2012年11月15日木曜日

6_103 評価と徒労感


 日本はいろいろな面で制度疲労が起きている気がします。研究の世界でも、研究の評価システムが導入されていて、それに追われています。評価システムが研究の成果公開を促してることは事実です。その影では、研究者の大きな徒労感が漂っています。それを憂いて日本学術会議が提言を出しました。

 このエッセイの読者の中には、研究者の方もおられると思います。そして、国公立の教育研究機関におられるかた、特に理系の方々は、日々何かに追われている気がしませんか。日々研究自体に追われているのは、健全な状態と思いますが、それ以外の何かかに追われていませんか。研究の本来の成果とは違う、「業績数」や「業績評価」、「社会貢献度」などのような得体のしれないものに、日々追い回されている気がします。
 毎年、業績を申告するとき、一喜一憂していませんか。順調に研究が進んでいるときはいいでしょう。しかし、上手くいかない時もあるはずです。そんな年の業績報告はつらいものです。でも、業績数と研究の進捗と、あるいは成果と満足感が、本当に一致するのでしょうか。
 有能な研究者のところには、学生や院生が多数いて、研究費も多く得られ、彼らを動員して研究業績を増やしている研究者も多々います。業績が増えれば研究費が増え、そして学生も増える、という好循環をうんでいるように見えます。そのような研究方法もありでしょう。
 大きな予算で行う研究もあるでしょうが、多くの研究者は、個人の興味に基づく個人規模の研究に従事しています。これが大多数の研究者の姿のはずです。ひとりの研究者として、自分自身の興味や好奇心にもとづいて、自分でその答えを得るという喜びが基本ではないでしょうか。
 研究なんて、見通しが違ったり、失敗のこともあるでしょう。そんな一年もあるでしょう。同じような努力や熱意を持って研究を進めても、うまくいかに時もあるはずです。ところが、研究室や研究費が多くなるほど失敗は許されない状況に追い込まれます。代表者たるもの、その心労は大きなものとなります。
 さらにいえば、研究の評価は、掲載された雑誌のレベル、他の研究者がどれだけ引用するか、などに基づいて数値化されています。自分が面白いと思って取り組んだ研究に、だれも注目しなければ、どんなに先見性があっても、評価を受けないでしょう。したがって、どうしても評価を受けそうな「今はやり」テーマを中心にして、要領よく研究しようという風潮が生まれます。今やそれこそが現在の研究の正しいありかたと思っていないでしょか。地球温暖化、iPS細胞しかり、地震・津波の研究もしかりです。
 日本学術会議が10月26日に「我が国の研究評価システムの在り方」という提言を公開しました。そこで、若手の研究者が評価に大きな負担を感じていることを指摘して、その改善を求めています。研究の評価システムは必要ですが、その評価システム自体が、研究者の徒労感を生んでいるといっています。私も同感です。
 そもそも評価システムは、かつて国家予算を使っている研究者が何をしているのかわからない「象牙の塔」になっていたため、研究成果の公平な評価が必要とされました。科学技術基本法(1995年)を受けて、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法のあり方についての大綱的指針」(1997年)ができ、研究の評価システムが導入されました。
 この制度は一定の成果を上げたと思います。ところが現在では、必要以上に評価が重んじられている気がします。評価を考えるあまり、個人のレベルでの好奇心の基づく研究、息の長い研究などを捨てているように思います。評価システムへの過剰な対応が、研究の健全性を失わせている気がします。
 もしかすると、このような徒労感、閉塞感は、研究者だけでなく、背景は違っているでしょうが、日本のいろいろな社会、階層、業種で起こっていることなのかもしれません。少々、日本の将来が心配になりますが、老婆心でしょうか。

・私の不健全さ・
私のいるのは私学の文系大学です。
ですから私のような理系の研究者は少々異質です。
しかし、自分の存在理由を示し、
自分自身で確認、確保するために、
毎年決まった成果を出すことを
自分に義務付けています。
途中経過でもいいから一定の基準になったら
それを公開するようにしています。
ですから、論文ネタというべきもものを
いくつも抱えています。
実は下書きレベルですが、
論文の粗稿を2、3編もっています。
1年間の研究休暇の間に書き溜めたものです。
定期的に論文が書けなかった時の非常用です。
でも、これって非常に不健全ではないでしょうか。
定期的に成果を出すことが第一義になっていて、
研究することが二の次になっています。
研究して成果が出たら報告するというのが
健全な研究パターンのはずです。
反省を兼ねてこのエッセイを書いたのですが、
論文を定期的に公表することが
今の私の研究動機になリ下がっています。
私の研究の状態は明らかに
業績中心の不健全なものになっています。
いかがなものか、悩ましいいです。

・気の緩みに注意・
私の町では、天気がいいと雪虫がいっぱい飛び交い、
秋も終わり冬も近くなってきました。
ところが、冷え込みがそれほどではありません。
雨も温かいものです。
気圧配置で一気に冬になってしまうので、
気を抜かないようにしないといけません。
長男が研修から帰国した翌日
風邪で寝込んでしまいました。
これは気の緩みでしょう。
我が家は長男の風邪菌が蔓延しているので、
体調には注意です。