2011年4月28日木曜日

5_93 第一世代:最初の星4

 最初の星は、どのような星だったのでしょうか。今回の観察でみえたのは銀河ですから、その銀河の中の星を識別することはできません。でも、どんな星であったのかは、ある程度推定できます。第一世代の星を探っていきましょう。

 天体には、第一世代という区分があります。第一世代の天体とは、宇宙が創成されて最初にできるものです。最初の天体は、必然的に、宇宙のはじまりにあった材料のみから形成されることになります。
 では、宇宙の始まりにあった材料とは、どんなものでしょうか。それは、水素(H)とヘリウム(He)だけです。2つの元素のみから天体ができます。これが第一世代の一番の特徴になります。
 世代を問わず天体(恒星)は、水素とヘリウムを主成分としています。太陽も主成分の元素は、水素とヘリウムです。でも太陽は、第一世代の天体ではありません。なぜなら、副成分ではありますが、他の元素を含んでいるからです。
 一番軽い(質量数の小さい)のが原子番号1の水素(質量数は1)で、次が原子番号2のヘリウム(質量数4)です。それ以外の元素は、水素やヘリウムより重く(質量数が大きい)なります。太陽では、主成分元素ではありませんが、そのような重い元素が各種見つかっています。ですから、太陽は第一世代の天体ではないことがわかります。
 水素が大量にあり、条件が整えば、核融合を起こします。その条件とは、水素原子どうしを、無理やり近づけてくっつけることです。水素原子を超高速でぶつければ近づけることができます。原子を超高速でぶつけるには、圧力を上げたり温度を上げたりすればいいのです。このような状態は天体の中で達成されます。天体がある一定以上のサイズを超えれば、天体内部はこの状態になります。そして、核融合が起こります。
 水素の原子核が4つ核融合すれば、1個のヘリウムの原子核になります。水素原子4個分の質量の合計は、ヘリウムの原子1個分より少し大きくなります。その質量の差が、核融合によるエネルギーに変わります。
  E=mc^2(2乗という意味)
ここで、Eがエネルギーで、mが質量、cが光速度です。アインシュタインが発見した有名な式が、質量がエネルギーに変わるときの関係を示しています。質量がエネルギーに変わるとき、光速の2乗という係数がかかるほどの大きさになることを意味します。質量とは、エネルギーの固まったものといえます。これが核融合の威力です。
 天体が輝く原理が、水素からヘリウムへの核融合です。太陽も同じ原理で輝いています。一番星は、第一世代の天体です。第一世代以降は第2世代、第3世代・・・へと続くのですが、じっさいにはその天体が何世代目かは正確にはわかりません。天体の素材に重い元素がどれくらい混じるかは、形成場の環境によって多様になります。ですから、現在の太陽が第一世代でないことは判定できますが、何世代目かは推定できないことになります。
 谷口さんたちは、宇宙の初期(131億年前)にできた銀河を見つけました。宇宙ができて6億年ほどしかたっていませんので、その銀河は第一世代の天体からだけでできていたはずです。その中のどれかが、「宇宙の一番星」だったかもしれません。

・キャッチ・
谷口さんたちのニュースをみたとき、
「宇宙の一番星」というキャッチが目を引きました。
まさに、このコピーにキャッチされました。
それが今回のシリーズを始めるきっかけになりました。
なかなかいいキャッチ・コピーですが、
研究の成果としては、一番星を見つけたわけではありません。
論理的には、その中に一番星があるかもしれません。
でも、その一番星の候補は銀河を構成する天体の数で、
数千億個にもなり、天体を特定しているわけではありません。
さらに、その銀河一個だけ最初にできるものではないはずです。
多数の銀河が同時にできたはずです。
ですから、最初の銀河の一つを発見したと解釈すべきです。
このキャッチ・コピーにこだわると、
せっかくの研究成果が薄まる気がします。
キャッチは上手くいけば効果的ですが、
上手くいないときはマイナスになることもあります。
気をつけなければなりませんね。

・ゴールデンウィーク・
いよいよゴールデンウィークです。
ゴールデンウィークなれば、
北海道も遅ればせばがら、桜の季節になります。
どこかに桜を見に行きたいですが、
でかける予定がたちません。
長男のクラブの試合があるので、宿泊はできません。
出かけるとしても日帰りとなりそうです。
まあ、仕方がありません。
家族を中心に生きてるのでしょうが、
家族のそれぞれに世界があります。
その世界は尊重しなければなりませんから。

2011年4月21日木曜日

5_92 遠ざかる光:最初の星3

 光の速度は、どんなところ、時代でも、不変(一定)です。しかし、光の波長や周波数は条件によって変わります。その変化を調べると、遠ざかる天体のスピードや時代も分かってきます。ただし、あまりにかすかな光で、見えない輝きです。それを感知するには、高度な装置が必要になります。

 最初の星は、見える光(可視光)で輝いていました。ところが、同じ星を地球からみても、見えない星になっています。見えない星の輝きが、見える光から、見えない光に変わったということです。波長が変化したことを意味しています。なぜ、波長の変化が起こったのでしょうか。
 ドプラー効果が起こったためです。ドプラー効果は、よく経験する馴染みある現象です。救急車やパトカーのサイレンの音が、こちらに向かってくるとき高くなり、通りすぎると低くなるという現象を経験したことがあると思います。これがドプラー効果です。音は、波長や周波数をもった波です。運動するものから発せられる波は、運動速度に応じたドプラー効果を受けます。聴く側の運動も関係するので、ドプラー効果とは相対速度に応じて波長が変るという現象といえます。
 電磁波である光も波ですから、同様のドプラー効果を受けます。ある星から出た光は、光のスピードで飛び出します。ご存知ように光のスピードは不変ですが、波長や周波数は、相対速度によって変化します。遠くの星は、昔に出た光です。もちろん遠くの星は暗くなります。
 遠くの星には、後退速度という効果が、私たちの宇宙では働きます。
 「後退速度」とは、光源(この場合最初の星)が、観察者(地球)から遠ざかっていく速度のことです。その速度に比例して光源から発せられる電磁波の波長が変化すること(偏移ともいいます)で、遠ざかる場合、波長は伸びます。可視光では、赤の波長の方に変化します。赤方偏移と呼ばれます。縮むときは青方偏移といいます。
 私たちの宇宙では、赤方偏移が観測されています。地球からみるとすべての天体は、遠ざかっている(後退している)ように見えることになります。赤方偏移は、宇宙が膨張しているためだと説明されています。光源のもともとの波長がわかれば、偏移の程度から後退の速度を計算することができます。遠くの銀河(昔の宇宙の姿)は、この方法で後退速度が決められ、宇宙の膨張の証拠とされました。
 今回の最初の星は、赤外線(正確には近赤外線)の波長領域までずれていました。ハッブル宇宙望遠鏡でも、通常の光学望遠鏡では観察することができず、新しく搭載された赤外線カメラではじめて確認されました。
 実際には遠く(宇宙の初期)の銀河が観測されました。銀河は、多数の星で構成されています。その銀河が宇宙の形成初期のもであるということは、第一世代と呼ばれる天体からできていたことになります。私たちの太陽のような天体は、まだありませんでした。その説明は、次回しましょう。

・震災・
地震の余震が、まだ続いています。
大きな余震も、1ヶ月たっても起こっています。
先日の余震は、北海道でも強くそして長く感じました。
教え子の中に東北出身者がいて、
親族に余震の被害にあった学生もいました。
また、巨大な揺れで、他地域の地震や
火山の活動も誘発されているようです。
なんといっても原発がまだ危険な状態のままです。
放射物質の放出が続いています。
震災はまだ続いています。
気を緩めずに状況を見守っていかなければなりません。

・春・
先週末は雪なりましたが、
少々遅れているようですが、
春は着実に来ています。
田畑の残雪も消えつつあります。
陽だまりでは、フキノトウやつくしも芽生え始めました。
北国にも遅い春が来ました。
大学も新入生を迎えました。
授業もはじまり、もう2週目になりました。
でも、今年の春には
なぜかウキウキ感は少ない気がします。
それは震災のせいでしょうかね。

2011年4月14日木曜日

5_91 見えない輝き:最初の星2

 「宇宙の一番星」は、どのようなところで、どのようにして発見されたのでしょうか。以前から観測されてきた領域に、新しい観測装置が投入されたことによって、発見されました。そのあたりの事情を、紹介していきましょう。

 今回見つかった「最初の星」は、「ろ座(Fornax)」の領域です。「ろ座」は、88ある星座の一つで、牡牛座やくじら座の近くにあります。星座の「ろ」というのは、「炉」のことですが、暖炉の「ろ」ではなく、かつて化学の実験で用いていた「炉」のことで、少々変な形をなぞったものです。しかも、この星座は、南半球で観測して決められたものですので、形が逆さまになっています。フランスの著名な化学者ラボアジエにちなんで、この星座の名前がつけられました。
 さて、この場所で「最初の星」が見つかったのには、たまたまではなく、それなりの理由があります。「ろ座」のこの場所は、ハッブル望遠鏡を使って、以前から何度も探査されていた領域です。そのため、ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド(HUDFと略されています)と呼ばれるところです。範囲でいうと3分角×3分角となります。
 もともとあまり星がない領域だったのですが、何度も長く露出をして撮影されてきたところです。それらを画像合成してみたら、暗い天体(主には銀河)が見えてくるようになりました。30等級までの銀河を約1万個発見しました。天体の等級は、数値が小さいほど明るく(明るいものはマイナスをつけて表現します)、大きいほど暗くなります。1等級違うと等級が1等級変わると、明るさは、約2.512倍(100の5乗根)、5等級で100倍の変化となります。
 ちなみに、満月は-12.7等級、太陽は-26.7等級、ハッブル宇宙望遠鏡で観察できた最も暗い天体は、31.5等級です。肉眼で見えるのは、6等級程度です。30等級の星とは、ものすごく暗い星です。30等級の星は、目で見える星より、100億分の1ほど暗いことになります。まあ、通常の天体望遠鏡でも、全く見えない天体です。
 HUDFは、当初、観測装置の特性により、可視光の波長で観測されていました。しかし、新しいカメラ(WFC3)が2009年に搭載され、もっと広い波長範囲での観測ができるようになりました。ただし、観測領域は少し狭まり(2.4分角×2.4分角)ましたが。その結果、28.5等級までの銀河が約5000個発見されました。領域が減り、数も減りましたが、波長範囲が広がったおかげ、大きな成果が上がりました。その成果の一つが、谷口さんたちの131億年前に誕生した「最初の星」の発見なのです。
 この星は、131億年前に誕生したころには、可視光の波長でも明るく輝いていました。でも、現在の観測で。その光は全く見えなくなっています。それは、単に暗いだけでなく、人間には見えない光となっています。ドプラー効果というものが働いているためです。
 その詳細は、次回にしましょう。

・弛緩と緊張・
サバティカル生活が終わり、
1年前の日常生活が一気にもどってきました。
いいことではありますが、
旧弊もそのままもどってきました。
少しは改善しようと抵抗しましたが、
ついつい楽な方に流れてしまいます。
これを怠惰と呼ぶのでしょう。
怠惰は簡単に私を飲み込んでしまいました。
気を張り詰めの緊張状態で生きていくのは大変です。
ある程度の弛緩も必要です。
しかし、怠惰ばかりも虚しいものです。
弛緩と緊張のせめぎ合いです。

・震災より・
今週から授業が始まりだしました。
慌ただしい日々が過ぎ去ります。
そして、今回、大震災の影響で考えることがあり、
ある講義をまったく別の形式に帰ることにしました。
私にとっては、まったく新しい形式なので、
非常に勇気がいることです。
それにもう完成していた授業の内容を
すべてなくしてゼロにすることになります。
うまくいくかどうかわかりませんが、
震災でいろいろ考えたことにひとつを実践します。
私の中でも、まだ震災は続いています。

2011年4月7日木曜日

5_90 6億年後:最初の星1

 一番星とは、夕暮れに最初に輝き出す星のことです。私たちが見る一番星は、空にもともとあり、まわりが暗くなることで見えはじめる星のことです。最初に見えただけで、最初にできたものではありません。しかし、「宇宙の一番星」は、最初にできて輝いた星に与えられるものです。

 昨年(2010年)秋の天文学会で、宇宙が開闢(かいびゃく)して最初にできた星が見つかったという報告が、愛媛大学宇宙進化研究センターの谷口義明さんたちのグループがしました。「宇宙の一番星」とは、宇宙で最初に輝きだした星のことを意味します。私たちが日常に使う「一番星」は、まわりの空が暗くなったことで、もともとあった星が見え出したというものです。「宇宙の一番星」とは、宇宙ができて最初に輝きだした本当の意味での「一番星」になります。
 ところが、残念ながら、その星が実際に見えたわけではありません。「一番星」を含んでいる「銀河」がみえたということです。
 「なんだ、一番星が見つかったわけではないのか」と嘆くことはありません。そこには確実に一番星があります。まずは、その背景を説明していおきましょう。
 今回見つかったのは、131億光年離れた銀河です。非常に遠くなのですが、それくらい遠くのものは、銀河クラスの明るさを持つものではければ見ることができません。ですから、今回の発見も、銀河という天体によってなれされました。
 宇宙の観測において、「遠さ」は「年齢」と直結します。遠くの天体の地球からの距離は、「光年」という単位で表現します。「光年」とは「光が1年かかって進む距離」のことです。光は1秒間で29万9792km進みます。その光が1年間かかって進むのですから、想像を絶するほどの遠くです。
 「1光年」の距離にある星の光は、「1年前」にその星を出たものです。「1年前」の天体姿を見ていることになります。131億光年離れた銀河とは、131億年前の銀河を見ていることになります。
 宇宙は137億年前に誕生したと考えられています。今回見つかった銀河は、宇宙が誕生してから6億年後のものであるということです。6億年は、地球や人類の感覚すると長く感じますが、宇宙においては、非常に初期にできた天体となります。遠くのものは暗くなるので、探すのは非常に難しくなります。暗さだけででなく、波長も変化していきます。
 その詳細や意味については、次回にしましょう。

・帰朝・
3月31日に北海道にもどり、
4月1日には大学に顔を出しました。
関係各所に挨拶をしていたら、
荷物がなんと午前中に着きました。
日程通りに荷物が動いたようです。
自宅の荷物も予定通りに届きました。
地震の影響で遅れるかと思っていたのですが、
周辺の復旧は進んでいるようです。
おかげで、予想より早く研究室の普及が終わりました。
ただし、大学のメールサーバの更新がありました。
ネットの接続や転送の設定をし直さなければならず
少々手間取りました。
また、バックアップもしなければなりません。
今週後半は、新入生の合宿オリエンテーションがあり、
来週からは講義がはじまります。
慌ただしく、日々が過ぎていきます。

・ドライな空・
北海道はやはり寒いです。
先週末には積雪がありました。
今週になっては、快晴の日々が続いています。
抜けるような青空は、北国ならではのものです。
特に抜けるような青空の中を
朝日が登るのは最高です。
愛媛のウエットな空もよかったのですが、
北国のドライな空もいいものです。
久しぶりに北の青空を味わっています。