2006年11月9日木曜日

5_58 宇宙から調べる7:数値地図と地形解析

 宇宙から調べるシリーズも今回が最後です。私が宇宙から眺めて最後には自分たちの身近なスケールへと戻ってきます。そんな等身大への旅を紹介しましょう。

 標高データや地図画像のデータがデジタル化されています。そのようなデータを数値地図と呼んでいます。数値地図であれば、コンピュータを利用して、さまざまなことに利用できます。
 紙の地図では、なかなか困難なのが、地名からの位置探しです。しかし、地名がデジタルとして登録されていれば、検索すればその地点に一気にジャンプすることも可能です。また、紙の地図では縮尺の違うものは、別に用意してなければなりませんが、デジタル地図では、同じデータを拡大縮小することで、自由に縮尺を変えることができます。またデジタルですから、パソコンさえあれば、かさばらないですし、いつでも手軽に見ることができます。
 このように数値地図は、便利ではありますが、上で述べたようなことは、紙の地図でもできたことです。デジタル地図でしかできないこともあります。標高に応じて色を塗り分けることと、地図上に引いた直線沿いで断面図を作成することなどです。これも手作業ですれば、時間がかかりますが、可能です。
 数値地図では、専用のソフトを利用すれば、自由な地点・高度・画角で3Dの鳥瞰図を作成すること、GPSと連動させてナビゲーションすること、GPSのデータを保存し、移動経路や地点の記録を残すことなど、紙の地図や手作業ではできない、さまざまな利用法が可能となります。
 現在私が主に利用しているのは、標高データを、ある手法で数値処理をして、地形の特徴を際立たすことで、地形の背後にある地質の特徴を読み取ろうというものです。これは、地形解析と呼ばれているものです。
 いつも使っている地形解析の方法として、地下開度、地上開度、傾斜量などがあります。地下開度とは、空の見通しの度合いをあらわすもので、尾根の地形の分布や密度がよくわかります。地下開度とは、空が地表に遮られる度合いをあらわすもので、谷地形の発達状況や河川の分布・密度、溶岩ドームなどの凸地形やカルデラのような凹地形がよくわかります。傾斜量とは、ある地点の最大傾斜方向から傾斜の度合いを求めたもので、地質の違いや断層の判読、浸食の程度、崩壊地形などが区別しやすくなります。その他にも、斜面方位、斜面形、起伏量などさまざまなものがあります。
 地形解析には、標高データのメッシュによる違いが如実に現れます。国土地理院が公開している全国を網羅しているもので、一番精度のよい標高データは50mメッシュです。50mメッシュで表現される地形の特徴は、当然のことですが50m規模以上の数百mのものを見ることになります。このスケールでは、中規模から大規模な地形をみるのに有効です。
 50m以下の数十m規模の地形の特徴はメッシュが粗くて、表現されません。じつは小規模な地形は、火山地形、河川地形、海岸地形など、私たちに日ごろ目にする身近な地形は、数十m規模の程度のものが多くなっています。ですから、この精度のメッシュでの数値標高データが一番欲しいところであります。
 精度を上げればいいかというとそうではありません。数m規模の地形は、実は、標高データを作成するのは非常に大変になります。なぜなら地表には植生や建物などがあり、上空から読み取ったものでは、本当の地形をあらわしていいないからです。数mメッシュの標高データを作成するには、植生や建物などの効果を取り除くために、膨大なる労力が必要となります。
 国土地理院では一部の都市部のみで5mメッシュの標高データを作成しています。これは、都市開発として需要があるからです。しかし、日本全土では手間がかかりすぎ、需要も少ないことから、今のところつくる予定はされていません。
 現在日本全土分としある数値標高データとして一番精度のよいものは、10mメッシュです。北海道地図株式会社が2万5000分の1地形図から独自に作成したものです。商品として有料で販売されています。
 地形をみるとき、10mメッシュが最適だと思えます。なぜなら地質を反映した地形は10mメッシュ程度のものからはじまります。5mや1mメッシュになると植生の影響の除去が本当なのか、人為や災害、気候による一時的な改変はないのかというチェックぬきには、議論がはじまりません。その点10mであれば、地質を反映した地形本来の特徴を示しているとみなせます。現在、私は、10mメッシュによる地形解析を利用して、地質と地形の関係を示している典型的な地域をピックアップして紹介しています。
 宇宙から眺めることで、より広くを見られることからこのシリーズははじまりましたが、最終的には自分たちに一番身近なものを見直すということに戻ってきました。やはり人間は、等身大のものからスタートし、より大きなもの、あるいはより小さなものへと向かっても、最後には等身大へと戻ってくるような気がします。やはり自分が気になるのでしょうか。

・私の旅・
7回にわたり紹介してきた宇宙から調べるシリーズも
今回が終わりとなりました。
エッセイでも紹介したのですが、10mメッシュの数値地図を使って、
どのようなことができるか、いろいろ試しています。
より広くを見ることから、やがて宇宙から地球を眺めることになり、
宇宙からどのように見るのか、どれだけ詳しく見るかということになり、
やがて人間にはなじみのある、数十mの単位のものへとたどり着きました。
このような前提をもとに、どんなことが見えるのかを探し求めることが、
宇宙から眺めることの本当の目的だったはずです。
ですから、エッセイとしては、長い旅でしたが、
私の旅が、ここからはじまるのです。

・共同研究・
私の旅がはじまって、もう2年近くなります。
北海道地図株式会社から北海道全域の10mメッシュ標高地図を
購入したのが、3年前でした。
北海道地図は旭川に本社があり、
札幌の営業の人が、我が大学の出身者でもあることから
旭川本社を見学させてもらいました。
そのとき、北海道地図との共同研究をしましょうという話がまとまり、
2005年1月からスタートしました。
その共同研究はお互いがボランティアで行うもので、
金銭の授受はしないことにしました。
そのかわり、お互いのもっているデータを無償で提供しあい
新しいものを生みだそうという目的の共同研究でした。
共同研究の手段は、毎月1回のメールマガジンの発行と
作成した画像のホームページでの公開でした。
北海道地図は、データ提供です。
私は、調査資料の提供、画像作成、ホームページ作成、
エッセイ作成、メールマガジンの発行などを担当としています。
そして、このたび北海道地図が販売促進用の来年のカレンダーで、
私がホームページで作成したものを素材にして作成されました。
もちろん私も、無償で働きました。
共同研究は、とりあえず1年のつもりでしたが、
今年で2年目になり、3年目の来年も、
継続していくことになりました。
私は、調査計画で本州を順番にめぐっています。
沖縄、屋久島、九州、四国まできました。
まだ、中国、近畿、東海、中部、関東、東北など
半分以上が残っています。
しかし、現実の旅とデジタルの旅が融合して、
はじめて豊かなものになると考えています。
ですから、私の旅はまだまだ続きそうです。