2006年11月23日木曜日

2_49 生命の起源2:砂漠の化石

 前回、最初の生命探しの方法で、直接的アプローチと間接的アプローチがあるといいました。そして直接的アプローチでもっと分かりやすいのが、化石を見つける方法でした。化石による最初の生命探しを紹介しましょう。

 もし、最古の化石が見つかったとしましょう。最初の生命が、その化石ということはまずはないでしょう。ですから、最初の生命が誕生した時期は、最古の化石と同じ頃か、それより古いということになります。では、最古の化石は、どの時代のものなのでしょうか。
 現在最古の化石として、確実なものは、約35億年前の地層から発見されたものです。
 1978年、ダンロップ(J.S.R. Dunlop)が、西オーストラリアのマーブルバーという町の西方、ノースポールというところからみつけました。ノースポールのダッファー層から、直径数μmの球状の化石を数百個発見しました。その化石は、シアノバクテリア(藍藻類)と考えました。化石の中には、2つや4つに細胞分裂しているものも発見されています。
 1987年にショップとパッカー(J. W. Schopf & B.M. Packer)が、同じ地域のタワー層とアペックス玄武岩層中のチャートから、球状のコロニーと繊維状のシアノバクテリアの化石を発見しました。
 生物であるという証拠として、ダンロップは細胞分裂している化石を見つけていました。また、ショップとパッカーは、形態(細胞)の特徴だけでなく、化学成分も証拠としてあげています。それらは、いずれも説得力のある証拠であるために、生物の化石であるというのは、多くの研究者が認めています。
 では、その化石はどのような生物だったのでしょうか。それは、まだ論争中なのです。
 ダンロップもショップらも、化石の形やサイズ、そして化石が出てくる岩石がストロマトライト状の構造をしていることなどから、シアノバクテリアと推定しました。
 この推定は重要な地質学的意味があります。もし、この化石の生物がシアノバクテリアであれば、光合成をする生物であることになります。光合成は、生物としては、かなり高度な機能となります。高度の機能を生物として獲得するためには、進化において長い時間が必要となります。もしこの化石がシアノバクテリアであれば、35億年よりもっと前に生物の誕生は起こっていたことになります。
 もし38億年前の最古の海で生命が誕生しても、たった3億年間で光合成の機能を持つまでに進化しなくてはなりません。これは、進化におては、かなりきつい時間的制限となります。
 ですから、ショップらのシアノバクテリア説には、多くの研究者も納得できませんでした。
 その後の日本の研究者が、ノースポール周辺を詳細な地質調査をおこないました。地質調査の結果、ノースポール周辺の地層は、深海の海嶺付近でできたものであることが突き止められました。そして、中央海嶺の火山活動や熱水噴出孔、地下の熱水の通り道なども復元していきました。
 このような環境は、深海で深度も3000m以上もあり、光が届きません。ですから、光合成生物であるシアノバクテリアは生息することはできません。もしそこでシアノバクテリアのような形の生物がいたとしても、それはシアノバクテリアではありません。
 日本の研究者は、そのような熱水噴出孔で住むような生物は、高熱性嫌気性古細菌の仲間だと考えました。ストロマトライト状構造も、水平に溜まった地層が変形によってそのような構造になったと考えました。
 古細菌は、生物の中でももっとシンプルな機能しかもたない生物で、最初に出現した生物と考えても、おかしくありません。古細菌であれば、進化の時間的制約はなくなります。
 まだ、この化石について完全に決着はみていませんが、どうも日本人研究者の主張の方が、分がよさそうです。

・マーブルバー・
私は、マーブルバーまでいきました。
マーブルバーは町で、モーテルも食堂もガソリンスタンドもあります。
ただし、ひとつも店ですべてやっています。
でも、マールバーがノースポールに一番近い町なのです。
しかし、ノースポールはアウトバック(道路のない地帯)を
長距離、進まなければなりません。
乗用車では無理で、4WDで2台以上でいかないと
何かあったときに死んでしまいかねません。
ですから、私は、ノースポールにはいかずに、
同じような地層がでるマーブルバーで観察することにしました。
秋だというの、非常に暑い日が続いていました。
でもここではこれが当たり前の日々なのです。
亜熱帯の砂漠地帯ですから乾燥していて過酷なところなのです。
マーブルバーとは、何色かのチョコレートをねじって
棒状してあるお菓子のことです。
この地域の地層(チャートと呼ばれています)が
そのように見えたためでしょう。
また、ノールポールとは北極という意味です。
人は住んでいませんが、地名だけでも涼しくということなのでしょうか。

・真実・
ノースポールを詳しく調べたのは、磯崎さんたちのグループでした。
暑い砂漠地帯を何年もかけて、詳細な調査をしました。
そして何トンもの大量の試料を採取してきました。
その結果が、上で示したような成果となりました。
後発の研究のせいもあるのですが、
明らかにデータ量、データの質も磯崎さんたちの説の方が
勝っているように見えます。
しかし科学の正否は、物量は努力量でありません。
一つの真実を明らかにしたほうが正しいのです。
しかし、真実へは、証拠と論理が確かなほうが近いと、
科学は考えて進められています。