2011年4月14日木曜日

5_91 見えない輝き:最初の星2

 「宇宙の一番星」は、どのようなところで、どのようにして発見されたのでしょうか。以前から観測されてきた領域に、新しい観測装置が投入されたことによって、発見されました。そのあたりの事情を、紹介していきましょう。

 今回見つかった「最初の星」は、「ろ座(Fornax)」の領域です。「ろ座」は、88ある星座の一つで、牡牛座やくじら座の近くにあります。星座の「ろ」というのは、「炉」のことですが、暖炉の「ろ」ではなく、かつて化学の実験で用いていた「炉」のことで、少々変な形をなぞったものです。しかも、この星座は、南半球で観測して決められたものですので、形が逆さまになっています。フランスの著名な化学者ラボアジエにちなんで、この星座の名前がつけられました。
 さて、この場所で「最初の星」が見つかったのには、たまたまではなく、それなりの理由があります。「ろ座」のこの場所は、ハッブル望遠鏡を使って、以前から何度も探査されていた領域です。そのため、ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド(HUDFと略されています)と呼ばれるところです。範囲でいうと3分角×3分角となります。
 もともとあまり星がない領域だったのですが、何度も長く露出をして撮影されてきたところです。それらを画像合成してみたら、暗い天体(主には銀河)が見えてくるようになりました。30等級までの銀河を約1万個発見しました。天体の等級は、数値が小さいほど明るく(明るいものはマイナスをつけて表現します)、大きいほど暗くなります。1等級違うと等級が1等級変わると、明るさは、約2.512倍(100の5乗根)、5等級で100倍の変化となります。
 ちなみに、満月は-12.7等級、太陽は-26.7等級、ハッブル宇宙望遠鏡で観察できた最も暗い天体は、31.5等級です。肉眼で見えるのは、6等級程度です。30等級の星とは、ものすごく暗い星です。30等級の星は、目で見える星より、100億分の1ほど暗いことになります。まあ、通常の天体望遠鏡でも、全く見えない天体です。
 HUDFは、当初、観測装置の特性により、可視光の波長で観測されていました。しかし、新しいカメラ(WFC3)が2009年に搭載され、もっと広い波長範囲での観測ができるようになりました。ただし、観測領域は少し狭まり(2.4分角×2.4分角)ましたが。その結果、28.5等級までの銀河が約5000個発見されました。領域が減り、数も減りましたが、波長範囲が広がったおかげ、大きな成果が上がりました。その成果の一つが、谷口さんたちの131億年前に誕生した「最初の星」の発見なのです。
 この星は、131億年前に誕生したころには、可視光の波長でも明るく輝いていました。でも、現在の観測で。その光は全く見えなくなっています。それは、単に暗いだけでなく、人間には見えない光となっています。ドプラー効果というものが働いているためです。
 その詳細は、次回にしましょう。

・弛緩と緊張・
サバティカル生活が終わり、
1年前の日常生活が一気にもどってきました。
いいことではありますが、
旧弊もそのままもどってきました。
少しは改善しようと抵抗しましたが、
ついつい楽な方に流れてしまいます。
これを怠惰と呼ぶのでしょう。
怠惰は簡単に私を飲み込んでしまいました。
気を張り詰めの緊張状態で生きていくのは大変です。
ある程度の弛緩も必要です。
しかし、怠惰ばかりも虚しいものです。
弛緩と緊張のせめぎ合いです。

・震災より・
今週から授業が始まりだしました。
慌ただしい日々が過ぎ去ります。
そして、今回、大震災の影響で考えることがあり、
ある講義をまったく別の形式に帰ることにしました。
私にとっては、まったく新しい形式なので、
非常に勇気がいることです。
それにもう完成していた授業の内容を
すべてなくしてゼロにすることになります。
うまくいくかどうかわかりませんが、
震災でいろいろ考えたことにひとつを実践します。
私の中でも、まだ震災は続いています。