2011年1月27日木曜日

4_98 地質課題:西予1月

 月末は西予の話です。継続中のシリーズに、割り込むようなことになりますが、お許しください。今回は、西予市の地質に関する課題をまとめました。いろいろ課題があります。しかし、科学の進歩とは、こんな課題を設定して、解決していくという繰り返しかもしれません。

 以前にも紹介しましたが、講演会にそなえて西予市の地質図を作成していました。現在は、地質図は一段落して、論文を読むことに集中しています。西予市の地質を来年度にまとめて発表をする予定です。それが、私の西予市滞在に対するお礼だと思っています。
 こちらではなかなか手に入らない論文もあるのですが、主だったものは入手しました。西予市は、私の地質学の研究対象ではなく、科学教育の対象として地質情報を利用し整理していました。そのために、主だった岩石や露頭は見ています。研究対象にしていたわけではなかったので、重要な論文は見ていたのですが、あまり系統的、網羅的に読んでいませんでした。
 今回、地質に関するまとめをする必要に迫られて、大量に一気に、そして系統的に論文を読んでいます。すると、西予市は、地質において、進行中の論争が現在もあります。いくつもの課題があり、まだ決着をみていないものもあることがわかってきました。講演会向けの地質図は、その段階で仕上げましたが、どの説をとるかで今後、分帯が変わるかもしれません。
 多数の論文を「ほぼ」読みました。現在も、まだまだ必要な論文があり検索中ですが、入手できれば、また読みふけることになります。最初はメモを取りながら読んでいたのですが、はかどらないで、まずは、読んで頭に入れることを主眼にしました。
 現在、重要論文を読んでいます。大部のもの、書籍などがいくつかあり、精読が必要なので時間がかかります。今月中はこれらの論文に集中しようと思っています。
 まずは一度きちんとまとめて、課題と現状を整理して論文としてまとめる予定です少々専門的になりますが、西予の地質に関して、以下に、課題を箇条書きにしておきましょう。

【黒瀬川帯について】
・付加体(秩父帯)の中に、なぜ大陸要素が入っているのか
・黒瀬川帯の由来(マイクロコンチネント説、ナップ説、横ずれ断層説):日本の構造発達史に関連
・内帯との類似岩類との関係は
・西予市中部でなぜ黒瀬川帯が途切れるのか
・西予市三瓶の真穴帯と八幡浜市大島の変成岩と黒瀬川帯の関係
・九州延長との関連

【秩父帯について】
・西予市中・西部から大洲市にかけて分布する秩父帯の南部と北部の境界
・北部秩父帯の構造(背斜・向斜の繰り返し、北傾斜の構造、逆転の意味)
・魚成スラスト(黒瀬川帯と秩父南帯の境界)の西延長、あるいは北西延長はどこを通るのか
・北部への三波川変成作用の影響
・北部秩父帯と三波川帯の関連
・秩父帯内の玄武岩ブロックの化学組成の違い(起源)の意義

【御荷鉾帯について】
・御荷鉾帯の所属について
・御荷鉾帯の起源
・三瓶から大洲までの分布の連続性について
・ピクライト、角閃岩の意味

などなど。少々専門的になりましたが、挙げればキリがないほど、課題満載です。このうちいくつかは、ある程度説がかたまっているものもありますが、まったく手付かずの課題もあります。
 科学というのは、終わりのない作業です。新しい知見が得られれば、次なる疑問が生まれます。西予市の地質でも同じことが起こっているのでしょう。
 私は、西予を地質調査しているわけではないので、これらの課題に答えを出す立場ではありません。上で述べたような課題の整理と、その現状での到達点を整理して、それを活かした地質図とその解説書を作成することです。それが私の残された時間内での重要「課題」となります。

・町に馴染む・
寒くなってから全く出歩かなくなりました。
大量の論文を読まなければならないということもありましたが、
寒さにすくんでいたというところでしょうか。
買い物も可能なかぎり減らし、
近場で何もかも済ませて
活動の場を最低限にしています。
町の人も似たような生活をしているようです。
半冬眠状態です。
春が待ち遠しいのですが、
春がくると、四国での生活も終わります。
まだ行きたいところがたくさんあるのに。
残された時間が限られています。
本当なら冬眠などすることなく
活発に動けばいいのですが、
町の人と同じような生活をしています。
町に馴染んだのでしょうかね。

・冬と春・
1月の大雪の影響はまだ残っているでしょうか。
北海道は、雪の影響で交通渋滞がかなり続いていたようですが、
もう解消されたのでしょうか。
私いる西予市は、1、2日は、大雪で混乱しましたが、
それ以降は回復しました。
寒い日は続いていますが、先日、天気のいい日に、
市内の石を見に行ったとき、田んぼの脇のひだまりに
菜の花が咲いていました。
まだ1月なのに、もう菜の花と思いました。
近くにあった梅の枝では、
まだ蕾は固く、もう少し時間がかかりそうでした。
さてさて春は近いのでしょうか、遠いのでしょうか。

2011年1月20日木曜日

2_88 ヒ素の利用:GFAJ-1 その3

 GFAJ-1は、普通の生物では毒となるヒ素を、生きるために利用しています。では、どのようにして、確かめられたのでしょうか。そして、ヒ素を利用する生物とは、生物の進化においてどのような意味があるのでしょうか。

 GFAJ-1というバクテリアは、ヒ素を体内に貯めることは知られていました。でも、ヒ素が本当に成長に必要なのかが、不明でした。ヒ素の必要性を調べた結果が、先月報告されました。
 ウルフ-サイモンたちは、湖から採取したGFAJ-1を、研究室で培養しました。培養とは、微生物の研究によく使われる方法で、微生物を育てる条件をいろいろ変えて、どの条件のとき成長(増殖)したかを調べます。増殖の度合いによって、その環境を好むかどうかを判定していきます。
 培養実験でGFAJ-1は、リンだけの環境でも、ヒ素だけの環境でも、成長できませんでした。しかし、リンが極端に少なくても、生きていけ、増殖できました。また、ヒ素がほとんどない環境に比べて、ヒ素がある方が、細胞が1.5倍も大きくなっていました。リンが多い環境と比べると、ヒ素の多いほうが、6日間で20倍も増えました。
 以上の培養実験の結果、GFAJ-1は、リンの代わりにヒ素の多い環境の方を好み、ヒ素を不可欠なものとしていることが明らかになりました。
 研究では、放射線標識されたヒ素(放射性同位体のヒ素を加えたもの)で培養実験されています。これは、放射線を出すヒ素で育たGFAJ-1の細胞の内部を、放射線を感知できる装置で調べることによって、どこにヒ素が分布しているかをたどることができます。
 それによると、ヒ素は、タンパク質、脂質、ATPのような代謝物質、さらにはDNAやRNAからも検出されました。通常の生物であれば、リンが利用されているはずの所に、GFAJ-1ではヒ素が使われていたことがわかりました。ただし、培養実験から、ヒ素は、完全なリンの代替ではなく、程度はわかりませんが、成長には必要不可欠な役割を担っていることがわかります。
 なぜ、今回のGFAJ-1の発見が重要かというと、地球生物の進化、あるいは生物の系統に対する考え方が変わる可能性があるからです。
 モノ湖は、極限的な環境で、生物には住みづらいところなのですが、ヒ素を光合成に利用する生物も住んでいます。似たような生物は、モノ湖以外でも、現在、20種以上も見つかっています。今回のGFAJ-1は、ヒ素を光合成に使う直系の祖先になるかもしれません。
 光合成生物は、普通、水と二酸化炭素から炭水化物を合成し、水の分解によって生じた酸素を大気中に放出しています。このような光合成をする生物は、約25億年前に登場しています。
 それ以前の地球は、酸素のない環境でした。なぜなら大気や海水中の酸素は光合成生物が産み出したものだからです。それ以前の生物は、水の代わりに、硫化水素や鉄の一種、あるいはヒ素を利用して光合成をしていたと考えられます。そこでは、多様な光合成の仕組みが採用されていたはずです。ただし、生存競争に勝ったのは、現在の光合成の仕組みをもつ系統の生物だったのでしょう。
 ヒ素を光合成に利用する生物は、光合成の起源をたどるために重要な役割もっています。そしてGFAJ-1は、ヒ素を光合成に利用する生物の直系の祖先に位置づけられます。
 生物は、地球以外の極限的ともわれるような環境でも、発生できる可能性があることを、GFAJ-1は示してます。この結果を拡張していくと、もしかすると地球生物は、宇宙生物のほんの一部にすぎないかもしれません。つまり、地球環境を前提や先入観にした生命探しは、大きな間違いを生むかのせいがあるかもしれません。
 今回のような先進的な研究には、いろいろ反論もあります。その問題点に答えることが、新たな進歩を生むかもしれません。次回は反論を紹介しましょう。

・西予の地質・
現在、西予市の地質をまとめるために、
毎日、たくさんの論文を読んでいます。
手に入らない論文もあるのですが、
可能な限り手配しています。
西予市は、地質において、
いろいろ論争をあることは漠然と知っていました。
今回論文を多数読んでみて、
いくつもの論争が、現在も進行中であり、
まだ決着をみていないこと、分かってきました。
これは、一度きちんとまとめて
課題と現状を整理しておく必要があると思っています。

・水道凍結・
週末から今週にかけて、冬型が強くなり、
全国で、大雪と低温に見舞われています。
城川も低温と大雪になりました。
各家でも、水道管の凍結が起こっています。
我が家も温水の配管が凍り、湯がでなくなっています。
無理をせず、自然解凍を待つしかありません。
その間、水道管の破裂がなければいいのですが。
水だけは凍らさないように
ちょろちょろと流して対策しています。
幸いなことに、沢水を利用しているので、
水道代がいりません。
ですから、寒い日は水道を流すようにしています。

2011年1月13日木曜日

2_87 極限生物:GFAJ-1 その2

 NASAの発表は地球外生物ではなく、アメリカの湖から発見されたバクテリアでした。しかし、そのバクテリアは、生物学者を驚かすものでした。それは、どのような生物だったのでしょうか。

 前回、NASAが、12月初めに、地球外生命の証拠探しに衝撃を与えるような発見の記者会見を開くというところまで紹介しました。その会見の内容は、残念ながら、地球外生命の発見ではありませんでした。
 アメリカの科学雑誌「サイエンス電子版」の12月2日(米国時間)に掲載された論文のタイトルは、

A Bacterium That Can Grow by Using Arsenic Instead of Phosphorus
(リンの代わりにヒ素を使って成長できるバクテリア)

というものでした。
 発見されたバクテリアは、れっきとした地球上の生物でした。発見場所は、アメリカ、カリフォルニア州のモノ(Mono)湖です。モノ湖は、塩分の濃度が非常に高く、アルカリ性で、通常の生物では、非常に生きづらい環境です。さらに、湖水のヒ素の濃度も高く、生物にとっては極限的な環境となります。ヒ素は通常の生物には猛毒となります。
 ところが、そんな環境でも、生きている生物がいました。このような過酷な環境で生きる生物を極限生物と呼ぶことがあります。
 そのバクテリアは、プロテオバクテリア門ガンマプロテオバクテリア綱オセアノスピリルム目ハロモナス科に分類される真正細菌で、GFAJ-1と呼ばれています。
 このGFAJ-1自体は、2009年にフェリッサ・ウルフ-サイモン(Felisa Wolfe-Simon)博士がすでに発見していました。今回、彼女とその共同研究者が、この生物を培養して、その特徴を明らかにしました。
 その特徴は、論文のタイトルどおり、リン(P)の代わりにヒ素(As)を使って成長できる生物であったということです。
 生物における主要6元素と呼ばれているのは、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、酸素(O)、イオウ(S)、そしてリンです。他の元素も使われていますが、その量は少なくなります。
 これらの元素が、別の元素に置き換わることがあるのは知られていますが、その量は微々たるものでしかありません。6つの元素のどれかを、たくさん入れ替えて生きている生物は、今まで知られていませんでした。
 6元素の中でリンは、DAN(生物の中で遺伝情報を記録しているもの)やタンパク質(生物の体を構成するもの)、ATP(エネルギー代謝を行うもの)などを形成するために、不可欠な成分となっています。ですから、リンがなかったら、生物は成長することも、生きていくこともできないと思われていました。
 ところが、GFAJ-1は、リンの代わりにヒ素を使って生きていき、成長できることがわかったのです。これは、今まで知られている地球上の生物では、想像もできない仕組みでした。地球以外の環境(例えばリンが少ない天体)や、地球生物とは違ったメカニズム(6元素以外の代替元素で)で生命活動をする生物がいる可能性を示しています。それが「宇宙生物学的」に貢献し、「地球外生命の証拠探しに衝撃を与える」ことを意味しているということだったのです。
 そもそもヒ素は、なぜ生物に有害なのでしょうか。それは、周期律表をみるとわかるのですが、ヒ素は、リンの下に位置しているために、化学的にはリンと似た性質をもっています。ですから、リンとヒ素は、簡単に置き換わってしまいます。生物は、リン酸イオンとして使っていますが、その化学的な振る舞いは、ヒ酸イオンと似ています。
 ところが、ヒ素は、多くの生物にとっては毒として作用します。かつてヒ素は、殺鼠剤や暗殺に利用されましたし、森永ヒ素ミルク中毒事件、和歌山毒物カレー事件などはで何人も死人がでています。もちろん微生物のようなものにとっても、毒になります。
 さて、GFAJ-1が、ヒ素を利用しているというのは、どのようにして調べてきたのでしょうか。その内容は、次回としましょう。

・寒波・
正月からしばらくは全国的に寒波が襲い、
寒い思いをされている方も多いと思います。
私も、北海道と愛媛とで
それぞれ違った寒さを味わっています。
先週の6日に愛媛に戻ってきました。
長く空けていた家は冷え冷えとしていて、
ストーブをつけてもなかなか温まりません。
北海道の家は、ストーブをつけっぱなしでので
暖かく快適でした。
まあ、その分エネルギーもたくさん使っていることになります。
今年の冬は、四国で小さなストーブで暖をとりながら、
過ごすことになります。
でも、これも四国での研究生活の一部です。
愛媛の山奥の寒さも、せいぜい楽しみましょう。

・深酒・
先日、友人宅で久しぶりに酒を飲みました。
宴会は長時間に及んだのですが
どうも調子にのって飲み過ぎたようで、
朝8時前に起きたら気分が悪く、
久しぶりに二日酔いになりました。
9時半くらいまでもうひと眠りしたら
やっと酒が抜けました。
でも、飲み過ぎた翌日は、
仕事がなかなか思うようには進みませんね。
やはり、飲み過ぎには注意ですね。

2011年1月6日木曜日

2_86 宇宙生物学:GFAJ-1 その1

(2011.01.06)
 明けましておめでとうございます。新年最初のエッセイは、宇宙生物学上の大発見の話題にしましょう。昨年、12月はじめに、宇宙生物学上の大発見があったというニュースが事前に流れました。そこから話をはじめましょう。

 NASAは、アメリカ東部時間の2010年12月2日午後2時(日本時間3日午前4時)に重要な発表をすると、11月29日にアナウンスしました。このニュースを、科学者たちも固唾を呑んで見守っていました。私もそのニュースを聞いて、いろいろ空想しながら、情報源をあたっていました。
 するとNASAのメディア用のリリースから、次のようなものを見つけました。

 NASA Sets News Conference on Astrobiology Discovery; Science Journal Has Embargoed Details Until 2 p.m. EST On Dec. 2
(NASAは、宇宙生物学上の発見について会見を、Science誌の解禁時にあたる東部標準時12月2日午後2時におこなう)

 研究の成果は、論文に掲載されてはじめて信頼できるものとなります。ですから、どんな重要な発表でも、論文を作成して、学会や科学の雑誌に掲載する努力がなされます。そして、掲載が決まれば、雑誌の解禁時に、その内容はプレス発表として公開されます。
 このニュースのもとになった研究は、すでにアメリカの権威ある科学誌「サイエンス」に投稿され、他の研究者の査読(科学的に信頼性があるかどうかを評価される)受け、12月3日付の号に掲載が決まったものです。「サイエンス」の発行日にあわせて、NASAから重要な発表があるというアナウンスがあというものです。
 メディア用のリリースでは、次のような説明がありました。

 NASA will hold a news conference at 2 p.m. EST on Thursday, Dec. 2, to discuss an astrobiology finding that will impact the search for evidence of extraterrestrial life. Astrobiology is the study of the origin, evolution, distribution and future of life in the universe.
(NASAは東部時間12月2日午後時に地球外生命の証拠探しに衝撃を与えるような宇宙生物学的発見に関する記者会見を開きます。宇宙生物学とは、宇宙の生命の起源、進化、分布、未来に関する研究をするものです。)

 宇宙生物学の大発見といっています。宇宙生物学上の一番の発見は、地球外生物の証拠を発見したというものでしょう。
 NASAの宇宙生物学プログラムディレクター、バクテリアの研究者、火星の生命探査計画している研究者、応用分子生物の研究者、生化学反応の研究者が、記者会見に出席するようです。どうも現在進行中の探査の中心メンバーはいないようです。ですから、惑星探査によって見つけたものではなさそうです。でも、期待は高まります。
 以前にも火星起源の隕石から発見された化石らしかものを見つけたときも、同じような手続きを踏んでいます。そのときは、学界や研究者に大きな衝撃を与えました。今回も、研究者も驚くような発見があったかもしれません。このニュースの発表を、日本の放送局も、地球外生物の発見に備えて準備をして待っていたと聞きました。
 さてさて、その内容は、次回としましょう。

・邁進・
いよいよ新しい年がはじまりました。
毎年思いますが、1年の経過早いですね。
もう、新年か、という感じです。
時間の流れはすべての人に平等に与えられています。
同じ時間を、あるときは長く感じたり
またあるときは短く感じたりします。
そん時間な感覚に頼るのではなく、
時間をどう過ごしたかが重要なはずです。
悔いのない時を過ごすこと。
それに邁進し、実行することでしか
時間の流れには対処できないのかもしれません。

・悔いなく・
西予市城川に来て9ヶ月が過ぎ去りました。
まさにあっという間の出来事のようです。
城川で残された時間は、あと3ヶ月です。
今の私にできることは、
過ぎ去った9ヶ月を懐かしんだり
悔いたりすることではなく、
残された3ヶ月を悔いなく過ごすことでしょう。
そのためいは、目標を見失うことなく、
3ヶ月間、努力をし続けていくことでしょう。
がんばります。