2011年6月23日木曜日

1_104 振り出しに:OAE 3

 今回でOAEのシリーズは終わりです。OAEは、欧米の大西洋や地中海でたまった堆積物を中心に調べられてきました。今回太平洋沿岸での報告がなされました。それは、今まで述べてきたことを否定するようなものなります。でも、これも科学の進み方なのです。

 OAE(海洋無酸素事件)は、急激な温暖化によって、深層水の循環が停止して起こったとされています。もう少し詳しく当時の様子をみていき、検討していきましょう。
 古生代末(石炭紀後期からペルム紀にかけて)の寒冷な時期(冷室期と呼ばれています)から、中生代になると、温暖な時期(温室期と呼ばれています)になってきました。白亜紀、中でもチューロニアン期(約1億年前)に、もっとも温暖化していた時期になります。チューロニアン期の海水の温度は、高緯度でも10℃を越え、低緯度では30℃に達していたとも推定されています。もちろん、陸地に氷床はまったくなく、海底も浅くなっていたこともあり、海水準も今より200mほど上がっていたと考えられています。
 温暖化の原因は、大気中の高い二酸化炭素濃度の温室効果であったとされています。二酸化炭素は、少なくとも1000~2000ppmの濃度(現在の数倍)、多い見積では、現在の10倍以上あったとするものもあるようです。このような大気中の二酸化炭素は、活発な火山活動が起こっていたため、放出された火山ガスに由来すると考えられています。
 白亜紀には、大規模な火山が連続的に活動しました。古いものからみていくと、パラナ洪水玄武岩(約1億3500万年前)、オントンジャバ海台(約1億2500万年前)、ケルゲレン海台(約1億1000万年前)、カリブ海台(約9500万年前)、デカントラップ(約6500万年前)などの火山活動が断続的に続き、二酸化炭素を放出していきました。
 最後のデカントラップの活動に対応するOAEはありませんが、それ以外は、だいたい対応するOAEが見つかっています。ただし、OAEがあっても、大規模火山活動がないところもあります。
 白亜紀の大規模火山は、核-マントルの境界から上昇してきたマントル対流(マントルプルームと呼ばれています)にその根っこをもっていたと考えられてます。ホットプルームは、大規模火山だけでなく、海嶺の活動も活発にし、海洋地殻の形成量も多くなっていきます。暖かい海洋底は膨張していますので、海が全般的に浅くなっていきます。その分、海水準が上がります。
 さて、中生代、あるいは白亜紀の気候を考えていくと、極地には氷床はなく、冷たい水による深層水の循環は、そもそも起こっていなかったことになります。ですから、海水の循環が悪い状態が長く続いていたことになります。深層水や中層水は酸欠になっていたはずです。そんな時期に、OAEがパルス的に起こったのは、なぜでしょか。
 少なくとも白亜紀の温暖期に関しては、深層水循環の停止だけでは、説明がつきません。以前、捨て去った仮説である、生物による有機物の生産が盛んで、分解しきれずに、有機物が堆積物に混じったという可能性を見直す必要があります。
 黒色頁岩の分布を詳しく見ると、大西洋沿岸や地中海、北米大陸の内陸地域では、たくさん見つかっていました。そのような浅く狭い海域では無酸素状態が形成されていたようです。狭い海の黒色頁岩は、有機物の生産量が多かったことで説明できそうです。
 OAEの研究は、このような地域を中心にして進められてきました。ですから、他地域、特に太平洋のような最大の海洋の研究があまりありませんでした。最近(2011年5月)、髙嶋礼詩たちのグループが報告をしました。ターゲットは、OAE 2と呼ばれる9400万年前の事件です。カリブ海台が活発に活動していた時期です。
 日本列島の太平洋沿岸や北米大陸の太平洋沿岸の大陸棚にたまった堆積物を調べたところ、黒色頁岩が見つかりませんでした。酸化還元の程度を推定できる黄鉄鉱(黄鉄鉱化度とよばれています)を調べていくと、大部分は無酸素状態ではなく、酸化的(酸素がある)状況でした。ただ、短い時期だけ還元的(無酸素)状態であったことがわかりました。短時間のものを考慮に入れると、OAE 2は全世界的に起こったことになりますが、全般的には太平洋の大陸縁辺海域は無酸素状態はほとんどんなかったことになります。
 氷床の欠如、酸化状態の海底の存在など、OAEのシナリオ(少なくともOAE 2)は、振り出しにもどったことになります。解決するには、もっと詳細な時間分解能と環境分解能を用いて、OAE毎に個別に当たっていくしかないようです。そして、再度、凡世界的な現象なのかどうかを考えていく必要があるようです。

・演奏会・
今週になって大学では、
校内で昼休みに音楽サークルの演奏が行われてます。
大学祭は秋なので、
夏は、サークルの発表会が中心になります。
ヨサコイも出陣式をしていました。
演奏自体は講義の邪魔をしないように
きっちりの時間厳守で行われています。
ただ、講義時間をけずって準備を行っている学生がいます。
クラブやサークルの活動は、
公欠が一度は認められています。
それをつかっていれば問題がないのですが、
クラブやサークルに熱心な学生には、
授業よりそちらが重要に考えている人もいます。
まあ、それも重要な学生生活でしょう。
教員からすると、何のために大学にいるのか、
高い授業料は何のためか、
などの小姑のごとく思ってしまいます。
まあ、それも教員側の思いなのでしょう。

・前進・
学問は、進みます。
研究者の考えも変動します。
同じデータを見ても、解釈が違うと
正反対の結論になることもあるでしょう。
時には、あるテーマを推進するつもりで、
否定することも起こるでしょう。
否定も成果なのです。
後退でなく、螺旋状の前進なのです。