2010年1月7日木曜日

3_80 太陽風:黒点3

 明けましておめでとうございます。昨年から続いている、黒点シリーズの3回目です。今回の極小期を調べていくうちに、いろいろ面白いことがわかってきました。そこには歴史の浅い研究もあり、今回の現象が重要な記録になっていきそうなこともわかりました。ただし、この記録が、地球に大きな影響を与えなければいいのですが。



 無黒点という現象は、太陽の極小期には、よく起こる現象です。前回の極小期である1996年の無黒点日は、165日ありました。ところが、2008年と2009年の極小期には、2年に渡って260日以上の無黒点日が続いています。このように無黒点日が長く続くというのは、珍しく異常ことになります。
 前回と今回の極小期の違いを比べると、どういう違いがあるでしょうか。
 名古屋大学太陽地球環境研究所の徳丸宗利さんの報告によれば、太陽風(たいようふう)に違いがあるということがわかってきたということです。
 太陽風とは、太陽から吹き出している原子のことです。ただし、原子は高温のため、電子が剥ぎ取られた粒子となっています。このような原子をプラズマと呼びます。プラズマの量は、膨大で毎秒100万トンと計算されています。太陽風は、地球の磁場に影響を与え、ひどいときには磁気嵐を起こします。オーロラの原因の一つともなっています。
 太陽風は、高速で飛び出し、地球の軌道付近では約300~900km/s、平均約450km/sになります。太陽風が太陽のどこから来るかによって、その速度に系統的な違いがあることが、観測からわかってきました。
 太陽風の速度分布を見ていくと、太陽の赤道付近からのものが低速で、両極からのものは高速になります。その分布が、太陽の周期性に対応していることが分かってきました。
 黒点の極大期には、赤道付近の低速域が極付近まで広がります。つまり、太陽全体から低速の太陽風が吹き出していることになります。一方、極小期には、低速域は赤道付近だけに限定され、太陽の大部分が高速の太陽風を出すことになります。
 このような太陽風の速度の分布と、太陽の黒点の周期性が一致していることがわかりました。太陽風の観測がなされたのは1692年からで、名古屋大学でも1970年代からのことです。太陽の周期性は、太陽風に関しては、3回ほどしか観測されていません。その3回の周期性から太陽風を比べてみると、このような関係が解明されてきたのです。
 ところが、今回の極小期が、今までのものとは違うことがわかってきました。過去3回の黒点の周期性は、太陽風の速度分布と一致していたのですが、今回の極小期には、その一致が見られないのです。今回は、両極の高速域だけでなく、赤道も高速域になっているのです。そして、低速域が赤道の両側の中緯度付近に出現しています。太陽の磁場も前回、前々回に比べて半分ほどしかないことが分かっています。
 これまで安定していた太陽活動の周期性が、今回の極小期には、今までにない不安定な状態になっていることを示しています。これらの現象が、何を意味しているのかは、まだ充分分かっていないようです。
 このようなひどい極小期が、実は以前にもあったことが分かっています。それは次回としましょう。

・興味の赴くまま・
明けまして、おめでとうございます。
本年も「地球のささやき」をよろしくお願いします。
本エッセイは、正月をはずれて発行することになったので、
特別な内容を書くことなく、
淡々と進めることにしました。
今回は、昨年から続いている、
シリーズのエッセイの続きです。
このシリーズが何回つづくかわかりませんが、
興味の赴くまま、継続していきたいと思います。

・少ない蓄積・
太陽の観測は、古くから行われているように思いますが、
実は、それほど古くからはないことがわかります。
そもそも、科学の発祥自体が、それほど古くないので、
観測記録は、それほどたくさんないのです。
肉眼や単純な観測ですむデータですら、
数百年の蓄積しかありません。
高度な精度や測定技術が必要なものは、
数十年ほどの蓄積しかありません。
時間経過に伴う変化の詳細はよく分からないのは
仕方がないことなのかもしれません。
そのような少ない蓄積のもとに
私たちの知識のあるものは成り立っていることを
忘れてはいけません。
このエッセイを書きながらそんなことを考えました。