2012年3月8日木曜日

5_104 イトカワ 3:クレーター

先日、イトカワの試料から小さなクレーターが発見されたというニュースが流れました。イトカワの試料を初期分析している過程で発見されたものです。その内容を、速報として紹介しましょう。

 2月27日付けのアメリカの科学雑誌(科学アカデミー紀要の電子版)に岡山大学地球物質科学研究センターの中村栄三さんたちが、イトカワの試料から小さなクレーターを発見したという報告がなされました。5つの試料を初期分析している過程で発見されたものです。
 論文では、50μmから110μmの5つの試料を用いています。その粒子の表面の観察と分析をもとに新たに発見されたものです。これらの粒子は、いく種類かの鉱物(カンラン石、輝石、長石)とガラスからできていました。鉱物の成分から、普通隕石に分類されるものであることがわかりまして。他の粒子からも同じ結論がえられています。
 鉱物の検討から、いったん900℃ほどの高温になったことがわかりました。現在のイトカワでは、けっしてならない高い温度です。したがって、イトカワは、今の大きさになる前に直径数10kmの小惑星(母天体)があり、それが衝突、破壊され、再度の集積したものだと考えられます。
 粒子の表面には、いろいろな小さいの粒がついているのですが、その粒の中には、平たいディスク状のものがありました。衝突で溶けた物質が飛び散り、固まったものです。ディスクの表面には、含まれていたガスが抜けた穴が見られます。彼らの推定では、1/1000秒ほどで溶け、1mほど飛んだとされています。非常に小さなサイズの衝突、溶融事件があったことになります。
 今回の粒子の表面に0.数μmのクレーターがいくつも見つかりました。このような小さなクレーターは、数十nm(ナノメーター)の小さな隕石が、かなりの高速で(秒速数10km)衝突したためです。いくつものクレーターがあるということは、そのような衝突事件が頻繁に起こったことになります。ただし、事件の時期は不明です。クレーターの形成がある時期に集中して起こったのか、定常的に起こっているのかは不明です。
 さらに、太陽からの飛んできた粒子による侵食の様子も発見されています。太陽からは、水素イオンがプラズマとして、常に大量に飛び出しています。これを太陽風と呼びます。太陽風がイトカワの粒子にあたり、表面を削っています。その結果、表面がサメ肌状になっていることもわかりました。
 イトカワは、穏やかに宇宙空間を漂っているように見えますが、その形成にいたる履歴には、想像もできないいろいろな事件があったことが、小さな粒からも読み取られています。

・補足情報・
膨大な情報が背景にあります。
その粒子は貴重なので、
分析データの持つ意味も違ってきます。
中村さんたちの論文自体は、6ページなのですが、
補足情報(supporting information)として、
5つの粒子に関する詳細な分析方法の記述や
分析結果が膨大な量、つけられています。
補足情報は34ページに及びます。
1mmにも満たない小さな粒が5つに関するものです。
初期分析ではあまり破壊的な分析はしないはずなので
これらくらいの情報ですが、
今後公開された試料で、小さいものは
破壊分析もおこなわれる可能性があります。
すると今以上の情報が得られるはずです。
期待が高まります。

・古巣にて・
今回の報告者の中村さんとは
古くからの付き合いです。
私も岡山大学地球物質科学研究センターに
所属していたことがありました。
思い越せばだいぶ前になります。
最初、中村さんはセンターの助手でこられたとき、
私は分析にいっていました。
意気投合して私は研究生として
センターに移籍することにしました。
二人でいろいろ分析室の改良からはじめました。
私が外部にで職を見つけて出たあとも
センターは進化していきました。
今では、センターは世界に冠たる研究施設になりました。
私は、地球科学の研究をもうやめたので
このような最先端の現場には立ち会えないのですが、
彼らの発見時の高揚した気分は、
遠くの空からも感じてしまいます。
さらなる成果をあげられることを期待しています。