2012年3月15日木曜日

5_105 イトカワ 4:検証

イトカワの初期成果は、だいぶ出てきました。その初期的報告の概要をまとめておきましょう。その成果のなかで一番重要なことは、推定が検証されたことではないでしょうか。これからの研究では、新知見が期待されます。

 前回は、最新の論文を紹介しました。イトカワの研究成果は、このシリーズの最初にも書きましたが、2011年8月26日号のアメリカの科学雑誌Scienceに、まとめて6つの論文が報告されています。詳しく紹介すると長くなるので、それらの概略を紹介していきましょう。
 東北大学の中村智樹さんらは、鉱物学の研究から、イトカワ(S型小惑星に区分されている)が普通コンドライト隕石(LL4~6に分類されている)に似ていることを示しました。これによって小惑星のS型とLL4~6隕石の対応が検証されたことになります。さらに、イトカワは、もとは10倍以上も大きな天体(母天体)であり、内部の温度はいったん800℃以上になってから、ゆっくりと冷えてきたという履歴を明らかにしました。そして衝突によってばらばらになり、再び集積してイトカワになりました。
 北海道大学の圦本さんたちは、微小部分の酸素の同位体測定をして、地球のものとは明らかに違う成分を持っていることを確認しました。つまり地球の物質が混入したものではなく、イトカワの由来の物質であるという証拠を示しました。また、隕石の普通コンドライト(LLまたはLグループ)に属し、それらの供給源の天体の1つであることがわかりました。
 首都大学東京の海老原さんたちは、中性子放射化分析という手法で各種の元素をおこないました。その結果、太陽系誕生の最初期に起きた元素の分別過程を残していることを明らかしました。
 大阪大学の土`山さんたちは、X線マイクロトモグラフィという装置を用いて、粒子の形を3次元で調べて、小さな重力しか持たない天体の堆積物(レゴリス、regolithと呼ばれる)であることを明らかにしました。これは小惑星由来であることを別個に検証したことになります。そして、粒子のつくりや鉱物の比率から、普通コンドライト(LL5あるいはLL6コンドライト)であると推定しました。
 茨木大学の野口さんたちは、電子顕微鏡で粒子の表面を調べ、宇宙空間での風化によってできた超微粒子を見つけました。また、LLコンドライトが宇宙風化を受けると、S型の小惑星になることも示しました。
 東京大学の長尾たちは、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン)を分析して、粒子がイトカワの表層にあった証拠を示しました。粒子が、イトカワの表面で、太陽風に、数100年から数1000年間、さらされていたこともわかりました。また、イトカワ表層にある物質は、百万年に数10cmの割合で削られていることも明らかにしました。
 これらの成果には、新知見もありましたが、予想通りに内容も含まれています。予想通りの内容は、イトカワからの粒子であること、小惑星はある種の隕石と類似のものからできていることなどです。しかし、今まで推定にすぎず、今回、小惑星イトカワから物質を入手し分析して、はじめて検証されたことになります。推定に確実な根拠を与え、検証したことになります。これは、新知見と比べると、地味にみえますが、科学にとっては重要なステップとなります。この検証によって、他の隕石と小惑星の類似関係の推定も確からしくなりました。科学にとっては、大きな前進となります。
 さて、基礎的な予備調査は終わりました。今後、試料が配布されるはずですから、新知見が次々と報告されることになるでしょう。ますます期待が高まります。

・別刷り・
先週のエッセイでイトカワの研究成果について書いたら、
中村さんから別刷りが送られてきました。
たまたでしょうか、それとも
エッセイをご覧になっていたのでしょうか。
研究所のある地元で科学者110名を集めて
シンポジウムが開催されたようです。
その一環で市民向けの催しもなされ、
多数の子供を含む15000人もの人が訪れたようです。
宇宙探査や地球外生命に関する科学の最前線の話題を
興味をもって聞いていたようです。
その市民向けの催しのニュースは読んでいたのですが、
エッセイに書くのを忘れていました。
別刷りに同封されていた手紙にも
その様子が書かれていました。
盛況だったようです。
なかなか遠くて、研究テーマも違ってきたので
センターには行けないところとなりましたが、
活躍されている様子を遠くから拝見しています。
今後も活躍されることを期待しています。

・卒業・
国立大学は今は2次試験が終わり、
その集計中でしょうか。
私立大学は、いよいよ卒業式のシーズンです。
我が大学は、今週金曜日に卒業式がおこなわれます。
人数が多いので、大きな施設を借りての卒業式となります。
その後は、ホテルでの祝賀会、
さらに学科の謝恩会が続きます。
めでたい行事が一晩でおこなわれます。
その後、若者たちは旅立ちの日を迎えます。