2008年5月29日木曜日

2_65 進展:コモノート1

 生物は、ある一つタイプの祖先から進化してきたと考えられます。それを認めると、それは、どんなものと問いたくなります。その答えは用意されています。コモノートが祖先であるとなります。では、その実態は?

 以前、このエッセイで、生命の起源について述べたことがあります。その生命の起源について、昨年の末、日本の研究者チームから新たな成果が出されました。
 成果は、科学技術振興機構(JSTと略されています)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究という長い名称で得られたものです。実際の研究は、これまたもっと長い名称ですが、独立行政法人産業技術総合研究所脳神経情報研究部門DNA情報科学研究グループの研究グループ長の鈴木理(まさし)さんと、JST研究員の横山勝志さん、石島早苗(鈴木さんと同じ所属)さんらのメンバーがおこなったものです。
 その成果は、"Feast/Famine Regulation by Transcription Factor FL11 for the Survival of the Hyperthermophilic Archaeon Pyrococcus OT3"(超好熱性古細菌パイロコッカス属菌OT3株の生存のための、転写因子FL11による饗宴・飢餓制御)として、2007年12月12日発行のアメリカの科学雑誌「Structure」に掲載されました。
 ややこしい前置きが長くなってしまいました。簡単にいうと、鈴木理さんたちは、コモノートの実態解明に迫る重要な成果を挙げられたのです。これでもまだ、簡単にいえてるわけではありませんね。
 まず、コモノートの説明をしなければなりません。コモノートとは、すべての生物の祖先にあたる架空の生物です。この考えは、現在の地球上にいるすべての生物は、一つの種類の生物を祖先として、その祖先から進化して、現在のような多様な生物が誕生したというものです。すべての祖先ですから「共通祖先」と呼ばれることがあります。
 共通祖先の定義としては、現在生きている生物として一番初期に誕生したと考えられている古細菌とそれに一番近縁の真正細菌が、系統上別れる(分岐といいます)前の生物となります。そのような共通祖先として、コモノートの他にも、いろいろなものが提唱されています。プロゲノート、センアンセスター、LUCA(Last Universal Common Ancestor、全生物の共通祖先)などがあります。コモノートとそれらとを区別するため、厳密にはコモノートとは、「環状のDNAを持つ遺伝の仕組みが成立している生物」と定義されます。
 コモノートは、化石としては、まだ発見されていません。もし、コモノートの化石が発見されたとしても、生物の痕跡(印象化石や炭化物の一部)だけしか化石として残りません。ですから、コモノートの生物学的な実態を解明するには、化石からはなかなか困難です。また、現在生きている生物には、コモノートがいませんから、現在の生物からも探ることはできません。現段階では、コモノートは、定義や仮説は立てられますが、あくまでも概念的なもので、科学できるものではなかったのです。
 ところが、今回の鈴木理さんたちの成果は、コモノートの証拠をつかんだともいうべき、非常にインパクトのあるものでした。その紹介は、次回としましょう。

・有根系統樹・
コモノートについて、私は常にぼんやりとした疑問があります。
本当にそんなもの存在したのだろうか、というものです。
あるとき、つまり生命誕生の条件が整った時、
いくつもの祖先が一気に誕生し、
それが細胞内共生や、お互いのいい機能の取り込み合いなどで、
新しい生物がつぎつぎと試行錯誤のように組み合わされ、
そのいくつかが残ったのではないかという想定が成り立ちます。
この想定は、無謀なものではないと思います。
分子レベルでさまざまなやりとりをした生物が
多種類生まれてきたとしたら、
分子的に見ても、共通するものができるのではないか
というのが、私の疑問です。
多分、これは誰もが思う疑問でしょうから、
それに対する答えは、答えは示されているはずです。
系統解析の数学的手法によって、
ひとつの系統に収斂する(有根系統樹)
ということで示されているのがそうだと思います。
しかし、その数学的な詳細を私は、勉強不足で知りません。
そのためでしょうが、なかなか疑問が解消されません。

・運動会の季節・
いよいよ6月になります。
5月は、北海道は天候不順で
雨が降ったり、肌寒い日が続いたりしました。
4月は雨が少なかったのですが、
5月は平年並みに降ったようです。
北海道は運動会の季節になりました。
近所の小学校の運動会は、雨となりました。
私の息子たちの小学校は、6月最初の土曜日です。
6月は天候は安定するのでしょうか。
今から心配してもしょうがないのですが、
気にある季節になりました。

2008年5月22日木曜日

6_69 地質の日:地学教育について

 5月10日は地質の日です。あまり馴染みがない記念日かもしれません。昨年に決まったばかりものだから仕方がありません。今回は、地質の日にちなんで、地学教育について考えました。

 ゴールデンウィーク明けの週末となった5月10日の土曜日は、皆さんどう過ごされたでしょうか。私は、実習がある講義日で、1日中大学にいました。そのために、特別なことは何もしませんでした。
 なぜ、5月10日を取り上げたのかというと、実はこの日が、「地質の日」とされていたからです。5月10日は、日本の地質学の黎明期に大いなる貢献をしたライマンらが、200万分の1の北海道の地質図である「日本蝦夷地質要略之図」を作成したのが、明治9(1876)年5月10日だったのです。また、明治11(1878)年5月10日には、地質調査をする組織(内務省地理局地質課)ができた日でもあります。それらにちなんで、「地質の日」が定められました。
 日本地質学会など10の地質に関係する組織や学会が発起人となって、「地質の日」が定められました。「地質の日」は、発起人らによって2007年3月13日に決まったものでした。今年は2回目ですが、「地質の日」を記念して行事に取り組まれたのは、今回が最初となります。いくつかの推進委員会となっている組織で、記念行事が行われました。私の住む北海道でも、いくつか行事があったのですが、私の都合で参加することはできませんでした。今後は、参加していきたいと考えています。
 私は、科学教育に携わるものとして、科学の中でも地質学が重要な学問だと思っています。地質学は教科でいえば、地学に含まれます。しかし、地学の重要性を、市民が理解する機会が少なくなっていのが現状です。
 現在の公教育では、小学校と中学校では理科を習います。理科の中には、地質学の内容が含まれています。しかし、高校の理科(物理、生物、化学、地学、基礎理科、理科総合A、B)で、地質学の内容を含んでいる基礎理科、理科総合B、特に地学をとった人は、それほど多くありません。理系に進学する人で、地学をとる人は少ないはずです。高校時代に地学を学ばなかった人が、大学の教養科目として、地学や地球科学などの地質学に関連する科目を履修しなければ、そのまま卒業することになります。彼らは、高校以降地質学を学ばずに社会人となるわけです。このような社会人は、結構な比率を占めるのではないでしょうか。
 だとすると、社会人には、地質学の知識が中学校の理科どまりで、それもだいぶ以前のことですから、地質学の内容がほとんど記憶に残っていない人もかなりの比率でいることになります。
 地質学が社会でそれほど重要性がなく、教養の一つにするぎないのであれば、問題はありません。ところが、地質学は、建築をするときの地盤調査、環境アセス調査、自然保護と開発で発生する問題、エコマーク、ISOの環境基準、地球環境、自然開発など、深くかかわりがあります。もし、それらのうちのどれかを調べ、評価する立場になった時、地質学の知識が中学生レベルでは、少々不安ではないでしょうか。そして、本当に評価できるのでしょうか。そのような不安があります。
 もちろん、地質学に関わらないで社会生活を営める人も多数いることでしょう。しかし、やがて彼らが親になり、子供を持つことになります。その子供たちは、親自身が日常の地質学的体験が少なく、野外における地質学的素材に対して馴染みがないのですから、子供に親以上に興味を持たせることは、なかなか困難ではないでしょうか。すると、世代を経るに連れて、地質学離れが拡大していくことになるでしょう。同様のことは、地学全体や理科、科学でも起こっています。
 その対策の一つとして、「地質の日」があると考えられます。ですから、皆さんも、来年からは「地質の日」に行われるイベントを、利用してはいかがでしょうか。

・学習指導要領・
高校での理科のうち理科基礎、理科総合A、Bのうちから
1科目以上を履修すべきものと
文部科学省の学習指導要領にはあります。
ですから、これらが履修されていないと
社会科で問題になった未履修となります。
多分、今はそんな未履修はないでしょうから、
理科総合Aをとった人以外は、地質学の内容を学んだことになります。
私の案としては、基礎理科は重要な科目だと思います。
基礎理科を内容的にもさらに充実させて、
すべての高校1年生が学ぶべき
必修の教科にしたほうがいいのではないでしょうか。
文系は2、3年生で理科総合AやBを学ぶべきではないでしょうか。
また、理系は、2年生、3年生から
物理、化学、生物、地学のAやBを学んでいけばいいのではないでしょうか。
選択科目にするのはいいのですが、
学んだ者と学んでない者に差がありすぎるような気がします。
高校は選択の多い学びができるようになっていますが、
学ぶ意欲の強い学生には有効ですが、
意欲の少ない学生には、手抜きをする余地を
与えるのではないでしょうか。
そのような選択科目が個人の個性や特性に
反映されていればいいのですが、
高校卒業時に、大きな学力差となっているようでは困ります。
選択と必修、自由と統一、個性化と平均化など、
両立できればいいのですが、
うまくいかなければ、問題が顕在化します。
教育とは難しいものですね。

・バランスとホット・
このエッセイの「地球の人と」のセクションでは、
今年の最初、1月3日に書いて以来、久しぶりの更新となりました。
万遍なく書くつもりではいるのですが、
ついつい、興味があるのところは、
シリーズ化して何回も書いてしまうので、片寄ってしまいます。
現在、「地球の歴史」のセクションが一番遅れをとっています。
でもまあ、ホットな話題をお届けする方が重要なので、
全体のバランスを考えながらも、
面白そうなものを書いていきたいと思っています。

2008年5月15日木曜日

3_73 意義:日本のダイヤモンド4

 今回は、日本のダイヤモンドの最後の回として、発見によって得られた重要な意義とは、何かを考えていきます。


 水上さんの発見は、単にダイヤモンドが日本ではじめて見つかったというニュースとしてだけではなく、重要な意義があります。その意義を以下、思いつくことをいくつか挙げていきます。
 まず、日本列島の地下の様子を知る重要な情報となります。地球のマントルは、地球内部の熱を運んでいるため、対流しています。その対流が地大地の営みのもととなっています。日本列島下のマントルでも、対流は起こっていると考えられていました。対流に関する仮説はいろいろありましたが、対流の規模や深度、方向などは、まったく証拠といえる手がかりはありませんでした。今回の発見で、日本列島下のマントル対流の証拠となるかもしれません。
 今回の発見によって、日本列島の下部にあるマントルは、100km以上の深さから、沈み込み帯近くの四国愛媛県まで、対流しているというモデルが有力になります。この対流は、予想以上に大規模で、そして予想以上に沈み込み帯近くまで来ていることになります。今後、証拠を伴うより詳細なモデルが提唱できるはずです。
 また、日本列島の他地域、他種類の捕獲岩からも、タイヤモンドが見つかる可能性ができてきました。沈み込み帯から遠い中国山地や日本海側は、マントルの対流の上昇部に近いと考えられます。ですから、水上さんの仮説が正しければ、マントルが上がってきて、あまり時間がたっていなのですから、マントルの捕獲岩には、より多くのダイヤモンドが保存されているはずです。もし、各地でダイヤモンドが発見されれば、日本列島のマントル対流の情報を各地から得ることができるはずです。これは、対流の実態を解き明かす上で重要な証拠となります。
 最後に、新しい手法あるいは視座が確立されたということです。流体包有物の中に、このような微小のダイヤモンドが発見する方法が確立されたのですから、他の深部にあったマントルの岩石からも、同様にダイヤモンドを発見できる可能性があります。これは、手法だけでなく、今まで目をつけれれていなかったもの(微小な流体包有物の中身)に、地球深部を探る手がかりがあったことに気づいたことになります。もしかすると、ダイヤモンド以外にも他の重要な鉱物なども見つかるかも知れません。このような新たな視座を確立したという意義があります。
 上で述べた以上に関連の研究分野で、新しいことがわかる可能性がでてきました。今回の発見は、大変意義深い発見であったと思います。そして若き研究者がそれを成し遂げ、学会がその重要性を認め、公開の場で議論を深めていきました。今後、この分野でさらなる発展があればいいですね。

・意識改革・
日本でのダイヤモンドの発見は、
上で述べたようにいろいろと重要な意味がありました。
たったひとつの発見なのですが、
この発見が波及して、さまざまなところに
新しい視点や観点が持ち込まれるようになります。
もしかすると小規模ながら
地球科学者たちの意識改革ともいうべきことが
起こるかも知れません。
まあ、それは今後の進展と歴史が証明することなのですが。

・淡々とした日々・
北海道はここしばらく肌寒い日が続いています。
快晴の時の日が当たれば暖かいのですが、
日陰や曇ると上着を着ないと寒いほどです。
体調をくずす人も出ています。
特に薄着の若者は風邪をひいてしまいます。
先週のゴールデンウィーク明けは、
かなり休みが目立ちました。
今週からは、7月中旬までは休みもなく
淡々とした穏やかな日々が続いていくはずです。

2008年5月8日木曜日

3_72 仮説:日本のダイヤモンド3

 ダイヤモンドは如何にして形成され、捕獲されてきたのか。それに対する一つの仮説を紹介します。この仮説は水上さんが、現在唱えられている説です。


 日本列島の下で、どうしてダイヤモンドが形成されたのか。それがどのようにしてマグマに捕獲され、地表にもたらされたのか。常識破りの発見でもあっても、その仮説は合理的、科学的でなければなりません。どのような仮説が立てられているのでしょうか。それを見ていきましょう。
 水上さんは、まず、ダイヤモンドが入っていた流体包有物と、それが入っていた結晶から、形成条件を調べました。包有物をもっていた結晶は、単斜輝石と呼ばれるものでした。包有物の中身に二酸化炭素の流体、それにともなう炭酸鉱物(ドロマイト)があります。そのような物質が一緒に存在する(共存と呼びます)環境で、ダイヤモンドを形成するには、1400℃以上の温度で5.5万気圧(5.5GPa、地下約170km)以上の圧力が必要だと推定されています。
 これは物理的に推定された条件ですから、少なくともその条件を満たさなければなりません。この条件を満たすことが、ダイヤモンド形成のための必要条件となります。ところが、そのダイヤモンドを含んでいたカンラン岩の捕獲岩には、斜長石がありました。これが、必要条件に反する奇妙なことなのです。
 通常の1400℃以上、5.5万気圧以上の条件にあるカンラン岩には、斜長石は存在できないのです。
 斜長石はアルミニウム(Al)を含んでいる結晶です。アルミニウムを含む鉱物がどのような結晶になっているかによって、物理条件の違いの見当がつけられます。高温高圧の条件に同じような化学成分のカンラン岩を置くことで、どのような鉱物の組み合わせになるかが、実験で確かめられています。その実験によると、温度圧力が低い場合は斜長石ですが、圧力が高くなるとザクロ石になり、さらに高くなるとスピネルに変わっていきます。
 つまりアルミニウムが斜長石になるような条件では、ダイヤモンドは形成されないという矛盾が生じているのです。この矛盾をどう説明するかが、重要になってきます。
 水上さんは、その説明として、次のような仮説を考えました。単斜輝石の中の流体包有物がダイヤモンドができる条件にあるときに、単斜輝石を含むカンラン岩がマントルで形成されます。もちろん、それは地下170kmより深いところです。ところが、そのマントルは、マントル対流によって浅い場所に上がってきます。その結果、マントルは低温低圧の条件にさらされます。少なくともザクロ石が斜長石に変わるような条件である30kmくらいの深さ(マントルの最上部)まで上がってきます。
 そこまで上がってきても、結晶の中に閉じ込められた流体包有物には、結晶の強度があったため、強い圧力がかかったままとなっていたと考えられます。しばらくはそのままの圧力が保たれたため、ダイヤモンドの結晶は保存されていたのです。ただし、あまり長い時間、低圧条件になると、流体が結晶の隙間からゆっくりと抜けていくので、圧力が下がってしまいます。それほど長い時間、浅いところに置かれていたわけではなさそうです。
 浅いところまで上がってきたダイヤモンドを含んだマントルの岩石を、ランプロファイヤーのマグマが高速で捕獲してきた。これが、水上さんが現在考えておられる仮説です。
 矛盾は解消されています。今のところ、この仮説はもっともらしく見えます。今後、いろいろ新たなデータが出されて、検討されていくでしょう。
 さて、このような発見には、単に発見されたというだけでなく、いろいろな重要な意義があります。それは次回としましょう。

・仮説の実証・
水上さんの説は、なかなか面白い仮説です。
一応科学的にも筋が通っています。
でも仮説は、実証することが重要です。
そのためには、その仮説から導き出される何らかの予測があり、
予測どおりのデータを出せれば、説得力が出ます。
たとえば、深いところにあったマントルが
浅いところに上がってきたというマントル対流に、
他の証拠も欲しいところです。
また、単斜輝石の流体包有物の中に
その程度の時間保存されるのか、
温度や圧力の条件にどれほど左右されるのかなどの
チェックも必要になるでしょう。
このような他の証拠にこだわるのは、
そこに重要な意味があるからです。
日本列島形成の謎を解明する手がかりがあるからです。
それは次回、詳しく紹介します。

・観光地・
皆さんはゴールデンウィークをどう過ごされたでしょうか。
北海道は、いい季節になりました。
5月5日は、少々肌寒い、曇天でしたが、
それ以外は春らしい天気となりました。
私はニセコに出かけています。
ニセコの山をみることが目標でした。
山の中を抜ける道も開通しており、
予定通り、ニセコの山を裏側から見ることができました。
春まだ浅き山並みから、春真っ盛りの里まで
季節の移ろいを感じることができました。
今回は、家族サービスもかねていましたので、
観光地や土産物屋さんにもいきました。
観光客が非常に多く、驚きました。
以前にもいったことがあるのですが、
スキーシーズン以外はそんなに混んでいた記憶はありません。
ニセコは、今や外国の人もたくさん来る観光地と変わってきました。
もちろん日本人もたくさんきます。
久しぶりに人の多い観光地を廻りました。

2008年5月1日木曜日

3_71 発見:日本のダイヤモンド2

 沈み込み帯は、ダイヤモンド形成場として、それほどありえない場所ではありません。有利な点もいくつもあります。しかし、詳細な分析の努力と幸運なくしては、日本産の発見できなかったでしょう。


 ダイヤモンドが発見された後になってから考えてみると、実は日本列島でもダイヤモンド形成のために、いくつかの好条件がありました。
 まず、地表付近には炭素(生物の有機物や殻やサンゴ礁の石灰岩などから由来)がたくさんあり、海底にも同様にたくさんあることです。沈み込み帯には、炭素がたくさん集まるところになります。炭素を含んだ岩石が、なんとか沈み込み、深くばなればダイヤモンドを形成する条件に達する可能性があります。
 もうひとつの好条件は、低温であるほど、ダイヤモンドはより低圧、つまり浅い条件で形成されることです。ダイヤモンドがよく見つかる大陸の条件では、150kmより深くないとダイヤモンドが形成されませんが、沈み込み帯のような冷たい条件では、100kmほどで形成されます。
 さらに、日本の火山岩の中には、マントルを構成していた岩石を捕獲してくるものが各地で見つかります。捕獲岩を伴うマグマの中には、かなり高速で上がってくるタイプもあります。そのようなマグマが地表に噴出すれば、火山岩となり、中に深部の岩石が捕獲されていることになります。それは、研究者が容易に手にできます。つまり手軽な研究材料になり、いつでも標本採取ができます。
 このような好条件を持っていたからこそ、ダイヤモンドが形成され、上昇し、発見されたのです。もちろんそこには、水上さんの多大な努力と、そして幸運なる偶然がありました。
 場所は詳しく示されていませんが、四国の中部の火山岩からダイヤモンドが発見されました。その火山は、1800万年前に噴火したものですが、位置が地質学的に少々変わった場所でした。日本の火山岩の中には、よくマントルから捕獲された岩石が見つかりますが、西南日本では、マントルの捕獲岩を伴うものは、中国山地や日本海側にある火山がほとんどです。しかし、今回見つかったのは、もっとも沈み込み帯に近い四国でした。このような岩石は四国では他の地域にも見つかっており、もしかするとそちらでも、ダイヤモンドが見つかるかもしれません。
 ダイヤモンドが発見された火山岩は、玄武岩の仲間なのですが、少々変わっていて、ランプロファイヤーとよばれるタイプのものでした。ランプロファイヤーは、変わった性質の火山岩の仲間です。貫入岩として日本列島でも各地で小規模なものが見つかっています。大陸地域でダイヤモンドを伴う火山岩(キンバーライトやランプロアイトと呼ばれる)に似た性質のマグマで、ガスの成分が多く、深部から高速で上昇してきたと考えられています。つまり、ダイヤモンドを捕獲してもグラファイトになる前に、地表にたどり着ける可能性があるのです。
 水上さんは、火山岩のもとのマグマができた条件を探るために、捕獲岩を詳しく調べて割り出そうとされていました。その時目をつけたのが、捕獲岩を構成する結晶(輝石)の中に含まれている小さな包有物(インクルージョンと呼ばれています)でした。包有物のうち、液体や気体の状態になっている流体包有物に着目されました。
 流体包有物を特殊な方法で調べていました。その方法はラマン分光と呼ばれるものでした。物質に光が当ると、散乱した光の中に、当てた光とは違った成分(波長)が含まれます。発見者にちなんでラマン効果と呼ばれます。散乱された光を詳しく調べると、物質の分子や結晶の状態を知ることができます。レーザーを当てて、物質の同定に用いるのをラマン分光法とよんでいます。
 ラマン分光法で流体包有物の中身を調べようと、水上さんはしていました。基準となる物質を選んでいるときに、ダイヤモンドのピークが見つかりました。それは、2007年の初めの頃だそうです。この時用いた装置の分析能力(空間分解能と呼びます)は、「直径1ミクロンメートル×深度2ミクロンメートル」という微小なものでした。見つかったダイヤモンドは、顕微鏡でも見ることのできない1ミクロンメートルほどでした。
 では、なぜ日本列島の地下でダイヤモンドが形成され、地表で発見されたのでしょうか。水上さんの仮説の紹介は、次回としましょう。

・産出頻度・
水上さんの報告をみていると、非常に慎重です。
日本鉱物学科でも、真偽を確認するために、
「日本産ダイアモンドについての緊急討論会」
が2007年9月23日に開催されています。
岩石を磨く時に、ダイヤモンドの粉を使います。
それの混入がなかったかのチェックが、重要となるはずですが、
それは充分検討されているはずです。
ラマン分光装置の分解能力が深度方向に広がっていることが重要です。
また、共存している相からも包有物の中だと考えられています。
私は水上さんと直接話をしたわけではないので、
どの程度の頻度でダイヤモンドが見つかったのか知りません。
他の捕獲岩の試料の、同じ鉱物から発見できれば、
ダイヤモンドが普遍的に存在することを確定できるはずです。
そして、他の地域からも発見の可能性が高くなってきます。

・北国春・
いよいよゴールデンウィークになります。
今年は、4連休になります。
北海道は例年より早い桜の季節を迎えています。
北海道の人が一番待ち望んで、
そして楽しみにしている季節でもあります。
ついついどこかに出かけたくなります。
石狩平野から眺められる、高い山並みにはまだ残雪が残っています。
スキーの好きな人は、今年最後のスキーを、
山登りのを待ちわびている人は、残雪の春山を、
花が好きな人は野山の散策に、
酒好きの人はいよいよ花見の季節の到来です。
我が家は、ニセコに春を火山を見に出かけます。
さて、山の様子はどうでしょうか。
まだ、山越えの道は通行止めでしょうか。
それが気になるところです。