2006年12月28日木曜日

2_54 生命の起源7:地球外有機物

 生命起源の間接的アプローチとして、地球の材料物質から探ろうという試みがなされています。

 もし、地球をつくった材料の中に、生命誕生に必要な素材があれば、地球上での生命の合成におけるいろいろな難しさはなくなります。
 地球をつくったような材料物質は、太陽系の始まり頃にたくさんあった隕石です。そんな隕石が今も時々落ちてきます。
 なぜ、始まりの頃のものかわかるのでしょうか。それは、隕石のできた年代が、45.6億年前であること、そして炭素質コンドライトとよばれている隕石の化学成分は、気体成分を除くと、太陽の化学組成とそっくりなことです。もし、隕石がたくさん集まれば、太陽、そして太陽系がそのままできると考えられます。もちろん惑星もです。
 ですから、地球の材料物質も、隕石を調べれば、どのようなものかがわかります。隕石の精密な化学分析をしたところ、中に有機物が含まれていることがかわりました。この分析の発表当初は、隕石が地球に落ちたときに、地球生物の有機物が汚染したと指摘されました。
 その後、地球生物の汚染のない南極の氷の中でみつかった隕石の分析や、1969年にオーストラリアに落下した直後で汚染のないマーチソン(Murchison)隕石の分析など、各種の検証によって、隕石に有機物が含まれていることが確実になりました。
 現在では、有機物が、炭素質コンドライトからたくさん発見されています。その中には、地球生命の生体物質あるいはその前駆体、材料物質となるものが多数発見されています。
 隕石は、原始太陽系のガスの中で形成されました。そのガスは、宇宙の主成分である水素(H2)とヘリウム(He)です。しかし、その他の成分も量は少ないながら含まれています。酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)など有機物合成に不可欠な成分もあります。それらが、原始太陽系の初期に化学反応を起こして、有機物に必要な成分がいろいろな合成されたと考えられます。
 もしそうなら、これは太陽系だけの条件やブレンドによって、生命に必要なものがたまたまできたのかもしません。
 ところが、このような化学合成のプロセスは、ありふれたことであるのがわかってきました。宇宙でガスの多いところを観測すると、どのような化合物があるかがわかります。そのような観測によって、生命の材料として重要な成分もたくさん発見されてきました。ところが、その多くは分子量の小さい成分でした。しかし、宇宙線の照射によっても、分子合成が簡単におこなわれていることをがわかってきました。
 もちろん、このような成分から直接生命が合成されることはないでしょうが、このような分子の存在は、宇宙空間のような真空に近い低密度、極低温、低エネルギー状態であっても、分子合成が可能であることを示しています。つまり、生命の材料物質は、特別な元素や特別な物理化学的条件を必要とするものではないようです。ごくありふれた存在であることを示しています。宇宙空間は、生命の材料合成の場として不適ではないのです。まして、天体上の恵まれた環境では、生命の合成は、より有効におこなわれることになります。
 ところがせっかくできた隕石のなかの生命の素材は、隕石が地球に衝突したとき発生する高温高圧によって、すべて分解すると考えられます。元の木阿弥とは、このことなのでしょう。だから、地球の環境や素材で生命合成が考えられているのです。

・地球外有機物・
最近、宇宙空間での有機物の化合が見直されています。
それは、いくつかの理由があります。
1986年にハレー彗星が接近したときの観測で複雑な有機物が発見されたこと、
土星の衛星タイタンの探査から有機物らしきものが発見されていること、
惑星誕生の場を想定した実験で分子量の大きな有機物が合成されること、
などから、どうも原始太陽系には、
いろいろな有機物がたくさん形成されていたかもしれないと
考えられるようになってきました。
すると、そのようなガスが一時的にでも、
原始の惑星の大気としてあれば、
惑星表面に有機物が労せず集めることができます。
また、氷の惑星でも、有機物がたくさん存在することになります。
私たちが知らないタイプの生命がいる可能性もあるのです。

・ラセミ体・
隕石から発見される有機物のアミノ酸も糖もラセミ体とよばれるものです。
有機物には、同じ成分でも、
鏡に映して対象になるような構造を持つ2つものができます。
右利きと左利きにたとえられることがありますが、
D体、L体、あるいはR体、S体などと呼ばれています。
隕石の中の有機物は、その比が1:1に混合しているラセミ体となっています。
ところが、生命は、どちらか一方のみを利用しています。
化学的には似ているものなのですが、生命は区別しているのです。

2006年12月21日木曜日

2_53 生命の起源6:現在の生物から

 生命の起源を、現在生きている生物から探る方法を紹介しましょう。古細菌という生物がどうも手がかりとなりそうです。

 現在生きている生物から、生命起源を推定する方法は、いくつかあります。
 分子レベルで比較する方法があります。すべての生物がもっている共通の分子から、その配列の違いを比べることによって、分類をしていきます。もしその物質が進化の過程で、単純なものから複雑なものになってきているのであれば、その複雑さの程度から、生物の進化の程度を定性的に見積もることができます。比較生化学とも呼ばれる方法です。
 現在の真核生物がすべてもっている5SリボゾームRNA(5S rRNA)という核酸塩基配列を解析していきます。5SリボゾームRNAのように十分複雑であれば、この配列の違いは、生物としての変化の程度を示しているとみなせます。そして、いつごろ祖先から分岐したか、進化したかを計算で推定すことができます。まあ、真核生物だけですので、生命誕生にはこの物質は利用できませんが、真核生物の出現は、20億年前という値が出てきています。このような分子を進化の時計代わりに利用するものを、分子時計と呼んでいます。
 もっと、わかりやすものとして、現在の生物を分類していく方法です。多くの生物の系統関係を調べ、一番祖先に当たると思われるものを、現在の生物から見つけ出します。その生物が、最初の生物にふさわしいかどうかを検討していきます。もしその生物が、初期地球で最初に誕生した生物として問題がなければ、それと似た生物が、最初の生物の可能性がでてきます。その生物がたくさん手に入るなら、どのような条件を好むのか、どのような条件まで生存できるのかなどを、実験によって確かめることができます。
 系統からみると、最初の生物の候補として、非常にシンプルな生活様式をもつ古細菌があげられます。古細菌には、好熱古細菌、メタン細菌、高度好塩菌など、特異な生化学的特徴をもつ細菌の仲間です。現在の生物にはとうてい住めない環境でしか生育できないようなものが、たくさん見つかってきました。現在では、特殊な環境にだけではなく身近な環境にもよく見られる生物であることがわかってきました。古細菌の名前は原始地球に最初に登場した細菌の直系の子孫とされたことに由来しています。
 現在では、全生物は、古細菌、真正細菌、および真核生物の3つに大きく分類されるようになってきました。これは以前の5界分類よりもっと上の分類体系になり、ドメインと呼ばれています。
 古細菌は真核細胞と類縁性があることがわかってきました。それは、古細菌に、真正細菌が共生してミトコンドリアや葉緑体になり、真核生物になったという細胞共生説とよばれるものです。この説も、証拠がいくつも見つかり、認められるようになってきました。
 最初の生物は、深海の中央海嶺の火山にある熱水噴出孔や、そこに噴出メタンガスを利用するような古細菌ではないかと考えられています。

・古細菌・
古細菌は、最近見つかりました。
最近とはいっても、1977年のことですが。
ウーズとフォックスは、それまで生物が、
真核生物と原核生物に分類されていたのですが、
古細菌の発見によって、真核生物、真正細菌、古細菌の
3つに分けるべきであると主張しました。
その報告が、古細菌の重要性をはじめて世に示したものです。
古細菌の研究が進み、メタン細菌の仲間は、
1980年代に大量に発見されました。
現在も研究中で、その系統関係もたびたび変更されています。

・進歩・
12月もあと少しとなりました。
私は、今年中にすべきことが、まだ終わっていません。
できないにしても、可能な限り仕事を進めておく必要があります。
休むことなく、気を抜くことなく、仕事をしなければなりません。
しかし、25日から母が我が家にきます。
1月1日まで滞在します。
温泉に連れて行ったり、宿泊する予定もあります。
授業も27日まであります。
ですから、年末は忙しくなります。
だから、じっくり仕事をしている余裕がないのです。
このような状態は、毎年のことです。
ということは、私は進歩していないということでしょうかね。

2006年12月14日木曜日

2_52 生命の起源5:生命をつくる

(2006.12.14)
 前回、生命の合成における歴史的なミラーの実験の話をしました。今回は、その後の話をしましょう。

 ミラーによる生命誕生に迫る最初の合成実験は、学界に大きな刺激を与えました。研究者は、その後、さまざまな条件を考えて、合成実験を行っていきました。さまざまなの条件とは、原始地球であったであろう環境で、生命が誕生しそうなもののことです。まだ、どこで誕生したのか、どのようにして誕生したのかもわからない生命ですが、それを実験的に探れる可能性がでてきたのです。その重要性は、多くの研究者が理解し、そしてその研究に魅了されました。
 まず、大気についてです。かつては原始大気は還元的(メタン、アンモニア、水素)であったと考えられていたのですが、近年では酸化的(二酸化炭素、窒素、水蒸気)なものと考えられるようになってきました。ですから、ミラーの大気の条件を変更して、いろいろな合成実験がなされました。
 何も大気中だけが、生命の材料の合成の場でなかったはずです。海洋や地殻の環境でも、どこでも合成がおこっていもいいはずです。合成実験では、深海熱水噴出口、火山、干潟なども候補として、それらの環境を模した実験がされました。
 化学合成のためのエネルギーとして、ミラーの雷の他に、当時の地球表面にあったと考えられるものであれば、何でもいいわけです。激しい火山活動、激しい干満の差、熱水、放射線(紫外線、宇宙線など)、衝撃波(隕石の衝突で起こる)などが考えられました。
 このようないろいろな条件(材料やエネルギー、環境)を想定して、多数の実験がされてきました。その結果、どのような生命の材料、エネルギー、環境を想定しても、条件さえうまく調整すれば、生命に必要な素材は、大抵合成できることがわかってきました。また、生命の入れ物(細胞膜)になるような物質の合成実験も成功しています。完全とはいいませんが、生命の素材として必要なものの多くが、そろってくるようになってきました。
 現在のところ実験室では、まだ完全な生命体はつくられていません。しかし、いいところまでいっています。生命合成は、純粋に科学的興味によって行われています。
 しかし、もし、本当に生命合成ができるようなったとしたら、さまざまな問題が発生する可能性があります。例えば、
・その合成生物は、地球生物全体にとって脅威はないのか
・人に有害とならないのか
・人が生命を創ることに問題はないのか
・このような実験に社会的に合意が得られているのか
・緊急事態の対処は可能なのか
などなど、いろいろ解決しておかなければならないことがあります。
 生命誕生の条件や環境探しだけの実験なら問題がないのですが、合成実験は明らかに生命合成を目指しています。まだ、生命合成の実験には成功していませんが、生命を試験管の中で合成できる可能性があるのであれば、生命に関する倫理や、検疫、隔離などの安全対策を考えておくべきでしょう。そんな時期はもう近いのかもしれません。

・科学者の倫理・
クローン羊ドリーの研究が発表されたときは、
多くの科学者が衝撃を受けました。
そして、それをマネ、引き継いだ実験が行われました。
その時、倫理の問題が生じました。
他にも、人細胞のクローン実験、臓器移植など、
科学が先行しすぎて、人間の心の問題が後追いで
議論されることがありました。
今までの倫理の問題は、人間の心の問題ですみました。
しかし、新しい生命の合成実験の成功は、
今まで地球生物にはないタイプの微生物かもしれません。
もし、それが実験室から流れ出て、自然界に入ったら、
一種の病原菌のような働きをするかもしれません。
現在の地球生態系に大きなダメージを与えるかもしれません。
そうなると、取り返しがつかなくなるかもしれません。
気づいたときには、手遅れということもありえます。
現状の実験がどの段階であっても、
生命合成が一気に完成する条件で、
だれかが実験をしているかもしれません。
そもそもこの研究の目的がそうであったはずです。
だから、新生命がいつ誕生しても不思議ではないのです。
そんなときに備えておかなければなりません。
それを一番知っている科学者が、倫理的な問題を、
もっと真剣に考える時期に、もうなっているのかもしれません。

・エルニーニョ・
昨日(12月12日)は、今まで冷え込みが緩み、暖かくなり雨が降りました。
積もった雪も大部溶けましたが、まだまだ道路以外は雪だらけです。
このように北海道の平年より早い雪、
どうもエルニーニョが発生したようです。
季節は巡ります。
巡る季節にも年毎に変化があり、長期的な変動があります。
エルニーニョはめぐる季節変動の最大のものです。
人は、日々の天気の変動に一喜一憂しながらも、
季節の変化を感じていきます。
その年の季節が平年と違うこと、
その違いにも数年の周期があることを、なんとなく感じてしまいます。
そんな人間や生命の能力は、いったいいつどこで手に入れたのでしょうか。
少なくとも誕生間もない生物にはなかったはずです。

2006年12月7日木曜日

2_51 生命の起源4:素材の合成

 生命誕生を調べる間接的方法として、実験室で合成していくというものがあります。しかし、当初それは実証不可能と考えられていました。

 生命の起源を調べるために、生命を合成するという方法があります。現実に起こったかどうかはわかりませんが、実験室で、生命誕生のプロセスを再現していき、生命の誕生に迫ろうという考え方です。最初から生命を実験室でつくるのは困難でしょうから、まずは、生命の素材をつくることからはじまりました。
 生命の化学合成について、最初に考えを発表したのは、旧ソ連のオパーリン(A.I. Oparin)でした。オパーリンは、1922年に生命起源について講演し、1924年にその内容を「生命の起源」でまとめました。
 オパーリンは、3つの段階を経て、生命は誕生したと考えました。
 第1段階は、生命体の基本となる窒素を中心とした化合物(窒素誘導体とよばれるアミノ酸、核酸など)が、地球初期にあったメタンがアンモニアと反応して合成されます。これは、無機物からできた有機物が合成されることになります。第2段階として、原始の海で、濃度の高い「有機物のスープ」をつくりアミノ酸が集まり、タンパク質を合成されていきます。第3段階は、タンパク質を中心とする集合体が、入れものにはって外界と物質代謝をしはじめます。たんぱく質が膜に入った粒状の組織(コアセルベードと呼びました)となり、大きく成長した粒が分裂していくようになったと考えました。ここまでくれば、生命と呼んでいいようなものとなります。
 このような段階は、化学進化(分子進化)と呼ばれています。化学進化は、地球が多様な環境で、長い時間かけておこした化学反応のはずです。実験室では、短い時間に限られた条件でしか調べることができませんから、科学的に実験室で合成するのは不可能と考えられていました。これが当時の常識でした。
 しかし、そんな常識を覆す実験が行われたのです。1953年、シカゴ大学のユーリー(H.C. Urey)を指導教官とする大学院生のミラー(S.L. Miller)が、オパーリンの第1段階に相当する部分を実験しました。
 当時、原始の大気は、還元的な大気だと考えられていたので、メタン、アンモニア、水素の混合ガスを原始大気に見立てて用いられました。その混合ガスを原始海洋に見立てた水をフラスコに入れて、水を沸騰させました。混合ガスの中では、雷に見立てた放電によって火花が散っています。水蒸気や混合ガスは循環するようにされていて、途中で生成物を集める仕組みをつっておきました。
 ミラーは、このような原始の地球の海洋と大気の状態を、1週間ほど継続して実験をしました。すると、シアンやアルデヒド、各種のアミノ酸が、合成されたのです。この実験は、2つの意味で多くの研究者を驚かしました。
 ひとつは、有機物は生物しか合成できないものだと思われていたものが、生命の関与しない(無機的といいます)条件でも、簡単に合成できることがわかりました。もうひとつは、生命に必要な有機物が、短い時間で、多様なものが合成できるということです。生命の化学進化の段階も実験的に調べる道を拓いたのです。当時を有機物に関する常識をくつがえしたのでした。
 その後、生命に関する合成実験は大きく進歩しました。それは次回としましょう。

・常識を打ち破る・
常識を打ち破るには、常識にとらわれないことが重要です。
一番簡単なのは、そんな常識を知らないことです。
今回登場したミラー氏の指導教官であるユーリーは
ノーベル賞をもらった有名な科学者です。
液体水素の蒸留から、重水素の分離に成功し、
1934年にその成果を発表しました。
同年、重水素発見の功績によってノーベル化学賞を受賞しています。
マンハッタン計画にも参加し、ウランからウラン235同位体だけを集める
気体拡散法を開発し、原子爆弾の実現に貢献しました。
ユーリーは物理学者あるいは化学者ですが、
もしかしたら、ユーリーかミラーは、生命の起源に関しては、
あまり詳しくなかったのかもしれません。
だから常識にとらわれることなく、
常識破りの実験を行うことができたのかもしれません。
この実験のおかげで、
科学は大きな進歩を遂げることができるようになりました。

・ウォームビズ・
12月に入って、北海道は寒波が襲来していて
根雪のような雪が積もっています。
昼間でも雪がほとんど解けません。
その上、ウォームビズで、予算削減のために、
室温20度に設定するという試みがなされています。
そのため、暖房がある時間になると弱くなります。
着込んでいるのですが、寒くて手がかじかみます。
他の建物は個別暖房であったり、ウォームビズの対象にならかなったりで
暖かくなっています。
私は、講義や会議などがないときは、
基本的に研究室で仕事をしています。
ですから、研究室が寒いのは答えいます。
同じ棟にいる研究者からも苦情がでています。
前に引いた風邪がなかなかなおらないのは、
ウォームビズのためでしょう。
なんとかしてもらうように陳情しようと考えています。