2012年4月5日木曜日

6_99 生命の起源3:地下温泉

生命の起源として、地球外の可能性は論理的には否定できませんが、やはり地球内の起源を探ることは不可欠でしょう。生命の地球内起源説で一番有力な説は、深海の熱水噴出孔ではないかと考えられていましたが、最近、地下の鉱山内の温泉で、古いタイプの生物が見つかり、初期の生物の可能性が指摘されました。

 生命の起源を地球外に求めた研究をいくつか紹介しました。次に、地球内起源の新しい研究結果を紹介します。
 地下鉱山の内部に流れる温泉に生息する微生物で、非常に古いタイプの生物が発見されました。実は、その研究結果は、熱水噴出孔の可能性を示すものでした。
 海洋研究開発機構の髙見英人さんらが報告した研究です。「A deeply branching thermophilic bacterium with an ancient acetyl-CoA pathway dominates a subsurface ecosystem(深くで分岐した古いアセチルCoA経路を持つ好熱性バクテリアが地下生態系では支配的である)」というタイトルで、2012年1月に公表されました。
 髙見さんたちは、海底の熱水噴出孔と似た環境を想定して、地下鉱山で70°Cほどの温泉の流路を探しました。そして、その温泉の中に棲んでいる微生物群を見つけて、採取されました。微生物の群れの中から、好熱性バクテリア(Candidatus Acetothermus autotrophicumという名前、以下アセトサーマスと呼びます)を見つけ、ゲノムの解読をされました。
 生命の誕生は、熱水噴出孔だとするのが主流の考え方です。熱水噴出孔の環境は、比較的温度の低く、アルカリ性の熱水のあるところだと考えられています。そのような環境では、水素と二酸化炭素からエネルギーを得るための代謝が、もっとも古いタイプになります。そのような代謝は、論文のタイトルにあったアセチルCoA経路というものになるはずです。
 それを検証するために、髙見さんたちは、アセトサーマスを選び、ゲノムの解読をされました。
 解読の結果、アセトサーマスは、初期の生物(コモノートと呼ばれている)が持っていたと考えらえているエネルギー代謝機能であるアセチルCoA経路であることがわかりました。知らているバクテイアの中では、始原的なもので、もっともコモノートに近いことがわかりました。つまり、アセチルCoA経路がもっとも古いタイプの代謝であることを、髙見さんたちは、検証したことになります。
 この研究は、地下の熱水で生物が発生した可能性を示すことにもなりますが、そのような環境には、原始的な代謝形態を残す生物が今も生息していることも示しています。ということは、深海の熱水噴出孔より試料採取や多様性の確保がしやすくなります。研究しやすい場を得たことなります。そんな研究の可能性も拓いたことになります。今後も地下の坑道で研究が進められることが期待できます。
 生命の地球内起源説では、地下だけでなく陸地での誕生の可能性を指摘する研究が発表されました。次回はそれを紹介しましょう。

・科学の宿命・
過去の記録に残りにくい現象や事件を研究するとき、
いくつもの可能性が提唱されます。
それらのどの可能性が正しいのかは、
最終的な決着を見る場合は少ないはずです。
なぜなら再現性のない過去の出来事ですから、
正しいかどうか検証不可能だからです。
生命の起源の研究は、証拠の過多や論理の優劣で
追求されていくことになります。
論理的ではないのですが、
歴史性を含む科学の宿命なのかもしれません。
その点では科学的なのかも知れませんね。

・新入生・
いよいよ4月の新年度です。
大学も入学式を終え、
新入生がキャンパスを賑わせています。
教員もこの時期になると気分一新します。
なにより新入生の顔をみると
清々しい気分になります。
そんな新入生を見ながら、
いつものことですが、
新しい講義の準備に追われています。