2009年5月7日木曜日

3_74 ダイヤモンドより硬いもの(2008.05.07)

 ダイヤモンドは、もっとも硬い鉱物として有名です。しかし、近年ダイヤモンドより硬い結晶があることが分かってきました。今年の2月に、ダイヤモンドより硬い結晶を発見したというニュースが流れました。ただし、実際の結晶をつくって調べたのではなく、シミュレーションしたものでした。

 2009年の2月のアメリカ物理学会が発行する学術雑誌(Physical Review Letters)に、ある論文が発表され、各種のメディアがニュースとして取り上げました。それは、「ダイヤモンドより硬い(Harder than Diamond)」というタイトルの論文でした。
 今回報告された結晶は2種類あって、それらの物理的性質を検討したら、いずれもダイヤモンドより硬いことになりそうだという報告でした。
 実は、ダイヤモンドより硬い硬度をもつものには、以前からいくつかのものが挙げられています。たとえば、立方晶窒化炭素やフラーレン(C60)と呼ばれる結晶です。フラーレンは、炭素鉱物のシュンガ石(shungite)の中から見つかっているため、天然の鉱物といえます。しかし、いずれの候補も、結晶が小さいため硬度の実測できていませんでした。
 今回の報告でも実測はされていませんが、2つの鉱物でシミュレーションによって、硬いことが判明したという報告でした。2つの結晶は、六方晶ダイヤとウルツ鉱(wurtzite)と呼ばれている鉱物です。シミュレーションの結果、六方晶ダイヤは、ダイヤモンドの硬度より1.58倍以上、ウルツ鉱はダイヤモンドの硬度より1.18倍以上ありそうだということです。
 六方晶ダイヤは、鉱物としてはロンズデーライト(lonsdaleite)と呼ばれ、ダイヤモンドと同じように、炭素からできています。結晶系が、六方晶系で、等軸晶系のダイヤモンドとは違っています。ロンズデーライトは、隕石が衝突したときのような高温高圧の条件でできます。隕石中にあった炭素が高温高圧によって、結晶構造が六方晶系になってできたものだと考えられています。
 最初に見つかったのは、アメリカのアリゾナで隕石が衝突してできたバリンジャー・クレータからでした。バリンジャー・クレーターをつくった隕石は、キャニオン・ディアブロという鉄隕石ですが、その中に少量含まれていた炭素からできたようです。ちなみにタイヤモンドも一緒に発見されているようです。ゴアルパラ隕石、南極隕石のAH77283、またツングースカの隕石衝突地からも見つかっています。ただし、結晶は顕微鏡サイズの非常に小さいものです。
 一方、ウルツ鉱(wurtzite)は、窒化炭素(BN)という化合物で、ウルツ鉱型の窒化炭素ということでw-BNと表記されています。天然のウルツ鉱には、いろいろなタイプの化合物があります。主にはABという2つの元素がくっついた化合物をつくっています。Aにはカドニウム(Cd)と亜鉛(Zn)(他にもHg、Feなど)が入り、Bにはイオウ(S)やセレン(Se)が入ります。ウルツ鉱はタイヤモンドと似た結晶構造を持っているので硬いものとなります。
 私が調べたところ、天然のものでウルツ鉱型のBNという化学式を持つものは見つけることができませんでした。この結晶は、自然に産するものかどうかは、分かりませんでした。
 このような鉱物は、天然では非常に稀で、あっても小さいものなので、硬度を調べられるほどのサイズの結晶は見つかっていません。天然で大きな結晶は見つからないならば、合成によって大きな結晶をつくって確かめるしかありません。それができれば、今回の報告が正しいかどうか判定できます。そのとき初めてダイヤモンドより硬い鉱物の発見となります。
 重要なのは、単に発見したというだけでなく、そこに技術革新が起こる可能性があるため、多くの科学者や技術者がしのぎを削っています。w-BNは、ダイヤモンドより高温の条件で、強く安定していると考えられています。ダイヤモンドは炭素なので燃えてしまいますが、w-BNなら酸化にも強い結晶だと考えられます。もしこのような結晶合成の技術が完成すれば、今までダイヤモンドでは不可能であった温度領域でも高硬度素材が加工も可能になります。
 目標がはっきりしていれば、やがて技術は達成されるでしょう。今までの技術進歩が、それを証明しています。ですから、今では、だれがその栄誉を手に入れるかの時間との勝負となっています。

・鉱物と結晶・
鉱物とは自然にできたものではないとなりません。
自然は、地球に限定されたものではありません。
隕石や月の岩石にも見つかっても鉱物になります。
もし天然で発見されなければ、
それは人工物にすぎず、鉱物名は与えられません。
そのため発見者は、新鉱物として、国際鉱物学連合(IMA)の
新鉱物命名分類委員会(CNMNC)に申請して
承認手続きをとります。
そこの承認されたもののみが、
鉱物と名乗ることができます。
一般に鉱物の和名では、
非金属光沢を持つ鉱物には「石」をつけ、
金属光沢を持つ鉱物には「鉱」をつけることになっています。
ただし例外は多々ありますが。

・権威づけ・
今回の報告は、Physical Review Lettersという
アメリカ物理学会が発行する学術雑誌に掲載されました。
この雑誌は、物理学の専門誌としては
最も権威があるものとされています。
物理学者は、この雑誌に掲載されることが重要な目標になります。
科学全般では、科学専門であるNatureやScienceに
掲載されることが今でもステータスとなっています。
地球科学ではどうでしょうか。
私が大学院生のころは、
Journal of PetrologyやJournal of Geophysical Research、
Earth and Planetary Science Lettersなどが
権威があるされていましたが、
今では、雑誌の数も増え、分野も多岐になり、
甲乙つけがたい状態になってきました。
こんな問題を解消するために、
雑誌の評価をImpact Factorなどで測られるようになりました。
もともとImpact Factorは、雑誌の影響度を測る指標でしだが、
研究者や研究施設の評価に転用されることが多くなってきました。
研究に対する正当な評価は必要でしょうが、
評価を目標に研究をするのは、
研究の本来の姿ではないように思われます。
評価に押しつぶされそうな
研究者がいるとしたら問題です。
おおらかに研究できるといいのですが。