2012年6月28日木曜日

3_112 下部マントル 4:二層対流へ

下部マントルが始原的隕石の成分に似ているということは、地球ができてからほとんど変化することなく、現在に至ったことになります。一方、上部マントルは、固有の進化を遂げたことになります。この結果は、地球の歴史を書き換えることになるかもしれません。一つの論文が、主流派に大きな変更を迫ることがあります。今回の結果もそのような役割を果たすかも知れません。

 上部マントルと下部マントルは、地震波の観察で物性に違いのあることがわかっていました。その違いは、結晶構造の違いとするか、成分が違いとするか、の2つの考えありました。趨勢は、成分は一緒で、結晶構造の違いではないかという考えでした。今回、村上元彦さんたちは、成分の違いだという実験結果を報告しました。
 下部マントルは、上部マントルとケイ素の多い点で違っていました。下部マントルは、太陽系の初期にできた隕石がもっていた組成に近いまま、現在に至っていることがわかってきました。一方、上部マントルは、もともとの隕石の成分から、ケイ素が少なくなっているということです。
 上部マントルのケイ素分は、一部は大陸地殻にいったと考えられます。プレートの運動によって、列島では火山活動が起こり、大陸地殻と同じような成分のマグマができ、噴出します。複雑な過程を経ますが、結果として、マグマは、上部マントルからケイ素の多い成分として取り除かれていくことになります。いったんできた大陸地殻は、密度が小さいので、すがた形が変わっても、地表にあり続けます。そのケイ素の分が、大陸地殻と地表に保存されることになります。40億年以上わたって、大陸地殻はつくり続けられています。その結果、ケイ素成分は、上部マントルから抜かれたことになります。
 この説には、問題がいくつかあります。
 まず、上部マントルのケイ素の不足分は、大陸地殻だけでは、足りないようです。上部マントルは、地殻に比べると、圧倒的に体積も質量も多いためです。ですから、不足のケイ素の一部は、地殻だけでなく、外核(とけた鉄でできています)に溶け込んでいるかもしれません。しかし、下部マントルをジャンプしてケイ素だけを運ぶのは可能でしょうか。まだ、十分検証されていないところです。
 次に、マントル対流の問題です。地震波トモグラフィの結果から、従来は、上部と下部マントルを通じて対流している(一層対流)ようにみなされていました。もし今回の結果と推定が正しければ、上下のマントルで対流が別々になっている(二層対流)可能性が強くなります。あるいは一層対流であっても、特別なメカニズムを考えなければなりません。
 もし、上下のマントルが、遷移帯を境にして、混じることがなく二層対流を続けてきたとしたら、長い時間別々の進化をしてきたことになります。これを採用すれば、従来の地球の進化シナリオを書き換える必要がでてきます。面白くなってきました。
 今までの定説が覆ることは、積み上げてきたものが、崩れていくことになります。新しい枠組みのもとで、新しい説が構築されていくことになります。その前に、いろいろな検証が必要となるでしょうが、もし今回の一つの論文によって大きな変化が起こることは、なかなか刺激的です。

・快晴の青空・
北海道はいい気候になって来ました。
例年より涼しいような気がします。
前期の講義も3分の2が終わりました。
近隣の大学では大学祭も終わりました。
初夏の陽気になってきました。
早朝、快晴の青空は
何事にも代えがたいよさがあります。
天候不順でしょうか、残念ながら、
そんな日が今年は少ないようですが。

・後追いの思い・
今年は、なんだか息絶え絶えとなっています。
仕事が重なっているので、
余計に辛いのかも知れませんが、
不況や時代のせいでしょうか。
いろいろなところで一杯一杯の状態で
働いている人が多数いるようです。
我が組織にも、重要なポストについている人で
そんな状態の人が何人かいるようです。
もし倒れれば、組織の犠牲となります。
辛いのなら、そこまで耐えずに
早目に仕事を降りればよかったのにと
多くの人が思ってしまいます。
後追いでのそんな思いは役に立ちませんが。

2012年6月21日木曜日

3_111 下部マントル 3:相違

下部マントルは上部マントルとは違うものでできていることを、村上さんたちは明らかにしました。結果自体は、想定内であったのですが、実証的に示したことが重要です。実証には高度な実験装置がいろいろ使われています。それは、日本の技術を背景にした成果であるといえます。

 村上元彦さんたちは、下部マントルで想定される化学成分の物質を用いて、それを超高温高圧装置を用いて下部マントルの条件を再現して結晶を作成します。その結晶は、下部マントルで存在できる結晶の組み合わせになっているはずです。さらに、結晶をその条件に保ったまま、結晶の性質をSPring-8を用いて測定しました。結晶の性質としては、主に弾性波速度を測定します。弾性波速度とは、地震波速度と同じとみなすことができます。ですから、実験の結果と、地球内部で得られている物性の情報と照合することが可能になります。
 村上さんたちは、上部マントルの化学成分を用いて実験をしたら、弾性波速度が地震波速度の値と一致しないことに気づきました。これは、下部マントルの物質は、上部マントルとは違っていることを意味します。
 実験をすすめた結果、現実の下部マントルの地震波速度の観測値と一番合うのは、93%以上がペロブスカイト型(一部、岩塩型になっている)の結晶の場合でした。ペロブスカイト型は、カンラン岩が遷移層より深部の条件でできる結晶でした。そこに少しの二酸化ケイ素(SiO2)の高温高圧の結晶(スティショバイト型とよばれる)が加わっていました。
 地震波速度に合う成分をもつものは、あるタイプの隕石でした。その隕石は太陽系の素材になったようなもので、始原的隕石ともよばれ、炭素質コンドライト(C1に細分されている)です。
 始原的隕石は、以前から考えられていたマントルの成分の候補の一つでした。時には、マントル全体が始原的隕石からできていると考えられ、主要な候補とともなっていました。しかし、研究が進み、上部マントルや遷移帯の実体がわかってきて、始原的隕石とは違っていることを示されました。ただ、下部マントルが不明のまま残されていました。それが今回、始原的隕石だと判明したわけです。
 上部マントルの成分に比べて、下部マントルは、ケイ素が多いことがわかりました。これは、上部マントルと下部マントルは成分が違うものでした。つまり、結晶構造の違いではなく、「もの」が違っていたのです。マントルは上下2層の構造持っていることになります。
 さて、この本質的に違っている2層構造の持つ意味はどんなものでしょうか。次回としましょう。

・重要性・
マントルの成分については、
私も以前、研究をしていたことがあります。
いろいろなアプローチの方法があるのですが、
私は、同位体組成から調べていました。
同位体を扱っている研究者は、
始原的隕石を前提にいろいろ検討を加えていました。
その発想は、
地球は始原的隕石が集合してできたのだから、
という単純なものでした。
地球は、始原的隕石をスタートにして
時間とともに、化学的分化が起こった
とする考え方です。
したがって、村上さんたちの結論自体は
以前にもあって真新しいことはないのですが、
実証的に示した点が重要です。
以前からあった始原的隕石は仮説や前提であったのですが、
今回、その仮説に根拠を示したことになります。
その点で非常に重要な成果だといえます。

・旭川出張・
北海道も夏めいてきました。
ただし、また肌寒い日がありますが、
気温は確実に上がっています。
そんな中、またまた出張しました。
メールマガジンは事前に予約発行するので、
火曜日に作成して発行手続きをしています。
ですから出かける前に作成しています。
旭川の様子はまだ報告できませんが、
道内の旭川なので、
車で2時間あまりで行くことができます。
講義があるのですが休講です。
補講が必要になるので、少々面倒ですが。

2012年6月14日木曜日

3_110 下部マントル 2:SPring-8

マントルと核(コア)は、岩石と鉄、固体と液体という大きな性質の違いがあります。地球深部の大雑把な特徴はわかっていますが、下部マントルの実態はよくわかっていません。今回、下部マントルは上部マントルとは違うことが分かってきました。その結果は、日本が誇るSPring-8という巨大な世界最高峰の装置を使っておこなわれた実験によるものでした。

 上部マントルと下部マントルの境界は、遷移層とよばれています。遷移層が形成されるのは、上部マントルの鉱物が、より高温高圧の条件になるため、より高密度の鉱物に変化(相転移といいます)するためだと考えられています。上部マントルの岩石を構成する鉱物は、数種類あるため、一度に相転移がおこるのではなく、条件に差があります。その差が、遷移層の幅を生んでいると考えられます。
 上部と下部のマントルは、相転移によって物性が違っていますが、マントル全体の化学組成は、一様なのではないかと考えらていました。それは、マントル対流で物質が循環されているからです。しかし、検証されているわけではありませんでした。
 以前紹介したエッセイで、愛媛大学の入舩さんたちが、高温高圧発生装置とSPring-8を使って、遷移層の下部には、ハルツバージャイトと呼ばれるカンラン岩があることを明らかにしました。それは、沈み込んだ海洋プレートに相当するもので、周囲のマントルのカンラン岩とは異質な成分があることを示していました。
 SPring-8とは、兵庫県の播磨科学公園都市にある大型放射光施設です。ここでは、世界最高の放射光を発生することができます。電子を光速近くまで加速し、磁力によって曲げる時に発生する強力な電磁波を利用します。この電磁波は、いろいろな物質を通り抜けぬけることができる強力なものです。電磁波を、非常に細く絞ることができ、微小な物質の性質を調べることができます。
 しかし、遷移層より深部の下部マントルの様子は、入舩さんたちの装置では達成できな高温高圧条件でした。
 その限界を突破したのが、東北大学の村上元彦さんたちのグループでした。報告は、先ごろ、科学雑誌(Natureの2012年5月3日号)に報告されました。彼らの装置は、温度2700℃、圧力124万気圧(124 GPa)を発生できるものです。マントルと核の境界(グーテンベルク不連続面と呼ばれています)は、深度2890mにあり、3200~4200℃、134万気圧(136 GPa)という条件になると考えられています。ですから、村上さんたちの高温高圧発生装置で、マントルの底付近の条件を再現できることになります。この装置でマントル物質を高温高圧状態にしたまま、SPring-8を使って鉱物の性質を調べることがなされました。
 超高温高圧装置とSPring-8を用いておこなった実験の結果、上部マントルと下部マントルは、組成が違っていることがわかりました。
 その詳細は次回としましょう。

・SPring-8の紹介・
研究者にとっては、最先端の装置が
利用できるのは素晴らしいことです。
装置は価格、必要設備、維持管理によって、
大学や学部、学科、研究室の単位で導入されます。
もっと巨大になると国家予算、
あるいは国際協力によって導入されます。
日本が世界に誇れる装置はいくつかありますが、
SPring-8の世界に冠たる装置でもあります。
今まで多くの実績を上げてきましました。
その紹介ビデオが以下にあります。
豊かな未来を照らす光 SPring-8(平成21年制作)
http://youtu.be/pvFnXbkCfvs
見えなかった世界が見える(平成17年制作)
http://youtu.be/ONW_7eHxpNU
また、年間の運用費用は約80億円強です。
安いと思うか、高いと思うかは人それぞれでしょうが、
私は安いものだと思います。

・ダイヤモンド・
高圧高温発生装置は、小さなものです。
ただし、ダイヤモンドを2つ用いておこなわれます。
尖った先を向きあわせて、締め付けて高圧を発生します。
平底よりピンヒールの靴に踏まれるほうが痛いのと同じで、
面積を小さくすると、
かけた圧力が何倍にもできます。
そこに、レーザーをあてて高温にします。
このような装置をダイヤモンドアンビルといいます。
宝石の単結晶ダイヤモンドを用いますので、
効果な装置です。

・青森行・
今日(6月14)の昼に青森に向けて大学を発ちます。
教育実習の現地指導のためです。
ゼミの担当の先生が行く予定ですが、
担当の先生が別件で不在なので
空いている私がいくことになりました。
まあ、ゼミは違えど同じ学科の学生です。
頑張っている姿を見学してきましょう。

2012年6月7日木曜日

3_109 下部マントル 1:対流

マントルは、一層対流か二層対流か、上部と下部の岩石は同じなのか違うのか。マントルについて、まだ解明されていないことが、いろいろあります。マントルは、近いようで遠いところ、人類はもちろん行くことも、見ることもできない未知の世界です。マントルでも、特にわかっていない下部に関する新しい情報が出てきました。マントルの最新情報を紹介しましょう。

 このエッセイでは、マントルの構造や構成などについて、何度か取り上げてきました。上部マントルの特徴や遷移層の特異性はわかってきたのですが、このたび(2012年5月)、新しい論文が出され、今までわかっていなかった下部マントルの様子が解明されました。それは、均質であると考えられていたマントルが、上下で成分が違うという報告でした。
 その説明に入る前に、マントルの概略をまとめておきましょう。
 マントルは、カンラン岩と呼ばれる岩石からできています。マントルは、特別な場所以外、すべて固体の岩石からできています。岩石のとけたマグマがあることから、マントルも溶けているように勘違いをされることがあります。地殻およびマントルは、基本的に固体の岩石からできています。
 岩石は、力を加えると割れてしまいます。地表でみられる岩石には、実際に多数の割れ目があります。割れ目には、ズレ(変位)のできているものもあります。岩石の大きな変位は、断層とよばれます。断層ができたということは、激しい破壊があったことになり、地震が起こったことを意味します。日本列島のように、海溝で海洋プレートが沈み込むようなところは、大きな力がかかっています。そのような場では、固い岩石がよく割れます。つまり地震がよく起こる場となります。
 物質の性質のひとつに粘性というものがあります。粘性とは、柔らかさ、流れやすさを表す数値です。小さいほど流れやすくなります。岩石は、温度が上昇すると、粘性が小さくなります。ある温度以上になると岩石は、割れることなく、固体のまま流動性を示すようになります。深さ100kmほどで、岩石は流動性を持つようになります。それより上の固い岩石の部分がプレートとして板状に移動していきます。このような岩石の性質が、プレートテクトニクスという現象を起こします。
 また、物質は、温かいものは密度が小さく、冷たいものは大きくなります。岩石も同じで、地球深部の温かいマントルの岩石は流動性をもっているので、上昇してきます。地表付近まで上昇してくると、一部は固い海洋プレートとなり海洋底を水平に移動してていきます。海底下で海洋プレートおよびその下のマントルは、冷やされていきます。やがて冷えて密度が大きくなった岩石は、海溝でマントルに沈んでいきます。これが、マントル対流と呼ばれているものです。マントル対流は、地球の熱を、地球表層、そして宇宙空間に運ぶというメカニズムとみなすことができます。
 このように、一見、単純明快なマントル対流ですが、マントル対流のスピードは、せいぜい年間10cmから数cm程度です。地表ではプレートの移動として実測されていますが、地下深部の対流を観測することはできません。しかし、対流が起こっているという証拠はいくつかみつかっているので、マントル対流はあると考えられています。
 地震波でみると、マントルの深度650km付近に境界が見つかっています。地震波にみえるほどの物性の違いが、その境界にあることになります。境界は一つの面ではなく、ある程度の幅があり、層としてとらえられているので、遷移層と呼ばれています。マントルは、遷移層で上部と下部に分けられています。しかし、上下のマントルにどのような違いがあるのか、特に下部マントルの特徴がよくわかっていませんでした。それは、マントル対流の実態を解明する上でも重要なものとなります。
 今回の報告は下部マントルの物質をある程度限定したという報告でした。詳細は、次回としましょう。

・実測不能・
マントル対流の運動の実測はなかなか難しいものです。
プレートの動きはVLBIという仕組みで
年間10数cmというゆっくりとしたものを
実測値として調べられています。
VLBIという手法はマントル対流へは適応できません。
マントル対流を実測するのは非常に困難なのです。
類推、推定するしかありません。
プレートの運動は重要な情報源ですが、
水のような綺麗な対流ではなく、
遷移層に溜まった後の落下や、
不思議な上昇メカニズム(プルーム)などがあるので、
実態とともに、そのスピードはよくわかっていません。
数100kmかなたの深部はわからないとだらけです。

・母の来道・
今週末から来週末にかけていろいろ行事があるので、
慌ただしくなります。
まずは、母が来道します。
今回は短期間ですが、
次男の小学校最後の運動会の見学が一番の目的です。
母は、畑で作物を作っているので、
長期の滞在は草が生えるので嫌がります。
でも、次男も区切りになるので、
母の来道を期待しているようなので、
呼ぶことにしました。
私が空港までの送迎をすることになっています。
だいぶ高齢になってきたので、
北海道に来るのは大変になってきました。
できれば孫の顔をみることを
励みにしてもらいたいものです。

・金星・
現在6月6日の昼前です。
金星が太陽面を通過する現象が起きています。
いくつかのネットのサイトで生放送がなされているのですが、
TBSのライブ中継がなかなかきれいです。
それを画面に出して時々みています。
北海道は朝は晴れていたのですが、
途中から曇って来て小雨もぱらつきました。
でも、TBSは九州からの中継なので
きれいにみえます。
金星は明らかに黒点よりはっきりと大きく見えます。