2008年9月11日木曜日

2_69 アーキアワールド

 私たちが知らない世界が、海底にありました。それは、アーキアワールドと呼ばれています。そこには、古細菌というあまり馴染みのない生物が大量にすんでいます。

 深海底は、深く暗いところなので、なかなか目にすることができません。もちろん一部の研究者は、潜水艇でもぐることがありますので、深海をみることがあります。その時の映像を私たちも見ることがあります。しかし、その場所は限られていますし、特別な目的があり、それを満たしてくれる場所になります。映像としてみるのも、特別な目を引くものがあるところになります。
 では、特別ではなく、普通の深海底はどのような場所なのでしょうか。今までは生物のほとんどいない、不毛の世界のように考えられてきました。ところが、その考えを覆す発見が、JAMSTECの研究者によってなされました。
 JAMSTEC(独立行政法人海洋研究開発機構)の稲垣史生さんと諸野祐樹さんは、7月20日の科学雑誌ネイチャー(オンライン版)に、その報告を発表しました。その報告によると、古細菌(アーキア)と呼ばれるタイプの生物が、海底堆積物に大量にいることを発見したのです。古細菌とは、生物のドメインと呼ばれる3つの分類のひとつを占めています。他のドメインは、真核生物(ユーカリア)とバクテリア(真性細菌)です。
 彼らは、世界の16か所の海底から得られた試料を用いて調べました。深さ365mまでボーリングの堆積物から、生物を構成している物質(極性脂質)と遺伝子(DNA)を抽出しました。
 極性脂質とは、バクテリアや古細菌(両者とも原核生物になる)の細胞膜を構成してい物質です。極性脂質の種類ごと量から、原核生物の量や、バクテリアや古細菌の比率を見積もることができます。DNAは、古細菌が持つ特有の遺伝子に注目して分析することで、古細菌の量を調べることが可能です。ところが、DNAの分析は難しく、なかなか精度よく分析することができませんでした。今回はその精度を格段に高めることができたようです。両者から、堆積物中の原核生物と古細菌の量を見積もることが可能になります。
 原核生物の量は、深くなるとともに減ります。しかし、古細菌の比率は深くなると、一気に増加します。1mより深い堆積物では、古細菌の量の比は、平均で87%になります。一方、抽出したDNAに含まれるアーキアの遺伝子の存在比は、まだ完全な精度が得られず、抽出法や分析手法によってばらつきがあり、平均で40%~50%になりました。原理的には一致すべきですが、技術がまだ追いついていないようです。
 極性脂質の量から、極性脂質の量を微生物細胞を構成する炭素の量に換算することが可能です。海底堆積物の全有機炭素量に占める微生物の量は、約0.024%に達することがわかってきました。比率にすると少ないように感じますが、その総量は、膨大なものになります。海水中の微生物が占める炭素量は220億トンを1とすると、陸上の土壌微生物由来の炭素量は12倍(260億トン)、外洋の堆積物には24倍(500億トン)、大陸沿岸には18倍(400億トン)あることにあります。ところが、海底堆積物の微生物炭素量は、41倍(900億トン)もあることがわかってきました。その量は、地球の微生物の中では、もっとも多くの比率となります。
 深海底の堆積物中には、実は生物が大量にすんでいることがわかってきました。地球の生物は量で見れば、深海の堆積物の中の古細菌が主要なものとえいます。まさに、私たちがしらなりアーキアワールドがそこにはあったのです。

・バイオマス・
生物起源の物質の総称をバイオマスと呼んでいます。
バイオマスは、生物の量を、物質の量として表わします。
多くは、質量あるいはエネルギー量で示されています。
このエッセイでの表記は、炭素量になっています。
ですから、紛らわしいのですが、一種のバイオマスともいえます。
ここでは、微生物だけを対象にしましたが、
大型の生物でみるとどうなるでしょうか。
地上生物に含まれる炭素量は約5500億トン、
海洋生物1兆0200億トンになるといわれています。
桁違いの量ですが、エッセイでも示されたように、
今まで生物は住んでいないと思われていたところに、
他の地域の微生物と同じほどいたことがわかったのです。
まさに新世界の発見ではないでしょうか。

・秋・
北海道は、8月下旬には秋の気配が漂っていたのですが、
9月になると蒸し暑い日が訪れています。
少々、ぐったりしていますが、
でも、やはり秋の気配はあります。
この一週間、私は調査に出かけていますので、
北海道にはいません。
ですから、その間の天候は不明です。
旅行中の天候が気になりますが、
心配してもしかたがありません。
ただ、台風だけは来ないことを祈りましょう。