2010年6月3日木曜日

6_81 何処を目指すのか:人工生命2

 DNAの塩基配列であるゲノムをすべて解読するには、労力も資金力も必要です。しかし、研究や医療などで重要な役割を果たしている生物のゲノムがすべて解読されれば、大きな役に立ちます。そんな目的だけであればいいのですが・・・


 前回紹介した人工的な細胞合成について報告された論文の著者24名全員が、すべて同じ研究所の研究者です。彼らは、J・クレイグ・ヴェンター研究所(J. Craig Venter Institute)というとろこに所属しています。ただし、カリフォルニア州サンディエゴとメリーランド州ロックビルの同名の研究所、2箇所に分かれています。その研究所のリーダーが、ジョン・クレイグ・ヴェンター(John Craig Venter)です。論文の著者名の最後には、ヴェンターの名前もあります。
 ジョン・クレイグ・ヴェンターの名前をご存知でしょうか。ヒトゲノムの解読競争として一時ニュースで騒がれたことがあります。ヴェンターはアメリカの分子生物学者で、かつては国立衛生研究所(NIH)にいたことがあるのですが、遺伝子配列を特許出願して、上司(DNAの分子構造発見者のジェームズ・ワトソン)や他の研究者から批判を受けて、研究所をやめることになりました。そして、各種生物のゲノム研究とその利用を目的に、ゲノム科学研究所を設立しました。現在では、いくつかあった研究所は、J・クレイグ・ヴェンター研究所に統合され、ヴェンターが会長となっています。
 1990年にアメリカが予算を計上して、15年かけて、世界各国の研究施設が協力してヒトのゲノムをすべて解読する計画(HGP)がスタートしました。ところが、ヴェンターは、それに対抗して、セレラ・ジェノミクス社で商業的に利用するためにヒトのゲノムを解読して、特許登録して有料のデータベースをつくろうとしました。そして彼らがヒトゲノムを猛烈なスピードで読み出したと情報が流れました。
 幸いながらヒトゲノムはバミューダ原則(1996年2月)という合意によって、ヒトゲノムの解読結果は公開されることになりました。まあその競争があったおかげで、ヒトゲノム解読が一気に加速したという効果がありました。
 2000年6月26日にゲノムのドラフト版が完成し、2003年4月14日には完成版が公開されました。その情報は、ヒトの全遺伝子の99%の配列が99.99%の正確さで含まれるとされています。現在もその精度を上げる努力が続けられています。
 その後、ゲノムの解読の技術は進み、高速かつ廉価に行えるようになりつつあります。2007年には、ほぼ同時にヴェンターとジェームズ・ワトソン自身の完全ゲノム配列が読めたという報告がでました(ここにも過去の因縁を感じます)。そのような解読技術の進歩を背景に、2008年に始まった国際協力研究では、「1000人ゲノムプロジェクト」というのがあります。3年以内に、異なる民族から1000人分の匿名ゲノムの配列を読むという計画です。このプロジェクトが完成すれば、民族間の違いやゲノムの多様性を理解することができると期待されています。
 ヴェンターが今目指しているのは、、最終的には人に役立つ(商目的に叶うもの)人工生命の合するということです。難病治療や食物増産などという、善意に基づいたものや節度があるものであればいいです。しかし、営利に走りすぎれば、金さえ積めば倫理を外れた行為も可能になるのではという不安もあります。また、すべての研究が公開のもとで行われればいいのですが、あるグループ内で非公開でおこなわれるようなものだと、歯止めが利かなくなるのではという不安があります。そんなことを考えさせられた論文でした。

・蛍・
蛍の季節です。
天候不順のため、
1週間ほどの遅れているようですが、
地もとの蛍のニュースを新聞で見ました。
地元の人に聞くと
どこどこの沢で見たというのも聞きました。
ちょっと蛍をみにうろついてみようかと思っています。

・調査中・
現在、調査中であります。
データ通信カードがあるので、
調査中でもインターネットにつなぐことができるのですが、
できるだけ調査に集中したいのと
山奥にはいることもあるので、
留まったところがDOCOMOがつながらないこともあるかもしれません。
メールマガジンを出さなければという気持ちが働いていると
落ち着かないので、事前に予約してあります。
ですから、このメールマガジンも、
一週間前に配信しています。
エッセイの内容は、前回続きなので、
一気に2話分書いたので、連続性は問題ないと思います。
では調査に集中します。