2009年3月5日木曜日

1_77 異変の履歴:メッシニアン塩分危機2(2009.03.05)

 地中海の海水が干上がるというメッシニアン塩分危機が、中新世末期に起こりました。その時、今の穏やかな地中海から想像もできないほどの激変が起こりました。多くの海洋の生物は絶滅したはずです。沿岸地域の環境にも大きな影響を与えたはずです。その影響の全貌はまだ解明されていませんが、概要はわかってきました。異変の履歴を紹介していきましょう。

 前回、新生代中新世末期に、地中海の海水が干上がるというメッシニアン塩分危機があったことを紹介しました。メッシニアン塩分危機の実態は、地上の地質調査だけでなく、20世紀後半から、海洋底を掘削する調査(Deep Sea Drilling Program:DSDPと呼ばれる)が地中海の各地でおこなわれることによって、より詳細な解明がなされてきました。14箇所の海底で掘削が行われました。この掘削という調査方法は、一度に一つの地点でしか調査できない大掛かりなものですが、地下に向かって連続的な地質試料を回収することができます。それを実験室で精密に調べることができ、地上では得られない重要な情報をもたらします。掘削と並行して、音波や地震波を利用して海底の断面を調べていくことによって、広域の3次元的な海底堆積物の様子がわかってきました。
 それらの結果によると、地中海には、海水の蒸発によって形成された蒸発岩として苦灰岩や石膏が、広域にわたって堆積していることがわかってきました。もちろん前回紹介したように、地中海沿岸の陸地にも、海水の蒸発の痕跡は残されていました。
 メッシニアン塩分危機という事件の時間変化を、順を追ってみていきましょう。まだ議論の余地が多々あるようですが、概略は多くの研究者が同意しているものです。その様子を、Crippsが2005年にまとめたもの(http://ougseurope.org/newsletter/articles/messinian.asp)から、紹介していきましょう。
 まず、724万年前(あるいは6.88万年前)には、事件の予兆のような現象が記録されていました。シシリア島の地層に、泥灰岩と腐泥炭の互層があることから、大西洋との海水の交換が徐々に変化して、沿岸域の環境変化が起こってきたことが伺えます。
 596万年前から、塩分危機が始まります。この時期から地中海の海水の流入が、減るか完全に途絶えていきました。その結果、地中海全域で蒸発岩が形成されていきます。海底の地震波探査でみつかったM reflectorと呼ばれた反射面が、このとき形成されました。これは、海水準が100~200mほど低下したことを示しています。
 そして、559万から533万年前の間、地中海は大西洋から完全に切り離され、外海から海水が入ってこなくなりました。地中海の海水準は、現在の海底まで近くまで下がり、そこには塩湖が形成されていたと考えられます。この時期になると、地中海は、地層の堆積場というよりも、陸地として侵食の場となりました。もともとの海岸線は、巨大な渓谷になっていたことになります。それは、グランドキャニオンに匹敵する規模だと推定されています。
 533万年前には、再び、外界とつながった海の環境が戻ってきました。この年代は、中新世と鮮新世の時代境界ともなっています。
 塩分危機の時代は、地中海に外洋の海水が供給されていない596万から533万年前の63万年間になります。地質学的には、それほど長い期間ではないのですが、地中海という狭い海峡しかない内海であったため、その影響は大きなものとなりました。
 ではなぜ、海水の流入が止まったのでしょうか。それは、地中海が成因と深い関係があるようです。続きは、次回としましょう。

・キプロス島・
私は、1987年に地中海のキプロス島で
学会があったときに、地中海を間近に見ました。
キプロス島では、学会参加と共に
テチス海の海底を構成していた岩石群を見ることも
重要な目標でした。
その地質見学旅行で見た、地中海固有の澄んだ海の色と
乾燥した快晴の青空が強く印象に残りました。
さらに、古代ギリシア時代の遺跡やモザイクを見て、
乾燥した大地に残された人類の歴史に思いを馳せました。
それ以降、残念ながら地中海は見ていません。

・第一期生・
いよいよ3月となりました。
北海道も春めいた暖かい日差しが
注ぐ日も訪れるようになりました。
もちろん雪のたくさん降る日も、まだまだあります。
しかし、この暖かさは、春の到来を予感させるものです。
大学は、卒業と入試の季節です。
私の所属する学科は、今年はまだ卒業生がいません。
来年度やっと4年生が誕生します。
第一期生です。
あと一年、はじめてのことを新4年生とともに
築きあげていくことになります。
彼らとは苦楽を共にしたという気持ちが非常に強くあります。
彼らもこれから、進路を決定する重要な時期になります。
特に教員志望の学生にとっては、気の抜けない日々が続きます。
教員としては、彼らの努力をサポートしながら
成功を祈るしかありません。