2012年6月21日木曜日

3_111 下部マントル 3:相違

下部マントルは上部マントルとは違うものでできていることを、村上さんたちは明らかにしました。結果自体は、想定内であったのですが、実証的に示したことが重要です。実証には高度な実験装置がいろいろ使われています。それは、日本の技術を背景にした成果であるといえます。

 村上元彦さんたちは、下部マントルで想定される化学成分の物質を用いて、それを超高温高圧装置を用いて下部マントルの条件を再現して結晶を作成します。その結晶は、下部マントルで存在できる結晶の組み合わせになっているはずです。さらに、結晶をその条件に保ったまま、結晶の性質をSPring-8を用いて測定しました。結晶の性質としては、主に弾性波速度を測定します。弾性波速度とは、地震波速度と同じとみなすことができます。ですから、実験の結果と、地球内部で得られている物性の情報と照合することが可能になります。
 村上さんたちは、上部マントルの化学成分を用いて実験をしたら、弾性波速度が地震波速度の値と一致しないことに気づきました。これは、下部マントルの物質は、上部マントルとは違っていることを意味します。
 実験をすすめた結果、現実の下部マントルの地震波速度の観測値と一番合うのは、93%以上がペロブスカイト型(一部、岩塩型になっている)の結晶の場合でした。ペロブスカイト型は、カンラン岩が遷移層より深部の条件でできる結晶でした。そこに少しの二酸化ケイ素(SiO2)の高温高圧の結晶(スティショバイト型とよばれる)が加わっていました。
 地震波速度に合う成分をもつものは、あるタイプの隕石でした。その隕石は太陽系の素材になったようなもので、始原的隕石ともよばれ、炭素質コンドライト(C1に細分されている)です。
 始原的隕石は、以前から考えられていたマントルの成分の候補の一つでした。時には、マントル全体が始原的隕石からできていると考えられ、主要な候補とともなっていました。しかし、研究が進み、上部マントルや遷移帯の実体がわかってきて、始原的隕石とは違っていることを示されました。ただ、下部マントルが不明のまま残されていました。それが今回、始原的隕石だと判明したわけです。
 上部マントルの成分に比べて、下部マントルは、ケイ素が多いことがわかりました。これは、上部マントルと下部マントルは成分が違うものでした。つまり、結晶構造の違いではなく、「もの」が違っていたのです。マントルは上下2層の構造持っていることになります。
 さて、この本質的に違っている2層構造の持つ意味はどんなものでしょうか。次回としましょう。

・重要性・
マントルの成分については、
私も以前、研究をしていたことがあります。
いろいろなアプローチの方法があるのですが、
私は、同位体組成から調べていました。
同位体を扱っている研究者は、
始原的隕石を前提にいろいろ検討を加えていました。
その発想は、
地球は始原的隕石が集合してできたのだから、
という単純なものでした。
地球は、始原的隕石をスタートにして
時間とともに、化学的分化が起こった
とする考え方です。
したがって、村上さんたちの結論自体は
以前にもあって真新しいことはないのですが、
実証的に示した点が重要です。
以前からあった始原的隕石は仮説や前提であったのですが、
今回、その仮説に根拠を示したことになります。
その点で非常に重要な成果だといえます。

・旭川出張・
北海道も夏めいてきました。
ただし、また肌寒い日がありますが、
気温は確実に上がっています。
そんな中、またまた出張しました。
メールマガジンは事前に予約発行するので、
火曜日に作成して発行手続きをしています。
ですから出かける前に作成しています。
旭川の様子はまだ報告できませんが、
道内の旭川なので、
車で2時間あまりで行くことができます。
講義があるのですが休講です。
補講が必要になるので、少々面倒ですが。