2007年9月13日木曜日

5_65 かなたの星まで5:すばる望遠鏡

 地上の望遠鏡でも、ハイテクを利用することで、宇宙望遠鏡に劣らない精度の観測が、なされるようになってきました。その代表が、日本が世界に誇る「すばる望遠鏡」です。

 大気圏外に望遠鏡を上げて、大気や重力による影響のない観測を行うという話を前回しました。宇宙望遠鏡もいいことばかりではなく、問題もあります。費用がかかる点とメインテナンスが大変であるという問題です。
 1990年4月24日に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡は、打ち上げ直後に、製作ミスでレンズがゆがんでいることがわかりました。そのミスは、鏡の端が設計より0.002mmのゆがみでした。そのため、設計上の性能と比べて、5%の解像度しか出なくなっていました。それでも地上の望遠鏡の性能には勝っていましたが。
 当初、観測データを、ソフトでなんとか補正したのですが、1993年12月、スペースシャトルによって、その歪みが修理によって補正されました。その修理は非常に難しい作業であるために、スペースシャトルのクルーは1年間訓練を積みました。
 ハッブル宇宙望遠鏡は、15年(2005年まで)の運用期間を予定したのですが、2013年まで利用を続けるための修理が行われました。メインテナンスができなくなれば、軌道上に留まることができず、やがては落下してしまいます。これは、宇宙でのメインテナンスが大変だということを示す好例です。
 ハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げ直後の1991年に、地上で最大の望遠鏡の計画が持ち上がっていました。日本の「すばる望遠鏡」です。この望遠鏡は、世界最大の直径8.3mを有する一枚鏡の反射望遠鏡です。この鏡は、7年以上の歳月をかけてつくられました。
 すばる望遠鏡は、ハワイのマウナ・ケア山頂(標高4,205m)に建築されました。1998年10月に完成し、1999年1月29日にファーストライトをとらえました。
 大きな鏡は、どうしても、地球の重力でたわみます。そのたわみをコンピュータが補正して、反射鏡の裏からの261本もあるアクチュエータとよばれるもので、正確に修正していきます。その結果、すばる望遠鏡の鏡面は、常に100nm(10の-7乗メートルの桁)の精度を保っています。また、建物の中の空気の乱れも最小限にする工夫もなされています。
 それでも、大気の乱れによって、星がゆがんで見えます(シンチレーションと呼びます)。位置のわかっている明るい星が、観察したいの星の近くにあれば、それの明るい星を基準(ガイド星)にして、補正されます。ガイド星が大気の乱れで見える位置が変わると、その乱れを即座に計算して、リアルタイムで補正しながら目的の星の光を観測しています。
 もし、近くにガイド星がないときは、人工的にガイド星をつくるということがなされています。レーザーを天文台から空に向けて照射します。高度100kmほどのところにあるナトリウム層に、そのレーザーをあて、ナトリウムを発光させます。するとそれがガイド星と同じ役割を果たします。この方法は、日本が独自に開発して、すばる望遠鏡で2006年10月にはじめて成功しました。
 もっと解像度を上げることが、将来、可能でしょうか。いいかえると、いくらでも解像度を上げることができるからということです。
 実は、解像度には限界があります。光は、粒子と波の両方の性質を持っています。光学望遠鏡は、光の粒子としての性質を利用して解像度を上げてきました。しかし、解像度が上がるにつれて、より小さいのもの、つまり光の波長に近づいてきます。もし波長より小さくなると、光は波の性質によって回折という現象が起きます。回折現象がおこると、物体の後まで光が回りこんでしまい、光が曲がって、到達しないはずのところまで光がとどきます。回折がはじまるところが、解像度の限界(回折限界とよばれます)となります。
 近赤外線の波長領域では、ほぼ観測限界に達しつつあります。今のところ、すべての波長で限界には達していませんが、近いうちに、ほぼ限界の能力を持つにいたることでしょう。
 しかし、まだまだ人間の智恵は留まるところを知りません。銀河内の天体の年周視差を、宇宙望遠鏡のヒッパルコス衛星より、もっと精度を上げて測ろうという試みがなされています。これは、次回としましょう。

・設置の条件・
すばる望遠鏡の性能は素晴らしいだけではなく、
その性能を十分活用した成果も多数挙げられています。
赤外線による最遠の超新星爆発、
最遠(128億光年)の銀河団、
最遠(128億8000万光年)の銀河、
など多くの大発見しています。
本当は、日本に望遠鏡があればいいのですが、
そうもいきません。
望遠鏡の精度を考えると、
観測条件もよくないとなりません。
そのような場所は、やはり限られてきます。
光の害がないこと(都会から離れている)、
大気がきれいなこと
晴天率が高いこと、
気流が安定していること、
広い範囲の星域を観察できる地形(高い標高がいい)、
などを考えて、天文台が設置される場所が選定されます。
チリのアンデス山脈、カナリア諸島などの高山も条件を満たしますが、
地の利でハワイのマウナ・ケアが選ばれました。

・帰省・
このメールマガジンが皆さんの届く頃、
私は、愛媛県西予市城川町にある地質館で作業をしているはずです。
毎年のように訪れている城川ですが、
今年がいよいよ区切りとなりそうです。
この作業が終わったら、
次に、どのようなことをするかは、まだ未定です。
しかし、今では、城川は私の第2の故郷のようになっています。
私が子供の頃に見ていた田園風景を
城川では、今、見ることができます。
そんな郷愁を味わいながら、
どんな雑音にもさえぎられることなく、
仕事ができるのは、非常にありがたいことです。
いつも、行けば、リフレッシュすることができます。
今年も、そんな「帰省」をします。