2007年12月27日木曜日

6_67 2007年地質重大ニュース

 今年最後のメールマガジンとなりました。今回は、2007年を振り返り、地質学に関するニュースを振り返ってみたいと思います。

 今年、2007年に報道された地質学に関するニュースを振り返りましょう。これは、私が選んだものですので、その点を配慮してください。
・「天然ダイヤモンドの日本初発見」
 このニュースに関しては、エッセイでも取り上げたので記憶されている方もおられるでしょう。詳しくはホームページでのエッセイを参考にして欲しいのですが、私にとっては、科学成果が与える影響を考えるきっかけになりました。
・「かぐやの月探査」
 これのエッセイに取り上げたのですが、小惑星はやかわの探査を成し遂げた「はらぶさ」に続く快挙でしょう。日本の宇宙探査技術の高さを示すものでした。
・「恐竜化石発見ラッシュ」
 このニュースは、いくつもの発見が相次いであり、ついついエッセイでも取り上げるがおろそかになりました。ざっと眺めていきましょう。1月には国内最大級の恐竜の「丹波竜」が、非常によい状態で発見されたと報道されました。福井では恐竜の皮膚の跡の化石が発見されています。国内最古級のハドロサウルス類の化石が、熊本県御船から発見されました。和歌山でも、カルノサウルス類の化石が発見されています。こうしていみていくと、日本も恐竜化石の産地と呼べるような気がします。
・「能登半島地震」および「新潟県中越沖地震」
 巨大が地震が2つも続けて起こりました。実は、このエッセイでは、災害に関わるものを、以前書いたことがありました。しかし、読者の方や、関係者からいくつかの反応があり、個人で発信することに関して、慎重になるべきだと反省しました。その一つの哀れがダイヤモンドの発見についてのエッセイもでありました。
 災害に関しては、よほどいうべきこと、いいたいことがない限り、不用意に取り上げないようにしていました。そのせいもあって、大きな地質現象である地震も、今年は取り上げせんでした。ここでは、概略だけを見ていきましょう。
 能登半島地震は、2007年3月25日9時41分58秒、石川県輪島市西南西沖40kmを震源とするM6.9の地震でした。現在では、能登の幹線道路は、ほぼ開通しました。能登有料道路も11月末までにすべての迂回路が解消されたと報道されています。しかし、災害から完全に復興したわけではありません。
 その記憶も醒めやらない2007年7月16日10時13分23秒に新潟県中越沖地震がおきました。新潟県上中越沖を震源とするもので、Mは6.8でした。2004年10月23日午後5時56分に発生したM6.8、震度7を観測し大きな被害を出した記憶にも新しい新潟県中越地震(新潟県中越大震災とも呼ばれています)の3年後のことでした。新潟県では7月16日より地震の被害状況の報告が公開されています。そして、12月18日15時現在として、地震による被害状況の報告の第213報が出されています。まだ、この地震の被害が継続し、復興作業は続いています。
 現在もこれら地震の影響は残っています。それを研究している人もおられます。災害を伴う地質現象に対して意見を述べるのは、注意が必要です。ただ、私は、意見を述べない態度を固持するつもりはありません。述べるべき場では、はっきりと述べるつもりです。このような姿勢が、いいことなのか悪いことなのかわかりませんが、少なくもと被災者がおられる限り配慮する必要があります。特に地震のように、被害が大きい場合は注意が必要だと感じています。
 実は、私にとって2007年は、科学と自然、科学と人間、科学と社会、科学と自然災害、科学者と被災者、科学者と成果の普及などなど、科学を取り巻くもろもろのものとを関係を考えさせられる1年だったような気がします。

・地球のつぶやき・
私は、意見の述べる場として
別のメールマガジンを利用しています。
月刊の「地球のつぶやき」
http://terra.sgu.ac.jp/monolog/
と、地域の自然との関わりには、月刊の「大地を眺める」
http://terra.sgu.ac.jp/geo_essay/index.html
の2誌です。
私は、両メールマガジンを、
充分な分量をもっていいたいことをしっかりと述べる場としています。
このような場を自分自身では用意し、区分けしているので、
この週刊メールマガジンの「地球のささやき」では、
地質学に関係する軽い短い読み物を心がけています。
そして地質や地球、宇宙、自然に関して興味を持ってもらえるように
科学普及の私なりの方法だと考えています。
来年からもこのような姿勢で連載を続けていくつもりです。
もしよろしければ、これからも購読をお願いします。

・愛読御礼・
今年も毎週かかすことなく、
このメールマガジンを発行することができました。
これは、読者の方がおられるから継続できたことです。
読者の方から100通以上のメールをいただきました。
私からも同じほどのメールを差し上げました。
このような読者との交流があり、
読者がおられて、読まれているという手ごたえが
このメールマガジンを継続させていく原動力となっています。
メールを頂かなくても、読んでもらっているはずという前提が
私の励みになっています。
今年1年の愛読ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。

2007年12月20日木曜日

2_59 恐竜絶滅の隕石2:小惑星帯より

 恐竜絶滅をさせた隕石は、小惑星帯に存在するある天体の衝突がきっかけだったという説がだされました。果たして、その説はどこまで正しいのでしょうか。

 前回、隕石の衝突頻度に関する情報と、それが恐竜絶滅を引き起こした隕石と関係があるという報告を紹介しました。今回は、その内容を、もう少し詳しく示しましょう。
 ボットク(Bottke)らの報告では、小惑星帯での中に、バティスティーナ族という一群の小惑星に注目しています。その族のなかで、298バティスティーナと呼ばれる小惑星が、最大で直径40kmほどあります。同じような組成、軌道を持つ小惑星が大小、多数見つかっています。それらをまとめて、バティスティーナ族としています。これらは、もともと同じものであった可能性があります。
 それに気づいたボットクらは、これらの小惑星群の軌道情報から、過去にどのような振る舞いをしていたのかを、形成時までコンピューターを使ってシミュレーションして遡ってみました。その結果、衝突の事件を見つけることができました。
 一番現状によく合う事件は、約1億6000万年前に、直径170kmの天体に、直径60kmの天体が、秒速3kmで正面衝突するというシミュレーションでした。このような衝突が起こると、直径1kmをこえるような破片を、1000個以上できることがわかってきました。
 小惑星帯は、火星と木星の間にあるですが、特殊な領域があります。その領域とは、火星と木星の重力の影響で、大きな天体が、地球軌道を横切るようなところに飛ばされるようなところです。もし、衝突の事件がこの領域で起きたとすれば、サイズの大きな天体は、1億6000万年前以降、地球や月に衝突すること多くなると予想されます。
 そこで、先に述べた隕石の衝突頻度の話につながるわけです。白亜紀から新生代初期にかけて、ここ1億年ほどクレータの形成頻度が増えています。それと、この衝突事件は呼応しています。また、月のティコ・クレータは、1億0900万年前の隕石衝突の激しい時代にできています。ですから、このバティスティーナの小惑星群と関係があるかもしれません。
 また、現在ある298バティスティーナの表面の分光分析の結果から、原始的な炭素質コンドライトとよばれる隕石と似た組成を持っていると考えられます。これは、白亜紀の恐竜絶滅を引き起こした隕石の種類と同じタイプのものです。
 このような情報から、すべて丸く収まりそうなのですが、実は問題があります。
 地球上の2億年前より新しい時代に形成されたクレータで、1km以上の直径を持つものは、8個見つかっています。1km以上のクレータを形成するには、直径50m以上の天体が衝突しなければなりません。ですから、これらのクレータとバティスティーナ族の形成時間が関係している有力な証拠となりそうです。
 ところが、これら8個のクレータを形成した衝突天体は、恐竜の絶滅を引き起こしたもの以外は、炭素質コンドライトでないことがわかっています。これは、今までの議論と矛盾しています。恐竜絶滅のクレータ(チクシュルーブ・クレータ)以外は、バティスティーナ族ではないことになります。もちろん、バティスティーナ族がチクシュルーブ・クレータを形成した可能性はありますが、隕石の頻度を説明したことにならないわけです。
 しかし、この報告から重要なことがわかります。それは、この方法を使えば、小惑星帯に特異な軌道を持つ天体群を見つけ、その軌道データとシミュレーションから、地球や月のクレータをつくった事件と対応できるかもしれないということです。それは、未来に起こる事件かもしれません。

・シミュレーション・
シミュレーションは可能性と危険性を秘めています。
両者を分けるのは人間ではないでしょうか。
シミュレーションの結果に問題があるのではなく、
その結果を利用する人間側の問題です。
論理的に考えれば、わかることですが、
ある初期条件や仮定をおいて、ある手続きをへておこなったのが
シミュレーションで、その結果はひとつの可能性に過ぎません。
シミュレーションの結果がある説に反しても、
その説を否定したことになりません。
その説の可能性を下げることになっても、
その判断は人間が下すものです。
シミュレーションは人間の判断を助けるものであって、
判断を下すものではありません。
今回のシミュレーションの結果は、
さまざまな証拠を満たすものではありませんでしたが、
方法を示したという点では重要な意義があると思います。
ただ、このような方法が、
他の小惑星群に、どの程度適応できるのかが、
次の問題となるのでしょう。

・年末・
今年も残るところ、あと少しとなりました。
あわただしさが続いています。
特に年末は忙しく、時間がなかなかとれません。
私は、24日の祝日と母の訪問(26日から正月まで)があるので、
研究室にいることはできません。
ですから、空き時間を見て
自宅で仕事をするしかありませんが、
そうそう時間が取れそうにありません。
ですから、研究室にいれるあと数日が
私とっては、重要になります。
でも、その残された時間も校務が割り込んできます。
それらの校務も重要で、仕方がないことなのですが、
なぜ、この時期という疑問もあります。
まあ、愚痴を言っている時間があれば、
仕事に励みましょう。

2007年12月13日木曜日

2_58 恐竜絶滅の隕石1:衝突頻度

 恐竜を絶滅させた隕石について、興味深い論文が報告されました。今回は、隕石と絶滅を中心として話題を紹介しましょう。

 今では多くの人が、恐竜の絶滅が隕石の衝突によるものであるという説を知っています。では、その隕石が、どこから由来し、どのような原因で、どのような経路で、地球に衝突したのでしょうか。それを調べるのは、なかなか困難な問題です。なぜなら、隕石の衝突は、過去の出来事ですし、隕石が廻っていた軌道を、もはや計算することができないからです。
 そんな困難な問題にも、いくつかアプローチがなされています。その一つとして、ボットク(Bottke)らが2007年9月のネイチャーという雑誌に、恐竜を絶滅させた隕石について、興味深い論文を報告しました。その内容を紹介する前に、地球に落ちてきている隕石が、時代ごとに頻度に変化があるかどうかを調る方法を見ていきましょう。
 一つの方法として、宇宙塵を利用するものがあります。実は、地球には、隕石の小さな粒が、いつでも、地球中に、たくさん降ってきています。もちろん今現在も落ちています。このような隕石の小さな粒は、宇宙塵と呼ばれています。古いビルの屋上で、掃除があまりされていないところを、ほうきではけば、宇宙塵を集めることができます。
 ある時代に溜まった堆積岩の中の宇宙塵を調べれば、その時代にどの程度降ってきていたかを定量的に調べることができます。調べてみると、いつの時代も同じ量の宇宙塵が降っていたわけではなく、たくさん降っていた時代があることがわかってきました。宇宙塵は、約3500万年前(始新世後期)や約800万年前(中新世後期)、4億8000万年前(オルドビス紀)など、たくさん降った時代があることがわかってきました。
 また、地質学的に衝突の記録がない時代でも、地表に残された隕石の衝突の跡としてクレータのできた時代や、衝突の時に飛び散った物質からできた地層などから、衝突が多かった時代を知ることができます。それによると、34億7000万~32億4000万年前、26億5000万~25億年前などの時代に激しい衝突があったことがわかります。
 さらに古く、地球に記録のない時代のことについては、月のクレータの形成年代を参考にすることができます。月は地球の衛星ですから、地球の近くを廻っています。もし月に隕石の衝突が頻繁にあれば、確率的にも地球への隕石の衝突も激しかったと考えられます。月では、40億年前まで、天体形成の材料物質(小天体)の名残がまだたくさんあり、その影響で衝突が激しかった時代があります。名残の衝突が一段落した後、38億年前に、再度激しい衝突の事件がありました。この衝突は、後期の「重爆撃(heavy bombardment)」と呼ばれている事件です。
 そして、理論やコンピュータのシミュレーションを用いたアプローチもあります。ある説では、ここ1億年間は、隕石の衝突頻度が多くなっている時代であるという説もあります。
 さて、これらの衝突頻度に関する情報が、恐竜絶滅の隕石とどのような関係があるのでしょうか。それは次回としましょう。

・ばたばた・
あれよあれよという間に、時間は過ぎていきます。
師走ももの中旬となりました。
締切りが過ぎて、少し待ってもらっていた論文がやっと手放せました。
でも、やり残した仕事もいっぱいあります。
年賀状はまだできていません。
1月中旬締切りの論文が、次は控えています。
ばたばたと仕事に追われて
走っています。
これが師走なのでしょうか。

・忘年会・
今週末には2つ目の忘年会があります。
私は、公式の飲み会には可能な限り参加しています。
宴会の場は楽しいからです。
先週も学科の忘年会がありました。
めずらしく教職員全員が集まりました。
とはいっても総勢11名ですが。
これくらいの人数が、
皆で共通の話題を話すにもちょうどいいし、
個別に話するのもちょうどいいようです。
時間制限がなかったので、
1次会で4時間ほど皆で話していました。
今週末は大人数なので、
近くのテーブルに座った人との会話が中心になります。
これは、これで楽しいのですが、
ホテルの宴会場なので、スケジュールが決まっているので
時間が自由になりません。
まあ、これはこれは楽しいのですが。

2007年12月6日木曜日

3_62 大陸地殻の形成:伊豆・小笠原諸島から

 JAMSTECは、伊豆・小笠原諸島で大陸地殻の形成の証拠を発見した、と報告しました。今回は、そのニュースを紹介しましょう。


 大陸と海洋の地殻をつくっている岩石は、違っています。海洋地殻をつくっている玄武岩類は、海底の中央海嶺でできるメカニズムが解明されています。ところが、身近であるはずの大陸地殻が、実はどのようにしてできてきたかは、よく分かっていませんでした。
 独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、大陸地殻のでき方が伊豆・小笠原諸島の海洋調査からわかってきたというニュースを発表しました。この報告は、2007年11月1日のGeologyという雑誌に掲載されました。
 大陸地殻が花崗岩の仲間(トーナル岩と呼ばれる岩石)や安山岩からできていることは、大陸を構成している岩石を調べることでわかります。では、このような大陸を構成している岩石が、いつ、どこで、どのようにしてできてきたかは、仮説はいろいろあったのですが、よくわかっていませんでした。地震波を利用した海底調査から、今回、実証的にわかってきたのです。
 日本列島の研究から、列島のようなところ(島弧と呼ばれています)が、大陸の地殻の形成場であると、推定されていました。しかし、日本列島のような発達した列島(成熟した島弧と呼ばれます)は、構造が複雑でなからずしも、大陸の形成場であるという充分な確証が得られていませんでした。
 もし大陸の形成現場を探るなら、できたての列島(未成熟島弧と呼ばれます)を探ればいいわけです。その候補として、伊豆・小笠原諸島がいいとされていました。伊豆・小笠原諸島は、島がいくつもあるものの、大部分は水中にあるため、海底の調査が必要となります。
 JAMSTECは、海洋調査船「かいよう」を用いて、213箇所、相模湾から北硫黄島北方までの1000kmの長さ(側線といいます)にわたって、海底地震計を設置しました。2004年7月と2005年7月に、1ヶ月に渡る調査を2回おこないました。
 その方法は、海面で人工地震(エアガンで音波を海底に向けて発振する方法)を起こし、海底下約35kmまでの地殻を調べるというものです。この観測によって、地殻とマントルの地質構造を調べることができました。
 結果は、予想通り、大陸地殻を構成している岩石が、伊豆・小笠原諸島に、南北に直線状にあることがわかりました。そして、火山のある地殻が厚くなっていることから、大陸地殻をつくるメカニズムは、火山が原動力であることがわかってきました。
 実は、科学の成果の発表だけで話は終わらず、この成果は領土問や漁業権などと密接な関係があることがうかがわれます。
 海岸線から12海里を領海、24海里を接続水域、200海里(約370km)を排他的経済水域と定められています。そして200海里までを大陸棚と定義しています。大陸棚では、天然資源(漁業や海底資源)の開発の主権と、構築物の設置・利用の管轄権が認められています。また、上記の原則以外にも、地理的条件等によっては、海洋法によって大陸棚を延長することができます。
 もし、伊豆・小笠原諸島に大陸棚の存在が科学的に示されたら、排他的経済水域の定義に、根拠を与えることになります。
 今回の調査は、北硫黄島の北方海底でままで、ここより南の海域は調査されていません。いってみれば、排他的経済水域内での調査です。ただ、海底地形図を見ていると、伊豆・小笠原諸島にみられる高まりと似たものが、南に続いています。もし、そこまで大陸地殻の生成が確認できれば、大陸棚を主張する根拠になります。伊豆・小笠原諸島の南側は、アメリカのマリアナと排他的経済水域が接しています。今のところアメリカとの領土問題はありませんが、今後のことを考えると領土を確固たるものにすることは重要となります。
 多くの科学は、国の税金を用いてなされています。今まで科学者は、国よりも科学の成果を優先していたのですが、これからは成果が与える影響も考慮しなければならないようです。

・成果への配慮・
JAMSTECのプレスリリースには、
研究成果とともに、背景として
「大陸的な地殻の存在や日本領土からの連続性などの地質学的知見は、
大陸棚延伸を主張する上で重要な科学的根拠となります(以下略)」
という記述がなされています。
これは、研究成果が、領土や排他的経済水域を考える根拠となることを
意識していることを物語っています。
今までこのような成果に対し、
科学者は無頓着に公表してきた気がします。
しかし、これからは、配慮を持って
成果の公表をしなければならない時代なのかもしれません。

・師走・
いよいよ師走となりました。
皆さんも、年末や来年のことが気にされていることでしょう。
忘年会もはじまってくるでしょう。
私も金曜日に最初の忘年会があり、
今週末には小学校の餅つき大会があります。
大学の講義も終盤になってきました。
今年中にしなければならないこと、
したかったことなどが、頭をよぎります。
なにかとあわただしくなってきました。
そういえば、年賀状も買ったままになっています。
やるべきことを、順番にこなしていきましょうか。