2008年8月28日木曜日

5_75 生物と石灰岩:炭素7

 今回は、生物と二酸化炭素の関わりをみていきます。生物一つ一つは地球と比べれば、明らかにちっぽけなものです。しかし、多くの仲間と長い時間があれば、やがては大きな変化へとなるのです。

 石灰岩(方解石)は、大気中にあった大量の二酸化炭素が固体として陸地に蓄えられたものです。その仕組みは、前回紹介したように、海洋とプレートテクトニクスが重要な働きをしました。
 二酸化炭素の気体を固体に変えるという作用は、地球の物理化学的な営みです。その効率は、環境の変化によってばらつきはあるでしょうが、ほぼ一定のものだったはずです。
 ところが、地球に生物が誕生して、生物が進化とともに炭素の循環に参加しました。生物は炭素を主成分としています。ですから、生物が増えてくると炭素の循環に大きな影響を与えます。
 気体の二酸化炭素が、固体の炭酸カルシウムへ変化するのも、炭素循環の大きな流れです。生物が関与することで、その流れが一気に加速されました。それは、生物が、炭素を生きるためだけに使うのではなく、体を支えるために利用したためです。
 貝は、殻で体を守っています。貝殻は方解石からできています。貝がたくさん住んでいたとしても、大地に化石として蓄えられる量は少しです。もっと大量に二酸化炭素を固体に変える生物がいました。それは貝より小さい生き物でした。
 その代表は現在でいえばサンゴです。サンゴは小さなサンゴ虫という動物の集合です。サンゴ虫は外骨格と呼ばれるものをもっています。外骨格とは、体を支える構造物(骨)が外にあるものです。昆虫も外骨格をもちます。サンゴの外骨格の成分は、方解石です。
 サンゴ虫は小さくても、集まれば、巨大なサンゴ礁をつくります。オーストラリアの東岸にあるグレートバリアリーフは、サンゴが集まって礁をつくった高まりで、その長さは2600kmにもなる世界最大のサンゴ礁です。このようなものが、陸地にプレートテクトニクスによって持ち上げられれば、今までの物理化学的な作用だけより、はるかに効率よく大気中の二酸化炭素を取り除くことができます。
 実際に大陸をみると、さまざまな時代の石灰岩類があります。日本でも、ほとんどの都道府県に石灰岩があります。時には、鍾乳洞をつくるほどの巨大な石灰岩体があります。これらの多くは、暖かい海にできたサンゴ礁が陸に持ち上げられたものです。
 サンゴは、生物の歴史から見れば新しい時代の生物です。礁をつくる生き物として、古生代には層孔虫が繁栄していました。層孔虫も今のサンゴ虫とともに礁をつくり、大量の石灰岩をつくってきました。ですから、古生代以降、生物による二酸化炭素の固化のメカニズムは、その効率を高めたはずです。
 サンゴの他にも、海には炭酸カルシウムの殻をもつ円石藻のようなプランクトンもいます。これらのプランクトンが死んだら、その遺骸は海底に沈んでいきます。
 海は深度とともに、炭酸カルシウムの溶けやすい環境に変化していきます。炭酸カルシウムが溶けてしまう深度を、炭酸カルシウム補償深度(CCD:Carbonate Compensation Depth)と呼んでいます。これより深い海中では、長期間、炭酸カルシウムは保存されません。炭酸カルシウム補償深度は、地域や環境によって変わってきますが、3000から4000mほどになっています。つまり、海洋の真ん中で死んだプランクトンの遺骸は、いずれは溶けてしまいます。このような海洋の真ん中のプランクトンによる炭酸の固化は、大気中の二酸化炭素の除去には効果がありません。
 しかし、大陸棚付近で死んだプランクトンや生物は、そのまま地層として、陸地に保存されることになります。あるいは、有機物や炭素として地層にたまることがあります。生物が誕生して、増えてくると、地層に閉じこめられる炭素が増えてきます。その炭素は、大気からもたらされたものです。
 生物による炭素循環の効果は、地球が物理化学的作用だけでおこなってきた時代と比べると、複雑なものになりました。そして、影響力を持つようになってきました。小さな生物でも、数と時間の効果によって、地球の環境に大きな影響を与えることがあるのです。

・秋の気配・
いよいよ8月も終わろうとしています。
北海道以外の学校は、2学期がそろそろ始まります。
子供たちは落ち着かない、
忙しい日々を送っているのでしょうか。
北海道の8月下旬は、すっかり涼しくなり、
もう秋が来たのかと思えるほどの気温でした。
北海道でも、これからも暑い日が来るでしょうが、
やはり秋の気配は濃厚です。

・能登から飛騨へ・
9月上旬に調査に出ます。
散々迷った挙句、能登から飛騨にかけて
調査することにしました。
何を迷ったのかというと、
夏前までは、岩手に行こうと予定を立てていました。
ところが、岩手で2度の地震があったは、記憶に新しいことでしょう。
そのせいで、出鼻をくじかれて今年は、止めることにしました。
岩手には、来年ゆっくりと行くつもりです。

2008年8月21日木曜日

5_74 石灰岩のベルトコンベア:炭素6

 大量にあった大気が、どのようにして石灰岩になったかを見ていきます。そこには、水と地球の営みが重要な役割を果たしていました。

 現在の大気の50倍から100倍近い大気の量が、かつての大気にはありました。その大半が、固体の石灰岩になって、大気からなくなりました。そのプロセスには、水と地球の営みが重要な役割を果たしました。
 原始の地球は、二酸化炭素の厚い大気に覆われていました。もちろん、温室効果は、強烈に働いていたものと考えられます。しかし、地球は、38億年前以降現在まで、地表付近の温度は、0~100℃の間に保たれていました。それは、海があったことからわかります。
 海が存在した直接の証拠は、ありません。しかし、液体の水のある海でしか形成されない堆積岩が、証拠となります。最古の堆積岩は、グリーンランドの38億年前のものです。それ以降、各地からいろいろな時代の堆積岩が見つかってきます。ですから、地表付近は、常に水が存在できる条件にあったことになります。
 水が地表にあると、大気中の二酸化炭素が溶けこみます。その量は、温度によって決まっています。ある一定量、海に二酸化炭素が溶け込むと、飽和(平衡状態)します。溶けた二酸化炭素は、炭酸イオンとなります。海に二酸化炭素が溶けこんだとしても、大気中の二酸化炭素は、ほとんど目立って減ることはなかったでしょう。
 水は、もう一つ大きな役割を演じます。それは、海があると、必然的に起こる地球の営みです。太陽があたると、温まった海からは、蒸発した水蒸気が発生します。水蒸気には上空に上がります。上空は、冷たいので冷やされ、水蒸気は、氷となり雲になります。冷やされた水蒸気には、やがて雨となって降ってきます。
 雨は海だけでなく、大地にも降ります。大地に降った雨は、川となって、大地を削り、海にもどります。海にもどった水は、土砂を運ぶだけでなく、大地の溶けやすい成分を含んでいます。その中に、カルシウム(Ca)があります。水に溶けたカルシウムイオンは、炭酸イオンと出会うと、炭酸カルシウムという沈殿になります。それが石灰岩のもとになります。
 沈殿した炭酸カルシウムは、海水中の炭酸イオンやカルシウムイオンと、やはり平衡関係ができます。一定量の沈殿ができますが、一定量以上には沈殿ができません。
 二酸化炭素に対して、大気(気体)、海(イオン)、海底(固体)で、上のような平衡関係が成り立ちます。この平衡関係を破らないと、大気中の二酸化炭素を、固体にして蓄積できません。平衡関係を破るには、固体の炭酸カルシウムを海から陸に上げて、取り除かなければなりません。その役割を、プレートテクトニクスという地球の営みが、果たします。
 プレートテクトニクスによって海嶺で形成された海洋プレートは、海溝に移動します。海溝で沈み込む時、海洋プレートの上にある軽い堆積物(石灰岩)を、陸地に残していきます。これによって、石灰岩を陸地に運ぶという作用ができます。
 このシステムは、一方通行のベルトコンベアのようなものです。大気中の二酸化炭素が、海に溶け、陸からのイオンと結びついて、海底に沈殿し、それが海洋プレートに乗って、陸地に石灰岩として持ち上げられます。このシステムが働けば、大気中の二酸化炭素は減り続け、石灰岩として陸地に保存されます。このシステムは、海がある限り、プレートテクトニクスが存在する限り続きます。このシステムが38億年にわたって働き続けたので、今や大気中の二酸化炭素は、ほとんど取り去られた状態になっていることになります。

・温室効果・
二酸化炭素の温室効果を今騒がれていますが、
過去では、どれほどの効果があったのでしょうか。
50気圧や100気圧も二酸化炭素があったら、
強烈な温室効果が起こりそうです。
しかし、地表は100℃を越えることはありませんでした。
実際に計算をしたことがないので、
正確なことはいえませんが、
二酸化炭素の温室効果は、どれほどあったのでしょうか。
海は、100℃に達してないことは確かのですから、
30億年前や20億年前、地表の温度は、
80℃や90℃もあったのでしょうか。
もしそんな温度であったら、地表付近は、
生物にとって、過酷な環境であったはずです。
ところが、生物は順調に進化していますから、
過去の二酸化炭素の温室効果が、気になります。

・平年並みの夏・
北海道は、天気がいいと昼間は暑いですが、
朝夕は上着が欲しくなるような気候となってきました。
昨年と一昨年が暑い夏だったので、
今年の夏は平年並みの気候だと思いますが、
過ごしやすい気がします。
こんな時北海道に住んでいて良かったと思えます。
お盆も終わり、大学は、夏休みの真っ最中となっています。
私は、成績の締切りを今週末に控えて、
その追い込みとなっています。
午後の研究室は西日が当たり、
耐えられないのですが、午前中は快適です。
午前中のうちに、集中して仕事をすることにしています。

2008年8月14日木曜日

5_73 固体の二酸化炭素:炭素5

 かつて地球には大量の二酸化炭素がありました。そして、今の大気は、二酸化炭素がほんの少ししかありません。二酸化炭素は一体どこに行ったのでしょうか。

 前回のエッセイで紹介したように、地球には、かつて二酸化炭素を主成分とする大気がありました。それも、今の大気の50倍から100倍ほどの量の主成分でした。今の大気とは、比べものにならない、異なった成分構成になっていました。では、その大量の二酸化炭素はどこに行ったのでしょうか。
 可能性としては、地球から、二酸化炭素が宇宙空間に飛び出していったというものがあります。この可能性は否定できます。地球の隣の惑星である金星の大気を見るとわかります。
 金星は地球と似た大きさの惑星です。大気を引きつける引力の強さは、両惑星で似ています。金星の大気は、地球の900倍近い大気があります。ですから、地球も金星でやや大きいですから、大気を逃がさずにすんだはずです。
 また、二酸化炭素が、選択的に宇宙空間に抜けていく可能性もあります。この可能性も、否定できます。窒素(分子量28)や水蒸気(18)などの昔の大気の成分と比べて、二酸化炭素(44)は大きくなっています。ですから、一番抜けにくい成分だといえます。
 火星の大気からも、それがわかります。火星は、地球の100分の1くらいしか大気の量がありません。火星の大気は非常に薄いのですが、その主成分は二酸化炭素となっています。ですから、二酸化炭素だけが選択的に抜けたということは、なさそうです。
 では、昔の地球の大気の主成分の二酸化炭素は、いったいどこへいったのでしょうか。宇宙空間に抜けたわけではないので、地球のどこかにあるはずです。地球の環境では二酸化炭素は気体ですから、気体のままでは大気に留まります。水(海)にも少し溶けますが、その量はほんの少しに過ぎません。ですから、二酸化炭素がなんらかの化学変化をして、固体の化合物として、どこかにあると考えるしかなさそうです。
 地球の表面で二酸化炭素を含む固体の化合物は、石灰岩が代表です。石灰岩とは、方解石という鉱物からできています。方解石は、炭酸カルシウム(CaCO3)という化合物で、炭酸が主成分となっています。炭酸は、二酸化炭素が水に溶けたときにできる化合物です。
 石灰岩は、日本列島では、ごく普通にみかける岩石です。日本列島でだけではありません。大陸の各地で見つかります。石灰岩のできた時代は、最近の新生代のものから、太古代のものまで、いろいろな時代のものがあり、そしてそれらは大量に見つかります。
 大気中の二酸化炭素が、石灰岩になれば、コンパクトに、そして長期間安定に固体として保存できます。また、いろいろな時代に石灰岩が形成されているということは、大気中の二酸化炭素が、固体化される作用が地球表層で定常的に働いていたことを物語っています。
 実は、かつての地球には、50倍から100倍の大気があったという見積もりは、地殻の石灰岩から推定した値だったのです。では、気体の二酸化炭素が固体の石灰岩に変化するプロセスは、どのようなものなのでしょうか。それは、次回としましょう。

・論文のネタ・
7月の体調不良でした。
本当にまいりました。
まだ、咳が抜けていませんが、
普段どおりの生活ができるようになりました。
来週までは、校務がありますので、
その間はなかなか別の仕事ができないのですが、
8月下旬から、しばらく手作業をともなう仕事を
していこうと考えています。
まずは、標本の整理と、
昨年の調査のデータ整理です。
延び延びになっていたものを、
なんとかこなして、次の論文のネタに
しようと考えています。

・家族旅行・
北海道は8月上旬は、快晴の日が2週間も続きました。
暑い日でした。
8月上旬に家族旅行をしましたが、
快晴の日が続き、予定通りの旅行ができました。
快晴でしたが、乾燥していたので、日陰は涼しかったです。
また、標高の高いところにいたので、
暑さに耐えられないという思いはしなくてすみました。
家族旅行でしたが、標本をなにもとりませんでした。
しかし、山を一つ登ることができました。
それが、収穫でした。

2008年8月7日木曜日

5_72 二酸化炭素の変化:炭素4

 二酸化炭素が何かと話題になります。二酸化炭素の増減を、地球の時間スケールでみると、現在話題にしていることが、それほど大事にはみえません。地球にとっては、ささやかな変化です。

 地球温暖化の主犯として、二酸化炭素が話題によく登ります。現在、二酸化炭素の濃度は、400ppm弱です。もともと、200ppmほどしなかったものが、2倍の400ppmにも増えたのだから、大変だということです。
 ところで、ppmという単位は、parts per millionの頭文字をとったもので、100万分の1のことを意味します。たとえば、大気(空気)の体積を1としたとき、ある成分が100万分の1の量があった場合、1ppmとなります。ppmとは、非常に少ない濃度のものを表すための単位なのです。もっと多いものは、御存知のように、百分率(%)を使って表します。ppmと%を換算すると、1ppmは0.0001%となり、1%とは10000ppmとなります。400ppmとは、0.04%のことです。
 0.04%という量は、普通であれば無視するほどの量です。その増減が、地球温暖化では問題にされています。200ppmを基準にして多い少ないを考えていますが、地球の大気中の二酸化炭素は、もともとどれくらいの濃度だったのでしょうか。言い換えると、地球誕生以来、どう変化してきたのでしょうか。もともと200ppmだったのでしょうか。実は、昔の大気の組成を測るのはなかなか難しいのです。
 現在、一番信頼性ある過去の大気のデータは、南極などの氷床から得られたものです。南極のような寒い地域では、雪が降っても、解けることなく何年も積み重なっていきます。積み重なった雪では、下の方が圧縮されて氷になっていきます。雪が氷になるとき、雪の中に含まれていた空気も一緒に圧縮されて閉じ込められます。つまり雪が降った時代の大気が保存されることになります。厚い氷床を掘りぬくと、古い時代の氷が手に入ります。その氷の中の空気は、その時代のものです。
 この方法で得た過去の空気から、成分を測定することができます。現在から40万年前までの二酸化炭素の濃度が公表されていますが、200ppmから300ppmの間を周期的に変動しています。氷床のコアとしては、今では約80万年前まで到達していて、今後100万年前まで達することを目標としています。でも、そのあたりが限界ではないでしょうか。
 なぜなら、古い氷床は流れてなくなること、同じ場所で積雪があり氷床が常にできるわけではないこと、暖かい時期があると融けることなどがあります。さらに、4000万年前より昔の地球には、まったく氷床がなかった暖かい時代があった長く続いていたと考えられています。
 いずれにしても、45億年におよぶ地球の歴史からすると、数百万年前や数千万年前の記録でも、あまりに短時間で不完全な記録です。もっと、古い時代の二酸化炭素の記録はないでしょうか。残念ながら、古い時代の大気の情報はありません。ですから、間接的に推定するしかありません。
 まだ、時代ごとの完全な濃度変化のパターンは描かれていませんが、地球誕生当初は、二酸化炭素が大量にあったと考えられています。その理由は、地球の両隣の同時にできた金星と火星の大気が二酸化炭素を主成分としていること、惑星の材料物質である隕石に含まれている気体(揮発成分)の主成分が二酸化炭素であることなどです。
 大気の主成分といっても、今とは比べ物にならないほどの量の大気があった考えられています。当時の大気は、現在の50倍から100倍あったと推定されています。その量は、二酸化炭素がほとんどを占めていたと考えられます。もちろん、当時の地表はすごい温室効果が起こっていたはずです。ところが、海が完全に蒸発するほど高温(100℃以上)にたっしたことはありませんでした。なぜなら、すべての時代を通じて、海でたまった地層が見つかるからです。つまり、海があったということは、地表の温度は100℃以下に保たれていたのです。
 では、地球の初期にあったの考えられる大量の二酸化炭素は、いったいどこにいったのでしょうか。それは、地層の中に今もあります。その答えは、次回としましょう。

・夏休み・
皆さんは、夏休みをとられたでしょうか。
私は、8月早々から夏休みをとっています。
実は、このメールマガジンが届く時は、
私は、旅行中で不在です。
北海道の中央部、然別湖周辺をうろうろしています。
家族旅行で、避暑をかねてのんびりしています。
然別までは遠い道のりですが、
周辺の宿を点々としながら、あまり移動せずに、
いろいろなところを見てこようと考えています。
最近は、石探しや、川原遊びは家内や子供たちから
つまらないといわれて、
調査がなかなかしにくくなりました。
でも、できるだけ両立させていきたいとたくらんでいます。

・地球の歴史・
人類が直面している温暖化問題は、
地球にとっては、ささやかな変化に過ぎません。
もっとすごい時期を地球は経てきています。
それも、地球の歴史の一ページです。
人類の右往左往がはたして
地球の歴史の一ページに残るのでしょうか。
人類が大騒ぎしている問題は、
果たして地層の中に残るのでしょうか。
人類の痕跡のコンクリートや人工物が
地層の一部に残るに過ぎないのではないでしょうか。
未来の知的生物は、その地層から何を読み取るのでしょうか。