2011年9月29日木曜日

2_98 光スイッチ説:眼の誕生 3

 光が生物の進化を促したという「光スイッチ説」は、魅力的で、素晴らしいアイディアです。今回の最古の節足動物の複眼の発見は、その説をサポートする重要な証拠となります。でも、「光スイッチ説」を実証するには困難な壁が立ちはだかっています。

 三葉虫以外で最古(5億1700万年前)の節足動物の化石が発見されました。その節足動物には、非常に発達した複眼があることがわかってきました。この発見により、少なくとも節足動物、あるいは動物全般は、カンブリア紀にはすでにかなり眼が発達していたという重要な根拠になります。
 なぜ、節足動物(あるいは動物全般)で眼が発達したのでしょうか。その原因として「光スイッチ説」という有力な仮説があります。この「光スイッチ説」は、「カンブリアの大爆発」の原因も説明できるので、人気があるようです。
 「光スイッチ説」とは、古生物学者のアンドリュー・パーカーが1998年に提唱したものです。パーカーの「光スイッチ説」は、彼の著書「眼の誕生 カンブリア紀大進化の謎を解く」で一般の人にもわかるように詳しく紹介されています。「カンブリアの大爆発」は、眼ができたことによって、生存競争が激しくなり、進化を促したという説です。
 眼の誕生の原因自体は不明ですが、ある生物が眼を持つと、眼のない生物と比べて、非常に有利な特性を持つことになります。草食性や腐食性、あるいは肉食性の生物は、眼のない生物と比べて、明るい環境ではより多くの餌を得ることができます。また被捕食者に眼があると、眼を持たない捕食者から逃げることができます。眼の誕生によって、眼を持つ動物間、あるいは他の種との間でも、激しい生存競争が起こり、進化が促されたことが予想されます。
 非捕食者は、硬い殻で防御する方法が進化しました。固い殻などで防御していくることが、捕食者から生存競争に勝つことになります。多くの生物種(門の階層)で、硬い殻や組織を持つタイプの生物が「カンブリアの大爆発」の時期に起きています。硬い組織の誕生が、眼の獲得の時期と呼応して進化したとパーカーは考えています。
 今回の節足動物の化石での眼の発見は、「光スイッチ説」を一般化を示す有力な証拠になると考えられます。もし他の生物種でも眼の証拠が見つかれば、「光スイッチ説」は、より強固になっていくでしょう。
 ただ「光スイッチ説」は、眼という証拠から生まれた説ですが、なかなか実証にしくい説です。なぜなら、原因である光と、結果として眼の誕生を結びつける証拠が見つけにくいからです。眼は化石が見つかってますが、原因である光は化石になりません。光と眼、原因と結果を結びつける証拠とは一体なんでしょうか。これは、もしかすると越えられないような大きな壁かもしれません。なかなか難しい問題です。でも、科学者は、素晴らしいアイディアで新たな証拠を見つけるかもしれません。今後の課題ですが、期待しましょう。

・再構築の繰り返し・
パーカーの「眼の誕生 カンブリア紀大進化の謎を解く」
(2006年発行、ISBN978-4794214782)を読んだ時、
こんな考えがあるのだと感動した記憶が残っています。
今回の節足動物の化石の報告は、
「光スイッチ説」に重要な証拠を提示したことになります。
上で述べたように、強力な支持をする証拠があったのしても、
論理が完結するわけでありません。
進化は、過去の化石からの論証です。
化石は生物のほんの一部分にしかすぎません。
過去の生物の総体を見ているわけでありません。
これは過去の生物には、常に付きまとう問題です。
限られた証拠から、もっともらしい論理、仮説を組み立てること。
そして、新らたな証拠が見つかれば再構築すること。
古生物学は、この繰り返ししかありません。
これは、科学のもつ宿命でもあります。
自然界に真理はあるのかわかりませんが、
今ある仮説は、一番もっともらしく見える論理に過ぎません。
再構築の繰り返しこそが、科学なのかもしれません。

・北国の秋・
ここ最近、北海道は快晴の好天が続いています。
これぞ北国と思える素晴らしい天気です。
ただ、朝晩の冷え込みが深まって来ました。
はや先週には旭岳での初雪の便りも聴きました。
平野部の秋も深まって来ました。
秋を楽しみたいと思っています。
先日家族でジンギスカンをしました。
自宅でしたのでが、久しぶりでした。
ジンギスカンは食べているときはいいのですが、
後片付けと匂いが大変なので
楽しみが大きいと辛さも大きのです。
北海道の秋が素晴らしいのですが、
冬の寒さが厳しいのも同じかもしれません。