2010年7月15日木曜日

1_90 深海底の記録:IRD 1

 IRDとは"Ice Rafted Debris"の略です。「流氷岩屑」とでも訳のでしょうか。IRDについて紹介するシリーズです。少々専門的かも知れませんが、思わぬ現象がわかってきて、それが現在の私たちに関係があることが分かってきました。


 陸から遠く離れた海底の堆積物を採取して、調べることが、1960年代後半から国際的に行われました。深海掘削計画(DSDP:Deep Sea Drilling Program)と呼ばれ、国際的な研究プログラムで、日本も参加していました。
 名称に「掘削(Drilling)」とあるように、深海底の堆積物から岩盤まで円筒状(真ん中に穴があいた)のドリルを用いて、円柱状に岩石を掘りぬいていきます。その円柱(コア、coreといいます)を回収すれば、海底の岩石試料が連続的に手に入ることになります。そのような掘削が海域のあちこちでなされました。そして、技術も進歩していきました。
 私たちが日ごろ目にしている地層の多くは、陸から由来したり、火山起源の砕屑物からできているものがほとんどです。しかし、陸地から遠く離れた深海底は、あまり堆積物が来るところではありません。深海は、生物の遺骸や海流や風に運ばれた微小な粘土のような粒子などが、ゆっくりと沈んでくるだけです。しかも、深海には海流や波もなく穏やかな状態が長く続きます。非常にゆっくりとしか堆積していきません。ですから、長いスパンでみるときには、重要な過去を記録しているタイムレコーダーの役割を果たします。
 地質学者は、自分の足であることで調査をしてきました。しかし、海は調査ができず、まして深海底は深く、科学がなかなか到達できないところでもありました。宇宙開発より遅れていました。地球の表面の3分の2が海ですから、月に到達したのに、自分たちの住む地球の海の底が未知の領域だったのです。現在も深海は神秘に満ちた場所で、深海の調査は継続されています。
 掘削の技術さえあれば、位置さえ変えれば、いたるところで、試料が手に入ります。ただし、3000mを越えるような深海ですので、掘削は技術的には大変です。専用の掘削船も必要です。掘削自体に費用もかかります。深く掘るためには新しい技術開発も、人手も必要になります。ですから、国際プロジェクトになっています。
 掘削は大変ですが、得られる情報は重要です。DSDPは、1968年から1983年まで実施され、1985年から2002年までは国際深海掘削計画(IPOD: International Phase of Ocean Drilling)になり、2003年からは統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)になって、現在も継続されています。世界最高の掘削能力を持つ「ちきゅう」は、IODPの目的のために建造された船です。
 DSDP以来、深海底の掘削は50年以上に渡っておこなわれ、科学に多大な成果をもたらしました。そして掘削された試料は現在も保管され、研究者の必要に応じて提供されています。50年以上に渡る研究によって、海洋底の荒く網羅的な調査は終わり、概略はつかめました。現在は、目的を絞った研究に推移しています。
 深海底は、まだまだ未知の領域があります。その領域は場所のことではなく、微細な詳細についてです。それまで見過ごされてきた、非常の小さな石の屑のようなものが、大きな意味をもつことが分かってきました。そんな発見と展開の話をシリーズで紹介します。

・本がきっかけ・
今回のシリーズのきっかけは、
大河内直彦さんの書かれた
「チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る」
という本を読んだからです。
そこで紹介されていた
"Heinrich event"が元になっています。
本を読んでいただければわかりますが、
過去をみる分解能の精密さ、
そして現状の限界も書かれていて
気軽に読めますが、なかなか読み応えもあり、
いい本だと思います。
本の中で、H. Heinrichという若い研究者が
書いた論文の話題が取り上げれています。
それを私になり紹介していきたいと思っています。

・梅雨・
皆さんのところは大雨の影響はどうでしょうか。
私のいる愛媛県の山奥は、
先日も激しい雨が降りましたが、
いまのところ被害はないようです。
今年の梅雨は長くなかなか明けませんが、
北海道からきた私に梅雨は体に答えます。
熟睡できないせいか、
朝起きても疲れがなかなか抜けません。
そのせいか集中力がでず、
仕事がなかなかはかどりません。
私だけが長梅雨にあっているわけではなく、
皆同じ状況です。
まあ、愚痴を言わずに
気力でなんとかしなければならないところでしょうかね。