2009年8月27日木曜日

5_82 コールド・プルーム:テクトニクス6

 地表部はプレートの運動が支配しています。プレート・テクトニクスが、地表の大地の営みを解明しました。しかし、プレートの運動は、もっと深い部分にその原動力があります。それは、マントル対流と呼ばれていますが、単純なものではなく、地球の仕組みを反映した複雑なメカニズムが支配しているのが見えてきました。

 マントルは、カンラン岩と呼ばれる岩石からできています。ただし、一様な岩石ではなく、大きく2つの種類に分かれることになります。その境界は、遷移層と呼ばれる深度400kmから670kmあたりにあります。その層を境界(遷移層下部の670kmを境界にしています)にして、上を上部マントル、下を下部マントルと呼びます。
 地震波による地球内部の探査によると、上下マントルで密度の違う岩石があることが分かっています。つまり、上下マントルで、別の岩石になっていることになります。地球内部にいくにつれて、高温高圧の条件になっているために、同じ鉱物でも、深部ではより高密度の結晶になっていきます。その境界は、物理条件によって、必然的に生じるものになります。ですから、同じ化学組成のカンラン岩だとしても、鉱物の組み合わせの違っている全く別の岩石というべきものになっています。
 もともとマントルはカンラン岩からできていると考えられているのですが、マントルの上下で、物質の性質としては、かなり違ったものとなっています。マントルが対流しているとすれば、その境界部で、対流がどう振舞うかが問題となります。
 それがどんな問題かというと、境界部に関係なく対流が行き来するか、それともその境界を物質が越えることなく、上下で別々の対流になっているのかです。行き来する方はマントル対流が一つなので1層対流、行き来しないのは上下で対流ができるので2層対流となります。
 さらに、1層対流なら、物質は上下マントルを行き来しているので、マントルのカンラン岩は、常に混ぜられていることになります。結晶は条件で変化しますが、化学組成は上下でそれほど変わらないはずです。一方、2層対流なら、熱だけが上下を移動して、物質は移動しないことになります。上部マントルは、地上の大陸、海洋、大気と物質をやり取りしているので、長い時間がたてば、上部マントルはもともとのマントル物質とは変わってくることになります。つまり、2層対流なら、遷移層は物質境界となり、1層対流なら単なる相転移の境界となります。
 1層対流か2層対流かは、地震波トモグラフィと呼ばれる、地震波による地球断層撮影という手法によって解決されました。地震波トモグラフィとは、地震波によって地球内部を覗くのですが、コンピュータによって、大量の地震波データを用いて、地球内部を3次元的に示す方法です。地震波は、密度によって進むスピードが変化します。密度は、温度によって変化しますから、物質がわかれば、温度が推定できます。つまり、地震波トモグラフィを、地球内部の温度分布を見ることにも使えます。
 地震波トモグラフィによる地球内部の温度分布によって、マントル対流が見えるようになりました。特に、冷たい海洋プレートが沈み込んでいる状態がよく見えました。太平洋の海洋プレートが日本海溝に沈みこみます。その海洋プレートは、遷移層の底にあたる670kmにまで沈み込みます。そこでいったん停止します。
 なぜ、停止するのでしょうか。沈み込む海洋プレートのうち、海洋地殻を主要部を構成する玄武岩は、上部マントル条件では密度は大きく、海洋プレート全体を引っ張るほどの原動力になるのですが、670kmの結晶の相転移で、不思議なことに、下部マントルの輝石(実際にはペロフスカイトと呼ばれる鉱物)より、密度の小さな結晶に相転移(ポストスピネル転移と呼ばれています)します。そのため、海洋プレートのうち玄武岩の成分だけが、「浮き」の役割を果たします。玄武岩の「浮き」のために、海洋プレート全体が、遷移層の底に滞留することになります。
 このような滞留する冷たいプレートが地震波トモグラフィで見えてきました。このような冷たい海洋プレートのたまったものは、メガリスと呼ばれます。一定以上の厚さを持ったメガリス、つまり長時間沈み込みが続き大量に滞留した海洋プレートは、なだれのように下部マントルに落ち込んでいるところも見えてきました。このような冷たいマントルの下向きの流れをコールド・プルームと呼びます。
 このコールド・プルームは、マントル全体におよぶ下向きの対流とみなせます。そうであれば、マントルは、上下の隔てなく物質ごと、1層の対流として振舞っていることになります。この地震波トモグラフィは、対流を可視化させることになり、説得力のあるものとなっています。ただし、まだ異論もあり完全な決着はみていませんが。

・始原マントル・
始原マントルという言葉があります。
始原マントルとは、隕石と似たような
化学組成をもっているマントルで、
地球の初期に存在したと考えられているものです。
しかし、実際に始原マントルに由来すると考えられる
化学組成の岩石が、各地で見つかっています。
2層対流で物質が入れ替わることがなければ、
始原マントルが下部マントルに
存在すると考えられていました。
それが、マントル対流が、地震波トモグラフィによって
マントル全体におよぶ1層対流として考えられてきたため
そのようなものを想定しづらくなってきました。
しかし、始原マントル由来の成分が見つかるということは、
マントルは、長年対流しているにもかかわらず、
まだ完全に混ざっていないことを示しています。
いったんできた不均質という履歴は
なかなか消えないのかもしれません。

・夏休みの終わり・
8月もいよいよ終わりに近づいてきました。
8月の下旬ともなる秋めいてきました。
今年の北海道は、爽快な夏がなく、
雲の多い、蒸し暑い夏でした。
快適なはずの北海道の夏を味わうことなく
秋がもうすぐそこに来ています。
小・中・高校の学生は、夏休みの終わりを惜しみながら、
あわただしい日々を過ごしていることでしょう。
ただ、北海道は、もうとっくに2学期が始まっていますが。
私の夏休みは、今週から本格的になりました。
前期の校務は終わりました。
ただ、学生は、今週から後期の単位となる、
集中講義を受けています。
私は、9月から出歩くことになるので、
そのための準備に、今週は忙しくしてます。
まあ、いつものように忙しいのです。
私だけでなく、多くの社会人が、
同じように忙しい思いをしているのでしょうが。