2011年9月15日木曜日

2_96 カンブリアの大爆発:眼の誕生 1

 カンブリア紀のはじまりは、生物の爆発的進化の起こった時代でもありました。カンブリア紀の大爆発がなぜおこったのか。それは大きな問題でした。しかし、その謎に対する一つの鍵が示されました。その鍵を紹介していきましょう。

 地球の歴史において、カンブリア紀は、特筆すべき時代であります。カンブリア紀は、顕生代のはじまりで、隠生代と顕生代の時代境界の時代でもあります。区切りの時代として重要です。時代の区切りは、カンブリア紀になって、化石が出現しはじめることです。つまり化石に残るような生物が、カンブリア紀から出現したのです。
 その出現が、ある日、突然というほど、唐突で、爆発的でした。カンブリア紀を境に、生物(動物)が突然に爆発的な進化をしたことから「カンブリアの大爆発」と呼ばれています。スティーヴン・ジェイ・グールドが、「ワンダフル・ライフ:バージェス頁岩と生物進化の物語」という本で紹介して以来、「カンブリアの大爆発」は、広く知られるところとなりました。
 5億4520万年前からはじまるカンブリア紀(終わりは4億8830万年前)ですが、それ以前から化石の痕跡は見つかっています。またカンブリア紀の直前の時代、エディアカラ紀から化石がけっこう見つかりはじめます。産地としては、カンブリア紀の前の時代名であるエディアカラ紀の由来となっている南オーストラリア州のエディアカラ生物群は、約5億8500万年前から出はじめて、カンブリア紀に入ってすぐの5億4200万年前には、その多くは絶滅してしまいます。
 カンブリア紀になると系統性のある生物の化石が出はじめます。産地として、中国雲南省の澄江(ちぇんじゃん)(5億2500万年前)、グリーンランドのシリウス・パセッ(5億1800万年前)、カナダのブリティッシュコロンビア州のバージェス頁岩(5億0500万年前)が有名です。
 ところが、カンブリア紀の頃の生物は、殻も骨も持たない軟体動物が主流でした。つまり、化石になりにくい生物がほとんどでした。骨や殻がない生物は、保存の良い化石が見つかることは、非常に稀なことで、生物相の実態の把握はなかなか難しいものでした。保存のいい化石が見つかれば貴重な試料となります。
 特に保存状態がいい化石を伴う地層を、地質学では「ラーゲルシュテッテン(Lagerstatte)」と呼んで特別扱いします。地質学者は、「ラーゲルシュテッテン」の地名と共に、時代やその特徴的な化石を学んでいきます。そんな「ラーゲルシュテッテン」でも、カンブリア紀やそれ以前のものは、軟体生物が多いので、特に貴重です。上に挙げた産地は、すべて「ラーゲルシュテッテン」となっています。
 さて、「カンブリアの大爆発」の契機、原因になったのは、一体なんだったのでしょうか。いくつかの説がありますが、まだ確定したものはありません。今年になって、「ラーゲルシュテッテン」でもある南オーストラリア州のエミュ・ベイの5億1700万年前の地層から、節足動物の保存のいい化石がみつかりました。澄江(5億2500万年前)より新しく、バージェス頁岩(5億0500万年前)より前の時代の生物相です。その化石は、「カンブリアの大爆発」の原因か解明する鍵になるかもしれないという研究が報告されました。その詳細は次回としましょう。

・ラーゲルシュテッテン・
ラーゲルシュテッテンとは、
ドイツ語のLagerstatteの読みそのままで、
Lagerというのは「貯蔵」、
statteは、「場所」という意味ですが、
鉱床という意味もありますが、
地質学では特に保存状態の良い化石を産する地層
という意味にも使われています。
今では、地質学でもあまり使われませんが、
特異な化石に産地を意味します。
そんな産地は、今では保護されていることがほとんどです。

・国内調査・
私は、カンブリア紀のはじまり(E-C境界)に興味があります。
それは地質学においては、非常に重要な意味を持つ時代境界でもあり、
生物史においても一線を画する時代でもあります。
その現地に赴いて、その地の様子を感じること、
これは私にとって至福の時でもあります。
E-C境界は、海外にしかありません。
最近私は、国内の調査しかしていません。
時間的にも、費用的にも国内調査しかできないからです。
しかし、テーマさえあれば、国内でも重要な仕事が出来るはずです。
これは、負け惜しみではありません。
今、その国内の野外調査の真っ最中です。