2006年11月2日木曜日

5_57 宇宙から調べる6:世界地図

 前回までは画像を中心とした見方をいろいろ紹介してきました。今回は、地球全体を同じ精度の数値データの地図を作成しようという試みを紹介します。

 日本では、紙に印刷された地図は、大きな書店にいけば手軽に購入できます。また、国土地理院から数値標高データとして、1kmメッシュ、250mメッシュ、50mメッシュというものが発行されています。さらに、地形図もデジタル化されています。1/2.5万、1/5万、1/20万など縮尺の地形図も公開されています。
 ある縮尺で自分の住む国土を地図で自由に見ることができるのは、日本では当たり前にように思えます。しかし、世界で考えると地図が手に入らない国も多数あります。それは、軍事上の問題や、発展途上で正確な地図をつくる余力がない国などいろいろな事情によるものです。日本のように地図が、それも数値地図まで、誰もが自由に利用できるというのは、非常に恵まれた条件の国であるといえます。
 そこで、地球観測衛星から、国の事情や地理的条件に関係なく、一気に地図をつくってしまおうという計画ができ、実行されました。
 まずは、最初に作成されたのは、標高データの作成です。標高データであれば、地表で調べることなく、一様な精度で作成することができます。動く人工衛星から、地上の同じ地点を、見る位置を変えて、つまり違う角度で記録します。するとその角度の違い、つまり視差を利用して、地表の標高を機械的に、しかし正確に読み取ることができます。
 このようにして全地球の標高データが作成されて、公開されています。そのようなものとしてSRTMと呼ばれているものがあります。SRTMとは、Shuttle Radar Topography Missionの略で、スペースシャトルによって観測された全世界の標高データのことです。標高データには、SRTM-30、SRTM-3、SRTM-1などがあり、いずれも無料で公開されています。
 SRTMの後の数字は、角度における秒の単位(1秒=1/60度)での地表の広さを表しています。この角度とは、緯度と経度における値のことです。地表をある角度で等間隔に区切ったもので、この区切られた網目状のものをメッシュと呼んでいます。緯度経度ですから、北や南になるほど、メッシュのサイズは小さくなっていきます。標高データは、メッシュの各点の標高の値で示されています。
 SRTM-30とは、角度30秒のメッシュで、メッシュサイズは約900mになります。SRTM-3は3秒メッシュで約90mになります。アメリカ合衆国内だけですが、SRTM-1(約30mメッシュ)も公開されています。もちろんアメリカの情報ですが、インターネットを通じてどこの国の人でもそのデータを利用することができます。
 一応このSRTMで全世界中の標高データが一定の精度でそろえることができました。次のステップは、地形図です。地形図には、いろいろな情報を書かれています。例えば、日本の地図には、各種の境界(国境、行政境界)、河川、鉄道や道路、建物、地名、植生、土地利用などが記録されています。これらは人工衛星だけでは読み取れない情報もたくさんあります。ですからこのよう地図を作成するのは、地表の情報も必要となり、容易なことではありません。
 しかし、国際的におこなおうと日本が中心になって「地球地図」プロジェクトが進められています。地球地図では、地球の全陸域をカバーし、統一された仕様で、誰にでも安価に提供される解像度1kmのデジタル地図情報を目指して進められています。
 地図情報としては、標高はもちろんですが、植生、土地利用、河川、海岸線、土地被覆、交通網、行政界、人口集中地区が統一形式でデジタル化されます。
 現在、この地球地図プロジェクトには、151ヶ国が参加しています。
 日本が2006年1月24日打ち上げた地球観測衛星「だいち」は、地形情報を正確に測定することができます。「だいち」で地表の1/2.5万の精度の地形データを集め、「日本国内やアジア太平洋地域など諸外国の地図の作成・更新」することが、重要な目的のひとつとなっています。「だいち」の試験は終わり、定常観測運用がはじまり、2006年10月24日より観測データの一般提供もはじまりました。
 このよう地球観測衛星によって、陸域全部が同じ精度で記録されていく仕組みができました。あとは地道にデータを収集していくことです。今は、その段階になってきました。

・志・
アメリカ合衆国は、ランドサットの画像データや、
SRTMの標高データ、地形図など、自分たちの収集したデータを
国民だけでなく、人類全体に対して無償で提供しています。
日本でも無償の提供はありますが、
手続きが煩雑だったり、メディア代が請求されたりすることあります。
ところがアメリカのデータ提供者は著作権は保持していますが、
自由に使っていいことになっています。
見返りを求めない、無償での提供は、国民性によるものなのでしょうか。
いずれにしても、立派なことです。
無償のデータを使用したときすべきことは、
メリーランド大学のGLCF(The Global Land Cover Facility)の場合は、
「user acknowledge」つまり利用者としての謝辞を送ることだけです。
素晴らしい志ですね。
このような違いはなにによるものなのでしょうか。
志の違いでなければいいのですが。

・だいち・
私は、最初、「だいち」の性能を見たとき、
特別すごいとは思いませんでした。
「だいち」は最新の地球観測衛星ですから、
センサーの性能は、日本として衛星としては、
かなり素晴らしいものです。
でも、国際的に見ると、特別すごいと思えるものではありませんでした。
その目的のひとつに、世界中の2万5000分の1の地形図作成である
と聞いて納得しました。
既存の安定した技術を用いて、
全世界をその精度で調べるというのは、
地表からの観測では、外交や軍事的な理由、
あるいは経費や日数の問題で、実現は困難であろうと思えます。
しかし、「だいち」のような人工衛星のデータを用いて行えば、
短い時間内で効率よくできると思いました。
「だいち」のような使いかたをすれば、
その装置の素晴らしさが人類全体に及びます。
このような志がもっと必要だと思いました。