2007年5月3日木曜日

3_53 アカスタ片麻岩:思い出の石ころ2

 思い出の石ころシリーズの2回目は片麻岩という石です。今回紹介する片麻岩は一味違った意味があります。


 1990年7月15日から8月14日まで約1カ月、カナダで地質調査をしました。その主たる目的は、アカスタという地域にでる片麻岩の調査でした。
 1989年の科学雑誌に、カナダ北西準州のアカスタ地域から、39.8億年前の岩石が発見されたという論文が発表されました。それまで地球最古のの岩石は、グリーンランドの38億年前のものだったのですが、その記録を一気に2億年もぬりかえたのです。その直後に、私は、アカスタ地域の片麻岩の調査をすることになりました。
 その新記録樹立には、高精度の最新の分析装置(SHRIMPと呼ばれる微小部分の同位体測定装置)が利用されていました。そして、最古の岩石の発見は、アカスタという地域と分析装置のSHRIMPを、一気に世界的に有名にしました。
 片麻岩とは、縞状の模様があり、その縞模様が曲がりくねっている岩石ものです。かなりの高温高圧の変成作用で片麻状の組織ができます。もとの岩石は、堆積岩のこともあるし、火成岩のこともあります。アカスタの最古の片麻岩は、トーナル岩という火成岩が変成作用を受けたものでした。
 発見者である地質学者たちが、その当時、アカスタでまだ調査をしていたので、彼らのキャンプに合流して、調査をすることになりました。アカスタは、湖がいっぱいある広大な露岩地帯です。大きな湖の中の島にキャンプ地がありました。
 私は、アカスタでいろいろが岩石を探すこと目的としてましたが、やはり一番の目的は、当時最古の片麻岩を調査することです。
 カナダの地質学者たちは、広域を踏査して、必要な試料を採取していくという手法でした。一方、私たち日本の地質学者は、詳細な地質調査をすることを身上としていました。もちろん私も日本的なスタイルで、アカスタ片麻岩を中心に地を這うように調査をしました。
 何日か調査していくと、その地域の岩石の構成がわかってきました。火成岩は、マグマが冷え固まったものです。マグマは地下深部できます。マグマが深部から上がってくる時に、上ですでに固まっている岩石を割って上がってきます。このような関係を貫入といいます。ですから、火成岩を調べれば、貫入関係から、形成時期の前後関係を知ることができます。調査の結果、アカスタ地域の貫入関係をまとめることができました。
 私の調査で、最古の年代を出したトーナル岩が貫入している閃緑岩があり、すべてに貫入されている斑れい岩があることがわかりました。年代決定はされていませんが、最古の片麻岩より古い岩石が2種類もあることが明らかになったのです。
 その後、私は所属が変わったので、その研究を続けることはできませんでしたが、そのマグマの貫入関係だけは論文として記録に残していました。その後、その地を調べていた地質学者たちによって、39.8億年前よりさらに古い40億年前の岩石も発見されました。
 私には、はじめての極北の地域での調査でした。大量の虫、そして雄大な野生、自然に圧倒された調査でした。アカスタのトーナル岩質片麻岩は、そんな思いを思いこさせます。今でも私のコレクションとして棚に収められています。

・違う視点で・
アカスタは、極北地域で道などないところです。
そこに行くには飛行機しかありません。
もちろんそのような人跡未踏地に飛行場などありません。
湖が多数あるので、水上飛行を使えば、どこにでも着水できます。
水上飛行でアカスタのキャンプ地まで行きました。
カナダの地質学者たちは、
専属のヘリコプターとそのパイロットを雇っていました。
彼らは、研究費や調査費をふんだんに持っていますので、
そのような夢のような調査ができるのです。
しかし私は、ヘリコプターで目的地に下ろしてもらって、
帰る時間がきたら、予定の地点に迎えに来てもらっていました。
地を這う日本的な詳細な調査をしました。
その結果、同じものをみていても、違う視点でみれば、
違ったものが見えてくるということが実感できた調査でした。

・連休後半・
ゴールデンウィークの後半がはじまりました。
北海道は連休の間の2日間の平日は、天気が悪く、
後半はどうなるか心配です。
天気を心配していのは、
後半の連休に道南の恵山に登る予定をしているからです。
恵山はまだ蒸気を出している火山です。
以前、近くには行っているのですが、
周囲を詳しく見たことがないので、
恵山とその周辺を見ることが今回の目的です。
家族は、温泉と登山が目的です。
遠いので、2泊3日の予定となります。