2010年1月28日木曜日

6_74 化石燃料:エネルギー問題1

 化石燃料は、厳密な意味では化石ではありません。しかし、昔の生物と関連があり、地層の中から見つかり、時間をかけなければできないものです。その「化石」が、燃料として利用されています。今回から、化石燃料を中心として、エネルギー問題について考えていきます。

 数回にわたって、エネルギー問題について考えていきます。
 ここで取り上げるエネルギーとは、現代の人類が使用しているエネルギーのうち、化石燃料と呼ばれているものです。化石燃料とは、ご存知のように、石炭、石油、天然ガスなどを指します。ちょっと調べたのですが、化石燃料(英語ではFossil Fuelとなります)を、だれが最初に使ってのかは、よくわかりませんでした。
 そもそも「化石」とは、昔の生物の遺骸の一部が、地層の中から見つかったときに使われる言葉です。それが、燃料やエネルギーの生物と関係ないものと一緒に使われるのは、少々奇異な感じがします。
 「化石」の定義は、古い時代(地質時代と呼ばれている)の生物の体の一部や生活の痕跡が、地層中から見つかったものです。生活の痕跡とは、足跡やはい痕、巣穴、食べあと、排泄物などの生活痕と呼ばれているものも、化石とみなされます。生活痕も化石扱いされるのは、昔の生物の情報を得るのに、生活痕も同程度の重要性があると分かってきたからです。
 化石の主役は何といっても、生物自体の体です。情報量も多くなります。ただし、体には、地層の中で残りにくいものと残りやすいものがあります。残りにくいものは、有機物や脂質などの軟らかいゲル状の部分で、分解されやすい物質からできているところです。残りやすいものは、骨や貝殻、歯、種子、花粉などの硬い部分で、分解されにくく壊れにくいものからできているところです。
 骨や歯などのように生物が生きていたときの物質が残されることもあるのですが、地層の中で長い時間が経過するに伴って、もとの物質が別のものに変化すことがよくあります。貝殻や骨が解けてしまい、別の鉱物に置き換わってしまうこともよくあります。珪化木は、木の成分が珪酸に置き換えられたものです。葉っぱや茎の成分が分解されて、炭化物や炭素の部分だけが残り、もとの形の痕がくっきりと残されていることもよくあります。
 石炭はともかく、石油、天然ガスを「化石」と称するのは、定義の上では間違っています。化石燃料は、定義の上では「化石」ではありません。しかし、いずれも生物に由来するという点では、化石と似ているといえます。また、化石燃料は、地層の中や境界からでてくるので、化石と似た産状を持ちます。化石のように過去に蓄えられ、長い時間をかけてつくられてきたため、今、つくることができないことから、名づけられたのでしょう。
 次回から、化石燃料、エネルギーについて考えていきます。

・地球環境問題・
いままで、地球環境問題に直接関与するようなテーマを
このエッセイではあまり扱ってきませんでした。
扱うとしても、言葉の端々に自分の考えを織り込むだけでした。
それは意図的でもありました。
このエッセイは、地質学やその周辺に関する話題を
市民に分かりやすく伝えることが目的でした。
そこには、地質学の先端的なニュースから
基礎的な内容までありました。
その姿勢は今でも変わりませんが、
でも地球環境問題だけは、例外でした。
地球環境問題は、多くの研究者が、
それぞれの専門の立場での多数の主張をしています。
その主張はもう充分にあるようにみえたからです。
あとは、個人個人が考えて結論や方針を
出すだけの問題もいくつもあります。
今回のエネルギー問題もそのような問題だと思います。
ただ、私は、地質学の立場から見ていきます。
私が説明するまでもなく、
答えも広く出回っているものです。
私の大学の講義でも扱っています。
このエッセイでも、多くの人がいっているのと
同じような結論になるはずです。
でも、一度は考えておくべき問題でもありますので、
今回取り上げることにしました。

・後期の講義・
いよいよ私が担当する後期の講義は終わりました。
あとは、定期試験とレポートの採点、成績評価です。
じつは、これが毎年大変な作業量で
悩まされているものです。
時間が少ない中で、
一気に行わなければならないからです。
愚痴をいっても仕方がありません。
物量があるので、必要な時間をとり、
その時間内で必要な努力をするしかありません。
淡々と、でも気を抜くことなく行うしかありません。

2010年1月21日木曜日

3_82 因果関係:黒点5

 黒点シリーズは、無黒点日がここ数年つづいているということに端を発しています。無黒点について調べていくこと、太陽の活動の変動だけでなく、地球の気候変動にも繋がる可能性があることもがわかってきました。そこには、地球の将来の気候予測をするための注意点が、見えてきました。


 太陽の黒点数は、太陽活動のひとつの指標のはずです。太陽活動は、地球の気候に重要な作用を及ぼしているはずです。なぜなら、太陽は地表を温めているのは確かだからです。
 ところが、不思議なことに、現在の気候シミュレーションからは、太陽エネルギーのわずかな変化が、地球に気候変動を起こさないとされてきました。もし、今までの気候シミュレーションに今まで加味されていなかった作用があったとしたら、新たにシミュレーションをしなおさなければなりません。
 最近注目さている説があります。それも、少々複雑なのですが、太陽の活動と地球の気候変動とには、関連があるという考えです。
 地球には、太陽から来るプラズマ(電子がとれた原子核)の流れ(太陽風と呼びます)が降り注いでいます。太陽風は太陽の活動によって変動します。そのほかにも、地球には銀河の他の天体からきた強いプラズマの流れ(銀河風と呼びます)が降り注いでいます。銀河風は変動はあまりなく、常に一定量が四方から降り注いでいます。
 太陽風は、銀河風を弾き飛ばします。すべて弾き飛ばせるわけではなく、銀河風が地球の大気圏に入ってくることがあります。大気圏に入った銀河風は、雲の形成を促すということがわかってきました。これが新しくわかってきた作用です。
 雲は、平均すると地球の50%ほどの面積を覆っています。人工衛星による過去20年間の観測によると、その変動幅は±1.5%程度しかないそうです。雲が1%増えると、気温が1度下がることもわかっています。
 以上のことから、もし太陽の活動が弱まれば、太陽風も弱まり、銀河風が地球に降り注ぎやすくなります。その結果、雲が多く形成されることになります。このメカニズムが働くのなら、長期におよぶ黒点の極小期は、地球の気候変動に影響を与えることになります。
 特異な極小期が、前回述べたように、周期性もしくは繰り返し起こるということがあれば、今後その時期に入ることもありえます。兆候はあるのです。
 さらに加えると、太陽風や銀河風の直撃は、地球の磁場によっても防がれています。その地球磁場が、過去400年間で16%も弱まっていることが分かってきました。磁場が弱まると、銀河風も地球に入りやすくなります。
 以上のようなことは、地球の寒冷化の要因となります。そうすると、現在問題になっている人為による温暖化の効果は、それとは相反する作用が起こっていることなります。もし地球の寒冷化が進行すると、温暖化は寒冷化が緩和するかもしれません。あるいは、寒冷化が強ければ、地球は大きな気候変動期になるかもしれません。
 今まずなすべきことは、太陽の活動周期と気候の周期性の因果関係を、早急に解き明かしていくことでしょう。その結果、寒冷化することが予測されるのならば、対処をしなければなりません。
 寒冷化への対処は、今までの地球温暖化とはまった相反するものとなるでしょう。寒冷化は、今後、食糧難などが人類の生存を脅かす危機がおこるかもしれません。過去の寒冷化は、大飢饉や民族移動、民族紛争、王朝交代など、人類史に残る大きな変化を起こしてきました。少なくとも寒冷化がきたら大変なことになるという心積もりは必要でしょう。
 長い無黒点は、人類にそのような警告を発しているのかもしれません。もしそうなら予兆を見逃がしては、大きな禍根を残すかもしれません。科学的解明が急務でしょう。

・シミュレーション・
今回の黒点シリーズを終わります。
年をまたいだ連載となりました。
地球の気象、気候のメカニズムは複雑です。
気象現象を記述する方程式には
複雑系の振る舞いをするものが含まれています。
ですから、天気予報は
長期になるほど当たりにくくなったり、
エルニーニョなのど異常気象を起こしやすい時期にも
あたりにくくなります。
どんなに高性能のコンピュータでシミュレーションをしても、
その式や初期条件を決めるのは人間です。
式の正当性を確かめるために、
過去の気象に対して計算して、
シミュレーション結果の成否を判定します。
過去の解読を、未来に適用するのです。
すべての条件、因果関係がわかっていればいいのですが、
人智はまだそこまで至っていません。
多くの可能性に配慮することがじゅうようです。
それは多くの科学者の考えを考慮に入れ、
心積もりをしておくことになるのでしょう。

2010年1月14日木曜日

3_81 寒冷化?:黒点4

 太陽の特異な黒点の極小期は、100年前にもありました。そして、それ以前には、極小期が長く続く時期もありました。さて、このような特異な極小期、長く続く極小期が、地球にどのような影響を与えるのでしょうか。過去の歴史を見ていきましょう。


 2007年から2009年の太陽黒点の極小期は、過去数回の極小期と比べても特異といえるほど、黒点が少ないことがわかります。このような極小期が、一番近いところでは、1913年に起こったことがわかります。その年には、無黒点日が311日ありました。
 太陽活動と地球の気候と、どのような関係があるのかを、1913年ころの日本の気象状況から見ていきましょう。
 20世紀初頭は、冷害の多い時期でした。1901年から1913年までは、涼しい夏が続き、1971~2000年の平年値と比べて、2度近くも低温の状態でした。特に被害が大きかったのは、1902(明治35)年、1905(明治38)年、1913(大正2)年です。この3つの年は、明治以降の三大冷害と呼ばれることがあります。
 1902年と1913年は、太陽の極小期にあたります。ところが、極小期でもない1905年も冷害でしたので、これらの異常気象は、太陽の11年の黒点周期とは、一致していません。
 もっと長いスケールで見ると、11年周期を越えた長い期間にわたって極小期が続くことがありました。1645年から1715年に太陽黒点数が著しく減少した時期のあることが、最初に発見されました。その時期をマウンダー極小期と呼んでいます。これは、発見者であるイギリスの天文学者エドワード・マウンダー(Edward Walter Maunder)にちなんでつけられた名称です。
 マウンダー極小期には、地球全体が低温状態となりました。この時期、各地で冬はもちろん寒く、夏も冷夏となる年が続きました。低温期が続いたので小氷期とも呼ばれています。寒冷化の原因を、マウンダー極小期と結び付けている研究者もいますが、議論がされていますがまだ決着をみていません。
 今では、太陽黒点の変動は、1000年代まで遡られ、長期にわたる極小期が何度もあることがわかってきました。1010~1050年のオーアト極小期、1280~1340年のウォルフ極小期、1420~1530年のシュペーラー極小期、1645~1715年のマウンダー極小期、1790~1820年のダルトン極小期などが見つかっています。
 ある推定によると、過去8000年間に、このような特異な極小期が18あったとされています。その周期性は明らかではなっていません。
 太陽の黒点の数は、太陽活動のひとつの指標となります。太陽活動は、地球の気候に重要な作用を及ぼしているはずです。その因果関係は、まだ明らかになっていません。ですから、今回の特異な極小期がどのような意味を持つかは、不明です。

・寒冷化問題・
異常気象の情報は、気象庁から公開されています。
今回参考にしたのは、
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/20th/2_1_1.htm
です。
日本の気象において、冷害は記録され、問題にされてきました。
ところが、温暖化による被害はあまり聞きません。
まあ、日射病や光化学スモッグ、水不足などの二次災害は、
問題になりますが、
日本全体や人類の生存にかかわるような
事態はあまりないようです。
ですから、人類が対処すべき問題は、
まずは寒冷化でしょう。
その次が、温暖化問題でしょう。
今、温暖化が問題とされているなか、
寒冷化を警告しても、あまり取り合われないようでしょうが。
そんな勇気ある研究者もいるのですが、
あまり話題にされていないような気がします。
残念な気がします。

・暖冬?・
今年の冬は、私の住む札幌周辺では、
雪が少ないようです。
もちろん暖かい冬が温暖化という図式を
私は信じませんが。
もちろん現在は根雪がある状態ですが、
その量は少ないです。
雪かきも、何度かしていますが、
小学生3年生の次男とやっても、
30分もかからず終わってしまいます。
時には、次男だけで終わりになります。
まあ、これからもまだまだ雪の季節です。
ドカ雪も降ることでしょう。

2010年1月7日木曜日

3_80 太陽風:黒点3

 明けましておめでとうございます。昨年から続いている、黒点シリーズの3回目です。今回の極小期を調べていくうちに、いろいろ面白いことがわかってきました。そこには歴史の浅い研究もあり、今回の現象が重要な記録になっていきそうなこともわかりました。ただし、この記録が、地球に大きな影響を与えなければいいのですが。



 無黒点という現象は、太陽の極小期には、よく起こる現象です。前回の極小期である1996年の無黒点日は、165日ありました。ところが、2008年と2009年の極小期には、2年に渡って260日以上の無黒点日が続いています。このように無黒点日が長く続くというのは、珍しく異常ことになります。
 前回と今回の極小期の違いを比べると、どういう違いがあるでしょうか。
 名古屋大学太陽地球環境研究所の徳丸宗利さんの報告によれば、太陽風(たいようふう)に違いがあるということがわかってきたということです。
 太陽風とは、太陽から吹き出している原子のことです。ただし、原子は高温のため、電子が剥ぎ取られた粒子となっています。このような原子をプラズマと呼びます。プラズマの量は、膨大で毎秒100万トンと計算されています。太陽風は、地球の磁場に影響を与え、ひどいときには磁気嵐を起こします。オーロラの原因の一つともなっています。
 太陽風は、高速で飛び出し、地球の軌道付近では約300~900km/s、平均約450km/sになります。太陽風が太陽のどこから来るかによって、その速度に系統的な違いがあることが、観測からわかってきました。
 太陽風の速度分布を見ていくと、太陽の赤道付近からのものが低速で、両極からのものは高速になります。その分布が、太陽の周期性に対応していることが分かってきました。
 黒点の極大期には、赤道付近の低速域が極付近まで広がります。つまり、太陽全体から低速の太陽風が吹き出していることになります。一方、極小期には、低速域は赤道付近だけに限定され、太陽の大部分が高速の太陽風を出すことになります。
 このような太陽風の速度の分布と、太陽の黒点の周期性が一致していることがわかりました。太陽風の観測がなされたのは1692年からで、名古屋大学でも1970年代からのことです。太陽の周期性は、太陽風に関しては、3回ほどしか観測されていません。その3回の周期性から太陽風を比べてみると、このような関係が解明されてきたのです。
 ところが、今回の極小期が、今までのものとは違うことがわかってきました。過去3回の黒点の周期性は、太陽風の速度分布と一致していたのですが、今回の極小期には、その一致が見られないのです。今回は、両極の高速域だけでなく、赤道も高速域になっているのです。そして、低速域が赤道の両側の中緯度付近に出現しています。太陽の磁場も前回、前々回に比べて半分ほどしかないことが分かっています。
 これまで安定していた太陽活動の周期性が、今回の極小期には、今までにない不安定な状態になっていることを示しています。これらの現象が、何を意味しているのかは、まだ充分分かっていないようです。
 このようなひどい極小期が、実は以前にもあったことが分かっています。それは次回としましょう。

・興味の赴くまま・
明けまして、おめでとうございます。
本年も「地球のささやき」をよろしくお願いします。
本エッセイは、正月をはずれて発行することになったので、
特別な内容を書くことなく、
淡々と進めることにしました。
今回は、昨年から続いている、
シリーズのエッセイの続きです。
このシリーズが何回つづくかわかりませんが、
興味の赴くまま、継続していきたいと思います。

・少ない蓄積・
太陽の観測は、古くから行われているように思いますが、
実は、それほど古くからはないことがわかります。
そもそも、科学の発祥自体が、それほど古くないので、
観測記録は、それほどたくさんないのです。
肉眼や単純な観測ですむデータですら、
数百年の蓄積しかありません。
高度な精度や測定技術が必要なものは、
数十年ほどの蓄積しかありません。
時間経過に伴う変化の詳細はよく分からないのは
仕方がないことなのかもしれません。
そのような少ない蓄積のもとに
私たちの知識のあるものは成り立っていることを
忘れてはいけません。
このエッセイを書きながらそんなことを考えました。