2009年4月30日木曜日

4_87 円月島:南紀4

 南紀シリーズも4回めとなります。振り返ると白浜が中心になってしまいまた。白浜周辺は第三紀の堆積岩からできているのですが、堆積岩の構造や性質がいろいろ見られる所が多く、地質学的にも興味深いところです。今回の旅で白浜の地質の見所すべてを巡ったわけではありません。見残して心残りのところもいくつかあるのですが、南紀シリーズも今回が最後となります。今回は南紀の旅の最後として、侵食作用による造形を紹介しましょう。

 白浜の温泉街を北に向かって通り抜けて、番所の崎の方に向かって海岸沿いを走ると、円月島と呼ばれている島が見えてきます。この島は、もともと「高嶋」と呼ばれているのですが、1887年ごろにこの地を訪れた漢詩人の津田香巌が、円月島と命名し、現在に至っているそうです。島は、1974(昭和49)年に、町指定の名勝となっています。
 円月島は、南北に長く(130m)、東西に薄く(35m)、高さ(26m)もかなりあります。ふたこぶラクダの背のような形をしています。
 現在島として残っているのは、海になっている部分よりは、風雨や波の浸食には強かったのでしょう。しかし、島として残ったところも、中央が侵食に弱かったためのでしょう、ラクダの背のように浸食されてしまいました。
 この島は、白浜周辺をつくる地層と同じものからできてます。新第三紀中新世(1500~1600万年前)の田辺層群白浜累層の堆積岩です。しかし、礫岩を主としているために、もろく、波による浸食を受けやすくなっています。
 ラクダの背の真ん中の一番くぼんだところが、さらに波の浸食を受け、丸い穴(高さ9m、幅8m)があいています。海蝕洞(かいしょくどう)と呼ばれる浸食地形になっています。
 この島の穴の開いたラクダの背のような形状は、自然の妙なのでしょうが、海に浮かぶと不思議で奇異な形に見えます。丸みを持った、たおやかさに見入ってしまう魅力があります。前に紹介した白良浜や千畳敷とともに、白浜の観光名所となっています。
 岩石が弱いため、現在も浸食が進行しています。2008年10月1日に南側の岩が、高さ13m、最大幅9m、厚さ1.4mにわたって崩落しました。2005年にも、北側でも幅8m、高さ9mにわたって崩落しています。いずれも、浸食に弱い岩石であるために、起こった崩落です。浸食が、この円月島をつくり、そして浸食が円月島をこれからも変えていきます。やがては、丸い穴はなくなり、島が2つに分かれてしまうかもしれません。これが自然の摂理です。
 しかし、人は、現状のまま変わらぬ景観があることを願います。1939年に穴の上部に亀裂が発見され、それが拡大していることが判明したのですが、自然のままにしておこうと、現状維持のままにされました。しかし、2005年と2008年の2回にわたって崩壊がおこっため、「やがて海蝕洞はなくなり、夫婦岩のようになってしまう」という心配の声が起こりました。町では、今後、観光資源としての重要性を考え、崩落防止の対策を考えていくことになったそうです。
 技術をもってすれば、人間の時間スケールで考えれば、現状の景観を維持できるかもしれません。しかし、地質学的な時間、地球時間で考えると、自然の摂理として、浸食は進むでしょう。ここには、自然の営為と人為、観光資源と自然保護、いろいろ複雑な問題が絡み合っています。あまり不自然な景観にだけはならないことを願っています。

・行きたいところ・
このようなエッセイを書くとき、いろいろ調べます。
もちろん調査に行く前にもそれなりに調べます。
すると、行ってきたところ以外にも
堆積作用の珍しい形態がいろいろあったことに気づきます。
もちろん、知っていたのですが、時間の都合や交通事情で
いけなかったところもいくつもあります。
それをエッセイを書きながら悔やむことになります。
本来なら、もっとじっくりと時間をかけて巡れればと思います。
だから、別の機会にまだ行こうと思うことになります。
これは、出かけるたびに、感じることです。
そうなると、行ったところへまた行きたくなります。
日本中行きたいところだけになります。
でも、出かけたいところがないよりはいいと思います。
今度時間があったら、あの近くにいったら、見たいところを
いくつも持っていることは、幸せなのことなのか知れません。

・南紀シリーズ・
今回で南紀のシリーズが、終わりとします。
他にも見たところがいくつかありますが、
それは、月刊メールマガジン「大地を眺める
のほうで、いくつか紹介します。
興味のある人は、そちらを参照してください。

・ゴールデンウィーク・
皆さんは、今週末か始まるゴールデンウィークはどうされますか。
普通の人は、5連休となります。
私は、土曜日に振り替え授業があるので、
4連休になりますが、あまり遠出はしないつもりです。
天気を見ながら、日帰りで近隣の人出の少なそうなところへ
行こうかと考えています。