化も進んできました。技術的には、限界に達しているともいえます。あとは、精度の向上と普及が課題となります。
 炭素14年大測定は、技術の進歩により、理論上の限界近くまで測定できるようになって来ました。較正データもそろいそうです。さらに古い年代は、C14では不可能となるので、別の放射性核種を用いて測定することになります。それは、別の機会としましょう。

・蒸し暑いお盆・
お盆になりました。
北海道や東北では週末に激しい雨になりました。
地域によっては洪水の災害もあったりしました。
幸い私の地域ではは大きな被害はありませんでした。
西日本では、暑い日々を過ごされた人もあったでしょう。
雨のあと、北海道は蒸し暑くなりました。
暑さだけならな、北海道は乾燥しているので耐えれるのですが、
湿度が高いと、北海道の人は、ぐったりしてしまいます。
我が家も大学も、冷房がないので、
ウチワが夏の必需品となっています。
大学の生協も休みなので、
私は昼には帰宅してしまいます。

・暑い時は・
暑い時は怪談やホラーでしょうか。
私は、ホラーは特別好きではないですが、
暑い時は怖いもの見たさで
ついつい見てしまいます。
何か怖いものがでるより、
状況が怖くなっていくのが怖さを増します。
パラノーマルのシリーズがなかなか怖くていいですね。
長男は一話をみて、夜寝れなくなったようです。
家内も次男ももちろん見ません。
私は、大丈夫でした。
でも、やっぱり今は、
暑さのなか一流のアスリートが頑張っている
世界陸上でしょうか。
毎日、テレビ放送を録画しては、日課として見ています。

2013年8月8日木曜日

5_115 炭素14年代 4:較正

 炭素の年代測定は、1950年を基準とします。それ以前は、炭素の同位体は平衡に達しているという前提です。その平衡も、問題があることがわかってきました。その較正は、どのようにしていくのでしょうか。

 炭素同位体による年代は、1950年を基準として、「○○年前」ということになっているという話をしました。その理由は、1950年前後を境に、人類が核爆弾の実験をやりだしたので、大気中の炭素同位体比の人為による変動がはじまったからだと説明しました。それ以前の炭素14の比は、一定であるとしました。ところが、自然現象としても炭素14の比率は、変動していることがわかってきました。
 自然状態における炭素14比の変動は、形成過程を考えれば理解できます。形成過程を、再度見ていきましょう。
 高いエネルギーをもった水素原子核(陽子)が、地球の大気圏に突入してきます。これを一次宇宙線と呼びます。陽子が、大気を構成している原子核に衝突して、中性子をはじき出します。この中性子を二次宇宙線と呼びます。中性子がさらに窒素14の原子核に衝突して、炭素14が形成されます。大気中で炭素14の形成と、炭素14が崩壊して窒素14にもどるという速度が一定で、平衡状態になっています。平衡状態にある大気の二酸化炭素が、植物に取り込まれ、光合成によって植物の体となります。植物が死ぬことで平衡関係がストップし、放射性炭素14の時計がスタートします。これが炭素14の形成と、時計の仕組みです。
 このような仕組を考えると、いくつかの変動の要因があることがわかります。
 太陽から飛んできた(すべてが太陽からではなく銀河からくるものある)一次宇宙線は、太陽の活動の程度によって変動することがわかっています。
 陽子は電子をはがされた状態で電荷をもっているので、地球の磁場の影響を受けます。磁場の強度には変動があり、地球の入ってくる一次宇宙線の量も変動し、炭素14比も変動します。磁場の地域差もあり、北半球と南半球でも炭素14比が違っていることがわかっています。
 炭素は二酸化炭素として、海水に吸収されたり放出されたりして、平衡状態になっています。その平衡を達成する時、海洋から放出される炭素は、昔のものなので、同位体比に影響をおよぼすことがわかっています。
 さらに、植物が二酸化炭素を吸収(光合成)したり、放出(呼吸)したりするとき、質量数によって出入りする同位体比に差があること(同位体分別と呼ばれています)もわかっています。
 過去の自然状態の炭素14の比も、いろいろな変動が起こっているので、炭素14比が一定という前提では、精度を上げていく時、誤差を生むことになります。誤差の較正は、年ごとの炭素14の比率を正確に測定して、それを基準値として考えるべきです。その比を時計のスタートすることになります。基準値は、毎年の同質の記録で、長い時間の記録をしている試料があれば最適です。
 そのような基準物質として、木の年輪と年縞堆積物などが用いられています。木の年輪は毎年正確に記録されているので、非常に有用な指標になります。年輪では、1万2600年ほどの基準値があります。
 それより古い年代は、サンゴがつくる年輪を用います。サンゴのウラン-トリウム(U-Th)の年代を測定したものと照合され、およそ2万4000年前まで基準とされています。
 さらに古いものは、福井県の三方五湖の一つの水月湖の湖底にたまった年縞堆積物があります。現在3万3000年ほどのデータがあり、測定が進めば5万3000年分の基準値が手に入ると考えられています。
 それらの基準値から年ごとの較正用の曲線を作成していき、その値を基いて年代を較正していきます。
 これより古いものは、炭素14の年代測定では、必要はありません。その話は次回にしましょう。

・格闘する学生・
大学は、定期試験も終わりました。
ただし、私は、卒業研究の目次の添削を個別にしていますので
のんびりとはできません。
目次とはいっていますが、
研究レポートの構成を検討しています。
一番大事なところです。
各自、実践をしていますので、
実践データを活かす構成を考えなければなりません。
そこは知恵の使いドコロです。
それが理解できれば、
自分の研究の重要性を把握することになります。
重要な作業でもあります。
まだ半数のゼミ生が格闘しています。

・今できることを・
8月の北海道は、晴れれば暑いですが、
湿度が低いので非常に快適です。
日陰であれば涼しく
風があれば涼しい心地よくなります。
夏休みになったので、本当はのんびりしたいのですが、
なかなかのんびりできないのが辛いです。
休みを取りたいのですが、
9月まではダメなようです。
調査日程をなんとか1週間とりました。
研究費があり、別の地域の1週間の調査費が
あたっているのですが、
いつ行けるのでしょうか。
まあ今は、今できることをやりましょう。

2013年8月1日木曜日

5_114 炭素14年代 3:1950年

 過去の年代測定の値は、「○○年前」と表記されます。「前」とは「現在から」を意味しています。ところが、炭素14による年代は、現在からではなく、「1950年から」という基準を持っています。その基準は本来なら1945年とすべきでした。1945年がもっている意味は、日本にも関わる重要なものでした。

 大気中の炭素14は、地球外からの宇宙線によって定常的に形成されています。その結果、大気中の炭素14は、ほぼ一定の比率で含まれていることがわかっていてます。できた炭素14は、すぐに二酸化炭素になります。
 植物は、大気中の二酸化炭素を吸収して光合成をしています。生きている限り代謝をして、細胞を維持しますので、大気中の二酸化炭素と同じ値を保ち続けています。しかし、植物が死ぬと、代謝も止まりますので、大気中の炭素14の値からずれていきます。放射性核種の崩壊がはじまります。つまり、炭素14の時計がスタートします。
 さて、植物の炭素14を用いて年代測定をしたデータは、「今から○○年前(BPと略されます)」と表現されます。例えば、1980年に測定された値と、2010年に測定された値を比較するときは、1980年の年代値は、30年プラスして考えなければなりません。すべての測定値は、毎年1年ずつプラスしなければなりません。そんな作業をするのは大変ですし、中には測定時期の定かでないものも混じっているかもしれません。そうなると、その年代値は用いることはできません。
 そんな煩わしさや問題を解消するために、すべての年代値を1950年を基点として表現することに決められています。つまり「○○年前」とは、「今から○○年前」ではなく、「1950年から○○年前」ということになっています。
 なぜ1950年という年代にされたのでしょうか。切りのいい数字だからというわけではありません。それはBPという略号にヒントがあります。
 BPは、通常「Before Present」と頭文字をとったものとされています。「今から○○年前」という意味になります。ただし、上で述べたように、「今から」とすると、問題があり、適切なものとは思えません。本来なら「Before 1950」が正式なものとすべきでしょう。でも、年代値のあとに別の数字が並ぶのは、混乱を生じます。
 もう一つ、BPの解釈として「Before Physics」の頭文字だとする考えもあります。「物理学前」という意味です。その意図するところは、核実験などをして、炭素のなどの同位体比が変わる前というものです。
 1945年7月16日に、アメリカで最初の核実験はおこなわれています。この直後、1945年8月6日には広島に、1945年8月9日には長崎に原爆が落とされていました。米ソの冷戦による核開発競争がスタートして、1950年ころから核実験が多発します。その結果、炭素14の値も自然のものから変動していきます。
 人類が核兵器で改変した炭素14の値ではなく、自然の状態の値という意味で、「Before Physics」なのです。本来なら1945年を基準年とすべきでしょう。アメリカの研究者たちが、反対するかも知りませんが。
 年代測定をする試料は、そもそも古いものなので、人類が改変した値の影響を受けてはいません。愚かな人類の行為の記憶として「Before Physics」という名称を使いましょう。できれば、基準年が1950年とされているが、本当は1945年にすべきということも覚えておいてください。被爆国の国民として。

・夏・
数日天気が悪くて、湿度も高かったのですが、
久しぶりに晴れました。
すると湿度が高いまま気温が上がり、
少々深いな状態となっています。
まあ、それでも本州の湿度ではなく、
北海道の蒸し暑さですから
耐えられるものです。
ただし、北海道人はこれでも蒸し暑いといって
ぐでぇーとするのですが。

・ドタバタ・
今週は大学の定期試験の真っ最中です。
夏休みは暑いから休みになるはずです。
私が大学生の頃は、前期は夏休みを挟んで
9月にも授業があり、その後定期試験がありました。
でも、今では夏やすみ前に
前期に定期試験まで終わらせるということになっているようで、
一番暑い時期に定期試験をやっています。
学生は暑いのに試験は大変です。
まあ、この1週間が終われば、彼らは夏休みです。
教員はこれからもしばらくは
ドタバタが続くのですが。

2013年7月25日木曜日

5_113 炭素14年代 2:炭素の役割

 生物の体は、炭素が重要な成分となっています。その炭素の由来をたどると、植物にいきつき、更に遡ると大気中の二酸化炭素にたどり着きます。そこで放射性核種である炭素14が、重要な意味をもってきます。

 年代測定には、大きく分けて2つの方法がありました。その一つは、ある放射性核種が常に一定量、形成され、それが時計の役割を果たす場合でした。例として炭素14があることを紹介しました。この方法の利点は、ひとつの試料から年代を決めることができます。年代測定をするために、いくつかの条件を満たさなければなりませんが。
 今回は、炭素14について見ていきます。
 炭素は、原子番号6(陽子の数が6個)の元素で、質量数の違い、つまり中性子の数の違いによって、炭素12、炭素13、炭素14の3つの同位体があります。そのうち大半は炭素12(炭素の全核種の98.9%)が占め、炭素13は(1.1%)を占めます。
 存在量の数値を見るとわかりますが、炭素12と13を合わせると100%になってしまいます。ですから、炭素14は非常に少ないとわかります。その比率(存在度といいます)は、0.00000000012%(0.0000012ppm=1.2×10^-10)と非常に少ないものとなります。
 炭素同位体のうち、炭素12と炭素13は安定している核種で、炭素14だけが放射性を持っています。炭素14の半減期は約5730年ですので、数万年前までの年代測定に利用されています。
 炭素14による年代測定は、つねに一定の炭素14比があり、その比からスタートすることが原理となります。ではそもそも、炭素14の比がなぜ一定になっているのでしょうか。
 炭素は、生物の体を構成する主要な元素です。炭素は、動物なら外部から食料として取り入れ、植物なら大気の二酸化炭素を用いて光合成をして体内成分とします。分解者である微生物も、他の生物の体を利用しています。
 生物の炭素14の比率は、生きている生物では一定であることがわかっています。炭素14が放射性をもっているにもかかわらず、一定になっています。これは、不思議なことです。
 その原因は解明されています。
 まず、放射性の炭素14の半減期が長いことです。生物内の炭素のやり取りは数ヶ月とか1年、長くても100年以下の期間です。その期間と比べると、5730年という半減期は充分長いものだといえます。
 炭素の循環にも原因があります。動物の食料が草食動物だとします。その草食動物は植物を食べることで体を形作ります。一方、微生物の分解物である生物のも、炭素の由来をただせば、植物にたどり着きます。ですから、植物が常に炭素14比を一定にする役割を担っているのです。植物の炭素14は、利用している大気中の二酸化炭素の比率になります。つまり、生物の炭素14比が一定であるのは、大気中の炭素14比が一定だからです。
 炭素14は、大気中で常に形成されています。大気の上空(対流圏上部から成層圏)で宇宙線に由来する中性子が、窒素(14N)にぶつかり、炭素14と水素ができます。その量はほぼ一定して、年間7.5kgほどだとされています。できた炭素14は、すぐに酸素と結合して二酸化炭素になります。ですから、炭素14の比率としてみると、ほぼ一定の値とみなせるようになっています。

・爽快・
本州は熱い日が続いているようですが、
北海道は快適な日々が続いています。
乾燥した快晴の日は、特に最高です。
日が当たるところは暑いですが、
風が吹いたり、日陰に入ると涼しくなり、
ホット一息つけます。
夜は涼しいので、
夕方になると窓を閉めなけれならない日が
ほとんどです。
これでこそ北海道です。
この素晴らしい夏があるから
冬の寒さ、雪に耐え忍べるのです。

・校務・
大学の講義もあと少しです。
来週は定期試験期間になります。
今年は、校務の担当が代わったので、
毎週のように出張、休日の校務、
夕方からの校務などが次々とあるので、
肉体的にもですが精神的にも疲れ、
息を抜く余裕ができません。
夏休みは少し楽になるのですが、
お盆明けには、集中講義、出張校務が
次々と入ってきます。
その隙間をぬって野外調査もする必要があります。
まあ、愚痴をいっても仕事が減るわけでありません。
集中して最短時間で校務をおこない、
自分のすべきことにさける時間を
増やすしかないのでしょう。

2013年7月18日木曜日

5_112 炭素14年代 1:年代測定

 年代測定の結果は、「○○年前」と表記されます。放射性年代の原理によって、言外に「現在から」という意味が含まれています。「現在」として「2013年」か「1950年」かは、何万年前、何億年前の年代であれば、誤差ですみますが、新しい年代だと、「現在」をいつにするのかによって問題がでてくる可能性があります。そんな年代測定として炭素14の年代があります。

 ある物がいつできたかを知りたい時、年代測定をします。いずれの年代測定も、特別な装置を用いますので、だれでもできるものではありませんが、年代という情報は多くの人が接っするようになってきました。
 年代測定に、いくつかの方法がありますが、放射性核種による年代測定がよく用いられ、放射年代や絶対年代とも呼ばれています。
 放射性核種は、ある一定のスピードで崩壊していきます。崩壊のスピードは、半減期や崩壊定数として表されますが、地球の自然状態(核融合や中性子の照射などが起こらないようなところ)では、定まった値を持っています。いったんできた放射性核種は、一定のスピードで壊変するという原理になっているということです。この原理を年代測定として利用します。
 もともとの放射性核種の量(比や個数など)がわかれば、減った現在の量を測定することで、経過した時間を見積もることができます。ただし、問題はもともとの放射性核種の量です。どう見積もるかが問題となります。
 ひとつは、ある放射性核種が、常に一定量、形成される場合です。その例として、炭素14があります。ひとつの試料から一つの年代を決めることができます。
 もうひとつは、もともとの量がはっきりとわからない場合です。これを解決するために、同時にできた性質の違う物をいくつか測定することで推定していくというものです。例えば一つのマグマ(均質な同位体組成をもっている)から、いく種類かの鉱物や組成の違う火成岩が固まったものを利用します。各鉱物や各岩石には、放射性核種の濃度が違った状態で固まります。そこから壊変が起こると、できた核種の量が一定の比率を持ってきます。グラフに書くと、ある傾きもった直線に現在の値が並んでいきます。マグマの時は、水平の直線であったものが、経過した時間に比例した傾きの直線になります。この傾きから年代を見積もることができます。
 さらに、年代を得るには、いくつかの測定条件を満たす必要があります。基本的なことですが、目的の核種の量、適切な半減期の核種の選択、分析能力です。
 年代測定のために用いる放射性核種が、測定できるほどの量が含まれていなければなりません。ただし、分析装置の精度は上がってきているので、少量でも測定は可能になっています。
 ものの形成年代と核種の崩壊のスピードがあっていることも重要になります。早い半減期の核種は新しい年代にできたものに、遅い半減期の核種は古い年代のものに用います。
 また、求めたい年代と分析の精度も問題になります。量が少ないものの測定は精度も悪くなります。分析能力にあった試料や核種、量などが選定できているかどうかという条件です。
 以上のような条件を満たした時、得たい年代を求めることができます。今回取り上げるのは、炭素の放射性核種で、質量数14の放射性核種です。14C(14は上付きの小文字)と表記されます。次回は、それについて、詳しく見ていきます。

・ホッと一息・
昼間は暑いですが、
夕方からは休に涼しくなりホッと一息できます。
過ごしやすい北海道の夏はありがたいです。
北海道の人は、暑さには弱いのですが、
乾燥していると、日陰が涼しく、
風が吹けばホッと一息できます。
大学もあと少しの講義を残すのみとなりました。
終われば、ホッと一息つけます。

・ジレンマ・
4月から校務が忙しくなり、
論文に時間をかける余裕が減ってきました。
年2本以上の論文を自分自身のノルマとしています。
今週明けが締め切りの論文があったのですが、
1週間遅れることになりました。
担当者と査読者にも了承を得ましたが、
私は性分として締め切りを守らないのは、嫌いなのですが、
自分が実行でないときは非常に歯がゆい思いをします。
研究をし、成果を問うことは
研究者としてのアイデンティティでもあるはずです。
それが滞るのはつらいです。
でも、研究者として存在も組織がありきの上に成立っているので、
ジレンマでもあります。
ただ、両立できるように頑張るしかなのでしょう。

2013年7月11日木曜日

6_113 バイオミメティックス 3:新素材

 バイオミメティックス「生物模倣」で生まれつつある技術は、近年いろいろあります。その例として、人工光合成、リブレット構造、構造色、スパチュラ造色を紹介していきます。

 人は、生物や生物がつくったものを使っていました。生物を食べ、生物を着て、生物を利用して住んでいました。自然にやさしいのですが、量産化をしようとすれば、自然への負荷をかけることにもなります。ただし、長期間量産化している状態が維持されると、酪農地域や田園風景、里山などと、新たな自然との調和を生むことになります。
 もっと効率的に利用したと考えるる、自然への負荷がさらに大きくなります。製造工程や製造効率を考えると、生物が行なっている仕組みを必要なものだけ人工的につくっていくというバイオミメティックスが有効になります。
 1970年代には、日本でも人工光合成に力が入れられていました。人工葉緑体とも呼ばれています。現在でも二酸化炭素の消費やエネルギー源として、注目されています。二酸化炭素を利用して、エネルギー源として利用できる酸素と水素が生まれます。水素を目的とするだけでなく、光合成生成物として有用な有機物や燃料になるメタノールを生産も可能になるのではないかと期待されています。
 2008 年の北京オリンピックでは水泳の競技用水着で、SPEEDO社の製品を着れる、着れないで、日本でも大きな話題になりました。そのときの水着は、サメの肌の構造を利用したものでした。サメの肌の拡大していくと、数10μmから数100μmのリブレットと呼ばれる溝状の構造があります。そのリブレット構造は、流体力学的に抵抗摩擦が非常に少ないことがわかりました。それを水着に応用すると、水の抵抗が減り、スピードが上がることになったのです。このバイオミメティックスの技術は、汚れ防止のコーティングや船底の塗装などにも利用されています。
 チョウやタマムシは、鮮やかの色を持っています。その色には、通常の色とは違った仕組みがありました。チョウの鱗粉を拡大してみると、2~3μmほどの構造が繰り返されていることがわかりました。この繰り返し構造は、ある光の波長と同じ間隔であり、その波長の光だけを反射して輝くことになります。つまり色を使うことなく、色を出すことができます。このような色を構造色と呼んでいます。オパールやコロイド結晶などでも同じような発色が起こっています。発色繊維として日本の企業が商品化しています。
 ヤモリは、つるつるしたガラス窓でもすべることなく登っていきます。さらに、吸着力があるのに、移動の時はすぐ剥がれることもできます。非常に不思議な特性をもっています。ヤモリの足の裏には、吸着力があるのですが、粘着質になっているわけでなく、小さな繊維があるだけです。直径5μm、長さ100μmの毛があり、その先端には枝毛が多数あります。その枝毛が、皿状(スパチュラ、spatula)の変わった構造をもっています。その皿は、直径200nmほど小さいものです。この皿状構造が、「ファンデルワールス力」という力を生み出して、くっついていることがわかりました。
 この構造をカーボンナノチューブを集めて再現されました。するとこれは強い接着力をもったものとなり、斜めにから力を加えると簡単に剥がすことができます。5cm四方のテープなら115kgの重さをくっつけること非常に強力は吸着力があります。現在、アメリカの研究者たちや日本の企業が素材を開発し、商品化を目指しています。この素材は、粘着部があるのではなく、微細構造による接着なので、剥がしても構造が壊れない限り、何度も利用できます。
 他にも、細くて丈夫なクモの糸、超撥水性をもっている蓮の葉、光を反射しないアリの眼、砂を移動するトカゲ(サンドフィッシュ)の摩擦が少ないウロコなど、いろいろな素材が開発や商品化を目指されています。いずれも、詳しくみていくと面白いところがあるのですが、今回はここまでにしておきます。
 身近なところに、人類のまだ知らないお手本が一杯ありました。そのお手本は、見て知るための観察装置、そして知ったことを再現するための技術力もなければなりません。21世紀は、そんなお膳立てが整った時代なのかもしれません。私たちは、やっと自然から学び、そして活かすことができるようになったのです。

・放送にて・
先日、NHKでバイオミメティックスについての
番組がありました。
番組では、今回、紹介しようと思っていた
素材があったので、少々戸惑いました。
番組では詳しくでていなものを
今回は紹介することにしました。
今、注目されているものは、
いろいろなメディアで取り上げられるのですね。

・北海道も夏・
北海道は数日暑い日が続きました。
暑さには弱いのが北海道人です。
ぐったりとして、仕事に集中出来ません。
論文が、はかどらなくて困りました。
ただ、夜になると涼しくなり、睡眠は取れます。
やっと雨が降って涼しくなり、一息つけました。
いよいよ北海道も夏です。

2013年7月4日木曜日

6_112 バイオミメティックス 2:先駆者

 バイオミメティックス「生物模倣」は、新しい考え方ですが、先駆者がいました。その成果は、今も身の回りに使われているマジックテープです。その後、いろいろな分野で研究が進められていますが、課題もあるようです。

 バイオミメティックスは「生物模倣」と訳されて、生物がもっている仕組みを模倣して、新しい技術や素材を開発していこうとするものです。新しい分野で、現在、盛んに研究されているものです。
 このような新しい研究分野ですが、50年以上前にバイオミメティックスを活用した先駆者がいました。
 先駆者は、機械工場で働いていたスイス人のジョルジュ・デ・メストラル(George de Mestral)でした。彼は、1941年にアルプスに狩猟旅行をしていました。山から降りてくると、自分のズボンや犬には、たくさんの野生のゴボウの種子(ひっつき虫とも呼ばれる)がついていました。種がくっつくことに興味をもったメストラルは、顕微鏡で詳しく調べていきました。種には、多数のフックがあることがわかりました。種のフックは、衣類のようなループをもったものや犬の毛には、非常にうまく付くことがわかりました。
 この仕組を利用した製品を、苦労の末に製造できるようにしました。特殊なナイロン製の糸を使って、一方にフックがついたもの、他方にループがついた布をつくりました。両者の布は、接着剤なしでくっつたいり、剥がしたりできる画期的なものでした。1951年に特許出願をし、1955年に認定されました。
 日本ではマジックテープという商品名として知られています。英語ではベルクロ(Velcro)と呼ばれていますが、これも商品名です。
 今ではマジックテープも、いろいろ進化しているようですが、孤立した技術でもあります。マジックテープが、残念ながら技術のイノベーションになることにはありませんでした。メストラルの仕事は、先駆的でしたが、このような発想をまねる研究は、残念ながらその後、続きませんでした。
 近年になって、やっとバイオミメティックスが注目されてきました。
 研究がなされるようになってきたのは、1970年代からで、まずは化学の分野でした。生物の仕組みを分子レベルと模倣しようとする、Biomimetic Chemistryと呼ばれるものでした。X線を用いる装置が発展して、生物の酵素や生体膜、分子の認識などの基礎研究が進みました。
 1990年代から2000年代にかけては、電子顕微鏡の進歩によって、μmからnm(ナノメートル)にかけての構造を観察できるようになりました。生物の構造は、実は階層的な仕組みがあり、それを解明し、ナノテクノロジーとして発展させようと考えられています。素材や材料の分野で、バイオミメティックスの研究が生まれて来ました。
 1970年代には、工学的な研究も並行して進んでいました。昆虫の飛行の仕組み、魚の泳ぎ、コウモリの位置探査のメカニズムなどの解明をしていくことで、流体力学、音響工学、センサー技術などに新しい知識を加えました。これらの成果は、多くの産業にすでに適用されてきました。
 現在、ナノテクノロジーのバイオミメティックスと、工学的バイオミメティックスが、どう融合させるかが課題となっています。バイオミメティックスは、まだまだ基礎研究ですので、着実に成果を積み重ねていくことが重要ではないでしょう。
 次回は、バイオミメティックスのいくつかの事例を紹介しましょう。

・マジックテープ・
マジックテープは商標名です。
製品名としては、
「面ファスナー」や「タッチファスナー」というそうです。
あちこちでみかける製品となっています。
マジックテープとしていろいろな改造や工夫はなされています。
しかし、マジックテープから、大きな技術の
発展や展開がなされることはありませんでした。
これをエッセイでは「孤立した技術」と呼びました。
本来、技術は、仕組みであれば、
いろいろ転用されていくはずです。
マジックテープは、くっつくことが目的となっています。
異質のものをくっつけるのには、接着剤があります。
それとマジックテープは方向性が違います。
バイオミメティックスでも
イノベーションとなるような発想が
みつかれば素晴らしいのですが。

・締め切り・
北海道の夏めいてきたので、
学生たちも夏休みを意識する頃でしょうか。
大学も前期の講義が終盤となりました。
やっと先が見えてきた感があります。
私は、ただただ多忙な日々を過ごしています。
今日はこれ、明日はあれを、
と日々の仕事をこなすことに
四苦八苦しています。
本来であれば、じっくり頭を使って
したいことがあるのですが、
なかなかその時間と余裕がありません。
でも、締め切りだけは着実に迫ってくるのですが。

2013年6月27日木曜日

6_111 バイオミメティックス 1:自然から学ぶ

 バイオミメティックスという言葉は聞きなれませんが、最近盛んに使われるようになったものです。従来にない新しい考え方です。身近な自然に光を当てて、新しい仕組みを見つけ、それを利用していこうというものです。宇宙や深海など、人類がなかなか行けないところだけが新天地ではなく、身近なところにも新天地がいっぱいあるのです。私たちが気づかなかっただけなのです。

 バイオミメティックスという言葉をご存知でしょうか。最近よく使われ、時々メディアにでることもありますが、まだ新しい言葉です。
 バイオミメティックスは、英語のbiomimeticsをそのまま用いています。bioとは、ギリシア語の生命(life)を意味する「bios」に由来していて、他の言葉と連結して、「生」や「生物」、「生物学の」などの意味を付け加えます。また、mimeticは、生物学では「擬態」という意味で使われていますが、「模倣」という意味もあります。バイオミメティックスは、現在では「生物模倣」と訳されています。
 そもそもは、アメリカの神経生理学者のオットー・シュミット(Otto Schmitt)によって提唱されたものです。シュミットは、入ってくる信号から雑音を除去する回路を構築するのに、神経の仕組みを利用しました。これは、「シュミット・トリガー」として知られています。
 バイオミメティックスの意図するところは、生物がもっている仕組みを模倣して、新しい技術や素材を開発していくことです。生物学は、生物の仕組みを解明することに主眼を置いてきたのですが、その仕組には、人の社会に応用すれば、役に立つ仕組みもあはるずです。それを意図的に見つけ、技術的に応用していこうというものです。
 従来の技術は、人の立場から、文明や文化、科学として蓄積されたきたものの上で、開発されてきました。しかし、バイオミメティックスでは、人の立場から離れて、自然界(主には生物)の仕組みから見つけていこうという考え方や方向性です。その姿勢は、今までの科学の方向性とは大きく違っているものです。
 生物が持っている効果や現象は、自然界にある材料、手法、仕組みを利用していて、なおかつ進化によって非常に効率のいいものに仕上げられています。ですから、環境への負担や安全性、製造コストを、画期的に改善できるものがあります。
 環境への影響を強く配慮する社会になってきたことから、バイオミメティックスが注目されています。近年の必要性から、この分野の研究者も多くなり、研究論文の多数書かれるようになってきました。そして2006年には、専門の科学雑誌「Bioinspiration & Biomimetics」も発行されています。
 まだまだ新しい研究分野ですが、実はその萌芽的な応用は早い時期からありました。それは次回としましょう。

・教員採用試験・
小学校での教育実習の前期分は終わりました。
3年生の特別支援学校や介護等体験など
3年生の実習が現在おこなわれています。
特別支援学校での実習は
他の学科の先生が担当してくださって
小学校は私の学科担当なっています。
そのためここ1月余りは、出張が多くなりました。
講義のやりくりがなかなか大変で
来年以降ますます大変になりそうです。
そんな教員側の苦労も、
採用試験の合格の報で
むくわれるのですが。
今年の北海道の採用試験は6月30日です。
どんな結果になることやら。

・きつい時期・
この時期の北海道は、本来であれば、
一番爽快で快適な気候のはずなのですが、
今年はそうでもありません。
天気が悪い時は、肌寒かったり
時には蒸し暑かったりします。
快晴で、本当に心地よい日もあります。
気温の変化が激しいせいでしょうか、
風邪を引いてマスクを着用している学生も多く見かけます。
私も実は先週末あたりから
風邪を引いています。
喉が少々腫れているようで
炭酸の飲み物や刺激の強いものは喉にしみます。
でも、一番の問題は、風邪のせいで、
体力だけでなく気力の衰えていることです。
校務が忙しく、精神的にも肉体的にも
辛い時期であるためでしょう。
夏休みまでなんとか倒れずにいたいものです。
無理をせず、できる範囲で頑張ることでしょう。

2013年6月20日木曜日

1_117 三畳紀初期の温暖化 3:システム擾乱

 生物は、ひとつひとつで見ると弱い存在ですが、全体で見るとなかなかタフです。生物は、35億年前から絶えることなく継続してきたことが、その証です。大きな絶滅があったとすれば、タフな生物全体を揺るがす異変があったことになります。三畳紀初期の温暖化は、そんな異変だったのでしょうか。

 P-T境界(ペルム紀と三畳紀の時代境界)に大絶滅が起こりました。その時期に起こったいろいろな異常現象がみつかっているのですが、それぞれの因果や連鎖は、まだよくわかっていません。今回紹介しているのは、P-T境界直後、三畳紀の初期の温暖化です。
 P-T境界直後の三畳紀初期に海水温が、現在より10℃から15℃ほど高かったことが、化石の同位体組成からわかりました。平均気温が10℃も高いということは、非常に大きな異変となります。氷河期から間氷期に勝る温度変化です。P-T境界の絶滅が始まってから、最後に温暖化が起こり、回復するのに要した期間は、500万年間にも達しています。通常の大絶滅は数十万年で終わりますが、500万年絶滅期間は長いものです。
 三畳紀初期で温暖化の証拠がみつかっているのは、今のところ調査された熱帯地域だけです。しかし、ある海域だけで起こる現象ではなく、海洋全体、地球表層全体で、温暖化が起こっていたと考えられています。
 温暖化によって絶滅がどのようにして起こったでしょうか。ひとつのシナリオを紹介しましょう。
 P-T境界の異変によって、多くの生物が絶滅しました。その中には、陸上で大繁栄していた植物(大森林を形成していた)も大きなダメージを受けました。陸上の植物が大絶滅した結果、生態系のバランスだけでなく、地球の物質循環が途切れます。スーパープルームによるシベリア・トラップの火山活動が大絶滅の原因のひとつだとすると、火山活動に由来する二酸化炭素も大量に放出されていたはずです。それを吸収する植物が失われたとなると、二酸化炭素は大量に大気に蓄積されることになります。それも温室効果を促進する役割を担っていたのかもしれません。
 通常は地球のシステムは、極端な変化を緩衝するフィードバックシステムが働くのですが、陸上植物の欠落によって地球の物質循環のシステムが狂います。このシステムの混乱によって「暴走温暖化」が起こります
 スーパープルームは巨大な地球の熱対流に基づくものです。スーパープルームに由来する要因は、非常に長い期間継続しえます。P-T境界の大絶滅は、温暖化以前にある程度、大絶滅が起こっていました。その後に温暖化がおこり、P-T境界をなんとか生き延びた殻の硬い巻貝や二枚貝なども、絶滅しまいました。システムの混乱は500万年かかってやっと回復します。これら推定されているシナリオです。
 温暖化だけが原因とは考えられません。温暖化が長く続くと、もはや絶滅の原因ではなくなります。温暖化、いや地球表層の高温が当たり前の環境になってしまいます。すると、高温に適応した生物群ができあがるはずです。生物の絶滅で重要なことは、生物が対応できない変化が起こることです。大きな変化が広域に起こるか、つぎつぎと環境変化が起こることが、大絶滅の原因となるのです。
 P-T境界の大絶滅の直後に起こった温暖化は、弱っていた生物圏、減少していた生物種に、更なるダメージを与えました。三畳紀初期の温暖化は、ダメ押しとして役割を果たしたのでしょう。これがP-T境界の大絶滅をより大きな、生物史最大のものにしたのではないかと考えられます。

・高湿度・
今週はどんよりした天候が続きます。
湿度が高いので少々不快ですが、
気温がそんなに高くないので、
なんとか過ごせます。
北海道の人は、寒さには慣れているのですが、
暑さには慣れていません。
特に本州の梅雨の蒸し暑さのダメージは大きくなります。
北海道に数年すれば、
北海道人の体質になります。
私のその一人で、暑さには弱くなっています。
清々しい夏が来ることを願っています。

・補講・
毎週のように出張があります。
サラリーマンには、出張が当たり前の人も
一杯いることでしょう。
しかし、大学教員が出張を一杯するということは
休講が一杯あるということです。
近年、講義保障で15回の講義をすることが
義務付けられています。
ですから休講をすると補講をしなければなりません。
しかし、補講日も限られていて、
夜(7校時)などに講義をするように指示されています。
そうなると教員だけでなく、学生も大変です。
学びたい気持ちの学生ばかりだといいのですが、
そうでもない学生もかなりいます。
形式よりも実が大切なはずなのですが・・・

2013年6月13日木曜日

1_116 三畳紀初期の温暖化 2:致死的

 P-T境界を挟んで、いろいろな異常現象が起こりました。最近、三畳紀初期に起こった異常現象が発見され、「致死的な高温」と呼ばれています。この温暖化が、ペルム紀末のさまざまな異変に続いて起こります。

 古生代と中生代の時代境界(P-T境界)では、生物史上最悪の大絶滅が起こりました。古生代と中生代の生物種が一変するほどの変化でした。そのP-T境界で起こった大絶滅事件には、いろいろな異常現象が伴っていました。超大陸パンゲアの形成から分裂へ、スーパープルームの上昇、世界規模での海退、激しい火山活動、特にシベリアの火山活動(シベリア・トラップと呼ばれています)は広範囲に及ぶものでした。さらに他の大絶滅に比べて期間が長い点も特徴です。通常の絶滅が数10万年の期間で起こるのに対して、P-T境界の絶滅は、2億5200万~2億4700万年前の500万年もかかっています。この絶滅はP-T境界をまたいで起こっています。
 これらの現象は、どれもが地球生命には大きな変化を起こしうるものです。どれかひとつの現象が、他のすべてを起こした原因だったのか。あるいは、いくつもの原因が、複合的に他の現象を起こしたのか。いくつもの現象が、どのような因果関係にあったのかを知りたいのですが、その解明はなかなか困難なようです。
 昨年、P-T境界付近の時代に、新たな異常現象が見つかりました。サイエンス誌(Science)の2012年10月19日付けのオンライン版に発表されました。イギリスのリーズ大学のスンさんらの研究グループが、中国南部の浅い海の堆積物を研究したものです。その地層は、三畳紀の最初期に形成されました。P-T境界の絶滅事件の直後にたまったものです。
 さて、酸素の同位体組成が温度と相関をもっており、同位体組成を分析すれば、海水がなくても、海水温を見積もることができます。知りたい時代、今回はP-T境界付近、あるいは中国の地層では三畳紀最初期の海水の酸素を見つければ、当時の海水の温度を見積もることが可能になります。
 スンさんたちは、地層が赤道付近で溜まったものであるのことを明らかにしています。そして地層には化石が含まれていることがわかっていました。化石(当時生物の殻)をつくっている物質は、当時の海水に溶け込んでいた成分からできたはずです。化石を形づくる物質(多くは炭酸カルシウムCaCO3)の酸素を利用すれば、海水の温度を見積もることができます。この方法は、多くのところで、すでに利用され、実績を挙げているものです。もちろんこの炭酸カルシウムが形成後変化していないという前提が必要ですが。
 化石の酸素同位体の分析の結果、当時の海水温が40℃に達していたことを示していました。浅い海の化石なので、海水表面付近の温度とみなすことができます。現在の赤道の海表面の温度は、平均で25~30℃ですので、それと比べても明らかに高い温度を示しています。
 スンたちは、この高温を「致死的な高温(lethally hot temperatures)」と呼びました。その様子と意義を次回考えていきましょう。

・おわび・
当初、「ペルム紀の温暖化」というシリーズ名をつけたのですが、
論文を読んでいくと、
「三畳紀初期」ということがわかりましたので修正します。
ホームページとブロクは修正しましたが、
発行してしまたメールマガジンは変更できません。
それでお詫びの文章をここに掲載しておきます。
申し訳ありませんでした。

・初夏・
北海道は夏めいてきました。
初夏の心地いい天気が続いています。
YOSAKOIも好天に恵まれ成功裏に終わりました。
私は、テレビ観覧でしたが。
遅ればせながら、エゾハルゼミ鳴き始めました。
先日のニュースでは、今年の6月に入ってからの晴天率が
非常にいいということです。
5月までの天候不順を取り戻すかのように
いい天気が続いています。
農家もこれで一息つけるでしょうか。

・出張・
毎週、教育実習の指導のために出張しています。
その疲れもあるのでしょうが、
あれやこれやと校務が結構あり、
精神的にも疲れています。
それに加えて論文の進行があまりよくありません。
7月には講演会もあるので、
その準備もそろそろしなければなりません。
気ばかり焦って、なかなかことが進みません。
ただ、ひたすら少しでもいいからやり続けることが
最終的には近道なのです。
わかっているけどできないのが人の常なのですが。

2013年6月6日木曜日

1_115 三畳紀初期の温暖化 1:P-T境界

 ペルム紀は古生代最後の時代です。古生代と中生代は、地質年代区分でも大きな境界になります。その境界で、大きな事件があったことがわかっていました。ただそのシナリオは、まだ完成していません。最近、新たな事件の証拠が発見されました。

 古生代の終わりの時代はペルム紀(Permian)と呼ばれ、2億9900万~2億5100万年前の期間です。ペルム紀の次の時代は三畳紀(Triassic)で中生代になります。ペルム紀と三畳紀の時代境界を、英語の頭文字をとって、P-T境界と呼びます。
 ペルム紀は、陸上生物が繁栄していました。動物では、大型化した両生類や爬虫類が出現していました。後の恐竜や現在の爬虫類の祖先になる爬虫類(双弓類)や哺乳類の祖先に当たる哺乳類型爬虫類(単弓類)もいました。また、石炭紀に繁栄して大森林をつくっていたシダ類、ソテツ類、イチョウ類などの裸子植物が繁茂していました。海では三葉虫の他にも、フズリナ、四射サンゴ(棘皮動物)、軟体動物、腕足類などの多様な化石が、浅い海の堆積物から見つかっています。陸地も海も、生物で賑わっていたようです。
 ところが、古生代に繁栄していた生物が、P-T境界でほとんど絶滅してしまいました。古生代と中生代の境界が、ここに置かれているのは、今では重要な意味を持つようになりました。P-T境界の絶滅は、地球生命が経験したもっとも大きなものだと推定されています。古生代に繁栄していた三葉虫が絶滅したことはよく知られていますが、他にも多数の生物種が消えた大絶滅だと考えられています。
 「大絶滅」というと、恐竜が絶滅した中生代と新生代の境界(K-T境界、あるいはK-Pg境界と呼ばれる)を、多くの人が思い浮かべることでしょう。K-Pg境界も大絶滅ではあるのですが、「大絶滅のランキング」でいうと、第5位にあたります。
 絶滅のランキングの第1位は、実はP-T境界のものです。その絶滅の程度はいくつかの推定がありますが、海生生物では最大で96%の種が、全生物種で見ると90%ほどが絶滅したと見積もられています。
 それでも、ほんの一部の生物種が生きのびて、中生代の生物がはじまりました。生き延びた一部の生物が、中生代から後の生物の祖先となり、後の系統を形成したので、古生代の生物と中生代の生物は、だいぶタイプが変わっています。その生物種の差が大きさからも、時代の境界がP-T境界にあることは、意味があったのです。
 ところが、P-T境界の大絶滅が、なぜ起こったのか、今でも謎でなのです。いくつかの特異的な現象が知られています。これを説明するために、いくつかの仮説が提唱されています。いずれの仮説も多様な現象を説明するために、複雑なシナリオが必要です。まだ決定的な仮説がありません。研究途上なのです。
 昨年、P-T境界付近で、新たな異常現象が見つかりました。それは、強烈な温暖化でした。その紹介は次回としましょう。

・二畳紀・
ペルム紀は二畳紀とも呼ばれることもあります。
かつては二畳紀のほうがよく使われていましたが、
今では、あまり使わなくなりました。
ペルム紀は、ロシアのウラル山脈の西部の
ペルム地方からとって付けられた名称です。
二畳紀は、この時代の地層がでているドイツでは
赤底統と苦灰統の2つの地層になっていることから
ダイアス(Dyas)と呼ばれていました。
その訳語が二畳紀とされました。
残念がらあまり使われませんが。

・YOSAKOIソーラン・
6月になり、北海道もやっと初夏の気候になってきました。
長い冬と、寒い春がやっと終わりました。
我が家のストーブもやっと休みになりそうです。
天気がいいと、暑さを感じるようになってきました。
暑い日などは、帰宅すると一汗かいているので
風呂よりシャワーで済ましてしまう日もあります。
今週から、YOSAKOIソーラン祭りが始まります。
今年の北海道の夏は、
YOSAKOIとともにはじまります。

2013年5月30日木曜日

5_111 地球型惑星 4:地球型惑星

 ハビタブルゾーンでみつかった3つの惑星についての紹介します。そのうち2つの惑星は、同じ恒星系から見つかったものです太陽系外惑星の発見から、どんな可能性が描けるのでしょうか。

 前回は、突然入ってきた宇宙望遠鏡ケプラーの故障のニュースを、急遽紹介しました。今回は、いよいよ宇宙望遠鏡ケプラーが発見したハビタブルゾーンにある地球型惑星の説明をしていきます。
 ふたつは「こと座」の方向に1200光年離れたケプラー62で、残りのひとつは「はくちょう座」の方向に2700光年離れたケプラー69と命名されている恒星系で発見されました。ハビタブルゾーンにある地球型惑星は、ケプラー62から62eと62fの二つ、ケプラー69から69cの一つでした。
 ところで、恒星の名前は、探査のミッションや望遠鏡の名と、発見された順番を組み合わせてつけられることが多いようです。ですから、「ケプラー62」とは宇宙望遠鏡ケプラーが、62番目に発見したものであることを意味します。
 恒星の番号の次のアルファベットが惑星を意味します。太陽系外惑星の命名に関しては、正式な定めはありませんが、小文字のbからはじまるアルファベットをつけられます。bからはじまるのは、主星(恒星)をAをつけて表すためです。主星が二つ以上の恒星からなる(連星、伴星)であれば、A、B、C・・・としていきます。主星Aの惑星には、発見順に、Ab、Ac、Ad・・・とつけていきますが、主星が一個(A)だけの場合、Aは省略されて表します。ケプラーの発見したものにも、この方法が適用されています。62eとは、ケプラーが62番目に発見した恒星で、4番目に発見された惑星だということです。
 さて、惑星についてです。
 62eは、岩石からできた惑星で、地球の約1.6倍の大きさがあり、122日で恒星(ケプラー62)を回っています。62fは、62eより外の軌道を267日で回っており、地球の大きさの1.4倍の大きさです。69cは、地球の1.7倍の大きさで242日で回っています。
 69cは、どのような物質でできているかは不明ですが、太陽系の金星の公転周期が似ています。他の2つの惑星は、岩石からできていることがわかっています。
 地球では、ハビタブルゾーンの3つの惑星のうち1つに液体の水があり(地球)、水の痕跡を見つかっています(火星)。ですから、ハビタブルゾーンで、地球に似たサイズで表面が岩石の天体(地球型惑星)があれば、期待がわいてきます。もちろん、海の存在、そして生命の存在への期待です。
 今回発見された惑星は、1200光年や2700光年も離れているので、生命がいたとして探査ができるでしょうか。なかなか難しいかもしれませんが、海の有無なら今後、観測可能かもしれません。もし、知的生命がいて通信技術をもっていれば、信号を発信、あるいは無意識な電波の放出をおこなっているかもしれません。その探知ができるかもしれません。そんな期待です。
 ただし、その知的生命の痕跡は、1200年前の信号だということに注意が必要です。1200年前といえば、地球では東ローマ帝国や唐があった時代で、日本では平安時代です。それほどの時間差がある情報が今届くことになります。今の地球からの電波の情報を、今から1200年後の地球人類はどうみるでしょうか。過去から届いた情報を、現在と同一のレベルで考えるのは注意が必要です。それほどの隔たりではないでしょう。第二の生命の星の可能性は、そんな過去をも探ることでもあります。

・快晴・
天気の良い日がまだまだ少ないですが
すこしずつ晴天の日が表れるように成りました。
たまの快晴は非常に心地よいものです。
やはり北国の春の青空は
なかなか清々しいものです。
今年は天候が不順でなかなか晴れが少ないのですが、
快晴は希少価値、ありがたみがあります。

・校務・
今週は校務がいろいろあり忙しいので、
このエッセイも早めに書いて
予約送信しています。
発行の前日も日高、三石に日帰りしています。
多分、疲れていると思います。
この日の私の担当の講義は、休講になりました。
しかし、日々の講義も校務も待ったなしで続きます。

2013年5月23日木曜日

5_110 地球型惑星 3:故障

 今回は、予定を変更して、ケプラーの最新ニュースをお知らせます。宇宙望遠鏡であるケプラーは、制御用の部品が壊れたため、観測ができなくなったというニュースが入ってきました。その内容を急遽紹介します。

 今回のエッセイでは、ケプラーが発見したハビタブルゾーンにある地球型惑星の説明をしようと考えていました。ところが、ケプラーに関する重大なニュースがはいってきました。それは、宇宙望遠鏡のケプラーが、壊れたというニュースでした。
 NASAは5月15日、ケプラーの姿勢を制御する仕組みが壊れたという報告をしました。ケプラーは「リアクション・ホイール」という装置で姿勢制御をしているのですが、その1基が壊れました。リアクション・ホイールというのは、簡単にいえばモーターで回転する円盤です。無重力の宇宙空間では、その回転と反対の方向に機体が回る力が発生します。ロケットやジェットを噴射せずに宇宙機の方向を少し変化させるのに利用されています。円盤の回転なので、精密な姿勢制御が可能な装置です。空間の3次元に対応して、基本的には3軸の回転軸をもった3基のホイールで構成されることになります。
 ケプラーはリアクション・ホイールを4基もっていたのですが、1基が2012年7月に壊れ、2012年1月にはもう1基が不調になり一時観測を止まっていました。そして今回、この不調の1基が完全に壊れたようです。
 ケプラーは、はくちょう座とこと座の間の一角で、他の天体の明るさの変化(トランジット法とよばれています)を精密に観測して、惑星の特徴を調べていました。明るさの変化は、いつ起こるかわからない、小さな現象なので、常に同じ方向を向いて観測し続けている必要があるので、正確な姿勢制御が不可欠となります。
 ケプラーの姿勢制御は、他にもスラスターという微修正ができる装置がありますが、精密な制御は困難です。しかし、なんとか残ったホイールとスラスターで姿勢制御をしながら運用する努力をされているようです。
 ケプラーは、地球から離れた軌道にあります。地球と同じように太陽を回る軌道で、地球の後を追いかけるように移動しています。このような軌道をとっているのは、地球の影響(明かりや地球の影になるなど)をなくすためと、太陽系にある多数の小天体の影響がなくすためです。観察方向も太陽系の黄道面から離れていて銀河の星の多い方向(はくちょう座とこと座の方向)を観察するように配慮されています。ですから、ハッブル望遠鏡のときのように人がいって修理することも不可能です。
 ケブラー自身が公転しながら、一定の方向に望遠鏡を常に向けるために、姿勢制御は観察には不可欠となります。21日の段階でも回復の努力は続けられていますが、ホイールの故障は回復していないようです。
 ケプラーのデータのうち、まだ解析されていないものもたくさんあるようなので、その解析によって、これからも新しい発見が期待されそうです。当初計画より長く運用もされてきました。このエッセイで紹介するような、大きな成果を上げたばかりなので、やはり残念です。次回こそ、ケプラーの成果を紹介します。

・タイミング・
今回のニュースは少々驚きました。
まさにエッセイを書いている時だったので、
タイミングとして取り上げることができてよかったのですが、
悪いニュースを喜ぶことはできません。
ケプラーのエッセイは
前回話題にした3.11のときといい、今回といい、
どうもあまり相性が良くないのでしょうか。
まあ、これは起こりうる偶然なのでしょうが、
少々気になるところです。

・風邪の流行・
北海道はまだ天候不順です。
数日の暖かい日に桜はやっと満開になりました。
まだ、残雪も一部残っています。
天気がよければ暑いくらいなのですが
曇りで風のある日には
コートが必要なほどの寒さになります。
風邪を引いている学生も多数います。
我が家でも、次男と家内が風邪をひき、
高体連中の長男も少々風邪気味のようです。
今のところ私はだいじょうぶなのですが、
いろいろな風邪のウイルスを
タップリと吸い込んでいるはずです。
体力だけで持ちこたえるようです。
いろいろと校務が忙しくなってきたので、
寝こむと支障をきたすことになるので、
なんとか体が持って欲しいものです。

2013年5月16日木曜日

5_109 地球型惑星 2:ケプラー

 人類の好奇心として、地球外生命の存在の有無は、もっとも刺激されるものでしょう。そんな好奇心をくすぐるようなニュースが相次いでいます。今回は、そのニュースの一つを紹介します。

 遠くの天体、それも光を発することのない惑星を、探査するのは非常に難しい観測となります。遠くの惑星を探す方法は、このエッセイでも、昔からの方法から最新の方法まで、いくつか紹介したことがありました。その中で太陽系外の惑星探査を目的とした宇宙望遠鏡ケプラーについても触れました。ケプラーは、NASAが2009年3月6日に、地球型の惑星を太陽系外から探すことを目的として打ち上げたものです。
 計画では、3年半にわたって、10万個の恒星の明るさの変化を測定し、惑星を見つけようとうするもの(トランジット法)でした。10万個の恒星を測定すれば、確率的には480個の地球型惑星を発見できると見込まれていました。当初の計画の3年半を過ぎていますが、現在も観測は続けられていて、今も重要な成果を挙げています。
 ケプラーはこれまで、15万個以上の恒星について観測をおこない、2740個の太陽系外惑星を見つけています。そのうち122個が、惑星であると確定できる観測をしてきました。
 ケプラーによる探査の成果は、これまでも何度か話題になりました。
 2013年2月21日には、水星より小さく月より少し大きい惑星が見つかっています。はくちょう座付近のケプラー37と名付けられた恒星の惑星の一つで、地球と比べると約3分の1の大きさしかりません。ケプラー37では3つの惑星が見つかっていますが、そのもっと内側をめぐる惑星(ケプラー37b)で、水星のように大気がなく、太陽の近くなので灼熱の惑星ではないかとみられています。ケプラー37bは、岩石からできていて、固い地面をもっている地球型惑星と考えられています。ケプラーで、小さき惑星を発見できる技術が確立されたこと示すニュースでもありました。
 最近、ハビタブルゾーンから、惑星がみつかったというニュースが流れました。
 恒星の明るさにもよりますが、ハビタブルゾーンは恒星の近くの限られた範囲に形成されます。もちろん、その範囲に惑星がなければなりません。ただし、惑星の大きさにも制限があります。大きな惑星であれば、太陽系の木星や土星のようなガス惑星になり、固い地表や海の存在が望めません。ある限られたゾーンのある大きさの惑星あることが、必要条件となります。これは見つけるのが難しい条件となります。
 2013年4月18日、NASAから、ハビタブルゾーンで地球型惑星が発見されたというニュースがでました。それも、3つも見つかったという報告でした。着実に観測は進んできています。その詳細は、次回としましょう。

・3.11の思い・
太陽系外の惑星を探査する宇宙望遠鏡
ケプラーを話題にしたのは、
「6_88 ケプラー3:異形の惑星系」
というものでした。
このエッセイには苦い思い出があります。
発行日は、2011年3月17日で、
3.11の東日本大震災の直後のことでした。
そのため、この時期はエッセイの発行を休止するか、
その時にふさわしい話題にするか、
などいろいろ迷いました。
しかし、但し書きつきで、このエッセイを発行しました。
ですから、ケプラーは、私にとっては、
そんな思いがよみがえるものとなっています。

・好奇心・
ハビタブルゾーンの地球型惑星の次に期待されるものは、
生命の存在可能性についてでしょう。
探査のための、いくつかのアイディアは生まれるでしょう。
もっと精度の高い望遠鏡で観測するとか、
そのような惑星をターゲットにSETIを行なう、
あるいは、何らかの信号を送ってみる、・・・。
まあ、遠い星のことなので
どの方法がいいかは、いろいろ考えるべきでしょう。
でも、そこまでわかってきたら、
もっと知りたいという好奇心がかき立てられます。

2013年5月9日木曜日

5_108 地球型惑星 1:ハビタブルゾーン

 地球は、人類にとって唯一無二の存在で、どんなに文明が進んでも、人類は地球に住み続けると思います。興味として、地球以外の天体や、太陽系以外の惑星に生命はいないのか、というもの常にあります。科学も両面の探査を続けています。最近、太陽系以外の惑星に大きな進展がありました。

 ハビタブルゾーン(habitable zone)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。Habitableとは「住むのに適した」という意味で、ハビタブルゾーンとは「住むのに適した領域」という意味になります。天文学で使われている用語で、生命が誕生するのに適した領域のことを意味します。時には、生命誕生だけでなく、生命が誕生した後進化できる条件をも加味されることもあります。
 生命が誕生するのに適した領域を本当に決定するには、実際の生命が誕生するか、誕生したかで検証しなければなりません。しかし、生命が存在しているのは、今のところ太陽系の地球の例しかなく、すべての天体に適用できるかどうかは不明です。生命の存在が確認できない場合は、生命誕生に不可欠な条件を見つけ、その条件が達成できるかどうかでハビタブルゾーンを設定ます。可能性での議論となります。
 恒星は核融合が起こっている高温の条件で、生命誕生の場にはなりませんが、生命にとって必要なエネルギーの供給源となります。恒星のエネルギーを効率的に利用できる環境として、惑星表面、あるいは表層付近(地下、海底、氷の下など)が想定できます。惑星表層で生命の誕生に不可欠な条件とは、液体のH2O、水が存在できるかどうかが重要です。H2Oは、宇宙ではたくさん存在する分子ですので、素材としては充分あります。
 H2Oは、温度が高ければ気体、低ければ氷、ある限られた条件(地球表層では0~100℃の範囲)では水になります。恒星の周りに惑星系があるので、温度は恒星からの距離と惑星表層の条件に依存します。惑星の表層は多様なので、決定しづらいところですが、必要条件として、H2Oが水として存在できる範囲を、天文学的ハビタブルゾーンと設定します。
 ただし、ハビタブルゾーンには、きつく考える立場とゆるく考える立場があります。
 きつく考える立場では、単純に恒星の明るさと距離だけの条件で水が存在できる範囲を考えるものです。惑星の表層の条件はとりあえずは、考えないものとします。太陽系では、金星から火星のあたりの範囲になります。
 ゆるく考える立場は、惑星の表層条件をいろいろ設定すれば、水が存在できそうな範囲を広く考えようというものです。太陽系では金星から小惑星帯の範囲が入ります。さらに、木星や土星などの大きな衛星では、太陽のエネルギーより母惑星との潮汐などをエネルギー源として、氷の下などの特殊な環境で、液体の水が存在する可能性も指摘されています。多様な天体を考えると、ハビタブルゾーンは、かなり広く存在する可能性があります。
 ただし、ゆるい立場に立つと、個々の天体の特殊性や個性がわからないと、先に進めなくなります。ですから、通常はハビタブルゾーンは、太陽系をモデルにして、恒星の明るさと惑星まで距離から単純に計算して、ハビタブルゾーンを見積もっていきます。この方法は、恒星の明るさがわかれば、ハビタブルゾーンが一義的計算できるという利点があります。
 太陽系以外の恒星系でハビタブルゾーンが設定できれば、次の問題は、そこに惑星が存在するかどうかが重要になります。最近、そのような惑星が見つかったというニュースが流れました。詳しくは次回にしましょう。

・事実の先行・
ここのエッセイで想定している生命は、
私たち地球生命を典型としているものです。
それ以外の生物は、想像できないものは
想定していません。
宇宙は多数の天体があり、
多様なので、想像できない生物がいてもいいのかもしれません。
しかし、想像できないものは、
科学にもってくるのはなかなか困難です。
あるいはいろいろ想定できるものにしても、
根拠や論拠がないと、真剣に議論するのは難しいものです。
人間は浅はかで、人間の想定など、
自然は簡単に越えていきます。
事実を先行させたほうがいいのかもしれませんね。

・春まだ浅く・
北海道は、まだまだ寒いです。
ストーブをいまだにつけています。
冬物の上着をなかなか脱げません。
先日も、朝、歩いていると、
水たまりに、氷が張っていました。
驚きましたが、歩いていも寒い気温なので納得しました。
近くの山なみにも、何度も雪が降っていて、
なかなか雪が消えません。
例年ならもう始まっている畑作業も
まだはじまっていません。
今年の春は、まだまだ浅いようです。

2013年5月2日木曜日

6_110 新鉱物 3:付加体

 レアアースを多く含む新鉱物の発見は、ただ発見だけにとどまらないかもしれません。そこには、一攫千金ではありませんが、大きな可能性を秘めています。一つの鉱物が、いったいどんな夢をみせてくれるのでしょうか。

 2013年4月に発見されたのは、レアアースの一種のランタン(La)を含む鉱物で、ランタンバナジウム褐簾石(Vanadoallanite-(La))と命名されました。
 褐簾石(かつれんせき)は、緑簾石(りょくれんせき、epidote)のグループに属します。緑簾石グループは、珪酸塩を中心とする鉱物で、結合する陽イオンに2種類の場所(AサイトとMサイトと呼ばれる)があり、そこに入る陽イオンが、Aには2個のイオンが、Mには3個のイオンが入ります。そのイオンは、A(Ca、Sr、Mn2+、Y、La、Ce、Nd、Pb)にも、M(Al、Fe2+、Fe3+、Mn2+、Mn3+、Mg、V3+)にも、いろいろなものが入り、複雑で多様な鉱物種ができます。特にAサイトには、レアアースが入りやすく、農集部があれば資源として有望なものとなります。
 褐簾石(Allanite)は、Aサイトにいろいろな陽イオンが入りますが、通常はセシウム(Ce)が入ります(Allanite-(Ce))。他にも、入っている元素によってランタン褐簾石(Allanite-(La))、ネオジム褐簾石(Allanite-(Nd))、イットリウム褐簾石(Allanite-(Y))などの鉱物に区分されています。
 今回の新鉱物は、褐簾石でランタン(Aサイト)とバナジウム(Mサイト)の位置が特定され、今まで記載のされていない種類であることが判明しました。さらに、セリウムやプラセオジム、ネオジムなどのレアアースも含んでいることもわかっています。
 一つの新鉱物の発見なのですが、実は以前紹介した南鳥島近海の海洋底に農集しているレアアースとの関連がでてきそうです。今回の鉱物は、三重県伊勢市矢持町の山の中で発見されたのですが、地質学的には秩父帯の中に位置しています。秩父帯は昔の付加体で形成されたものです。付加体は、深海の堆積物などが、海洋プレートの沈み込みによる剥ぎ取りで、陸側に付加したものです。そこにはレアアースを多く含んだ堆積物も混じっているはずです。そのレアアースを含んだ堆積物が、今回見つかったような鉱物になったのではないかと考えられています。
 そして、このようなレアアースを含む鉱物の農集部があれば、レアアース資源となりえるかもしれません。付加体は同時代の堆積物が東西に長く伸びています。もしひとつの地点で資源が見つかれば、連続的に広く採掘可能なレアアース鉱山が埋もれているかもしれません。日本列島の地質には、さまざまな時代の付加体が多数あるので、一つの時代の資源が発見されれば、他の地域、他の時代の付加体での発見の期待が膨らみます。
 深海底の資源開発も期待されますが、陸上の鉱山のほうが、手軽で安価です。地球の営みが、深海底も薄く広く分布していたものを、濃く狭く農集しているかもしれないのです。多様な付加体から構成されている日本の大地は、レアアースの資源大国になるかもしれないのです。
 まあ、今のところまだ架空の物語ですが、理屈の上では、ありえることです。たったひとかけらのレアアースを含む鉱物が見つかったことから、夢物語が広がります。

・山師的心情・
科学の新しい発見は、その意味を考えなければ
重要性もその分野だけの閉じたニュースになります。
もし空想たくましく、いろいろな可能性を考え、
その可能性にかけて調査をすれば、
お宝が発見できるかもしれません。
一つのお宝の発見が、
芋づる式に多数のお宝へとなるかもしれません。
まるで山師の夢のようです。
科学者の科学する気持ちも
夢や好奇心が一番のものでしょうから、
その奥底には「山師的」心情があるのかもしれませんね。

・天候不順・
北海道は天候不順で肌寒い天気が続いています。
桜などの春の植物も、今年はかなり出遅れているようです。
連休の行楽も室内施設が中心になっているようです。
私は、一応ゴールデンウィークは休みますが、
3日は学生の対応で大学でます。
まあ、静かな大学もいいものです。
ただ、天気が悪いと外歩きが嫌になるので
それだけが気がかりですが。

2013年4月25日木曜日

6_109 新鉱物 2:中国リスク

 レアアースは、鉱物としてであれば科学の問題なのです。しかし、鉱山、鉱業となれば工学、経済学に関連してきます。資源となれば経済だけでなく、政治、外交などがより複雑になります。その影響は、巡り巡って、科学へも及びます。レアアースの問題から、そんな人間社会の複雑さが見えてきます。

 レアアースは、現代の先端技術を支える素材にとって、不可欠な物質となっていることを、前回紹介ました。このように重要なレアアースですが、その重要性が、多くの市民に知らされたのは、中国の日本への輸出制限でした。「中国リスク」という言葉を、この事件をじっけかに、私は知るように成りました。
 中国の政府は、公的には制限をしなかったのですが、意図的に通関業務を遅らせることで、実質的に制限した効果を出しました。この「中国リスク」に関する事件は、ご存知のように、2010年9月に発生した尖閣諸島で起こった、中国漁船と海上保安庁の衝突事件に端を発しています。
 日本が産業界がこのような苦境に追い込まれたのは、レアアース資源を中国一国依存していたからです。中国は、世界のレアアースの生産量の9割以上を占めていました。2009年度で、日本は世界のレアアースの需要の半分を占めていました。日本は、中国への依存度と使用量が多く、そのダメージがより大きなものとなりました。日本は、世界的にレアアースの最大の消費国で、その資源をすべて中国に依存しているという構図ありました。中国の狙いもそこで、日本の弱点を利用したわけです。
 レアアースは、資源として、もともと少ないものなので、希少性はありました。かつては、世界各地からほぞぼそと採掘していました。資源の中心は、モナザイトとよばれる鉱物が農集している鉱床でした。
 モナザイトは、リン酸塩の鉱物で、陽イオンとしてセシウムが結合したものです。似た鉱物として、セシウムの代わりに、他のレアアースが陽イオンの位置に入っているものもあります。これらの鉱物がレアアースの主な供給源でした。
 戦後は、需要があまりなかったので、ほそぼそとした採掘でも足りていました。1960年代中ころにメリカ合衆国カリフォルニア州のマウント・パスのレアアース鉱山が開発され、量産がはじまりました。マウント・パスが、1980年代初頭まで、世界の多くのレアアースをまかなっていました。
 1980年代中ころからは、中国の内モンゴルの鉱床が世界の主要産地となりました。それが最近までのレアアースをめぐる構図です。
 2010年の事件をきっかけに、日本は中国一国への重要資源の依存を反省して、多くの国からの輸入を模索しました。カザフスタン、インド、ベトナム、オーストラリア、カナダなど各地に輸入先を分散させるように動き出しました。
 もうひとつの展開もあります。それは研究分野で、新たなレアアース資源の発掘へと目が向くようになりました。このエッセイで以前紹介したのですが、日本の領海内での海洋底の堆積物のレアアースの農集部の発見も、その一環とみなせます。そして、今回、新鉱物の発見でも、レアアースを含んでいることが注目の的となりました。その詳細は次回に。

・複雑な問題・
中国リスクは、今回の述べたレアアースだけでなく
いろいろな問題に対して使われています。
領土、資源、日中戦争に関わる問題だけでなく、
さらに、今話題になっているPM2.5などの大気汚染
河川汚染や海洋汚染、
生産拠点としての賃金や労働力の変化、
環境問題や人権などへの意識の低さ、
などいろいろな問題があります。
発展途上であるがゆえにおこる問題や
国民性、政治形態などに由来する問題など
その原因も多様です。
中国は大国であるために、
その経済力、保有資源、軍事力や政治力など
問題は複雑化します。
グローバル化の時代です。
他国、特に近隣国を無視して
日本の存続はありません。
自国の国民や生活に関わる問題となるのではあれば、
無視することはできません。
何らかの対処が必要となります。

・春の芽吹き・
北海道は、暖か日と肌寒い日が繰り返しきます。
今年の雪解けも遅いようで、
まだ少し雪が残っています。
雪のせいか、春の植物も少々遅れ気味のようです。
先日、森にはいったのですが、
まだ、フキノトウだけで、
ザゼンソウ、オオバユリ、フクジュソウは
芽吹いていますが、
まだ咲くのには少し時間が必要でしょう。
今週末あたりには一気に開くかもしれません。
待ち遠しいものです。
天気さえ良ければ、森を抜けて帰るつもりです。

2013年4月18日木曜日

6_108 新鉱物 1:レアアース

 新鉱物は、日本も含めて世界各地から毎年、何十個と見つかります。新たに鉱物ができているわけでなく、発見して分析をしてデータをそろえて新鉱物と認定されます。新鉱物は、研究者やマニアだけの話題に終わることが多いのですが、時々ニュースになることがあります。今回は、そんな新鉱物の話題です。

 先日(4月2日)、日本で新しい鉱物が発見されたというニュースが流れました。この鉱物は、国際鉱物学連合の委員会に申請され、3月1日に承認され、「新鉱物」になりました。それが今回のニュースとなりました。
 世界では年間何十個という新鉱物が見つかっていますし、日本からも毎年いくつも見つかっています。新鉱物の発見が、取り立てて話題になることは、ほとんどありません。今回なぜ注目されたかというと、レアアースを含んでいる鉱物だったからです。
 本エッセイでも、レアアースは何度も取り上げていますが、再度紹介しましょう。レアアースは、英語で”rare earth elements”といい、「地球では稀な元素」という意味です。日本語では、希土類元素とよばれていますが、今ではレアアースという言葉の方がよく耳にします。
 レアアース(希土類元素)はひとつの元素でなく、性質の似た一連の元素を指しています。周期律表を思い浮かべてください。4行目、カリウム(K)、カルシウム(Ca)の右にあるスカンジウム(Sc)や、5行目のストロンチウム(Sr)の右のイットリウム(Y)があります。スカンジウムやイットリウムと同じ3列目(第3族といいます)に属するものを、希土類元素といいます。
 周期律表でイットリウムの下に、バリウム(Ba)とハフニウム(Hf)の間にはランタノイドとよばれものがあり、周期律表に下に別表としてランタン(La)からはじまる15の元素からなかり、それがランタノイドと呼ばれるものです。これらすべてが希土類元素です。ランタノイドの15の元素のうち、プロメチウム(Pm)は寿命の短い放射性元素ですが、それ以外の元素は地球に存在しています。
 ランタノイドの下は、アクチノイドとよばれていますが、希土類元素に属しません。アクチノイドは、アクチニウム、トリウム(Th)、プロトアクチニウム(Pa)、ウラン(U)までは地球に存在しますが、それより重い元素は、存在しません。アクチノイドはいずれも放射性元素で、安定には存在しません。ただし、アクチニウムからウランまでは半減期が長かったり、放射壊変の中間生成物として存在し天然に存在します。
 レアアースは、周期律表で同じ列にあり、3価の陽イオンになるため、それぞれの化学的性質が似ています。希土類元素が鉱物などに含まれると、ランタニドが一団として含まれることが多くなります。ただし、それぞれが別の元素であり、電子の数も違っているので、性質が少し違っています。
 さて、なぜレアアースが注目されるのでしょうか。それは、現在の先端技術や新素材などは、微量の成分を加えることによって、特異な性質を発揮するようなものが多くなっています。そのような微量成分として希土類元素が利用されています。レーザーを発生させる固体や、発光ダイオード、強力な磁石や超電導素材、あるいは高屈折率のガラス(高機能のレンズ用)など、多様な利用がされています。
 なぜ今回、レアアースを含む鉱物が注目されたのでしょうか。それは次回としましょう。

・承認・
新鉱物には、いくつかの条件があります。
天然のもので安定でなければなりません。
結晶を取り出し、分析して、
性質を明らかにしたデータが必要になります。
データと鉱物名候補をそろえて、
国際鉱物学連合の
「新鉱物および鉱物名に関する委員会」
に申請します。
そこの委員の2/3以上の賛成があれば
新鉱物と承認されます。
最後の評価が人の判断であるところが不思議ですが。

・関心・
レアアースを含む鉱物が
日本から近年ぞくぞくと見つかっています。
2012年の高縄石、2011年には肥前石、
イットリウムラブドフェンなどがあります。
その度にニュースにはなっています。
一つには、次回紹介するレアアースへの
関心の強さがあると思います。

2013年4月11日木曜日

3_119 ホットスポット 3:たなびく

 ホットスポットは、マントル深部から上昇してくる温かいマントルの流れです。それの流れが、マントル対流の風に「たなびいて」いることがわかってきました。そのたなびき方が、ホットスポットごとに違っているようです。自然は、本当に不思議です。

 前回は、ホットスポットの古地磁気を調べることで、移動の様子を探ることができることを紹介しました。ハワイから続く天皇海山列の調査から、ホットスポットが移動していることを示しました。8000万年前から5000万年前の間に、1700kmほど南(緯度で約15度、6cm/yほどのスピード)に移動していることがわかりました。
 もう一箇所、南太平洋のニュージーランド沖のルイビル海山列で調査がされました。前回はここまで紹介していましたが、その結果は、移動が確認されなかったというものでした。約7000万年前から現在まで、ほぼ現在の緯度にホットスポットはあったことがわかりました。海洋プレートは移動しているのに、ホットスポットは移動していないことになります。
 測定された2つのホットスポットは、北太平洋と南太平洋と位置は離れていますが、同じ太平洋プレート内にあります。太平洋プレートは、全体が北西方向へ移動していることが実測されています。
 ただし、古地磁気から俯角を復元しているので、緯度(南北方向)の移動は読み取れますが、経度(東西方向)の移動を読み取ることはできません。
 2つの調査結果から、プレートの運動に対して、ホットスポットごとに運動が違っていることが明らかになりました。ホットスポットは、それぞれが独自の運動をしていることになり、その中には運動をしていないものもあるようです。
 その原因として、マントル・ウインド(mantle wind)モデルというものが提案されています。ホットスポットはマントル深部からの上昇流ですので、マントル対流とは別の動きをしています。しかし、マントル対流の中を上昇してくるのですから、対流の影響をうけるはずです。マントル対流が風とすると、ホットスポットも風に「たなびく」というモデルです。
 マントル・ウインド・モデルのシミュレーションでは、ルイビル海山列のホットスポットは、南北には動かないと、事前に予測されていました。それに合致した測定結果となったわけです。ですから、このモデルが検証されたと考えられています。
 本当の検証のためには、大西洋プレートやインド洋プレートなど、他のホットスポットの運動を調べて検証しなけばなりません。今後、IODP(統合国際深海掘削計画)でも掘削が検討されているようです。ただし、三番煎じの研究となりかねないので、どの程度の熱意をもっておこなうかは、なかなか難しい問題かもしれません。でも、マントル対流の実体解明には、いろいろなホットスポットの移動を明らかにすることが不可欠です。
 マントル・ウインドにホットスポットが「たなびく」ということは、わかりいいモデルですが、さてさて本当にそんな風が吹いているのでしょうか。今後の研究にもそんな追い風が吹いていくれるといいのですが。

・新学期・
いよいよ大学の新学期がはじまりました。
新入生は期待や不安を胸に
大学生活をスタートしたことでしょう。
在学生も、新しい学年になり
いろいろ思いを新たにすることもあるでしょう。
私も何故か、今年の新学期には
心があらたまったた気がします。
教員も新入生の期待を裏切ることなく、
励まなくてはいけません。
疲れたり、不安を感じている学生には
それなりのサポートが必要になります。
これも、個に応じた対応が必要なので、
なかなか大変ですが、
今では教員の重要な仕事ともなっているようです。

・春?・
北海道も、ようやく春めいてきました。
多くの道で、雪は消えました。
まだ、あちこちに雪がたくさん残っているので、
雪原を渡る風は冷たいのです。
朝夕も氷点下になることが減ってきました。
でも、まだコートは手放せませんが。

2013年4月4日木曜日

3_118 ホットスポット 2:古地磁気

 ホットスポットは地球の不動点として、長く常識が支配していました。しかし、マントルは対流して動いていますし、地表付近のプレートも動いています。ですから、止まっているとは、どういう意味があるのか、何故なのかなどを考えることがありませんでした。常識を考え直す必要がありそうです。

 ホットスポットはマントルの深部に由来しているので、プレートが移動しても、ホットスポットの火山は移動しません。結果として、プレートの上を次々とできた定点の火山が移動しているように見えます。火山の移動経路から、プレートの移動の歴史を読み取っていました。
 ところが最近、ホットスポットも移動していることがわかってきました。その動きはもちろん、プレートの動きとは別の運動となります。10年ほど前に、アメリカの研究チームが、天皇海山列の調査から、ホットスポットが移動していることを示しました。8000万年前から5000万年前の間に、1700kmほど南(緯度で約15度、6cm/yほどのスピード)に移動している可能性を示しました。太平洋プレートは北へ移動していますので、明らかに違った方向への移動となります。
 現在、ホットスポットが10個ほど知れていますが、そのうち1つが動いていることがわかりました。あとのホットスポットも同じように移動しているのでしょうか。
 それを解決するには、もうひとつのホットスポットで調査が必要になります。研究成果としては、2番煎じになりますが、上で述べたような疑問を解決するには、少なくともあとひとつのホットスポットでの検証が必要になります。
 もし、2つ目が移動していないとなると、移動するもとのしないものがあり、それは何故か、その違いは何かという新たな疑問が生まれます。もし移動しているとなると、多分多くのホットスポットは移動している可能性が高くなります。では、ホットスポットはなぜ移動するのかという原因究明が必要になります。新たな疑問や課題が生まれてくることになります。
 ホットスポットの調査は、海底の掘削調査をすることになるので、大規模な国際プロジェクトになります。統合国際深海掘削計画(Integrated Ocean Drilling Program、IODPの略されています)の第330次航海(2010年12月から2011年2月)によるもので、南太平洋のニュージーランド沖のルイビル(Louisville)海山列に属する5つの海山で掘削調査がされました。2012年11月25日にその成果が報告され、多数の著者が名前を連ねた論文となっています。
 アメリカのオレゴン州立大学のアンソニー・コパーズさん(Anthony A.P Koppers)と東大大気海洋研究所の山崎俊嗣さんが共同主席研究者として、愛知教育大学の星博幸さんも参加されていました。星さんは古地磁気学の専門家で、今回の研究では、古地磁気学が重要な決め手のデータとなります。
 マグマが固まるとき、磁気をもった結晶(磁性鉱物)ができます。できた磁性鉱物は、その時の地球の地磁気の方向に並んでできて固まるので、岩石全体が当時の地磁気を記録していることになります。このように岩石に記録されている過去の地磁気を古地磁気学と呼んでいます。
 また、地球の磁力線は、緯度によって下をむく角度(俯角といいます)が決まっています。つまり、岩石の古地磁気から、その岩石が形成された緯度を読み取ることができます。
 ホットスポットでできた時代ごとに古地磁気を調べていけば、ホットスポットの移動が有無がわかるという理屈です。もし、ホットスポットが移動していなければ俯角は変化ぜす、移動していれば変化していくくはずです。さてその結果は・・・、次回としましょう。

・入学式・
大学は、新学期を迎え、入学式があります。
(このメールマガジンの発行時には終わっています)
例年になく、雪深い入学式になりました。
新入生向けのガイダンスや健康診断などがあり、
講義は来週からになります。
キャンパスが賑やかになります。
入学式は新しい年度のはじまりを
強く感じさせてくれます。

・風邪・
先週中頃に長男が風邪をひきました。
週末には私が風邪をひきました。
現在は家内が風邪をひいて寝込んでいます。
次男はまだ風邪をひいていません。
長男も次男も入学式が近いので体調が心配です。
我が家は風邪のウイルスが蔓延しています。

2013年3月28日木曜日

3_117 ホットスポット 1:定点

 ホットスポットは、ある特徴をもった火山に対する呼び名です。火山をつくるマグマを供給する場所が、マントル深部に固定されているものです。今回は、ホットスポットに関する新しい情報を紹介しましょう。

 「ホットスポット」というものがあります。放射物質が集まっているところとして、ニュースでよく聞くことがありました。「熱い地点」という直訳になるのでしょうか。地質学では、違った意味を持っています。
 「ホットスポット」は、火山の一種で、噴火地点が固定されて、移動しないものをいいます。ところが、少々奇異な感じがしますが、ホットスポットは見かけ上、移動します。プレートテクトニクスによって、大地が移動しているので、「ホットスポット」は同じところで活動していても、古くなった火山が移動することになります。ホットスポットによる火山活動が長い間にわたっておこると、プレートの移動に伴って、火山が点々と移動しているように見えます。
 ホットスポットは、マントル深部に対して固定しているのであって、プレートの運動とは切り離されていることになります。マントル深部に由来した定点ともいえる火山を「ホットスポット」と呼んでいます。
 ホットスポットの有名な例として、ハワイ諸島があります。ハワイ諸島は太平洋の真ん中にあり、現在もハワイ島では火山が噴火をしています。ハワイ島が現在のホットスポットの位置です。ホノルルがあるのはオアフ島ですが、ハワイ島との間にも、マウイ島、カホオラウェ島、ラナイ島、モロカイ島などの島々が点在しています。それらは昔の火山のなごりです。オアフ島よりさらに北西にも火山が点在し、ミッドウェー諸島へと続きます。その先は、島はありませんが、天皇海山列として火山が続いています。ただし、途中で北に向きを変えて、火山列の先は、カムチャツカ半島の沖の海溝に沈み込んでいます。ハワイのホットスポットは、非常に長期にわたって活動している火山だといえます。
 ホットスポットが固定されていれば、このような火山の列は、プレートの運動の歴史を示していることになります。また、火山列の曲がりは、その時期にプレートの運動方向が変化したことを意味しています。ホットスポットの軌跡は、プレート運動の復元にとって重要な情報となります。さらに、プレートテクトニクスという大地の運動のモデルにおいて、重要な根拠ともなりました。
 かつては、ホットスポットは、プレート運動の速度や方向(ベクトルといいます)を割り出すのに利用されていました。今では、超長基線電波干渉計、VLBI(Very Long Baseline Interferometer)という特殊な天体と電波望遠鏡を利用して、プレートの運動を実測できるようになりました。
 最近、ホットスポットがどうも固定されているわけではなく、移動しているということがわかってきました。それは、次回としましょう。

・新学期・
卒業式も終わりました。
大学の入試も終わりました。
職場の歓送迎会もおこなわれました。
新入生に対するガイダンスもはじまりました。
いよいよ大学も新学期を、迎えます。
でも、3月末は、いつも心がそわそわして
落ち着かなくなります。
そんな3月も、もう終わりです。

・研究・
今年の2月、3月は、研究において、
いろいろな学際的分野の基礎固めができました。
ただし、書くつもりの論文があったのですが、
いまだに途中なので、当初の予定をこなしていません。
まだ時間はあるので、継続して研究を進めるつもりです。
結果としては満足できるものではありませんが、
2ヶ月間は、充実した研究ができました。
あとは、身につけた基礎を活用して
研究を進めることですが、
これがなかなか大変なのです。

2013年3月21日木曜日

3_116 極限環境微生物 4:氷の天体

 氷の下の極限環境微生物を調べることによって、どんな科学的な展開が期待されるのでしょうか。そのような展望は、科学者の希望でもあります。ただそんな希望も、たったひとつの反例の発見で吹っ飛んでしまうのですが。

 南極の氷床の下に、氷底湖があることが、氷上の調査からわかっていました。古い時代にできた湖がそのまま保存されている可能性もあるし、非常に極限的な環境なので、今まで知られていない微生物がいる可能性もあります。そんな未知の氷底湖は、研究者の好奇心をくすぐるテーマとなります。
 昨年から、ロシア、アメリカ、イギリスの研究チームが、南極でそれぞれ別々の氷底湖への調査を競争をしていました。機先を制したのはアメリカのチームでした。真っ先にウィランズ湖に達し、生物を発見しています。その詳細が気になるところです。
 他の湖の調査も気になります。長らく違った環境に置かれると、生物は進化していくでしょう。それぞれの環境に応じた微生物の組み合わせ(群集といいます)になってくる可能性もあります。さらに、ロシアの狙っているボストーク湖は、非常に古い時代にできたようなので、生物種や生態が変わっているかもしれないので、興味深いものです。
 最後に、氷底湖でおこなう極限環境微生物の研究では、どのような展望が開けるか考えましょう。
 氷の下の冷たい水の中で暮らすということには、生物にとっては、大きなハンディになります。代謝が非常にゆっくりとしかおこなえない、栄養が極端に少ない、どうのように発生し、進化してきたのかなどの問題があります。
 代謝は化学反応ですから、低温では一般に反応は遅くなり、代謝も低下します。でも、深海や氷上、氷中の微生物が実際に見つかっているので、冷たいだけでは、特殊ではありますが、代謝が不可能ではなりことはわかっています。極限環境微生物は、栄養が少ないところでも、代謝がゆっくりと進むなら、なんとか耐えることができます。
 もっと重要な問題が指摘されています。氷底湖では、炭素の供給が非常に少ないという点です。生物は炭素を素材、栄養としています。氷底湖では物質循環がほとんど期待できないため、地下の岩石や底質などを利用していると考えられます。いずれにしても、非常に過酷な、極限環境になります。
 地球では、38億年前くらいには確実に存在していたという化石の証拠があります。生物発生については、まだ仮説ではありますが、化石という重要な事実があります。
 地球では、その後安定した環境(海と大気は存在し続けた)があったので、誕生した生物は、たっぷりと時間をかけて、多様な進化をとげました。そして、氷底湖の微生物へと特殊な進化も遂げました。
 地球では極限環境微生物が存在するという事実が、厳然としてあります。たとえいろいろな課題があったとしても、それは人智の及ばぬだけで、科学を進展させて解決していくしかありません。
 地球においては、氷底湖の微生物は、まさに極限環境微生物です。そんな極限環境は、南極や極地のほんの少ししかなく、地球生物の代表格にはなりません。ところが、地球外の天体では、普通の環境となるところもあります。例えば、木星や土星の衛星には、表面が氷で覆われた天体がいくつも見つかっています。氷の下に水がありそうな天体として、木星の衛星エウロパやカリスト、土星の衛星のエンケラドゥスやタイタンなどには、地下に水があるのではないかと考えられています。
 このような環境に、もし生物がいたとしたら、由来はともかく、氷底湖の生物の似た生活を強いられて、似た仕組みを持たなければ生きていけません。そんな生物の仕組みや生態を、氷底湖の生物の研究から推定できるかもしれないのです。
 他の衛星では、誕生の頃、天体自身がもっていた熱(重力エネルギーとよばれます)がありました。初期であれば、生物誕生や進化に必要なエネルギーの供給はなされたと思います。その後ある程度の時間、エネルギーが持続すれば、生物は多様に進化でき、氷の惑星になっても生きていける「タフさ」を持つに至ったでしょう。しかし、天体誕生後、短い時間で氷の惑星になってしまうと、生物が誕生できたとしても、進化が間に合わないかもしれません。「タフ」になるためには、時間をかけて進化し、多様性を持たなければなりません。「ひ弱い」状態の生物群であれば、極限環境を生き延びるのは困難かもしれません。
 まあ、これも常識的な考え、もしかしたら科学者の希望にすぎないのかもしれません。ひとつの事実が発見されれば、そんな考えはすずに覆されることになりす。

・春まだ浅く・
北海道は気温はだんだん暖かくなってきています。
確実に春に向かっています。
ぐしょぐしょの雪解け道を歩かなければなりません。
これがなかなかつらいものがあります。
しかし、まだ寒い日があったり、
雪が降る日もあります。
今週末にも、また雪が結構降りました。
今年の春は、まだまだ浅いようです。

・卒業式・
我が大学は、入試は終わりました。
そして今週は卒業シーズンです。
19日には大学の卒業式がありました。
なんと、長男と次男の卒業式も重なっています。
年度末と新年度にかけて今週以降、
慌ただしい日々が始まりそうです。

2013年3月14日木曜日

3_115 極限環境微生物 3:ウィランズ湖

 アメリカの研究チームが、氷底湖へのボーリングに成功しました。ロシアの調べていたボストーク湖とは別の氷底湖でした。速報ですが、微生物、多分、極限環境微生物になりそうな生物を発見しました。その様子を紹介します。

 前回は、昨年報告されたボストーク湖の調査の進行状態を紹介しました。極限環境微生物の有無については、まだ報告はなされていないようです。もうひとつ、今年になって重要な報告がなされました。南極の氷床下800mにあるウィランズ湖(Lake Whillans)での調査結果です。
 今年2月に、アメリカの研究チームが、ウィランズ湖でボーリングをして、湖の水や底の堆積物から、微生物を発見しというニュースが流れました。生物に関する詳細は、今後の研究を待たなければなりませんが。
 ボーリングはロシアの熱ドリルとは違って、熱水ドリルというものを用いて掘削されました。熱水ドリルとは、高温の水を出して氷に穴を開けていく装置で、一時間で50mから100mほど掘削できます。岩石の掘削と比べると、100倍近くのスピードで掘り進むことができます。実際にアメリカの研究チームは、800mを一日で掘ったそうです。熱水ボーリングの装置は、比較的小型、軽量で、氷であれば、どこでも簡単に掘削できるという利点もあります。でもなんといっても、水だけで掘り進むので、汚染が少ない点が重要です。
 800mを一日で堀り、試料回収に2日かかったそうです。穴が凍って塞がってしまう前に、非常に迅速に調査され、試料が回収されました。小規模の研究にみえますが、研究チームは50名からなるそうです。
 ボストーク湖の約4000mという氷の厚さに比べて、ウィランズ湖では800mの氷ですから、だいぶ浅くなります。ところが、800mもの氷が上にあると、光は全く届かない暗黒の世界になります。そして、0.5℃という冷たい水の中です。
 でも、そんな極限環境にも、生物がいたようです。研究チームは、多数の培養用の装置を持ち込んで、バクテリアや古細菌などを回収したようです。微生物の有無は、DNAに反応する染料でチェックしたところ、DNAの存在を示す緑色になったそうです。地表の生物の汚染が、かなり信憑性がありそうです。
 2月の初旬に南極のマクマード基地に帰ったばかりの研究者のインタビューで、そのニュースが世界に流れました。もしこの生物が本物であれば、南極の氷底湖としては、はじめての発見となります。
 今後は、研究室での調査となます。まずは、地表からの汚染、ボーリング時の汚染がなかったかをチェックされるはずです。汚染がないなら、どんな生物であるのかが調べられます。
 いろいろな疑問があります。こんな過酷なところにどうして生きていけるのか。栄養はどうしているのか。低温で代謝の反応が起こるのか。生態系として成立するのか・・・。疑問はあったとしても、そこに生態系があるという事実は動かしようがありません。われわれの科学が、まだ世界を充分把握していないということになります。極限環境微生物は、それを教えてくれる存在でもあります。

・競争・
氷底湖での生物探しは、実は激しい競争がありました。
ロシアは前回紹介したように、
ボストーク湖に昨年あけた穴から、
湖水のコアの回収作業が進めています。
イギリスの研究チームは、
ウィランズ湖より深いエルスワース湖で調査していましたが、
機材が不調で昨年12月に中止しています。
このような競争で最初に極限環境微生物を手にしたのは、
アメリカのチームでした。
本来研究は、好奇心で進めていくのですが、
巨大な設備や機材が必要になると、
国の膨大な研究費が必要になります。
研究費の獲得ために、世界で最初や一番などの
アピールポイントがないと、なかなか通りにくいのでしょう。
そのため、最初や一番がある研究テーマは競争になりがちです。
まあ、そのおかげで成果も早くでることにもなるのでしょうが。

・大荒れ・
北海道は先週末は大荒れでした。
その前の週末も車で遭難が起こるような
猛吹雪の大荒れでした。
3月とはいえ、まだまだ冬の空模様です。
今年の冬は一段と厳しいようです。
気候とかかわりなく、時は流れていて、
いろいろな行事は進行します。
大学では、入試も終盤になっています。
来週には卒業式があります。
荒れなければいいのですが。

2013年3月7日木曜日

3_114 極限環境微生物 2:ボストーク湖

 南極の深い氷の下にあるボストーク湖まで掘削がおこなわれました。ボストーク湖までに至る氷は、15年前に掘られたもので、地球の約40万年間の気候変動を記録していました。そして昨年、湖まで環境の汚染や検疫に配慮された掘削がされました。

 前回は、極限環境微生物の概要を紹介しました。最近、南極で極限環境微生物に関わるいくつかのニュースがありました。そのニュースを2つ紹介します。
 まず、2012年2月に、ロシアの研究チームが、ボストーク湖に到達したというニュースが流れました。しかし、この氷河の底の湖(氷底湖とよばれます)に達するまで、長い時間があり、配慮もなされました。なぜでしょうか。
 ボストーク湖は、南極のロシアのボストーク基地に近いところにあります。湖は、幅40km、長さ250kmもあり、琵琶湖の22倍ほどにもなる巨大なものです。氷床下、約4000mという深さにあります。そんな深いところに湖があるのが、どうしてわかったのでしょうか。それは、上空からの氷を透過できるレーダーによる探査でわかりました。その後人工地震による探査でも、湖の存在は、確認されています。
 この氷床では、1998年にロシア、フランス、アメリカの共同チームで、3628mまで氷が掘られました。氷には、42万年分の大気を閉じ込められていることがわかりました。その氷は、地球の過去の気候を復元するのに、大きな役割を果たしました。
 湖は42万年前の氷より120mも下にあるので、50万から100万年前に閉じ込められた可能性あり、また非常に古い時代の環境を保存している可能性もあります。コアの掘削による汚染を防ぐために、掘削は一旦ストップされました。
 氷底湖、それも非常に古く深い湖は、地表の環境とは明らかに違っています。温度も低く、水圧も高く、もちろん光が全くない世界です。まさに、極限環境です。そこに突然、地表に通じる穴があいたら、湖の環境は、大きな影響を受けます。もしかすると、湖が汚染されるかもしれません。その汚染によって、弱い微生物なら絶滅するかもしれません。逆にその微生物が、地表に出てくることがあったら、猛威を振るってしまう病原菌になるかもしれません。ですから、汚染と検疫の両方の意味から、実体がわかるまで、両環境の接触は可能な限り控えるべきです。
 通常はケロシンという不凍液をつかって掘削がされていくのですが、この度、汚染に配慮した掘削がされました。湖面の数mに近づいたときから、熱ドリルというものが使われました。ドリルの先端を電気で熱を発生して、掘り進むものです。湖に達したとたん、水がボーリングの穴を上昇してきたということです。この結果、少なくとも湖の中に、人工的なものは入らなかったと考えられています。
 上がってきた水は、穴の中ですぐに凍ってしまいます。氷の上には、地表からの物質が満たされています。これで汚染を防止し、隔離も同時にできました。次に、凍った氷を再度掘って回収すれば、凍っていますが「湖の水」が手に入ります。それを注意深く扱って調べれば、微生物の有無(生死は不明ですが)や、その種類や生態もわかるかもしれません。もし見つかれば、それは極限環境微生物となるはずです。その湖に生物が発見されたかどうかのニュースは、寡聞にてまだ知りません。
 ボストーク湖はとっても深く大きいものですが、南極の氷底湖は、145個以上も発見されています。その多数の氷底湖のひとつから、新たな報告がありました。そこには明らかに微生物が見つかっています。それは次回としましょう。

・破壊・
地球上の微生物は、弱く見えてもタフな面もあります。
タフだとかといって、乱暴に扱っていい
というわけではありませんが・・・
人は、かつては、新しい環境を新天地として、
自分たちの益にすることばかりを考えてきました。
つまり、新天地とは、搾取の対象でした。
しかし、近年では、環境やそこに住んでいるかもしれない
微生物への配慮ができるようになりました。
それは、人自身への検疫ともなります。
たとえ微生物がいかなったとしても、
それは無駄ではないはずです。
今まで人は、取り返しのつかない破壊を
一杯してきましたから。

・猛吹雪・
北海道は、先日の猛吹雪で、数名の犠牲者がでました。
特に車で雪に埋もれた人たちのニュースには驚きました。
我が家も激しい吹雪の中を夕食にでたのですが、
無事だったのは運が良かったのかもしれません。
異常事態に感じ、避ける感覚も大切なのでしょうね。
数年前にも、近くの道で何台もの車が
雪に埋もれるということがありました。
その道は時々通る道なので、
まさかあそこでという思いもありました。
今回の犠牲もそんな場所でしょう。
自然の猛威を思い起こさせられました。

2013年2月28日木曜日

3_113 極限環境微生物 1:未知の環境

 地球上のほとんどのところを、私たちは知っていると思っていますが、実は未知の世界は、まだまだあります。新しい環境が見みつかると、そこには新しい生物が見つかることがよくあります。新しく見つかる環境は、大抵が過酷です。過酷な環境に暮らす生物は、「極限環境微生物」と呼ばれます。「極限環境微生物」について考えていきます。

 「極限生物」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。正確には、「極限環境微生物」といったほうがいいのかもしれません。この微生物は、非常に厳しい環境で暮らしています。
 ただその環境に生きているだけではなく、そこを「住みよい」と思っている必要があります。「住みよさ」は、人ではそれぞれの好みがあり判断できませんが、微生物では明瞭で、その生物が繁殖し、増殖しているかどうかで決めています。繁殖することを、微生物がその環境に適応しているとみなすわけです。極限環境とはいっても、その微生物にとってはそこが快適な場所なのです。極限環境というのは、人からみたときに、過酷に見えるだけであって、その生物にとっては、そこが住みよいところとなのかもしれません。「極限環境微生物」とは人の独善的な呼び名かもしれません。
 本来なら、微生物だけでなく、大型の生物でもあってもいいかもしれませんが、大型生物に対してはそんないい方はしません。かつて、未知の深海や人が暮らせないような極地(北極、南極、高山)は、生物のいないところだと思われていました。しかし、調査がすすでくると、深海や極地でも暮らしている生物が発見されることになってきました。そんな大型の生物は、「極限生物」であったはずです
 人の知見が広がることによって、動物園、植物園、水族館などや映像でも、大型「極限生物」を目にすることにもなり、「そんな生物もいるさ」となり、彼らの住んでいる環境を極限とは思わなくなってきたのかもしれません。人にとって「未知」は、「極限」に見えるのかもしれません。
 極限環境とは、知見の広がりとともに更新されていくのかもしれません。これだけ調査が進んでも、やはり「極限環境微生物」というべきものは見つかります。調べれば調べるほど、地球のいろいろなところに未知の環境が見つかり、そこには生物は住みついているということなのでしょう。
 一般に極限環境としては、高温、高圧、高pH(高アルカリ性)低pH(高酸性)、高NaCl濃度などの条件があります。
 高温とは、80℃以上をさし、高温を好む微生物を好熱性といいます。122℃で暮らしている古細菌がみつかっているます。高圧とは、500気圧以上の水圧の深海です。深海には、微生物だけでなく、魚やカニ、貝など多様な大型生物もみつかっています。高pHとはpH 9以上の強いアルカリ性で、低pHとはpH 5以下の強い酸性の環境です。アルカリ性ではpH 12.5まで、酸性ではpH -0.06まで生きている古細菌などがいることがわかってきました。高NaCl濃度とは、大陸内部の塩湖のような環境で、飽和したNaClの環境でも古細菌が暮らしていることが見つかっています。
 まだ、「極限環境微生物」の生態や起源が解き明かされているわけではありませんが、いろいろなところに暮らす生物がいることがわかってきました。未知の環境には、「極限環境微生物」が暮らしている可能性があります。今までその存在すらよく知られていなかった湖から、今年2月に生物がいることがわかっていました。これも未知の環境の発見になります。詳しくは次回に。

・卒業シーズン・
職場や学校では、そろそろ入退社、転勤、卒業となります。
大学はまだ入学試験がおこなわれていますが、
卒業のシーズンでもあります。
教員も定年退職があり、学科や学部、大学など
組織でその準備がおこなわれます。
そこには寂しさと門出の祝いの両方の気持ちが絡み合います。
送る側からするとやはり寂しいものです。
そんなことを考える時期でもあります。

・刺激的学び・
2月のいよいよ終わりです。
今年のこの期間は、私は自分の好奇心を満たし
可能性を広げるために、
他分野の学問体系を学んでいます。
ひとつは発達心理や教育心理、
もうひとつは統計学です。
心理学の方はまとまりましたが、
統計学に手こずっています。
統計処理用アプリケーションや
数式記述のアプリケーションなどにもトライしてます。
新しいことを学ぶのは大変ですが、
刺激的で楽しいものであります。

2013年2月21日木曜日

1_114 23億年前の事件 4:シナリオ

 23億年前、酸素が急激に増加するのは、光合成をする生物が急激に増えたこととされました。光合成生物が、なぜ増えたのでしょうか。その時期やメカニズムは、よくわかっていませんでしたが、シナリオが考えられました。

 関根さんたちは、23億年前のカナダの地層で、オスミウムの濃度も同位体組成を測定しました。その結果、氷河期終了直後から温暖期への移行期に、酸素の急増が起こったということことを示しました。
 では、時期の厳密な決定から、どのようなシナリオが考えられるのでしょうか。
 約23億年前、赤道まで氷河ができるような大氷河期、全球凍結が起こりました。大氷河期ですべての海が凍っていると、海水の蒸発、降雨という水の循環が停滞した状態になっています。氷河期が終わると、一転、急激な温暖化が起こります。氷河期の間にも火山活動がおこり、噴火で放出された二酸化酸素やメタンなどの温暖化ガスが、大気中に蓄積され続けたため、あるとき温暖化に転換したと考えられます。
 温暖化にともなって、海水の蒸発、降雨という水の循環が復活しました。激しい温暖化が起こると、急激な水の循環になります。大量の降雨により、大陸地域の化学的な風化作用が激しく起こりました。雨は、河川となり、海に流れ込みます。その時、大陸物質で溶けやすい成分も、一緒に海に運んでいきました。もちろん、このとき、オスミウムの濃度も同位体組成も変化をします。
 大陸からの由来する成分として重要なものに、生物の栄養源となるリンがあります。リンは地表や海水には少ない成分ですが、DNAの構成成分として重要なものです。海水にリンが増えると、生物の活動が活発になります。現在でも富栄養化として、プランクトンの大量発生による赤潮が起こっています。
 氷河期が終わった直後、富栄養化が、大規模に長期にわたって起こります。富栄養化によって、光合成をする生物が大繁殖しました。酸素のある環境は、酸素を嫌う生物にとって、絶滅を意味します。光合成をする生物は、酸素を武器に大繁栄をしました。そして、酸素の増産をおこないます。その結果、酸素の大量発生が起こりました。
 23億年前までは、大気に酸素がほとんどない状態から、現在の大気中の酸素量の1/100以上になったと考えられます。現在の1/100というのは、少ないように思えますが、非常に重要な境目だと考えられて、パスツール・ポイントと呼ばれています。大気中の酸素の量が、パスツール・ポイントを越えると、生物にとって、酸素を使う呼吸のほうが、酸素を使わない呼吸より有利になるとされています。
 温暖化によって、大気中の酸素濃度が、パスツール・ポイントまで急激に上昇しました。メタン(温暖化効果が強いガス)は酸化され、二酸化炭素なります。水の循環によって大気中の二酸化炭素は、海水中に溶け込み、炭酸塩岩として大量に沈殿、堆積しました。温暖化ガスが大気中から取り除かれると、温暖化も納まります。これが、関根さんたちの出されたシナリオです。
 関根さんたちは、温暖化ガスの酸化や沈殿により過剰に大気から取り除かれることがあるといいます。温暖化から氷河期へというサイクルが可能になるということです。繰り返しおこる氷河期ー温暖期のサイクルが、光合成生物の活発化と関連があるということです。
 さてさて、このシナリオは仮説です。これを実証するのは、次のステップです。それがどのようなアイディアでおこなわれるでしょうかね。

・充電中・
2月の3分の1が過ぎました。
私は、2月を充電期間として、
研究の基礎を固めるために、
発達心理学と統計学の概要をまとめています。
いずれも大きな学問分野ですが、
なかなか機会がなく、ついつい中途半端にはじめては
挫折していたものばかりです。
今回は、終わることはないのですが、
概要を把握することに重点をおいてすすめています。
さてさてとこまでいけるのやら。

・岐路・
大学では現在多数の企業が来てくださって
説明会をおこなわれています。
3年生向けのものです。
卒業後の自分の進む道を決めるものです。
就職に目を向けている3年生は
どの程度いるのでしょうか。
他の学年で気になる学生に声をかけているのですが、
帰省しているものもいるので、
なかなかコンタクトもとれない学生もいます。
学生生活にもいろいろな岐路があります。

2013年2月14日木曜日

1_113 23億年前の事件 3:タイミング

 23億年前、全球凍結、酸素の急増、真核生物誕生という大事件が、ほぼ同時期に起こりました。事件は本当に同時でしょうか。それとも前後しているでしょうか。順番によってシナリオが大きく変わってきます。全球凍結と酸素急増のタイミングが決定されました。

 関根さんたちのグループは、オスミウム(Os)という元素を用いて、23億年前の事件を調べました。オスミウムの濃度や同位体組成が、大気中の酸素の濃度を間接的に示していることは、前回、紹介しました。
 関根さんたちが分析した試料は、カナダのオンタリオ州エリオットレイク地区に分布するヒューロニアン累層群(約22~24.5億年前)と呼ばれる地層でした。地層は、23億年前の時代をまたいでたまったものです。以下では氷河堆積物と砂岩泥岩の境界を基準(0m)として、地層の上下の位置で表現します。
 下部には、氷河性堆積物が1m以上あり、その上に60cmほどの砂岩と泥岩の地層があります。砂岩泥岩の地層は、徐々に炭酸塩岩に変わり、1mあたりで、完全な炭酸塩岩層になります。
 この地層から、連続的に試料を採取して、オスミウムの濃度や同位体組成が調べられました。
 氷河性堆積物は、オスミウムの濃度も低く、同位体組成も非常に小さい値でした。
 砂岩泥岩になってすぐに、オスミウムの濃度も同位体組成も上昇しはじめます。砂岩泥岩になってしばらくする(30cmほど)と、値は急激に上昇し、炭酸塩岩に漸移するところ(70cmほど)で、ピークをむかえます。完全な炭酸塩岩になる(1m以上)と、値は落ち着きますが、氷河性堆積物と比べて高いまま保たれているようです。
 氷河堆積物は、大規模で、全地球が凍ったほどだと考えられています。前回説明したように、オスミウムの挙動から、氷河時代は酸素濃度が低い大気であったことがわかります。
 氷河期のあとにたまった炭酸塩岩は、地球が温暖な気候に変わったことを示すと考えられています。23億年前頃には炭酸塩岩の地層は、世界各地でよくみられます。全球凍結の直後に、前地球的に温暖化があったことはよく知られていました。
 今回、関根さんたちは、氷河期が終わってすぐに、酸素が増加しはじめ、炭酸塩岩がたまるような温暖化と同時に、酸素が急増したことを示しました。
 今まで、23億年前の全球凍結と大気の酸素急増のタイミングに限定した研究はありませんでした。今回、関根さんたちは、酸素急増の時期を氷河期直後と厳密に決定しました。従来からそうではないかと考えられていたのですが、データがなく、検証されていませんでした。関根さんたちの成果で、氷河期の記事と酸素の急増の時期が明らかになりました。
 氷河期と酸素急増のタイミングが明らかになり、どのようなシナリオが考えられるのでしょうか。そのシナリオは次回としましょう。

・大学では・
大学は、一般入試も一段落し、
正課の講義は終わったのですが、
変則的な講義はまだ継続中です。
いくつかの学科では卒業論文の発表会がおこなわれています。
特別支援教員課程の事前指導もおこなわれています。
また、企業説明会も同時におこなわれています。
追試もおこなわれています。
採点と評価が終わったばかりですが、
次は来年度の講義シラバスの〆切があります。
つぎつぎと校務があり、
なかなか落ち着かないのですが、
研究としていろいろできる時期でもあるので
抜かりなくやっておこうと考えています。

・追試・
成績をつけていると
レポートなどをきっちりと出しているのに
試験を欠席するする学生が少なからずいます。
欠席した正当な理由があれば、
追試が受けられます。
追試も受けに来る学生が
それほど多くないのが不思議です。
なぜ、試験を受けないのでしょうか。
諦めがいいのでしょうか。
それとも多数ある単位の一つに過ぎないので
それほど必要性がないからでしょうか。
後者ならいいのですが。

2013年2月7日木曜日

1_112 23億年前の事件 2:オスミウム

 23億年前の地球は、いろいろな大事件が連続して起こりました。大事件はどのような関係があるのでしょうか。そして、その関係は、どうすれば読み取ることができるのでしょうか。新しい手法で、その関係が探られました。

 23億年前頃に起こった酸素の急増、全球凍結、真核生物誕生(20億年前)という大事件は、連続的に、あるいは同時に起こっています。事件には、どのような因果関係があったのでしょうか。まずは、年代を正確に決めたいところです。
 全球凍結は氷河堆積物の、真核生物の誕生は化石を含む地層の年代測定をそれぞれすればいいわけですが。しかし、酸素の急増はどのように調べればいいのでしょうか。大気のできごとですが、なかなか難しい課題でした。
 東京大学の関根さんたちのグループは、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)誌に、あるアイディアを示しました。その論文は、2011年10月に発表されました。
Osmium evidence for synchronicity between a rise in atmospheric oxygen and Palaeoproterozoic deglaciation(大気の酸素の増加と前期原生代の氷河期回復の同時性に関するオスミウムの証拠)
というタイトルでした。
 関根さんたちは、オスミウム(Os)という元素の同位体(同じ元素だが質量の違う原子)を用いて、大気中の酸素の濃度を調べています。
 オスミウムは白金族の元素のひとつです。白金族の元素は、もともと非常に少ない金属です。安定しているので、水とは反応しくく、酸や塩基に溶けにくいもので、貴金属とよばれています。ところが、オスミウムは、白金族の中で、最も酸化されやすく、空気中においておくだけでと、酸化オスミウム(猛毒)になってしまいます。オスミウムは酸素と反応しやすい元素なのです。
 岩石に含まれているオスミウムは、大気中の酸素が増えると、水に溶けやすいという性質があります。その性質によって、酸素が増えると、オスミウムは川から海に運ばれ、堆積物にたまっていきます。酸素が少ないと、大陸から海に運ばれることなく、海底の堆積物はオスミウムが少ないままになります。オスミウムの濃度から、大気中の酸素濃度と大陸地殻の寄与が、定性的ですが推定できます。
 たとえ量が少なくても、大気中の酸素の濃度を知ることができます。オスミウムには、レニウム(Re)の放射壊変からできる同位体(187Os→187Re)が含まれています。レニウムには安定同位体より放射性同位体のほうが多く(62.6%)なっています。放射性同位体の半減期は、412億年なので、古い岩石や隕石の年代測定に応用されています。
 レニウムは大陸地殻に多く含まれるので、放射壊変に由来するオスミウムも大陸地殻の岩石には、古いほど多くなります。一方、マントルから由来するマグマは、放射壊変に由来するオスミウムが少なくなります。海水には海嶺の火山活動に由来するオスミウムがありますが、放射性起源のものは少なくなっています。
 その関係を利用して、大陸起源かマントル起源かを判別することができます。187Os/188Os比(分母のオスミウム188は安定同位体で含まれる比率も比較的多い)が、大きければ大陸起源で、小さければマントル起源とみなせます。
 濃度の他にも、堆積物中の同位体組成(187Os/188Os比)からも、大気の酸素濃度が、間接的ですがわかることになります。両者を利用すれば、堆積物の大陸地殻の寄与、そこから大気中の酸素濃度が推定可能となります。
 では、関根さんたちは、どこで、どのようなことを調べ、何を明らかにしたのでしょうか。それは次回としましょう。

・雪まつり・
北海道は暖か日が続いた後、
ドカ雪が降りました。
除雪が入ったのはいいのですが、
ツルツルに凍った路面が新雪の中にでていて、
危険な道路状況になっていました。
そのため、いたるとこで衝突事故や
雪に突っ込む車もありました。
救急車のサイレンも頻繁に聞きました。
札幌ではドカ雪の日に、
雪まつりが開幕しました。
雪まつりは北海道の冬の最大のイベントとなりました。
晴れれば暖かさで雪像が溶けることを心配し
寒ければ観客の動員が心配です。
成功するといいのですが。

・一般入試・
大学は、定期試験が終わり、
今週は大学の一般入試の真っ最中です。
高卒者の人口が少しずつ減っているので
どの大学も苦戦が強いられています。
生き残りをかけた戦いです。
しかし、大学とはそもそも学問を身につける場で、
教職員も学問を進め、伝えるために専心すべきのはずです。
しかし、今は大学間の競争に勝つことに
多くの時間がさかれています。
これも、しかたがないことなんでしょうね。

2013年1月31日木曜日

1_111 23億年前の事件 1:重なる事件

 ある時期に、いろいろなことが連続して起こると、因果関係があったのではないかと考えたくなります。因果関係がないということが証明されない限り、その同時性が常に気になります。そのような同時性の気になる時期がいくつかあるのですが、23億年前もそのひとつになります。23億年前の事件についてみてきましょう。

 地球の歴史には、大事件とよばれるものがいくつもあります。大事件かどうかは、研究者の価値観に基づいた選択もあるでしょう。でも、だれもが認める大事件もあります。原生代のはじめの頃の酸素の形成という事件は、その一つといえるでしょう。
 地球の酸素は、現在、20%ほどありますが、昔から酸素が大気中にあったわけではなく、ある時期から増えてきました。酸素は、生物が光合成によってつくりだしてきました。それも徐々にではなく、急増してきたとされています。
 その時期は、20億年前ころだとされていますが、正確な時期はわかっていませんでした。それまで地球の大気には酸素のない状態であったのが、一気に酸素が形成され、大気の組成を変えたことになります。これは、大事件と呼ぶべきものです。
 酸化は、地球表層の環境を大きく左右するものです。今までにない酸化状態が出現すると、酸素と結ぶつきやすいもの(鉄分)は酸化され、海底に沈殿します。それまでの生き方をしていた生物も生きていけなくなります。酸素が細胞内に入ると、いろいろな物質を酸化して、細胞を機能不全にし、破壊してしまう毒素のように働きます。生物は、何らかの手段で酸素に対処しなければなりません。生物の進化にとっても、酸素の形成は大事件となります。
 他にもいくつかの大事件が、この時期に起こっています。その大事件とは、真核生物の誕生と大氷河期です。
 真核生物は、酸素形成が、生物の進化に影響を与えた事件というべきものでしょう。因果関係ある事件といえます。真核生物以前の原核生物では細胞の中にDNAが散らばっていたのですが、真核生物では細胞内の核の中にDNAをもつようになります。
 さらに真核生物は、ミトコンドリアを持っていることも特徴となります。ミトコンドリアとは、酸素を利用してエネルギーを生み出す小器官です。酸素のないときと比べると、20倍ほど効率よくエネルギーを生み出すことができます。真核生物が生きていくためには、酸素の濃度が現在の100分の1程度以上ないとだめだと考えられています。
 真核生物は、酸素の多い環境に適応した生物だと考えられます。真核生物の誕生が20億年前ころで、酸素の急増直後の時代となります。
 大氷河期は、地球全体が凍りついた「全球凍結(全地球凍結)」とも呼ばれている氷河期です。全球凍結は、赤道付近の大陸にも、氷床ができるようなものです。7億から6億年前に全球凍結があったことは知られていますが、実は22億から23億年前にもあったことがわかってきました。それは、酸素が急増しはじめるころにあたります。
 酸素の急激な増加と真核生物誕生は因果関係がありそうです。では酸素の急増と大氷河期には、どんな関係があるのでしょうか。そのタイミングと因果関係が気になるところです。まずは、時期の決定が重要になります。
 イギリスンのネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)という雑誌に、東京大学の関根さんたちのグループが、ある元素をつかって、そのタイミングを決定しました。それは次回としましょう。

・代謝効率・
ミトコンドリアのエネルギー効率には
いろいろな考え方があるかもしれません。
そのひとつとして代謝の効率で見積もることができます。
ATP(アデノシン三リン酸)をいくつ作れるかという見方がです。
酸素のない嫌気呼吸による代謝だと
1個の糖(グルコース)から2個のATPをつくります。
一方、酸素を使う好気呼吸では、
1個の糖から38個のATPをつくることができます。
2対38という効率の良さになります。
約20倍のエネルギー効率とみなせます。
これが酸素を用いる代謝の大きなメリットであります。

・共生・
ミトコンドリアには、もう一つ面白い話題があります。
ミトコンドリアは、もともと別の生物であったものが
共生によって真核生物として発展してきたというものです。
ミトコンドリアは、その内部に独自のDNAを持っています。
DNAは好気性バクテリアのものだと考えられています。
また、ミトコンドリアの細胞は2重になっていて、
内側にバクテリア自身のもの、
外側に宿主の細胞膜をもっています。
このような証拠からバクテリアが共生して
真核生物が誕生したと考えられています。